休むと決めたあとに、いちばん重い壁として残るのが「どう切り出すか」だと思います。手続きの書類より、上司の顔が浮かぶほうがつらい、という声はよく聞きます。

先に結論だけ言います。伝える内容は「医師から療養が必要だと言われました」の一文で足ります。そこから先、病状をどこまで話すかは、あなたが決めてよい範囲です。気持ちの問題ではなく、法令と厚生労働省の指針で線が引かれているところなので、順に確認していきます。

伝えるのは3つだけです

会社に伝える内容は、次の3つで用件として成立します。

  1. 医師から療養が必要だと言われたこと
  2. 診断書があること(または、いつ出せるか)
  3. いつから休みたいか

「なぜそうなったのか」「どんな症状なのか」は、この場で答えなくて構いません。会社が休職の判断をするために必要なのは、医師が療養を必要と認めているという事実と、その見込み期間だからです。

誰に伝えるか。上司か、人事か

最初に伝える相手は3つから選べます

医師から療養が必要だと言われた。休職を申し出たい
直属の上司手引きが示す標準的な段取り。診断書を渡せば人事への連絡は社内で回る
人事上司との関係が体調に関わっているときは、直接連絡して構わない
産業医健康相談の申出の方法は、会社が労働者に周知することになっている
手引きが示しているのは会社側の手順で、本人が必ず上司から切り出す決まりではありません。

厚生労働省の心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きでは、主治医が作成した診断書を管理監督者などに提出してもらい、管理監督者がそれを人事労務管理スタッフや産業保健スタッフに連絡する、という流れが示されています。標準的な段取りでは直属の上司が最初の窓口で、そこに渡せば人事への連絡は社内で回るということです。

ただし、これは会社側の手順であって、本人が必ず上司から切り出す決まりではありません。上司との関係そのものが体調に関わっているなら、そこを通ること自体が最大の負担になります。人事に直接連絡して構いませんし、産業医から入る道もあります。

会社は産業医の業務の内容、産業医への健康相談の申出の方法、心身の状態に関する情報の取扱い方法を労働者に周知させなければならないと、労働安全衛生法第101条第2項と労働安全衛生規則第98条の2で定められています。人事に「産業医への健康相談はどう申し込めますか」と聞けば分かりますし、相談したい理由まで説明する必要はありません。

いつ、どうやって伝えるか

伝える手段に法律の決まりはありません。対面でも電話でもメールでも構いません。体調が悪いときに対面で切り出すのは、いちばん負担の大きいやり方です。その場の空気に押されて「もう少し頑張ります」と言ってしまうこともあります。メールなら、書いたものを読み返してから送れます。

やりやすいのは、メールで時間をもらい、口頭の説明は短く済ませて診断書を渡し、細かい手続きは後日あらためて聞く、という分け方です。診断書がまだなくても、先に「近く出る見込みです」と伝えておけば話は進みます。

病状をどこまで話す義務があるのか

ここが、いちばん誤解されているところだと思います。労働安全衛生法第104条第1項は、会社が労働者の心身の状態に関する情報を扱うとき、健康の確保に必要な範囲内で収集し、その目的の範囲内で保管し、使用しなければならないと定めています。集めてよい範囲そのものに、法律で枠がはめられているということです。

厚生労働省の労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針では、こうした情報の多くが個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたる機微な情報だとしたうえで、3つに分類しています。このうちあらかじめ労働者本人の同意を得ることが必要とされるグループの例が、次のものです。

  • 健康相談の結果
  • 職場復帰のための面接指導の結果
  • 治療と仕事の両立支援などのための医師の意見書
  • 通院状況など疾病管理のための情報

通院の状況も、健康相談の内容も、会社が勝手に集めてよい情報ではありません。令和8年4月から適用されている厚生労働省の治療と就業の両立支援指針にも、症状や治療の状況といった健康情報は、労働安全衛生法にもとづく健康診断で把握した場合を除いて、原則として事業主が本人の同意なく取得してはならないと書かれています。

さきほどの心身の状態に関する情報の取扱いの指針には、もうひとつ役に立つ記述があります。本人が自発的に会社へ提出した情報は本人の同意を得たものと解されるが、その情報について会社が医療機関に直接問い合わせる場合には、別に本人の同意を得る必要がある、というものです。渡したものは渡した範囲で会社が扱ってよい。けれども会社が主治医に電話をして続きを聞くには、あなたの同意が要ります。

話さなくてよいこと、伝えると役に立つこと

義務の話とは別に、伝えておくと自分が楽になることもあります。

話さなくてよいこと 伝えると役に立つこと
発症のいきさつや家庭の事情 医師から療養が必要と言われたこと
具体的な症状や薬の名前 休職の見込み期間(診断書に書かれた範囲で)
通院先の医療機関名や診察の中身 休職に入る希望日
誰の何が原因だと思っているか 引き継ぎが必要な業務と、その状態
復職できるかどうかの見通し 休職中の連絡の希望(頻度と手段)

左の列を話してはいけないという意味ではありません。話したいなら話して構いません。ただ、話さないことは、手続きを止める理由にはなりません。

右の列で見落とされやすいのが、いちばん下の連絡方法です。厚生労働省の資料でも、休業に入る際に連絡窓口や頻度、方法を決めておくことが挙げられています。「連絡はメールで、月に一度くらいで」と最初に言っておくと、休職に入ってからの負担が変わります。手続き全体は休職の手続きと過ごし方にあります。

