「オープンにするか、クローズにするか」という言い方は、就職や転職の場面でよく使われます。病気や障害のことを会社に伝えて働くか、伝えずに働くか、という意味です。いま休職中の方も、すでに働いている職場で言うかどうかを迷っている方も、同じ言葉で検索されているのだと思います。
先にお断りしておくと、この記事ではどちらを選ぶべきかを書きません。職場も、体調も、任されている仕事も、人によって違いすぎるからです。そのかわり、伝えたときと伝えなかったときで、法律と手続きの上では何が動いて何が動かないのかを、条文と厚生労働省の資料から一つずつ確認していきます。判断の材料は、そこにしかないと思っています。
読み進める前に、ひとつだけ押さえておいてほしいことがあります。「オープン」も「クローズ」も、法律の言葉ではありません。条文にも通知にも出てきません。この二つの言葉は、実際には別々の三つの選択をひとまとめにしていて、そのせいで話がこじれやすくなっています。
実際には、三つの別々の選択が混ざっています
混ざっているのは次の三つです。
- 精神障害者保健福祉手帳を取るかどうか
- 障害者専用の求人に応募するか、一般の求人に応募するか
- 病気や障害のことを会社に伝えるかどうか
世の中の説明では、この三つがひとつながりのものとして扱われています。「オープン=手帳を取って障害者雇用枠で働く」「クローズ=手帳を出さずに一般枠で働く」という二択です。実際の求人の状況としては、その二つの組み合わせが多いのは確かです。けれども制度の上では、この三つは互いに独立しています。以下で見ていくとおり、手帳を持っていても一般求人に応募できますし、手帳がなくても配慮を求めることはできます。
実際にはこの三通りがあります
障害者職業総合センターは2026年3月に、障害者手帳を所持していない精神障害者、発達障害者の就労・支援実態等に関する調査研究という報告書を出しています。これは当事者への調査ではなく、ハローワークや地域障害者職業センター、就労移行支援事業所など2,300を超える就労支援機関に尋ねたものです(有効回答927施設)。あくまで支援する側から見えている姿だという前提で読んでください。
この調査は、手帳の取得、障害の開示、選ぶ求人の種類の三つが相互に関連していると整理したうえで、ヒアリング調査の結果として、手帳の取得は希望せず、障害の開示は希望し、一般求人で障害を開示して働くことを希望するという組み合わせも報告しています。報告書はその背景として、自身の障害に一定の理解があり、賃金や就労の選択肢が広がることからこの形を選ぶ場合があると述べています。なお、支援機関が挙げた「手帳を所持していない理由」で最も多かったのは、精神障害の方について「本人が必要性を感じていないため申請していない」(36.6%)で、「本人の手帳についての知識が不十分なため申請していない」(26.4%)がこれに続きます。判断の前に材料が足りていない、という状態が実際に多いということです。
そもそも、申告する義務はあるのか
障害者雇用促進法を最初から読んでいくと分かるのですが、この法律は事業主に義務を課す法律です。第34条は募集及び採用について障害者に均等な機会を与えなければならないと事業主に命じ、第35条は待遇について不当な差別的取扱いをしてはならないと事業主に命じています。労働者の側に、自分が障害者であることを名乗り出る義務を定めた条文は、探した範囲では見当たりませんでした。
病歴も、障害があることも、要配慮個人情報です
個人情報の保護に関する法律第2条第3項は「要配慮個人情報」を定義していて、その列挙の中に病歴がそのまま書かれています。残りは政令に委ねられていて、その同法施行令第2条の第1号が「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の個人情報保護委員会規則で定める心身の機能の障害があること」です。第2号は健康診断その他の検査の結果、第3号は健康診断等の結果に基づき、または疾病等を理由として、医師等により心身の状態の改善のための指導や診療、調剤が行われたことです。
そして同法第20条第2項は、「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない」と定めています。除かれるのは法令に基づく場合、生命・身体・財産の保護のために必要で本人の同意を得ることが困難な場合などです。
つまり、あなたが障害を持っていることも、通院していることも、法律が「特に配慮を要する」と名指ししている種類の情報です。会社が原則としてあなたの同意なしに取ってはいけない情報だ、というところから始まります。伝えないでいることは、隠しごとではなく、法律が前提にしている状態です。
「本人の意思に反して把握・確認してはならない」というガイドライン
