傷病手当金を受け取りはじめると、いつまで受け取れるのかが気になってきます。1年6か月という数字は目にしたことがあっても、どの日から数えはじめるのか、途中で復職したらどうなるのか、そして終わったあとに何があるのかまでは、なかなか見えてきません。
このページでは、期間の話だけを扱います。受け取れる条件そのものは傷病手当金の支給条件に、1日あたりいくらになるかの計算は傷病手当金の計算方法にまとめてあるので、必要なほうを見てください。
先に書いておきたいことがあります。1年6か月は、そこで支えがなくなる日として決められた長さではありません。次の制度に手が届く時期に合わせて決められた経緯があります。その根拠も最後に書きます。
法律には、一文だけ書かれています
期間のきまりは、健康保険法第99条第4項です。e-Gov法令検索で読める現在の条文は次のとおりです。
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする。
短い一文ですが、期間の話はほぼこれで決まります。分けて読むと、書かれているのは3つです。
- 数えるのは同一の疾病または負傷、およびそれによって発した疾病について
- 起点はその支給を始めた日
- 長さは通算して1年6か月
全国健康保険協会(協会けんぽ)も、傷病手当金の支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です、と同じ内容を書いています。よくあるご質問のほうでは、同一の傷病について、支給を開始した日から通算して1年6か月です、という書き方です。
起点になる「支給を始めた日」は、申請した日でも、休みはじめた日でもありません。連続する3日間の待期が終わったあと、実際に傷病手当金の支給が始まった日です。最初に届いた支給決定通知書には支給の対象になった期間が書かれているので、その初日が起点になります。
「通算」は、働いた期間を数えないという意味です
通算1年6か月の使い方(令和7年4月1日に支給が始まった場合)
10か月
使いません
通算という言葉が、この制度でいちばん大事なところです。
厚生労働省は、令和4年1月1日からの改正についてこう説明しています。支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給可能になります、という書き方です。
表にすると、こうなります。
| 期間の種類 | 1年6か月に数えるか |
|---|---|
| 休んで傷病手当金を受け取っていた期間 | 数えます |
| 復職して給与を受けていた期間 | 数えません。その分だけ後ろに延びます |
| 待期の3日間 | 支給が始まる前の期間なので、数えません |
たとえば、10か月受け取ったあとに復職して、半年働いて、また休むことになったとします。この場合、残っているのは8か月分です。働いていた半年は、期間を減らしません。復職していた期間が半年でも2年でも、残りは8か月のままです。
もうすこし正確に言うと、積み上げているのは暦の期間ではなく、実際に支給された日です。ですので、自分で月単位のざっくりした計算をすると、実際の残りと少しずれることがあります。細かい日数の管理は保険者が行っているので、あとで書く方法で確認するほうが確実です。
日付を入れて並べると、感覚がつかみやすくなります。仮に令和7年4月1日から支給が始まったとして、次のように動いたとします。
| 時期 | 状態 | 期間の消費 |
|---|---|---|
| 令和7年4月から令和8年1月 | 休職して受給 | 10か月を使いました |
| 令和8年2月から令和8年7月 | 復職して勤務 | 使いません。残りは8か月分のまま |
| 令和8年8月から | 再び休職 | ここから残りの8か月分を使いはじめます |
改正前であれば、この例は令和8年9月末で期間が終わっていました。復職していた半年もその中に含まれるからです。いまは、その半年のぶんが後ろに繰り越されます。
1年6か月は上限であって、約束された長さではありません
もうひとつ、期間を考えるうえで押さえておきたいことがあります。通算1年6か月は上限です。その日まで必ず受け取れる、という意味ではありません。
途中で医師が仕事に就ける状態だと判断すれば、そこで支給は終わります。給与が支払われるようになった期間も、原則として支給されません。つまり、期間が終わる理由には、1年6か月を使い切ること以外のものもあります。このあたりは期間ではなく支給の条件の話になるので、傷病手当金の支給条件を見てください。
逆の言い方をすれば、上限まで残っているからといって、体調に関係なく受け取り続けられるわけではないということです。残りの期間は生活の見通しを立てるための数字であって、療養の予定を縛るものではありません。
令和4年1月1日より前は、暦で数えていました
いま説明した通算の仕組みは、令和4年1月1日からのものです。それ以前は数え方が違いました。
改正前の条文は、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会に出された資料(令和2年10月28日)の中に引用されています。
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して一年六月を超えないものとする。
違うのは「通算して一年六月間」と「起算して一年六月を超えない」の部分だけです。ただ、この差で結果が大きく変わります。
| 数え方 | |
|---|---|
| 改正前 | 支給開始日から暦の上で1年6か月。途中で働いた期間もその中に含まれ、1年6か月が過ぎたら同じ傷病では支給されない |
