適応障害と診断されて、この職場ではもう続けられないと感じている。次を探そうと決めかけている。そういう段階でこのページを開いた方に向けて書いています。

この記事は、転職をやめておきましょうとは言いません。決めるのはご本人ですし、環境を変えるという選択は制度の側も否定していません。ただ、ひとつだけ先にお伝えしたいことがあります。転職の順番を間違えると、受け取れるはずだったお金がそのまま消えます。しかも、消えたことに気づくのはたいてい後からです。

だからこの記事は、次の4つの順に進みます。辞める前に確認しておくこと、転職活動をいつ始めるか、一般枠で受けるか障害者雇用枠を考えるか、そして次の職場で何を見ておくか。全部を今日読み切る必要はありません。いちばん上の章だけでも読んでいただければ、それで十分です。

辞める前に、在職中にしかできないことを確かめてください

制度は、在職中と退職後で使えるものが入れ替わります。ここを知らないまま退職日を決めてしまうと、あとから戻せません。

在職中と退職後で、できることがこう変わります

先に一覧にします。左が今の会社に籍があるうちにできること、右が辞めたあとの話です。

やりたいこと 在職中 退職後
傷病手当金を新しく受け始める できます できません
すでに受けている傷病手当金を続ける 受給中です 条件を満たせば続きます
休職して、辞めずに様子をみる 就業規則しだいでできます できません
就業場所の変更や労働時間の短縮を検討してもらう 制度としてあります できません
年次有給休暇を使う できます 使えなくなります
同じ健康保険の被保険者期間を伸ばす できます できません
失業給付の受給期間の延長を申請する できません できます
失業給付を受け取る できません 働ける状態に戻ってから
ハローワークの障害者専門窓口に相談する できます できます
地域障害者職業センターの職業評価を受ける できます できます
精神障害者保健福祉手帳を申請する できます できます
障害者トライアル雇用で働いてみる 原則としてできません できます

上の6行が、退職日を過ぎると取り返せなくなるものです。下の6行は、辞めても辞めなくても使えます。つまり急いで確かめる価値があるのは上半分だけで、下半分は体調に合わせてゆっくり動けばよいということです。

いちばん重いのは、傷病手当金を受け始めているかどうかです

健康保険法第104条は「傷病手当金又は出産手当金の継続給付」という見出しの条で、退職して被保険者でなくなったあとも給付が続く場合を定めています。条文が求めているのは2つです。

条文が求めていること 意味
資格を喪失した日の前日まで引き続き1年以上被保険者であったこと 退職日まで、その健康保険に途切れずに1年以上入っていること
その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けていること 退職の時点で、すでに傷病手当金が始まっていること

読んでいただきたいのは2つ目です。条文が要求しているのは「退職の時点ですでに受けていること」であって、「退職してから申請すること」ではありません。まだ休職も申請もしていない状態で辞めてしまうと、この道は使えなくなります。

そして、日付にも落とし穴があります。全国健康保険協会は、傷病手当金に関するよくあるご質問の中で「なお、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません」と書いています。挨拶や荷物の引き取りのために最終日に出社する段取りになっていないかを、退職日を決める段階で確かめてください。

条件そのものは傷病手当金の条件は4つに、辞めるという判断そのものについては適応障害で退職を考えているときにまとめてあります。この記事では、転職と関係するところだけを扱います。

失業給付は、退職後にしか動かせません

雇用保険法第4条第3項は「失業」を、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことができない状態にあることと定めています。療養が必要で今は働けないという状態は、この定義に当てはまりません。

そのかわりに用意されているのが受給期間の延長です。雇用保険法第20条第1項の括弧書きは、妊娠、出産、育児その他厚生労働省令で定める理由により引き続き30日以上職業に就くことができない者が公共職業安定所長に申し出た場合には、その日数を受給期間に加算すると定めています。加算後の期間が4年を超えるときは4年です。

ここで押さえておきたいのは、この申請が退職してすぐにはできないということです。30日以上職業に就くことができない状態が続いてから申し出ることになるので、退職日の翌日に窓口へ行っても手続きは進みません。延長の期限や必要書類、特定理由離職者としての扱いは病気で退職したときの失業保険に詳しく書きました。傷病手当金と失業給付をどの順で使うかは傷病手当金と失業保険はどちらが先かにあります。

