傷病手当金の条件を調べていると、あちこちに違う書き方の説明が出てきて、結局どれを見ればいいのか分からなくなることがあります。実際のところ、条件は4つしかありません。全国健康保険協会(協会けんぽ)が「下記の(1)~(4)の要件を満たす場合にのみ、健康保険の給付の対象となります」と示している、その4つです。

ここでは、その4つをひとつずつ順番に見ていきます。それぞれについて、何がこれに当たるのかと、判断するのは誰なのかを書きました。この2つが分かると、自分で確かめられる部分と、人に聞かないと分からない部分が切り分けられます。

なお、ここは協会けんぽの基準で書いています。勤め先が健康保険組合に加入している場合は、組合ごとに独自の付加給付や運用があるため、最後の章で触れます。

傷病手当金とはどんな制度か

先に、制度の輪郭だけ確認しておきます。

協会けんぽは、傷病手当金を「病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度」と説明しています。病気やケガで会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される、という位置づけです。

根拠は健康保険法第99条です。条文はこうなっています。

被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。

短い条文ですが、このなかにすでに条件のいくつかが入っています。「療養のため」「労務に服することができない」「三日を経過した日から」という部分です。

対象になるのは、会社の健康保険に入っている被保険者です。カッコ書きのとおり、任意継続被保険者は対象から除かれています。市区町村の国民健康保険にも、原則としてこの給付はありません。

つまり、この4つの条件を確認する前に、そもそも自分が対象の保険に入っているかという入口があります。手元の保険証、あるいはマイナポータルの資格情報の画面を見て、「全国健康保険協会」や「〇〇健康保険組合」と書かれていれば、この記事の話がそのまま当てはまります。パート勤務でも、社会保険に加入していれば被保険者です。

条件は4つです

まず全体を並べておきます。

条件 内容 誰が判断するか
1 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること 本人が申請書に記入し、保険者が確認します
2 仕事に就くことができないこと 医師の意見等をもとに保険者が判断します
3 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと 会社が勤務状況を証明します
4 休業した期間について給与の支払いがないこと 会社が支払い状況を証明します

このうち、自分で確かめられるのは3と4です。1は迷う場合があり、2は自分では決められません。「自分は条件を満たしていないかもしれない」と感じている方の多くは、2のところで足踏みしています。

それでは、ひとつずつ見ていきます。

条件1 業務外の病気やケガの療養のためであること

健康保険法は第1条で、この法律が「業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い」と定めています。仕事が原因の病気やケガは労災保険が担当し、それ以外を健康保険が担当する、という役割分担です。

何がこれに当たるか

日常生活のなかで起きた病気やケガであれば、おおむねこれに当たります。うつ病や適応障害などの精神疾患も、業務外のものであれば対象です。

見落とされやすいのは、次の2点です。

  • 自費で診療を受けた場合でも対象になります。協会けんぽは「健康保険給付として受ける療養に限らず、自費で診療を受けた場合でも、仕事に就くことができないことについての証明があるときは支給対象となります」と説明しています
  • 自宅療養の期間についても対象になります。入院していることは条件ではありません

逆に、対象外になるのは次のものです。

  • 業務上・通勤災害によるもの。これは労災保険の給付対象になります
  • 病気とみなされないもの。協会けんぽは美容整形を例に挙げています

判断するのは誰か

健康保険傷病手当金支給申請書の2ページ目に「傷病の原因」を選ぶ欄があり、「1. 仕事中以外(業務外)での傷病」「2. 仕事中(業務上)での傷病」「3. 通勤途中での傷病」から本人が選びます。まずは本人が書くところです。

ただし、判断に迷う場面はあります。長時間労働やハラスメントのあとに体調を崩した場合は、労災に当たるかどうかがはっきりしないことがあります。この点について、記入の手引きは「労災保険給付に該当するかどうかわからない場合は、労働基準監督署にご相談ください」と案内しています。労災の請求と並行して傷病手当金を請求することもでき、その場合は申請書で「2. 請求中」を選びます。あとから労災の支給が決まって給付期間が重なった場合には、受け取った傷病手当金を返すことになる、という注意書きも手引きに書かれています。