障害者雇用の場面には、もっと直接的な決まりがあります。厚生労働省の「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」です。企業が障害者雇用状況の報告や納付金の申告などを行うために、雇っている労働者の中から障害者である労働者を把握・確認するときの手順を定めたもので、厚生労働省の事業主の方へ(障害者雇用率制度)のページからいまも公開されています。冒頭に、策定の趣旨がこう書かれています。「障害者本人の意に反した雇用率制度の適用等が行われないよう」と。
採用後に把握・確認する場合の原則は、雇用している労働者全員に対して、メールの送信や書類の配布等画一的な手段で申告を呼びかけることです。適切な例として社内LANの掲示板への掲載や一斉メール、チラシや社内報の配布、回覧板への記載が挙げられ、不適切な例のほうに、休憩室にのみチラシを置いておくこと、社内サークル等ある特定の集団に対してのみ配布すること、そして障害者と思われる労働者のいる部署に対してのみチラシを配布することが挙げられています。
呼びかけるときに本人へ明示する事項も決まっています。利用目的、必要な個人情報の内容、原則として毎年度利用すること、手帳を返却したり等級が変わったりしたら申し出てほしいこと、そして業務命令としてこの呼びかけに対する回答を求めているものではないことです。
個人を名指しして聞かれるのは、例外の場合だけです
全員向けの呼びかけが原則だとして、個別に聞かれることはあるのでしょうか。ガイドラインが認めている例外は一つだけです。障害者である労働者本人が、職場において障害者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、企業に対し自発的に提供した情報を根拠とする場合で、適切な例として挙がっているのは、公的な職業リハビリテーションサービスを利用したい旨の申出と、企業が行う障害者就労支援策を利用したい旨の申出の二つだけです。
逆に、照会を行う根拠として不適切な例も列挙されています。
- 健康等について、部下が上司に対して個人的に相談した内容
- 上司や職場の同僚の受けた印象や職場における風評
- 企業内診療所における診療の結果
- 健康診断の結果
- 健康保険組合のレセプト
「個別の状況によっては照会を行う根拠として不適切な場合があり得る例」として、所得税の障害者控除を行うために提出された書類、病欠・休職の際に提出された医師の診断書、傷病手当金の請求に当たって事業主が証明を行ったことの三つも挙げられています。本人の障害の受容の状況や病状等によっては、これらの情報をもとに照会を行うこと自体が本人の意に反するようなケースも生じうる、という理由が添えられています。
そして「把握・確認に当たっての禁忌事項」という節に、どのような場合であっても行ってはならないことが並んでいます。
- 利用目的の達成に必要のない情報の取得を行ってはならない
- 労働者本人の意思に反して、障害者である旨の申告又は手帳の取得を強要してはならない
- 障害者である旨の申告又は手帳の取得を拒んだことにより、解雇その他の不利益な取扱いをしないようにしなければならない
- 正当な理由無く、特定の個人を名指しして情報収集の対象としてはならない
- 産業医等医療関係者や企業において健康情報を取り扱う者は、報告等の担当者から問い合わせを受けた場合、本人の同意を得ずに情報の提供を行ってはならない
二つ目には、産業医等の医療関係者をはじめとする第三者を通じて申告や手帳の取得を強要してはならないという補足が付いています。三つ目についても、回答を拒否したことを理由として解雇、降職、賃金引下げ等の不利益な取扱いを行わないようにしなければならない、と具体的に書かれています。高齢・障害・求職者雇用支援機構も、事業主向けの解説として障害者であることの確認の方法というページで同じ内容をまとめています。
なお採用の段階については、ガイドラインはこう書いています。事業主が応募者に対して障害の有無を照会するのは、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠な場合に限られ、その際には、目的を示して本人に障害の有無を照会しなければならない、と。この根拠になっているのが職業安定法第5条の5と、同法にもとづく指針(平成11年労働省告示第141号)です。指針は、求人者等は業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして個人情報を収集することとしています。
