「休職」という言葉は知っていても、実際にどう始まるのかは、その時になるまで誰も教えてくれません。手続きの説明を探しても会社によって書いてあることが違うので、余計に混乱すると思います。
理由ははっきりしています。休職は法律で全国一律に決まった制度ではなく、それぞれの会社が就業規則で定めているものだからです。だから正解は一つではありませんが、逆に言えば、自分の会社の規則さえ読めば答えが分かります。
休職とは、契約を残したまま働く義務が止まること
制度としての休職は、行政の資料で次のように説明されています。働けない、あるいは働かせることが適当でない事情が生じたときに、労働契約そのものは続けたまま、労務に従事することを免除または禁止するものです。
大事なのは前半です。籍は残ります。辞めるわけではありません。休職を「会社を離れること」だと感じて踏み切れない方がいますが、契約上は在籍したまま、働く義務だけがいったん止まっている状態です。
休職そのものに法律の定めがないことと、だから答えが自分の会社の就業規則にある理由は、休職とは何かで先に整理しています。
最初にやることは3つ
体調が悪いときに何段階もの手順は追えません。次の3つだけ考えれば足ります。
休職を始めるまでの3つ
- 1医師に診断書を書いてもらう診察のときに「仕事を休むことを考えているので、診断書をお願いしたい」と伝える
- 2就業規則の3か所を確認する休職できる期間、復職を願い出る手続き、期間が終わっても復職できないときの決まり
- 3会社に伝える相手は直属の上司か人事。病状を詳しく説明する義務は、原則としてない
1. 医師に診断書を書いてもらう
会社に休職を申し出るとき、ほとんどの会社が診断書を求めます。診察のときに「仕事を休むことを考えているので、診断書をお願いしたい」と伝えてください。書かれる内容は療養が必要であることと、その見込み期間が一般的です。
その場ですぐ受け取れるとは限らず、後日になることもあります。文書料がいくらかかるかも医療機関によって違うので、あわせて聞いておくと予定が立てやすくなります。
診断書が手元に届くまで休めないわけではありません。明日から休むだけなら何が要るのかは診断書はすぐもらえるのかに、受け取った診断書が休職以外の手続きでどこまで使えるのかはうつ病の診断書は、そのあと何に使えるのかにまとめました。
2. 就業規則の3か所を確認する
これが一番大事で、一番飛ばされやすいところです。見るのは3か所だけで足ります。
| 確認するところ | なぜ必要か |
|---|---|
| 休職できる期間 | いつまで休めるかが分かる。勤続年数で変わる会社が多い |
| 復職を願い出る手続き | 誰に、いつまでに、何を出すのかが決まっている |
| 期間が終わっても復職できないときの決まり | ここが将来いちばん効いてくる |
就業規則は本来、働く人が見られる状態になっているものです。社内システムに置かれていることが多く、見つからなければ人事や総務に「休職の規定を確認したい」と聞いてください。就業規則を働く人に知らせておくことは法律で会社に義務づけられているので、教えてもらえるのが原則です。
3つ目は読むのがつらい項目かもしれません。ただ、期間の終わりがいつなのかを知っているかどうかで、その後に取れる選択肢の数が変わります。今すぐ全部を決める必要はないので、日付だけ把握しておいてください。
3. 会社に伝える
伝える相手は直属の上司か人事です。どちらが先かは会社によりますが、迷ったら人事に連絡して構いません。
伝える内容は「医師から療養が必要だと言われたので、休職を申し出たい」で足ります。病状を詳しく説明する義務は、原則としてありません。診断書に書かれている以上のことを話す必要はなく、話したくないことは話さなくて大丈夫です。
何をどこまで話す義務があるのかは法令で線が引かれています。そのまま使えるメールの例文とあわせて、休職を上司や人事にどう伝えるかにまとめました。
有給休暇を先に使うか、休職に入るか
会社からは、休職に入る前に、先に年次有給休暇の消化を提案されることも多くあります。ここで知っておくと役に立つことが2つあります。
ひとつは、有給休暇をいつ取るかは原則として本人が決められるということです。労働基準法で、使用者は労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならないと定められています。会社から「先に有給を使ってください」と提案されることはありますが、復職後のために何日か残しておきたいと希望を伝えることもできます。復帰したあとは通院が続くことが多いので、数日残しておくと後で助かります。
もうひとつは、傷病手当金との関係です。傷病手当金は連続して3日休んだあと、4日目から支給が始まります。この最初の3日間(待期といいます)に有給休暇を使っても、その後の傷病手当金の支給には影響しません。待期を作るために無給で休む必要はありません。この2つは、厚生労働省こころの耳の休職手続き前に会社側が有給休暇取得を促すことはできるの?で社会保険労務士が説明しています。
お金の見通しを立てておく
休職に入ると、多くの会社では給与が止まります。かわりに健康保険から傷病手当金を受け取れる可能性があります。金額の目安は、支給開始日以前の直近12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30で割り、その3分の2にした額です。おおよそ給与の3分の2と考えると計算しやすいと思います。
ここで見落とされやすいのが社会保険料です。休職中も社会保険料は免除されません。給与が出ていれば天引きされていたものが、給与が止まると天引きできなくなるので、会社に振り込むなどの形で自分で支払うことになります。会社によって集め方が違うので、休職に入る前に「休職中の社会保険料はどう払いますか」と確認しておいてください。
いくらになるのか、なぜ免除されないのかは休職中の社会保険料は免除されませんで条文から説明しています。
つまり手元の感覚としては、傷病手当金が入り、そこから社会保険料が出ていきます。住民税も前年の所得に対してかかるので、休職1年目は負担が重く感じられます。この3つを並べて見ておくと、あとから慌てずに済みます。