もうひとつ、原因が交通事故やケンカなど第三者の行為によるものだった場合は、条件から外れるわけではありませんが、「第三者行為による傷病届」を別に出すことになります。申請書にもこの点を確認する欄があります。

ハラスメントが原因かもしれないと感じている場合、どこに相談できるのかと証拠の残し方はパワハラはどこに相談できるのかにまとめました。労災の判断より前に、まず相談先を知っておくほうが動きやすくなります。

なお、法人の役員の場合は、労災保険の対象にならないケースがあり、そのときに健康保険の給付対象になるかどうかも別の扱いになります。手引きは都道府県支部に相談するよう案内しています。

条件2 仕事に就くことができないこと

4つのなかで、いちばん誤解されやすいのがここです。

何がこれに当たるか

手がかりになるのは、申請書の4ページ目にある言葉です。医師が記入する欄は「労務不能と認めた期間」となっていて、そこにカッコ書きで説明が付いています。

勤務先での従前の労務に服することができない期間をいいます。

ここでいう「働けない」は、何もできない状態という意味ではありません。その人がそれまで勤務先でしていた仕事に就けるかどうかで見ます。ですから、身のまわりのことができていても、買い物に行けても、それだけで条件から外れるわけではありません。

同じ症状でも、仕事の内容によって結論が変わることがあります。申請書の2ページ目に「被保険者の仕事の内容」を書く欄があり、手引きは「経理担当事務」「自動車組立」「プログラマー」など具体的に書くよう求めています。この欄があるのは、仕事の内容を踏まえて判断するためです。

判断するのは誰か

全国健康保険協会の傷病手当金のページには、こう書かれています。

仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。

療養担当者というのは主治医のことです。つまり、医師が意見を書き、それを材料として保険者が判断します。医師が単独で決めるのでもなく、会社が決めるのでもなく、まして本人が「自分はまだ働けるほうだ」と決めるものでもありません。

医師の欄には、労務不能と認めた期間のほかに、その期間中の主な症状や経過、治療内容、療養指導などを書く欄があります。あわせて「労務不能と認めた期間に診療した日がありましたか」という項目もあります。診察を受けていない期間について証明を求めるのは、医師にとって難しいことです。通院を続けて、そのときの状態を伝えておくことが、結果としてこの条件を満たすことにつながります。

診察のときに伝える内容も、少しだけ意識しておくと違います。「調子はどうですか」と聞かれて「まあまあです」と答えてしまう方は多いのですが、ここで見られているのは気分の良し悪しではなく、以前の仕事ができる状態かどうかです。朝起きられるか、通勤の時間に家を出られるか、画面や書類に何分向かっていられるか、人と話すとどうなるか。そういう具体的な様子のほうが、医師にとっては書きやすい材料になります。

なお、途中で転院した場合は、それぞれの医療機関で医師の意見を受けることになります。主治医が変わったときは、申請書を分けて出すよう手引きが案内しています。

条件3 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

待期の3日と、支給が始まる日

1日目待期
2日目待期
3日目待期
4日目ここから
5日目支給
待期(支給なし)支給される日
待期の3日間は連続している必要があります。有給休暇や土日・祝日などの公休日も待期に数えられ、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。

事実の問題なので、自分で確かめられる条件です。ただし数え方に癖があります。

何がこれに当たるか

協会けんぽの説明はこうです。

業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。

最初の3日間を待期といい、この3日間には支給がありません。支給が始まるのは4日目からです。

数え方で押さえておきたいのは、次の3つです。

待期には有給休暇も公休日も含めて数えます。協会けんぽは「待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません」と書いています。金曜に休み、土日を挟めば、その3日で待期が完成します。

就労時間中に発症した場合は、その日が待期の初日になります。「就労時間中に業務外の事由で発生した病気やケガについて仕事に就くことができない状態となった場合には、その日を待期の初日として起算されます」という記載があります。午前中まで働いていて、午後に動けなくなって早退した日は、その日から数え始めるということです。記入の手引きも、待期完成の初日にあたる日を早退した場合は、会社が記入する欄に「早」と表示するよう案内しています。