退職後の健康保険をどうするかも、辞めてから慌てると選び直せない部分があります。退職後の健康保険は3択退職の手続き一覧を、退職日を決める前に開いておいてください。

辞めない道が法律の中にもあります

ひとつだけ、在職中にしか使えない仕組みを挙げておきます。労働安全衛生法第66条の10はストレスチェックについての条文で、その第6項は、面接指導のあとに聴いた医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければならないと定めています。第3項には、面接指導を申し出たことを理由として不利益な取扱いをしてはならないという定めも置かれています。

転職か現状維持かの二択ではなく、その中間が法律に書かれているということです。会社がどう対応するかは個別の事情によりますが、少なくとも制度としては存在します。休職からの復帰という道についてはリワークとは何か適応障害で休職した人は、同じ職場に戻るのかを読んでください。今の職場で起きていることがハラスメントに当たるかもしれないと感じている方は、職場のハラスメントの相談先のほうが先かもしれません。

転職活動をいつ始めるか

在職中に探すのか、辞めてから探すのか。ここは体調の問題でもあるので、この記事から答えは出せません。ただ、判断の材料になる場所は具体的に書けます。

在職中に転職活動をしてよいのかという論点そのものは休職中に転職活動をしてもいいのかで扱っています。傷病手当金の労務不能という要件との関係があるので、受給中の方はそちらを先に読んでください。

向き不向きは、記事ではなく職業評価で分かります

適応障害で辞めることを考えている方から、いちばんよく出てくるのが「自分にどんな仕事が向いているのか分からない」という言葉だと思います。

このサイトは、そこに答えを書きません。診断名から職業を導くような書き方は、根拠を示しようがないからです。かわりに、確かめに行ける場所を書きます。厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークが出している「ハローワーク障害者専門窓口のご案内」には、応じている相談の例として次のようなものが並んでいます。仕事をしたいが不安がある。どのような仕事が向いているかわからない。採用面接で自分のことをうまく説明する自信がない。就職しても長続きしないのではないか、心配。

そのうえで、職業能力や仕事の適性などを把握するため、必要に応じて専門機関(地域障害者職業センター)による職業評価を案内する、と書かれています。「向いている仕事が分からない」は、窓口で口に出してよい相談です

ハローワークの障害者専門窓口は、手帳がなくても使えます

ここは誤解が多いところなので、原文に沿って書きます。

ハローワークインターネットサービスの障害のある皆様へは、専門的な支援の対象者について、障害があるため長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な方だとしたうえで、「障害者手帳をお持ちでない方も利用できますので、ぜひご利用ください」と書いています。先ほどの窓口案内のほうにも「手帳の有無は問いません」という一文があります。

同じページには、もうひとつ大事なことが書かれています。「障害のある方のための求人のほか、一般の求人に応募することもできます」という一文です。障害者の窓口を使うことと、障害者雇用枠に限定することは、別のことだという意味になります。

この窓口は、行政の資料では専門援助部門と呼ばれています。厚生労働省の「障害者向けチーム支援」の資料には、ハローワーク職員を主査として関係機関がチームを組む支援について、実施主体を「専門援助部門が担当」と書いた欄があります。ハローワークによって「専門援助コーナー」などの呼び方をしているところもありますが、指しているものは同じです。

窓口が実際に何をしてくれるのかは、厚生労働省の「障害者に関する窓口」のページに整理されています。履歴書の書き方の支援や模擬面接、条件に合う求人を事業主に出してもらうよう働きかける個別求人開拓、連携する支援機関と協力して働く前にその企業で実習を受けること、そして就職後の定着支援です。窓口案内のほうには、求人に応募する際に配慮を必要とする内容などをハローワークから求人企業に説明すること、希望に応じて担当者が採用面接に同行することも挙げられています。

地域障害者職業センターの職業評価と、職業準備支援

もう一段専門的な機関として、都道府県ごとに地域障害者職業センターが置かれています。運営しているのは独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構です。

同機構の就職支援・相談窓口のページによれば、地域障害者職業センターはハローワークと協力して、就職に向けての相談、職業能力等の評価、就職前の支援から就職後の職場適応のための援助まで、個々の障害者の状況に応じた継続的なサービスを提供しています。利用にあたっては、あらかじめ電話かFAXで連絡してくださいと書かれています。いきなり行く場所ではないということです。