一つ、正直に書いておきます。このガイドラインは、精神障害者が実雇用率の算定対象になった平成18年4月の法改正を背景に作られたもので、本文には当時の法定雇用率1.8%や、いまは名称の変わった機構名がそのまま残っています。引用されている個人情報保護法や障害者雇用促進法施行規則の条番号も、その後の改正前のものです。それでも厚生労働省のページからいま公開されているのはこの版で、原則と禁忌事項の中身は、この後で見るQ&Aの記述とも整合しています。読むときは、条番号ではなく決まりの中身のほうを見てください。
会社が「障害者雇用」として扱うには、手帳が要ります
ここが「オープンにすると手帳が要る」と言われることの正体です。法律の中に、大きさの違う三つの輪が入れ子になっていると考えると分かりやすくなります。
障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第1号は、この法律でいう「障害者」を次のように定義しています。身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者、です。ここに手帳は出てきません。
一つ内側の輪が、同条第6号の「精神障害者」です。障害者のうち、精神障害がある者であって厚生労働省令で定めるもの、とされていて、その省令が同法施行規則第1条の4です。ここでは、症状が安定し就労が可能な状態にある者であって、手帳の交付を受けている者か、統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)又はてんかんにかかっている者、と定められています。手帳がなくても入ります。職業リハビリテーションの対象になるのはこの範囲です。
いちばん内側が、同法第37条第2項の「対象障害者」です。身体障害者、知的障害者又は精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る)と書かれています。企業の雇用率の算定に数えられるのは、この一番内側の輪だけです。
さらに同法第43条第9項は、雇用する労働者が対象障害者であるかどうかの確認は厚生労働省令で定める書類により行うと定めていて、その書類を定めた施行規則第4条の15は、身体障害者については手帳または一定の医師の診断書・意見書、知的障害者については判定書、そして精神障害者については「精神障害者保健福祉手帳」だけを挙げています。身体障害には診断書という代わりの道がありますが、精神障害にはありません。
| 促進法第2条第1号の障害者 | 施行規則第1条の4の精神障害者 | 第37条第2項の対象障害者 | |
|---|---|---|---|
| 手帳 | 要りません | 手帳か、統合失調症・そううつ病・てんかん | 手帳が必要です |
| 何が使えるか | 差別禁止・合理的配慮の対象になります | 職業リハビリテーションの対象になります | 企業の雇用率に算定されます |
| 誰が確認するか | 確認の方法は決められていません | 診断書等で確認します | 施行規則第4条の15の書類で確認します |
「オープンにする」と言うとき、多くの人が想像しているのはいちばん内側の輪です。けれども実際に選べるのは三つの輪のどこに立つかであって、いちばん内側に入らなければ何も使えない、という構造にはなっていません。障害者雇用そのものの仕組みは障害者雇用とはに、手帳を取ることの損得は障害者手帳のデメリットは本当にあるのかに、申請の手順は精神障害者保健福祉手帳の申請にまとめてあります。
手帳を会社に出すと、事務の手続きが動きます
会社は、手帳の情報を障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請に使います。ガイドラインは、この利用目的を明示したうえで本人の同意を得て情報を取得することとしていて、同意書の例も別添として付いています。そこには毎年度利用することと等級の変更や手帳の有効期限について確認する場合があることへの同意が並んでいます。手帳の有効期限は2年なので、前回確認した期限を過ぎた最初の報告等のときに、更新の有無と更新後の期限を確認することとされています。
書類の扱いにも決まりがあります。促進法第81条の2と施行規則第43条により、確認に関する書類は事業所ごとに保存され、保存期間はその労働者の死亡、退職又は解雇の日から3年間です。ガイドラインは、障害に関する情報は他の一般の個人情報とは別途保管することが望まれるとし、処理・保管の禁忌事項として、本人の同意を得ないで、報告等のために取得した情報を労働者の健康管理のために用いたり能力給与査定の参考としてはならないことを明記しています。
つまり手帳を出すというのは、会社の総務や人事に一つ事務が増えて、その情報に鍵がかかる、ということです。職場のみんなに知らせる手続きではありません。
手帳を持っていても、一般求人に応募できます