途中で出勤すると、そこでいったん途切れます。協会けんぽは「連続して2日間会社を休んだ後、3日目に仕事を行った場合には、『待期3日間』は成立しません」と明記しています。出勤と欠勤を繰り返している時期に、いつまでも支給が始まらないのはこのためです。

言葉だけだと分かりにくいので、いくつか並べてみます。

休み方 待期は完成するか
月・火・水と続けて休んだ 完成します。木曜以降の休んだ日が支給の対象になります
金曜に休み、土日が公休日だった 完成します。公休日も3日に数えます
月・火に有給を使って休んだ 有給の日も3日に数えます。水曜も休めばそこで完成します
月・火に休み、水曜に出勤し、木曜からまた休んだ 完成しません。木曜から数え直しになります
火曜の午後に動けなくなり早退し、水・木と休んだ 完成します。早退した火曜が待期の初日になります

会社を休んだ日が連続して3日あればいい、というだけの話なのですが、途中の1日の出勤で振り出しに戻ってしまうところが、この条件のつらいところです。体調が上下している時期に無理をして半日だけ出社すると、そこで数え直しになります。

判断するのは誰か

申請書の3ページ目で、会社が勤務状況を証明します。申請期間のうち出勤した日を丸で囲む形式です。

ここで注意しておきたいのは、出勤した日の数え方です。記入の手引きには「出勤した日付は、所定労働時間の一部労務に服した日も含みます」と書かれています。少しだけ顔を出した日、短時間だけ在宅で作業した日も、出勤した日として扱われます。待期を完成させたい時期には、この点を頭に置いておいてください。

条件4 休んだ期間について給与の支払いがないこと

この条件の根拠は健康保険法第108条です。条文はこうなっています。

疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないとき(第百三条第一項又は第三項若しくは第四項に該当するときを除く。)は、その差額を支給する。

読みどころは2つあります。ひとつは「受けることができる」という書き方で、実際に振り込まれたかどうかではなく、受けられる状態かどうかで見るという意味です。もうひとつは、ただし書きです。給与が出ていても、その額が傷病手当金より少なければ、その差額が支給されます。少しでも給与が出ていたら一切もらえない、というものではありません。

何がこれに当たるか

ここでいう報酬の範囲は、申請書の3ページ目の注記に具体的に書かれています。

含まれるものは次のとおりです。

  • 有給休暇の場合の賃金
  • 出勤の有無に関わらず支給している手当(通勤手当、扶養手当、住宅手当など)
  • 食事や住居などを現物で支給しているもの

反対に、含まれないものもはっきり書かれています。

  • 残業手当など、出勤した日に対して支給した報酬
  • 見舞金など、一時的に支給したもの
  • 社会保険適用促進手当など、標準報酬月額の算定に考慮されない報酬

「給与は止まっている」と思っていた方が、住宅手当や通勤手当が続いていたことに後から気づく例はよくあります。金額が小さければ差額が支給されるので、それで受け取れなくなるわけではありませんが、申請書の記載が会社の証明と食い違うと確認に時間がかかります。

差額の考え方も、条文どおりに読めば単純です。1日あたりの傷病手当金の額よりも、受けられる報酬のほうが少なければ、その足りない分が支給されます。多ければ、その日は支給されません。会社の休職制度で給与の一部が支払われている場合や、有給を半日ずつ使っている場合は、この形になります。実際の計算は保険者がしますので、自分で細かく出す必要はありません。

判断するのは誰か

会社が3ページ目で、出勤していない日に対して報酬を支給した日と金額を記入します。本人は2ページ目で「申請期間に報酬を受けましたか」に答え、「はい」の場合は、その内容が会社の証明のとおりかどうかも答えます。

自分の給与明細を見て判断がつかないときは、会社の担当者に「休職中に支払われているものはありますか」と聞いてしまうほうが早いです。手引きも、この欄については「事業主へご確認のうえ、正しい証明を受けてください」と案内しています。