そこで行われる職業評価は、就職の希望などを把握したうえで職業能力等を評価し、それらをもとに、就職して職場に適応するために必要な支援内容・方法等を含む個人の状況に応じた支援計画(職業リハビリテーション計画)を策定するものだと説明されています。評価だけで終わらず、計画の形になって返ってくるところが特徴です。

そのあとに続くのが職業準備支援です。同機構のページは、内容を3つのメニューとして示しています。

  • 障害特性や職業上の課題の把握及び改善に係る支援。さまざまな作業や講座を通して、基本的な労働習慣を身につけたり、自分に合った働き方を見つけたりします
  • 職業に関する知識の習得に係る支援。履歴書の書き方や面接の受け方等の各種講座を受講します
  • 社会生活技能等の向上に係る支援。対人技能、ストレス対処及び障害特性の整理等の講座を受講します

終了後はハローワークによる職業紹介やジョブコーチによる支援等につなげていく、とも書かれています。

なお、精神障害のある方に向けた「精神障害者総合雇用支援」というまとまりもあり、こちらは主治医との連携の下で、雇用促進、職場復帰、雇用継続のための専門的支援を行うものだと説明されています。対象は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方または医師の診断書等により躁うつ病(そう病、うつ病を含む)、統合失調症その他の精神疾患を有していることが確認できる方とされています。ここでも手帳は必須ではありません。

試してから決める経路が用意されています

働けるかどうかを、応募と面接だけで判断する必要はありません。試す形の制度があります。

職場実習は、先ほど書いたとおり、ハローワークが連携する支援機関と協力して、働く前に実際にその企業で実習を受けるものです。

障害者トライアル雇用は、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、一定期間試行的に雇用してもらう仕組みです。厚生労働省の障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコースのページは、その適性や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進すること等を通じて早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的としている、と説明しています。助成金を受け取るのは事業主のほうですが、求職者の側から見れば「いきなり本採用ではない入り方がある」という制度です。

もうひとつ、週の労働時間から入れる形もあります。障害者短時間トライアルコースは、雇入れ時の週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、職場適応の状況や体調等に応じて同じ期間中にこれを20時間以上とすることを目指すものだと定義されています。期間は3か月から12か月です。ただし対象になるのは精神障害者または発達障害者とされていて、ここでいう精神障害者の範囲は障害者雇用促進法施行規則第1条の4で決まります。適応障害という診断だけでこの範囲に入るとは限らないので、自分が対象になるかどうかはハローワークで確認してください

在職中の方に関わる注意も書いておきます。障害者トライアル雇用事業実施要領は、対象になる人の要件として、紹介日において継続雇用する労働者として雇用されている者に該当しないことを挙げています。つまり、今の会社に在職したままでは原則として使えません。ただし同じ箇所には例外が括弧書きで置かれていて、重度身体障害者、重度知的障害者、45歳以上の身体障害者及び知的障害者、精神障害者などはこの制限から除かれています。自分がどちらに当たるかは、条文だけでは決めきれません。窓口で聞くのが確実です。

なお、この実施要領で対象とされているのは障害者雇用促進法第2条第1号の障害者で、精神障害者について確認に使う書類は精神障害者保健福祉手帳の写しまたは主治医の意見書とされています。ここでも、手帳がなければ入口に立てないという作りにはなっていません。

一般枠で受けるか、障害者雇用枠を考えるか

ここは決めきらなくて大丈夫です。この記事では入口の整理までにします。

「障害者」という言葉が、法律の中で3つに分かれています

混乱の原因はここにあります。障害者雇用促進法の中で「障害者」という言葉は、場面によって範囲が違います。

障害者雇用促進法の「障害者」は3つの層に分かれます

障害者雇用促進法の中の「障害者」
第2条第1号の障害者手帳は要りません。差別禁止と合理的配慮、ハローワークの専門的な支援、障害者トライアル雇用の対象はこの範囲です
第2条第6号の精神障害者施行規則第1条の4で、手帳の交付を受けている人か、統合失調症・そううつ病・てんかんの人と定められています
第37条第2項の対象障害者雇用義務と雇用率の対象です。精神障害者は手帳の交付を受けている人に限られます
いわゆる「障害者雇用枠」に対応するのは、いちばん右の層です。左の2つは手帳がなくても届く範囲があります。