ここは誤解が多いところなので、原文をそのまま引きます。厚生労働省の「障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第三版】」のQ3-1-6は、「障害者手帳を持っている人の求人への応募については、一般求人ではなく、障害者専用求人でのみ受け付けることとすることは可能ですか?」という問いを立てています。答えはこうです。
障害者手帳をお持ちの方に対して、障害者専用求人への応募のみ受け付けることは、障害者であることを理由として、一般求人の募集及び採用の対象から障害者を排除しているため、法で禁止する差別に該当します。
すぐ前のQ3-1-5では、特例子会社を設置している会社が、障害者について一般の求人において親会社への応募を受け付けず特例子会社の応募のみ受け付けることも、単に障害者だからという理由で応募を拒否することに他ならず差別に該当する、とされています。一方でQ3-1-4は、障害者のみを対象とする求人(いわゆる障害者専用求人)は障害者を有利に取り扱うものであり、禁止される差別に該当しない、としています。障害者専用求人という枠が用意されていること自体は問題がなく、そちらにしか応募させないことが問題だ、という整理です。
手帳を取ると応募できる求人が狭まるのではないか、という心配は、この二つを並べると解けると思います。増えるほうだけが制度に書かれています。求人の探し方そのものは障害者雇用の求人はどこで探すのかにまとめてあります。
伝えなければ、配慮は一切求められないのか
ここが、この記事でいちばん丁寧に書きたいところです。「クローズだと配慮はゼロ」という説明をよく見かけますが、正確ではありません。
対象からは外れません
Q&AのQ1-3-2は、「差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者は、障害者雇用率制度の対象範囲と同様の者に限定されているのですか?」という問いに、こう答えています。
雇用の分野における障害者に対する差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者は障害者雇用促進法第2条第1号に規定する障害者であり、障害者手帳の有無・週所定労働時間等による限定はしていません。
続けて、雇用率制度の対象範囲以外の者であっても第2条第1号に該当する者であれば含まれること、中途障害の方も含まれることが書かれています。
条文のほうを見ても同じです。合理的配慮の提供義務を定めた促進法第36条の2(募集及び採用について)と第36条の3(採用後について)は、どちらも「障害者」という語を使っていて、「対象障害者」ではありません。手帳を条件にした条文ではないのです。
さらにQ1-4-2は、「障害者手帳や医師の診断書等がないものの、一見して障害者であると認識できる労働者から合理的配慮の申出があった」場合について、事業主の判断において合理的配慮を提供する場合、必ずしも障害者手帳や医師の診断書等による確認を行わなくても構いませんと答えています。
ただし、伝わらなければ義務は動き出しません
そのうえで、正直に書かなければならないことがあります。厚生労働省の合理的配慮指針の基本的な考え方の二つ目に、こう書かれています。合理的配慮の提供は事業主の義務であるが、採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、合理的配慮の提供義務違反を問われない、と。
その「必要な注意」が何を指すのかは、Q&AのQ1-5-2に書かれています。全従業員への一斉メール送信、書類の配布、社内報等の画一的な手段により、合理的配慮の提供の申出を呼びかけている場合には「必要な注意」を払っているものと考えられる、というものです。
読み方を間違えないでください。伝えていない人が対象から外れるのではありません。対象ではあるけれども、事業主の義務が動き出す引き金が引かれていない状態です。この違いは、あとで伝えると決めたときに効いてきます。
あとから伝えることは、妨げられていません
「クローズで入って、あとからオープンに切り替えられるのか」は、多くの方が気にされるところだと思います。ここについては、Q&Aに直接の記述がありました。
Q4-2-5は、一般求人において本人が障害者であることを明らかにしていない場合に、採用時に就業上の配慮が必要かどうか質問する際の留意点を扱っています。会社側への注意として書かれた答えの最後に、こうあります。募集及び採用時に障害者であることを明らかにしていなかった者が採用後に合理的配慮を求めることを妨げるものではないことに留意する必要があります。