4つの条件は、1日ごとに見ます

条件をひととおり見たところで、ひとつ整理しておきたいことがあります。

健康保険法第99条第2項は、傷病手当金の額を「一日につき」いくらと定めています。第108条も「これを受けることができる期間は」支給しないという書き方です。つまり、条件を満たしているかどうかは1日ごとに判定されます

そのため、同じ休職期間のなかでも、有給を使った日は支給されず、無給の日は支給される、ということが起こります。途中で数日出勤した場合も、その日が抜けるだけで、前後の日まで受け取れなくなるわけではありません。「一度でも条件を外れたら終わり」と考えて申請をあきらめてしまう方がいますが、そういう仕組みではありません。

ただし待期だけは別で、こちらは連続していることが必要です。待期が完成する前に出勤すると、数え直しになります。

もうひとつ、条件を見る単位が1日であることは、申請の出し方にも関わります。申請書は、申請したい期間が過ぎてからでないと提出できません。会社も医師も、過ぎた期間について「この日は出勤した」「この期間は働けなかった」と証明する立場だからです。療養が長引くときは、協会けんぽも1か月単位で、給与の締切日ごとに申請する形を案内しています。1回の申請書に書ける期間は暦で3か月以内と決まっているので、それより長くなるときは申請書を分けます。

健康保険組合に加入している場合

ここまでは協会けんぽの基準で書いてきました。

勤め先が健康保険組合に加入している場合、4つの条件そのものは健康保険法に基づくため大きくは変わりません。ただし、組合には付加給付という独自の上乗せがあることがあり、支給される額や期間、申請の様式、提出先が協会けんぽとは違うことがあります。

保険証(またはマイナポータルの資格情報)に「〇〇健康保険組合」と書かれているなら、組合の事務局に確認してください。組合のサイトに独自の説明が載っていることも多いです。付加給付があるかどうかで、休職中の家計の見通しはずいぶん変わります。

4つのどれかに引っかかりそうなときは

ここまで読んで、どれか気になるところがあったかもしれません。

条件に当てはまらないパターンについては、傷病手当金がもらえないケースで7つに分けて整理していますので、そちらを見てください。

条件は満たしていそうなのに申請そのものを迷っているなら、傷病手当金はもらわないほうがいいのかで、言われている不利益を一つずつ確かめています。会社が事業主の証明を書いてくれないときの進め方は傷病手当金を会社が嫌がるときにまとめました。

受け取れる金額の計算は傷病手当金はいくらもらえるかに、支給期間の通算1年6か月の考え方は傷病手当金がもらえる期間にまとめています。退職したあとも受け取り続けるには、ここで挙げた4つとは別の条件が加わりますので、傷病手当金は退職後も受け取れるかを確認してください。実際に書類を書く段階になったら、傷病手当金支給申請書の書き方が手元の作業の順番どおりに読めると思います。

決めるのは保険者です

最後にひとつだけ書いておきます。

4つの条件を細かく調べたうえで、「自分は2番目が怪しいから対象外だろう」と自分で結論を出してしまう方がいます。けれど、条件を満たしているかどうかを決めるのは保険者であって、本人ではありません。医師でも、会社の総務でもありません。

条件を確認するのは、申請するかどうかを決めるためではなく、何を誰に頼めばいいかを知るためだと考えてもらえたらと思います。医師に頼むのは条件2の証明で、会社に頼むのは条件3と条件4の証明です。自分が書くのは、条件1をどう選ぶかと、申請する期間です。そこまで分かれば、あとは順番に進めるだけになります。

判断がつかないところは、加入している健康保険に直接聞けます。協会けんぽなら都道府県支部、健康保険組合なら組合の事務局です。名前を伝えずに一般的な質問として聞くこともできますし、会社を通さずに相談すること自体が本人の権利です。

わたしたちは就労支援の現場で、傷病手当金を受けながら療養してきた方に会います。条件のところでつまずく方は、条件そのものより「自分が当てはまるかどうかを自分で決めようとして」止まっていることが多いです。当てはまるかを判断するのは加入している健康保険で、こちらの仕事は事実をそろえて出すところまでです。線引きに迷ったら、そこで止めずに窓口に聞いてしまうほうが早く済みます。