条文で確かめます。第2条第1号は障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」と定めています。手帳は出てきません。

これに対して第37条第2項は、雇用義務の対象となる「対象障害者」のうち精神障害者を、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限ると定めています。企業が法定雇用率に算入できるのは、この範囲の人です。民間企業の法定雇用率は令和8年7月から2.7%になり、対象となる事業主の範囲は従業員37.5人以上まで広がりました。

手帳が要るのは、企業が数える側の話です

ここから実務的な意味を引き出します。

障害者雇用枠の求人は、企業が雇用率に算入することを前提に出していることが多いので、応募条件として手帳の提示を求められることがあります。この意味では、手帳がないと障害者雇用枠は選べないと考えておいて間違いありません。手帳の申請と等級の話は精神障害者保健福祉手帳の申請手順障害者手帳のメリットとデメリットにまとめてあります。申請から交付までにかかる期間は自治体によって違うので、必要になりそうなら早めに動くほうが選択肢が残ります。

一方で、手帳がないと何も使えないわけではありません。厚生労働省の改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&Aは、差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者について、「障害者雇用促進法第2条第1号に規定する障害者であり、障害者手帳の有無・週所定労働時間等による限定はしていません」と書いています。中途障害の方も対象に含まれる、とも書かれています。

つまり、次の2つは別の話です。

手帳が要るか 根拠
障害者雇用枠(企業の雇用率に算入される枠)で採用されること 要ります 促進法第37条第2項
会社に合理的配慮を求めること 手帳の有無で決まりません 促進法第2条第1号、Q&A
ハローワークの障害者専門窓口を使うこと 要りません ハローワークの窓口案内
地域障害者職業センターの職業評価を受けること 要りません 高齢・障害・求職者雇用支援機構の案内

手帳を持っていても、一般枠で応募できます

逆の向きも確かめておきます。同じQ&Aには、こういう問答が載っています。障害者手帳を持っている人の求人への応募について、一般求人ではなく障害者専用求人でのみ受け付けることは可能か、という問いに対する答えです。

障害者手帳をお持ちの方に対して、障害者専用求人への応募のみ受け付けることは、障害者であることを理由として、一般求人の募集及び採用の対象から障害者を排除しているため、法で禁止する差別に該当します。

手帳を取ったら一般枠に応募できなくなる、ということはありません。どちらで受けるかは選べます。障害者雇用の枠組み全体は障害者雇用とは何かに、求人の探し方は障害者雇用の求人はどこで探すのかにまとめました。

賃金の実態は、先に知っておいてください

判断の材料として、率直な数字も書いておきます。厚生労働省の令和5年度障害者雇用実態調査によれば、令和5年5月時点の精神障害者の1か月の平均賃金は14万9千円でした。ただし、この数字を単独で見ると読み違えます。同じ調査は週所定労働時間別の内訳を出しています。

週の所定労働時間 1か月の平均賃金
通常(30時間以上) 19万3千円
20時間以上30時間未満 12万1千円
10時間以上20時間未満 7万1千円
10時間未満 1万6千円

平均の14万9千円が低く見えるのは、短い時間で働いている人が多く含まれているからです。賃金の支払形態も、月給制が43.4%に対して時給制が53.6%でした。障害者雇用枠を検討するときに見るべきなのは、金額そのものより週何時間の契約なのかという条件のほうです

この調査は5年ごとに行われるもので、令和5年度の結果が最新です。毎年公表される統計と混同しないでください。

次の職場で、同じことを繰り返さないために

最後の章です。ここは制度というより、確かめ方の話になります。

求人票には、法律で決まった明示事項があります

職業安定法第5条の3第1項は、公共職業安定所や職業紹介事業者、労働者の募集を行う者に対して、求職者などに従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。何を明示するかは職業安定法施行規則第4条の2第3項に列挙されていて、次のようになっています。

  1. 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む
  2. 労働契約の期間に関する事項
  3. 試みの使用期間に関する事項
  4. 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)
  5. 就業の場所に関する事項(就業の場所の変更の範囲を含む
  6. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
  7. 賃金の額に関する事項
  8. 健康保険、厚生年金、労災保険及び雇用保険の適用に関する事項
  9. 労働者を雇用しようとする者の氏名または名称に関する事項
  10. 就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項