Q4-2-6はもっと直接的です。「事業主が、ある労働者について、面接時には障害者であることを知らず、採用後に障害者であることを知った場合も、合理的配慮の提供義務はありますか?」という問いに、提供義務はありますと答えています。事業主は、労働者が障害者であることを把握した際に、遅滞なく、職場において支障となっている事情の有無を確認し、話合いをした上で合理的配慮を提供する必要がある、と続きます。
つまり、採用のときに言わなかったことが、あとから配慮を求めることの障害にはならない、というのが厚生労働省の整理です。ガイドラインのほうにも「採用後に障害者を把握・確認する場合」という節が立てられていて、採用前や採用面接時等においては障害を有することを明らかにしていなかったが、採用後に明らかにすることを望んでいる者がその対象として明記されています。想定されていない事態ではありません。
確認できなかったこともあります。切り替えたあとに配置や仕事の内容、賃金がどう扱われるかを定めた公的な決まりは、探した範囲では見つかりませんでした。そこは会社ごとの話し合いになります。合理的配慮の内容は事業主と本人の話し合いで決めるという手続きが指針に書かれているだけで、結果までは決められていません。
クローズを選んだときに、あとで効いてくる分岐
脅すつもりで書くのではありません。伝えないという選択をした場合に、制度の側で「そこから先は情報が動く」という線がどこに引かれているのか、それを知っておいたほうが落ち着いて選べると思うので書きます。
健康診断で会社に伝わる範囲は決まっています
労働安全衛生法第66条は、事業者に対して労働者への医師による健康診断を義務づけています。第5項では労働者の側にも受診義務があり、事業者の指定した医師の健康診断を受けたくない場合は、他の医師の相当する健康診断を受けてその結果を証明する書面を提出すればよいとされています。
その中身は労働安全衛生規則第44条に11項目が並んでいます。既往歴及び業務歴の調査、自覚症状及び他覚症状の有無の検査、身長・体重・腹囲・視力及び聴力の検査、胸部エックス線検査及び喀痰検査、血圧の測定、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、尿検査、心電図検査です。精神疾患の有無を申告する欄は、法定の項目にはありません。
情報がどう扱われるかは、労働安全衛生法第104条と、それにもとづく厚生労働省の「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い指針」に定めがあります。この指針は冒頭で、健康確保措置を通じて得た労働者の心身の状態に関する情報はそのほとんどが個人情報保護法第2条第3項に規定する「要配慮個人情報」に該当する機微な情報であると述べています。そのうえで、情報を性質によって三つに分けています。
| 分類 | 例 | 本人の同意 |
|---|---|---|
| ① 事業者が直接取り扱うこととされている情報 | 健康診断の受診・未受診の情報、長時間労働者やストレスチェックの高ストレス者による面接指導の申出の有無、健康診断の事後措置について医師から聴取した意見 | 事業者が必ず取り扱います |
| ② 同意を得ずに収集できるが、事業場ごとの取扱規程で扱いを定めるべき情報 | 健康診断の結果(法定の項目)、長時間労働者やストレスチェックの高ストレス者に対する面接指導の結果 | 不要ですが、取扱いを説明することとされています |
| ③ あらかじめ本人の同意を得ることが必要な情報 | 健康診断の結果(法定外項目)、保健指導の結果、健康相談の結果、職場復帰のための面接指導の結果、治療と仕事の両立支援等のための医師の意見書、通院状況等疾病管理のための情報 | 必要です |
指針は、③の情報について、労働者本人が自発的に事業者に提出した場合は「あらかじめ労働者本人の同意」を得たものと解されるが、その情報について事業者等が医療機関等に直接問い合わせる場合には別途本人の同意を得る必要がある、とも書いています。あわせて、心身の状態の情報の取扱いに労働者が同意しないことを理由として不利益な取扱いを行うことはあってはならない、とされています。
ストレスチェックの結果は、同意なしには渡りません
労働安全衛生法第66条の10第2項は、ストレスチェックを行った医師等について「あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない」と定めています。結果そのものが自動的に会社に届くことはありません。
ただし、上の表の①に「高ストレスと判定された者による面接指導の申出の有無」が入っていることに気づいてください。面接指導を申し出るという行動そのものは、会社が把握する情報です。そのかわり同条第3項の後段が、「事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。申し出たことで不利になることは、法律で禁じられています。