| 改正後 | 実際に支給された期間を積み上げて1年6か月。働いた期間は含まれず、1年6か月を超えても繰り越して支給される |
同じ資料には、改正前の健康保険と、当時すでに通算方式だった共済組合の支給期間を並べた図が載っています。この差をそろえることと、治療と仕事を両立しやすくすることが改正の趣旨だった、という説明です。根拠になった法律は「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(令和3年法律第66号)」です。
自分に新しい数え方が当てはまるかどうかは、厚生労働省が範囲を示しています。令和3年12月31日時点で支給開始日から起算して1年6か月を経過していない傷病手当金、つまり令和2年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金が対象です。これから申請する方は、当然ながら新しい数え方になります。
古い解説記事には、改正前の説明がそのまま残っていることがあります。読んだ情報が暦で数える前提になっていたら、それは令和4年より前の内容だと思ってください。
数え直しになるのは、別の傷病のときだけです
条文には「同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては」と書かれています。裏を返せば、別の傷病であれば、その傷病について新しく1年6か月が始まります。
ここが実際にはいちばん判断の難しいところで、同一かどうかを決めるのは、加入している健康保険(保険者)です。本人にも主治医にも決められません。
先ほどの審議会資料には、この解釈についての整理が載っています。「健康保険法の解釈と運用」をもとに作られたもので、要点は次のとおりです。
- 同一の疾病または負傷とは、一回の疾病または負傷で治癒するまでをいう
- したがって、同一の疾病または負傷には再発にかかるものは含まない
- 医師のつけた病名が異なる場合でも、疾病そのものが同一であることが明らかなときは、同一の疾病に該当する(昭和4年保規第45号)
- 「これにより発した疾病」にあたるには直接的かつ医学的な因果関係が必要で、もとの傷病がなければその疾病は起こり得なかっただろうといえる密接な関係が求められる
3つ目は、期待とは逆に働くことがあります。診断書の病名が途中で変わったとしても、それだけで別の傷病になるわけではない、ということです。
社会的治癒という考え方について
再発であれば別の傷病として扱われる。そうすると、いったん治ったと認められるかどうかが分かれ目になります。ここで出てくるのが「社会的治癒」という言葉です。
この言葉は健康保険法の条文には出てきません。ただ、同じ審議会資料に、社会保険審査会(健康保険の給付に関する処分についての第2審にあたる行政不服審査の機関)の裁決例が引用されていて、その中でこう説明されています。
社会保険の運用上、過去の傷病が治癒した後再び悪化した場合は、再発として過去の傷病とは別傷病として取り扱い、治癒が認められない場合は、過去の傷病と同一傷病が継続しているものとして取り扱われるところ、医学的には治癒していないと認められる場合であっても、軽快と再度の悪化との間に、いわゆる「社会的治癒」があったと認められる場合は、再発として取り扱われるものとされている。
同じ裁決には、社会的治癒と認め得る状態として、相当の期間にわたって医療(予防的医療を除く)を行う必要がなくなり、通常の勤務に服していたことが認められる場合、という説明も書かれています。
ここから先は、はっきりさせておきたいところです。「相当の期間」が何年なのかを示した公的な基準は、確認できませんでした。この裁決例では、症状が消えていた期間が3か月だった事案について、症状の強い時期と消える時期を周期的に繰り返す疾患であることを踏まえると3か月を相当の期間とは認められない、という判断がされています。逆に、何か月あれば認められるという数字は書かれていません。
過去の疑義解釈として同じ資料に引用されている文章(昭和29年3月保文発第3027号、昭和30年2月24日保文発第1731号)にも、治癒の認定は必ずしも医学的判断のみによらず、社会通念上治癒したものと認められ、症状も認められずに相当期間就業したあとに同一の病名が再発したときは別個の疾病とみなす、その際は前の受給を中止したときの所見、その後の症状の経過、就業の状況などを調べたうえで認定する、という趣旨のことが書かれています。個別に調べて判断する、という形です。
ですので、この記事では「何年空ければ数え直しになります」とは書けません。書けるのは、次の3つまでです。
- 別の傷病として扱われれば、期間は新しく始まります
- 医学的に治っていなくても再発として扱われる場合があることは、公的な資料の中でも言及されています
- ただし、その判断は保険者が個別に行うもので、自分では決められません
前の受給がいつからいつまでだったか、そのあと何か月どういう働き方をしていたか、通院や服薬がどうなっていたかを手元にまとめてから、加入している健康保険に聞くのが確実です。協会けんぽなら加入している都道府県支部、健康保険組合なら組合の事務局が窓口になります。名前を伝えずに、一般的な質問として聞くこともできます。復職したあとにまた休みがちになっている場合の全体像は、復職したあと、また休みがちになったときにまとめてあります。
残りの期間を確認する方法
いま自分がどこまで使っているかは、次のどちらかで分かります。
- 加入している健康保険に聞く。日数の管理は保険者が行っています。電話で、支給開始日と、これまでに支給された日数、残りの日数を確認したいと伝えれば済みます