このうち「変更の範囲」と、有期契約の更新の基準は、令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されますのとおり、令和6年4月1日から加わったものです。

体調を崩したきっかけが異動や担当の変更にある方にとって、「変更の範囲」の欄はいちばん実質的な情報です。入社時の仕事の内容ではなく、契約が続くあいだに変わりうる幅がそこに書かれます。求人票に書かれていない、あるいは読んでも分からないときは、応募前にハローワークの担当者を通じて聞くこともできます。

労働条件通知書に「休職に関する事項」があるかを見てください

契約の段階では、別の条文が働きます。労働基準法第15条第1項は、労働契約の締結に際して労働条件を明示しなければならないと定め、その項目は労働基準法施行規則第5条第1項に並んでいます。求人票の明示事項と重なるものが多いのですが、ひとつ求人票にはない項目があります。第11号の「休職に関する事項」です。

この条には「第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない」という但書きがあります。裏返すと、休職の定めがない会社では、この欄そのものが出てこないということです。休職制度は法律が作ったものではなく就業規則で決まるので、会社によって有無も長さも違います。適応障害で一度休むことになった経験がある方にとって、次の職場に休職の定めがあるかどうかは、他の条件より重い情報かもしれません。

もうひとつ、労働基準法第15条第2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合においては労働者は即時に労働契約を解除することができる、と定めています。入ってみたら話が違ったときの逃げ道が、法律の側に置かれているということです。

合理的配慮は、申し出から始まる手続きです

「配慮をお願いする」という言い方をすると、頼み事のように聞こえます。実際には、法律と指針で手順が決まっている手続きです。

障害者雇用促進法第36条の2は、募集及び採用について、障害者からの申出によりその障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならないと定めています。第36条の3は採用後について、施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を定めています。どちらにも「事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない」という但書きが付いています。第36条の4第1項は、これらの措置を講ずるに当たっては障害者の意向を十分に尊重しなければならないと定めています。

具体的な進み方は合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)に書かれています。募集及び採用時については、次の3段階です。

募集・採用のときに配慮を求める手順

  1. 1申し出る支障となっている事情と、その改善のために希望する措置の内容を事業主に伝える。希望する措置を具体的に言うのが難しければ、支障となっている事情を明らかにすることで足りる
  2. 2話し合う事業主は、どのような措置を講ずるかについて本人と話し合う。本人が具体的に言えない場合は、事業主のほうが実施可能な措置を示して話し合う
  3. 3確定する事業主は本人の意向を十分に尊重して内容を決め、実施できない場合はその旨を伝える。本人の求めに応じて、その理由を説明する
指針には、準備に一定の時間がかかる措置があるため、面接日等までの間に時間的余裕をもって申し出ることが求められる、とも書かれています。

指針には、意向を確認することが困難な場合には就労支援機関の職員等に補佐を求めても差し支えない、という一文もあります。ひとりで説明しきる必要はないということです。

配慮の例も、指針の別表に障害の区分ごとに載っています。精神障害の欄に挙げられているのは次のようなものです。募集及び採用時については、面接時に就労支援機関の職員等の同席を認めること。採用後については、業務指導や相談に関して担当者を定めること、業務の優先順位や目標を明確にして指示を一つずつ出すこと、作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成すること、出退勤時刻・休暇・休憩に関して通院・体調に配慮すること、できるだけ静かな場所で休憩できるようにすること、本人の状況を見ながら業務量等を調整すること、本人のプライバシーに配慮したうえで他の労働者に障害の内容や必要な配慮等を説明することです。

ここに並んでいるのは、公的な文書に例として書かれている措置です。自分で考え出さなくても、この一覧から自分に必要なものを選んで持っていくことができます。ただし指針自身が、これはあくまでも例示であり、あらゆる事業主が必ずしも実施するものではないと断っています。

会社の側が過重な負担かどうかを判断するときの考慮要素も指針に定められていて、事業活動への影響の程度、実現困難度、費用・負担の程度、企業の規模、企業の財務状況、公的支援の有無の6つを総合的に勘案するとされています。断られたときに何を見て断られたのかが分かる、という意味で知っておく価値があります。