なお、ストレスチェックの実施が義務なのは常時50人以上の労働者を使用する事業場で、同法附則により、それ以外の事業場については当分の間、努力義務とされています。小さな職場では実施されていないこともあります。
配慮や休みが要る段階になると、書面が要ります
伝えないまま働いていて、いよいよ通院のための時間や勤務時間の調整が必要になったとき、口頭のお願いだけで済むかというと、たいていは済みません。そこで書面が出てきます。
令和8年2月10日に、厚生労働省告示第28号として「治療と就業の両立支援指針」が定められ、令和8年4月1日から適用されています。根拠は労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第27条の3で、事業主は治療を受ける労働者について、治療と就業の両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない、という努力義務が置かれています。行政のガイドラインがあるという段階ではなく、法律に努めが書かれ、その指針が告示されているという形です。
この指針が対象とする疾病は、国際疾病分類に掲げられている疾病であって、医師の診断により、増悪の防止等のため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ、就業の継続に配慮が必要なものとされています。病名で区切られてはいません。「障害者」としてではなく「治療を受けている労働者」として支援を求める道が、ここに用意されています。
進め方は、労働者本人からの申出から始まります。指針は、支援を必要とする労働者が、事業主が定める様式等を活用して就業の状況等に関する情報を主治医に提供したうえで、主治医から次の四つの情報の提供を受けることが望ましいとしています。症状と治療の状況(現在の症状、通院の必要性とその期間、治療の内容やスケジュール、通勤や業務遂行に影響を及ぼしうる症状や副作用)、就業継続の可否に関する意見、望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働の制限、出張の可否等)、そして治療に対する配慮が必要な事項に関する意見(通院時間の確保や休憩場所の確保等)です。厚生労働省は、勤務情報を主治医に提供する際の様式例と主治医の意見を求める際の様式例を公開しています。案内は治療と仕事の両立支援のページにまとまっています。
指針は個人情報の保護についても、症状や治療の状況等の健康情報は機微な情報であることから、安衛法に基づく健康診断において把握した場合を除いては、原則として、事業主が労働者本人の同意なく取得してはならないとしています。取るのは会社ではなく、本人が主治医から受け取って会社に出す、という向きです。
つまり、伝えないことのコストは「隠していたのがばれる」ことではありません。配慮が必要になった段階で、口頭では動かず、主治医の書面を用意するところから始めることになる、という手間のほうです。指針は既に雇用している労働者への対応を念頭に置いているものの、治療が必要な者を新たに採用し職場で受け入れる際にも参考として取り組むことが可能だ、と明記しています。
いま働いている職場に休むことを伝える場面については、休職を会社にどう伝えるかに別にまとめてあります。
伝えると決めたときに、何を、誰に、どこまで
伝えると決めた場合でも、病名を全部言わなければならないわけではありません。ここは制度の言葉で整理できます。
病名を言うことと、必要な配慮を言うことは別です
合理的配慮指針は、募集及び採用時に合理的配慮が必要な障害者について、事業主に対して「募集及び採用に当たって支障となっている事情及びその改善のために希望する措置の内容」を申し出ることとしています。そのうえで、こう続けています。
その際、障害者が希望する措置の内容を具体的に申し出ることが困難な場合は、支障となっている事情を明らかにすることで足りること。
何をしてほしいかまで自分で設計できなくてもよい、という作りです。そして先ほど見たQ1-4-2のとおり、事業主の判断で配慮を提供する場合には手帳や診断書での確認は必ずしも要りません。診断名を出さずに、困っている事情と必要な措置だけを伝えるという形が、制度の側で否定されていないということです。
もちろん、会社が雇用率に算定するところまで進めるなら手帳の提示が必要になります。何のために伝えるのかによって、必要な材料が変わると考えてください。
| 目的 | 必要なもの | 根拠 |
|---|---|---|
| 職場で配慮を求める | 支障となっている事情。希望する措置は言えれば | 合理的配慮指針、Q&A Q1-4-2 |
| 通院や勤務時間の調整を制度に乗せる | 主治医の意見(様式例あり) | 治療と就業の両立支援指針 |