傷病手当金を受け取れるかどうかや、申請書の書き方については、それぞれ別の記事に分けてあります。この記事の最後にリンクを置いています。
休職に入るときに、もらっておくとよいもの
厚生労働省こころの耳の社員がメンタルヘルス不調で休業することになったらでは、会社が休職者に対して、就業規則の内容や休業中の決まりを分かりやすく書面にして渡すことが大切だとされています。あわせて、次のようなことを決めておくものとされています。
- 休職中の連絡窓口は誰か
- 連絡の頻度と方法(電話なのかメールなのか)
- どんな内容を連絡し合うのか
- 傷病手当金の申請について
もし何も渡されないまま休職が始まっても、あとから聞いて構いません。「連絡はメールで、月に一度くらいでお願いしたい」と伝えることも、わがままではありません。休職中に上司から不定期に電話が来る状態は、それだけで回復の妨げになりかねません。決め方を相談することは、本来この手続きに含まれています。
復職までにどんなことが起きるか
先の話ですが、地図があるほうが不安は小さくなるので、流れだけ書いておきます。厚生労働省は会社向けに心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きを出していて、多くの会社はこれに近い進め方をします。
- 主治医が「復職できる状態」と判断し、診断書を書く
- 会社がその診断書をもとに、産業医などの意見も聞いて復職の可否を判断する
- 復職後の働き方(時間や業務内容の調整)を決める
- 会社が最終的に復職を決定する
- 復職後もしばらく様子を見ながら調整する
ひとつ知っておいてほしいのは、主治医が復職可能と判断しても、会社の判断と食い違うことがあるという点です。実際にそれで争いになった事例が、中央労働委員会のメンタルヘルス不調による傷病休職後の復職の可否(あっせん事例)にも残っています。主治医が見ているのは日常生活を送れる状態かどうかで、会社が見たいのは「その職場のその仕事に戻れるか」です。この2つはずれることがあります。
対策は難しくありません。復職が近づいたら、自分の仕事の内容(勤務時間、通勤、業務の負荷)を主治医に具体的に伝えておくことです。そのうえで診断書を書いてもらうと、判断のずれが起きにくくなります。
復職の判断で実際に何を見られるのか、復職後にどんな配慮が想定されているのかは、「休職したら終わり」は本当かで手引きの中身に沿って詳しく書いています。
休職期間の終わりが近づいたとき
就業規則で確認しておく3か所目が、ここで効いてきます。多くの会社では、休職期間が終わっても復職できない場合に退職や解雇になる規定が置かれています。
ただ、期間が終わる=そこで終わり、と決まっているわけではありません。裁判例では、もとの業務に戻れる状態ではなくても、より軽い業務になら就くことができ、本人がその業務での復職を希望している場合、会社には配置できる業務があるかどうかを検討する義務があると判断されたものがあります。
つまり「前と同じ仕事は無理そうだから諦めるしかない」と一人で結論を出す前に、できる範囲の業務での復帰を希望していると伝えておく意味があります。伝えたかどうかで扱いが変わりうる場面です。
話し合いがうまくいかないときは、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、労働組合、社会保険労務士といった相談先があります。この段階まで来たら一人で抱えず、外の力を借りてください。
休職中の過ごし方について
回復の過程は人によって違うので、こうすべきという話はしません。ただ、手続きの面から言えることが一つあります。
傷病手当金は、医師が働けない状態だと認めた期間について支給されます。つまり通院を続けて、そのときの状態を医師に伝えておくことが、結果的にお金の面でも自分を守ることになります。調子が良い日が続くと通院の間隔を空けたくなりますが、証明が途切れると申請のときに困ります。
同じ理由で、休職中に働くことには確認が要ります。労務不能かどうかを判断するのは保険者で、会社との関係は就業規則で決まります。始める前に何をどこへ確かめるのかを、休職中にアルバイトをしてもいいのかで3つに分けて書きました。
何をして過ごすかについては、厚生労働省の手引きが休職の段取りを5つのステップで示しています。いま自分がどこにいるのかは休職中の過ごし方に迷ったときで確かめられます。療養が長くなって別の道を考え始めたときは、休職中に転職活動をしてもいいのかも見ておいてください。
相談できるところ
会社にも家族にも言いにくいときに使える窓口があります。
こころの耳電話相談(厚生労働省)は、働く方とその家族、企業の人事労務担当者を対象にしたフリーダイヤルの相談窓口です。
- 電話 0120-565-455
- 平日(月曜日〜金曜日)17時〜22時(受付は21時50分まで)
- 土曜日・日曜日 10時〜16時(受付は15時50分まで)
- 祝日、振替休日、年末年始(12月29日〜1月3日)は除く
平日の夜と土日に開いているので、休職を考えている段階でも使いやすい窓口です。
こころの耳には相談窓口案内のページもあり、仕事に関する相談、生活に関する相談、こころの健康に関する相談といった分け方で、働く人が使える窓口が整理されています。会社の産業医や人事に相談しにくいときは、こちらから探すのが確実です。
なお、名前が似ていて紛らわしいのですが、産業保健総合支援センターは産業医や人事労務担当者などの支援者向け、地域産業保健センターは従業員50人未満の事業場向けの窓口として案内されています。働く人本人がまず使う窓口ではないので、上の相談窓口案内から選んでください。
今日は3つだけで大丈夫です
読んでいるうちに、決めることが多すぎると感じたかもしれません。今日必要なのは診断書と就業規則と連絡の3つで、お金の話も復職の話も、あとから順番に考えれば間に合います。
わたしたちは就労支援の現場で、休職から先の段階の方に会うことが多いのですが、はじめの時期にきちんと休めた方ほど、そのあとの選択肢が広く残っています。手続きを早く終わらせることより、休むこと自体を優先して構いません。