実際にどれくらいの会社が配慮をしているのかも、統計で確かめられます。令和5年度障害者雇用実態調査によれば、精神障害者の雇用上の配慮について63.3%の事業所が「配慮している」と回答しています。配慮していることとして回答されたもののなかでは、短時間勤務等勤務時間の配慮が54.3%と最も多く、次いで休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮が50.9%、通院・服薬管理等雇用管理上の配慮が49.2%でした。上位に並んでいるのが時間と休みに関する配慮だという点は、面接で何から相談するかを決めるときの目安になります。

入社後の相談窓口があるかどうか

指針の第6は「相談体制の整備等」という章で、事業主が雇用管理上講じなければならない措置を定めています。相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知すること、相談があったときに支障となっている事情の有無を迅速に確認すること、相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずること、そして相談をしたことを理由として解雇その他の不利益な取扱いを行ってはならない旨を定めて周知・啓発することです。

面接や職場見学のときに「配慮について相談する窓口はどこになりますか」と聞くのは、この定めがあるからこそ意味のある質問になります。答えが出てこない会社もありますし、担当者の名前まで即答する会社もあります。その差が、入ってからの違いになって現れます。

伝える内容を、あらかじめ整理しておく道具があります

自分の特徴や希望する配慮を、面接の場で言葉にするのは簡単ではありません。厚生労働省は、そのための書式として就労パスポートを用意しています。

厚生労働省のページによれば、就労パスポートは、障害のある方が働くうえでの自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮などについて、支援機関と一緒に整理し、事業主などにわかりやすく伝えるためのツールです。使う場面として、職場実習前や採用面接時に職場の担当者へ説明して職務の設定などの参考にしてもらうこと、就職後に上司や同僚へ説明すること、就職して一定期間が経ったあとに配慮の実施状況や見直しの必要性を確認することが挙げられています。

大事な注記もあります。「就労パスポートは採用選考時の必須提出書類ではありません」と明記されています。出す義務はなく、どこまで書くか、誰に見せるかは本人が決めるものだということです。作成にあたっては、まず最寄りのハローワークで、自分の住んでいる地域にどのような支援機関があるかを相談することをすすめる、と書かれています。

自分ひとりで整理するのが難しいときは、地域障害者職業センターの職業準備支援に「障害特性の整理」という講座があります。就労移行支援を使う道もあり、こちらは就労移行支援とは何かに整理しました。

今日は、日付をひとつ確かめるだけで十分です

ここまで、確かめることをたくさん並べました。全部を今日やる必要はありません。

いちばん先に効くのは、健康保険の被保険者になった日と、傷病手当金を受け始めているかどうかの2つです。前者は退職日まで1年以上あるかどうかで、後者は退職後にお金が続くかどうかで効いてきます。どちらも保険証や資格情報のお知らせ、給与明細から確かめられますし、加入している健康保険に電話をかけて聞くこともできます。この2つが片づけば、退職日をいつにするかを落ち着いて決められます。

そのうえで、転職活動のほうは急がなくて構いません。ハローワークの障害者専門窓口も、地域障害者職業センターの職業評価も、在職中でも退職後でも使えます。手帳がなくても入れます。電話1本で「相談したいのですが」と伝えるところから始められて、その電話に予約が要るかどうかも同じ電話で分かります。

適応障害という診断が付いたあとの転職で、いちばんつらいのは、次の職場でも同じことが起きるかもしれないという不安だと思います。それをゼロにする方法はこの記事にも書けません。ただ、確かめられることはあります。求人票の「変更の範囲」の欄。労働条件通知書に休職の定めが載っているかどうか。配慮について相談する窓口があるかどうか。この3つは、入る前に見ておけます。

答えの出る問いから順に片づけていけば、答えの出ない問いも、少しずつ形が見えてきます。今日は、日付をひとつ確かめるところまでで大丈夫です。

わたしたちは就労支援の現場で、辞めたあとに相談へ来られる方と、辞める前に来られる方の両方に会います。どちらが正解ということはないのですが、在職中にしかできない手続きがあると知らないまま退職日を決めて、あとから気づく方は少なくありません。転職するかどうかの結論は急がなくて構いません。ただ、日付を確かめるのだけは先にしておいてください。