| 会社の障害者雇用率に算定してもらう | 精神障害者保健福祉手帳 | 促進法第43条第9項、施行規則第4条の15 |
伝える相手も決まっています
ガイドラインは、把握・確認の手続きについて、情報を取り扱う者の範囲を必要最小限とするため、原則として企業の人事管理部門において障害者雇用状況の報告等を担当する者から直接本人に対して行うこととしています。上司や同僚を経由する手続きではありません。情報を管理する者の範囲を限定して従業員に分かるように明確化すること、内部規程を整備すること、障害に関する情報は情報管理者以外の者が知ることのないよう別途保管することが望まれることも書かれています。ガイドラインは、企業による把握・確認行為が本人の意に反するものである場合、状況によっては訴訟が提起されることも考えられるとして、プライバシー権の侵害と民法第709条にもとづく損害賠償責任にも触れています。
なお、健康診断や面接指導で会社が把握した情報については、Q&AのQ1-5-1に重要な整理があります。この情報は労働者の健康確保を目的として把握するもので、合理的配慮を目的とするものではないので、本人の同意がない限り、合理的配慮のためにこの情報を用いることはできません。逆に、用いることについて同意が得られており、健康診断や面接指導の結果に基づいて講じられた就業上の措置の内容が本人に必要な合理的配慮に当たる場合は、その就業上の措置をもって合理的配慮がなされたものとみなされる、とも書かれています。
一人で決めなくていい場所があります
最後に、確かめに行ける場所を書いておきます。
ハローワークには障害のある方の相談を担当する専門の窓口があります。地域障害者職業センターは高齢・障害・求職者雇用支援機構が47都道府県に置いている施設で、職業評価や職業準備支援を無料で受けられます。障害者就業・生活支援センターは就業面と生活面の相談を一体で受けるところです。治療と就業の両立支援のほうでは、都道府県の産業保健総合支援センターが指針に相談先として挙げられています。
こうした窓口を挙げるのには理由があります。先ほどの障害者職業総合センターの調査で、支援機関が「手帳を持つ人への支援と比べて困難度が高い」と答えた項目に、企業に対する障害の開示について本人から同意を得ること、企業に本人の障害特性を理解してもらうこと、雇い入れや職場定着に当たって合理的配慮を講じてもらうことが並んでいました。裏を返せば、支援機関はその難しい部分を仕事として引き受けているということです。会社と一対一で交渉する構図を、必ずしも取らなくて構いません。合理的配慮指針にも、手続の中で就労支援機関の職員等に障害者の補佐を求めても差し支えないことが書かれています。
同じ調査には、もう一つ書き添えておきたい記述がありました。ヒアリング調査の結果として、離転職を経験する中で自分の特性や必要な配慮について自覚するようになる場合があり、様々な経験を通して自己理解が促進されることが確認された、とされています。そして支援機関から見て、そうした過程で手帳の取得や求人の選び方についての希望が変化する場合が多く見られた、と書かれています。最初に決めた形が最後まで続くわけではない、というのがこの調査から読み取れることです。
この記事のまとめ
伝えるかどうかは、あなたが決めることです。申告する義務を定めた条文は見当たりませんでしたし、事業主の側には、本人の意思に反して申告や手帳の取得を強要してはならないという決まりがあります。断ったことを理由に不利益な扱いをすることも禁じられています。
そのうえで、伝えたときに動くものが三つあります。まず、事業主の合理的配慮の提供義務に引き金が入ります。手帳まで出せば、会社の雇用率に算定されて、書類の保存と毎年度の確認という事務が動きます。そして、通院や勤務時間の調整を制度に乗せるのであれば、主治医の書面が必要になります。
伝えなかったときに失われるものは、思われているより小さいかもしれません。合理的配慮の対象からは外れませんし、手帳を持ったまま一般求人に応募することも制度上できます。あとから伝えることも妨げられていません。かわりに、配慮が必要になったときに動き出しが遅くなります。
どちらを選んでも、いま決めきらなくて大丈夫です。窓口はどこも無料で、名前を出さずに一般的な質問として聞くこともできます。会社に伝える前に、外の人に一度声に出してみるという順番でも構いません。
わたしたちは就労支援の現場で、伝えるかどうかを何か月も抱えたままの方に会います。オープンかクローズかは二者択一の形をしていますが、実際には、誰に、いつ、どこまでという小さな選択の集まりで、一度決めたら戻れないものでもありません。決めきれずに保留していることは、優柔不断ではなく、それだけ大事なことを大事に扱っている途中なのだと思います。