診断書をどう渡すか

手引きでは、診断書に休業を必要とする旨のほか、職場復帰の準備を計画的に行えるよう、必要な療養期間の見込みを明記してもらうことが望ましいとされています。渡し方で決めておくとよいことが3つあります。

原本かコピーか。 会社の規定によります。原本を求められることが多いので、渡す前に自分用の写真を残しておいてください。

手渡しか郵送か。 出社がつらければ郵送で構いません。メールで「本日、診断書を郵送しました」と一報を入れておくと、届いたかどうかを気に病まずに済みます。

渡した記録。 日付と渡した相手をメモしておいてください。休職の開始日の認識がずれたときに、話が早く済みます。

そのまま使える例文

書き出せないときのために、文面の型を置いておきます。必要なところだけ差し替えて使ってください。

休職を申し出るメール

件名:休職のご相談

○○部長

お疲れさまです。△△です。

このたび、医師より療養が必要との診断を受けました。診断書には○か月程度の療養を要すると記載されています。

つきましては、○月○日より休職させていただきたく、ご相談させてください。診断書は○日にお渡しできる予定です。

業務の引き継ぎは、現在の状況を一覧にしてお送りします。手続きについてご指示いただけますと幸いです。

病名を書く必要はありません。「医師より療養が必要との診断を受けました」で伝わっています。

上司を通さず、人事に連絡する場合

件名:休職の手続きについてのご相談

人事部 ご担当者さま

お疲れさまです。○○部の△△です。

医師より療養が必要との診断を受けており、休職の手続きについてご相談させていただきたく、ご連絡しました。

事情があり、まず人事のご担当にご相談したいと考えております。ご対応いただける方をお教えいただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。

理由を書く必要はありません。「事情があり」で十分です。

診断書を郵送するときの添え状

○○部長

先日ご相談しました件につきまして、診断書を同封いたします。

休職期間中の連絡は、メールでいただけますと助かります。体調により返信までお時間をいただく場合があります。よろしくお願いいたします。

連絡方法の希望をこの一枚に混ぜておくと、あらためて交渉の場を作らずに済みます。

引き止められたとき、理解のない反応をされたとき

「今抜けられると困る」「もう少し頑張れないか」と言われることはあります。そのときに使える言い方です。

  • 「私の判断ではなく、医師の診断によるものです」
  • 「診断書が出ていますので、まず手続きを進めさせてください」
  • 「引き継ぎについては、できる範囲で協力します」

判断の主体を自分から医師に移すのが、いちばん角が立ちません。頑張れるかどうかの話ではなくなるからです。その場で結論を出す必要もなく、「持ち帰って考えます」と言って終えて構いません。

退職を持ち出された場合は、別の話になります。先ほどの指針には不利益な取扱いの防止という項目があり、心身の状態に関する情報の取扱いに労働者が同意しないことや、その情報の内容を理由として、解雇、契約を更新しないこと、退職勧奨、不当な動機や目的によると判断されるような配置転換や役職の変更を行うことは、原則として行ってはならないと書かれています。

その場でサインをしない、口頭でも同意しない。この2つを守れば、あとから相談できます。外側の窓口としては、都道府県労働局や労働基準監督署などに全国378か所置かれている総合労働相談コーナーがあります。無料、予約不要で、解雇や退職勧奨、いじめや嫌がらせを扱っています。会社に言う前に言い方を整理したいときは、厚生労働省のこころの耳電話相談(0120-565-455)も使えます。

産業医面談では何を聞かれるか

産業医との面談を案内されて身構える方は多いと思います。会社側の人だと思うと、話す内容を選んでしまうかもしれません。

まず立場の話をします。産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは会社に勧告をすることができ、会社はその勧告を尊重しなければならないと労働安全衛生法で定められています。会社に意見を言う側の役割を持っているということです。

聞かれる内容も、法令で定められた面接指導であれば省令に書かれています。長時間労働による面接指導では、勤務の状況、疲労の蓄積の状況、そのほかの心身の状況の3つ。ストレスチェックで高ストレスと判定された方への面接指導では、勤務の状況、心理的な負担の状況、そのほかの心身の状況です。中心は「今どういう働き方をしていて、どれくらい負荷がかかっているか」で、生い立ちや家庭の事情を掘り下げる場ではありません。

話した内容がそのまま会社に流れるわけでもありません。指針では、情報を他者に提供するときに記録そのものではなく就業上の措置に関する医師の意見に置き換えることを「加工」と呼び、情報を取り扱う者を制限したり加工したりする扱いを社内の規程に定めて運用する必要があるとしています。不安なら、面談の冒頭で「今日お話しした内容は、どこまで会社に伝わりますか」と聞いてしまうのが確実です。指針が想定している確認なので、失礼にはあたりません。ストレスチェックの結果そのものも、本人の同意を得ないで会社に提供してはならないと法律で定められています。

一文だけ書ければ、今日はそれで足ります

伝え方を考えているうちに、伝えること自体が仕事のようになってしまうことがあります。文面を練り直しては消し、また明日にしよう、という日が続くのもよくあることです。必要なのは完璧な説明ではありません。「医師から療養が必要と言われました」という一文と、診断書。制度が求めているのはそれだけです。

わたしたちは就労支援の現場で、休職の段階を経てきた方に多く会います。伝え方がうまかった方の回復が早い、ということはありません。ただ、伝えるときに自分を守る線を引けた方は、休んでいる間の消耗が少なくなります。話さなくてよいことは話さなくてよい。それは冷たさではなく、あなたに認められている範囲です。