- 支給決定通知書を並べる。1通ごとに支給の対象になった期間が書かれているので、初回の通知書の初日が起点、それぞれの日数の合計が使った分です
聞きにくく感じるかもしれませんが、残りの期間の照会は窓口にとってよくある問い合わせです。聞いたことで受給に不利になることはありません。電話をかける前に、手元に置いておくとやりとりが短くて済むものを挙げておきます。
- 資格情報のお知らせ、または保険証にあたる情報(記号・番号が分かるもの)
- これまでに届いた支給決定通知書
- 傷病名と、最初に受診した日
聞くことは、次の3つでだいたい足ります。
- 支給開始日はいつになっていますか
- これまでに何日分が支給されていますか
- 残りは何日分になりますか
見通しを立てるときは、残りの日数だけでなく、そのままのペースで受け取ったときに終わりがだいたい何月ごろになるかも出しておくと、気持ちが落ち着きます。急いで何かを決めるための数字ではなく、いつごろ次のことを調べはじめるかの目安として持っておくものです。
退職すると、期間の扱いが一部だけ変わります
期間の面から見た退職の話を、ここに書いておきます。
健康保険法第104条は、資格を喪失した日の前日まで引き続き1年以上被保険者であった者で、その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる、と定めています。退職を境に数え直しになることはなく、在職中に受け取った分はそのまま通算されるということです。
ただし、退職後には在職中と違う点がひとつあります。協会けんぽは、資格喪失後の継続給付について、いったん仕事に就くことができる状態になった場合、その後さらに仕事に就くことができない状態になっても傷病手当金は支給されない、と説明しています。在職中であれば、復職したあとに残りの期間をあらためて使える場面がありますが、退職後は途切れるとそこで終わります。
退職日の決め方や、退職後の申請書の出し方は傷病手当金は退職後も受け取れますにまとめてあります。
1年6か月のあとに、つながる制度があります
最後が、いちばん書いておきたいところです。
先ほどの審議会資料には、期間の長さについての注記があります。傷病手当金の支給期間が支給開始から1年6か月とされているのは、当初の支給期間6か月から給付を充実させたことに加えて、障害年金が初診日から起算して1年6か月後から支給可能となることとの接続性を担保したものである、という説明です。
つまり1年6か月は、支えが切れる日として引かれた線ではなく、次の制度に手が届く時期に合わせて決められた長さだということです。
日本年金機構は、障害認定日について、障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6か月を過ぎた日、または1年6か月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日をいう、と説明しています。起点は違いますが(傷病手当金は支給開始日、障害年金は初診日)、時期としては近い場所に来ます。
期間の終わりが見えてきたときに確認するとよいものを並べておきます。今日すべてを調べる必要はありません。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 障害年金 | 初診日から1年6か月を過ぎた日以降に請求できます。精神疾患も対象です |
| 資格喪失後の継続給付 | 退職しても、条件を満たせば残りの期間を受け取れます |
| 雇用保険の受給期間延長 | 働けない状態が続いているあいだ、基本手当を受けられる期間を後ろにずらしておく手続きです |
| 自立支援医療 | 通院にかかる医療費の自己負担を軽くする制度です |
障害年金は、請求してから結果が出るまでに時間がかかることがあります。傷病手当金と障害年金は、同一の傷病について受けられるときは調整が入るので(健康保険法第108条第3項)、両方をそのまま重ねて受け取れるわけではありません。それでも、傷病手当金の期間が終わったあとの収入としては大きな意味を持ちます。制度の中身は精神疾患での障害年金に、通院費の負担を軽くする制度は自立支援医療にまとめてあります。
整理します
- 期間は健康保険法第99条第4項で、その支給を始めた日から通算して1年6か月と決められています
- 通算なので、途中で復職して給与を受けていた期間は数に入らず、その分だけ後ろに延びます
- 令和4年1月1日より前は暦で1年6か月を数えていました。令和2年7月2日以降に支給が開始された分から、新しい数え方になっています
- 別の傷病であれば期間は新しく始まりますが、同一かどうかを判断するのは保険者です
- 残りの日数は、加入している健康保険に聞くか、支給決定通知書を並べれば分かります
- 1年6か月という長さは、障害年金につながる時期に合わせて決められた経緯があります
期間の話は数字が出てくるぶん、締切のように感じられやすいところだと思います。ただ実際には、その日までに何かを終わらせなければならない種類のものではありません。残りがどれくらいあるかを一度確認しておいて、終わりが見えてきたころに次の制度を調べはじめれば、それで間に合います。
今日できることがあるとすれば、初回の支給決定通知書を探して、支給開始日をどこかに書き留めておくくらいです。それだけで、あとの見通しがずいぶん立てやすくなります。
わたしたちは就労支援の現場で、傷病手当金の期間が終わりに近づいた方の相談を受けることがあります。残りが見えてくると焦りが出ますが、期限に合わせて回復を早めることはできません。できるのは、次に使える制度を先に調べておくことのほうです。1年6か月は区切りであって、そこで支えが全部なくなるわけではありません。
