障害年金は、病気やけがで生活や仕事に制限が出たときに受け取れる公的年金で、精神疾患も対象になります。日本年金機構は対象となる病気の例として、統合失調症、双極性障害、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害などを挙げています。老後の年金とは別のもので、現役世代でも受け取れます。
ただ、この分野は情報が多いわりに、条件のどこでつまずいているのかが分かりにくい制度でもあります。「精神だから難しい」といった曖昧な話ではなく、実際には3つの条件をひとつずつ確認していく作業です。ひとつでも欠けると、どんなに状態が重くても支給されません。逆に言えば、どこで引っかかっているのかが分かれば、次にやることも決まります。
ここでは日本年金機構と厚生労働省の資料だけを使って順に整理しました。認定は一人ひとりの状態を見て個別に行われるので、この記事にできるのは「制度上どう決まっているか」を正確に示すところまでです。そこから先は、年金事務所で自分のケースを確認してください。
条件は3つ。順番に確認していきます
日本年金機構の「障害年金ガイド」では、次の3つのすべてに当てはまる方が受給できると説明されています。
- 障害の原因となった病気やけがの初診日が、対象になる期間にあること
- 初診日の前日において、保険料の納付要件を満たしていること
- 障害認定日に、障害等級表に定める状態に当たること
順番に見ていきます。とくに1つ目が、あとの全部を決めます。
1. 初診日。すべてがここから決まります
初診日とは、障害の原因になった病気やけがについて、はじめて医師または歯科医師の診療を受けた日です。同じ病気で転院している場合は、いちばん最初に診療を受けた日が初診日になります。今かかっている病院の初診日ではありません。
初診日が決定的なのは、その日にどの年金制度に入っていたかで、受け取れる年金の種類が変わるからです。
| 初診日に加入していた制度 | 請求できるもの | 対象になる等級 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険の被保険者(会社員・公務員など) | 障害厚生年金 | 1級・2級・3級(+障害手当金) |
| 国民年金の加入期間(自営業、無職、扶養に入っている方など) | 障害基礎年金 | 1級・2級のみ |
| 20歳前で年金制度に加入していない期間 | 障害基礎年金 | 1級・2級のみ |
| 60歳以上65歳未満で日本に住んでいて年金制度に加入していない期間 | 障害基礎年金 | 1級・2級のみ |
ここが実務でいちばん効いてきます。障害基礎年金には3級がありません。同じ状態でも、初診日に厚生年金に入っていた方は3級で受け取れる可能性があり、国民年金だった方は2級に届かなければ支給されません。なお、障害厚生年金の1級・2級に当たる場合は、障害基礎年金もあわせて受け取れます。
また、初診日から1年6か月を過ぎた日が障害認定日になります。1年6か月以内に治った場合(症状が固定し、治療の効果が期待できない場合を含む)は、その日が障害認定日です。
精神疾患では、内科や心療内科を経てから精神科に移っていることも多く、自分では初診日が分からないという方が少なくありません。迷うときは自己判断せず、年金事務所で確認してください。
2. 保険料の納付要件
原則は次のとおりです。初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。
さらに特例があり、初診日が令和18年3月末日までにある場合は、次の両方を満たせば納付要件を満たしたものとされます。
- 初診日において65歳未満であること
- 初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納期間がないこと
なお、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、納付要件は不要です。
見落とされやすいのは「初診日の前日において」という部分です。初診日より後になってから慌てて過去の保険料を納めても、この判定には反映されません。保険料を払うのが難しい時期があるときは、未納のままにせず免除や納付猶予の手続きをしておくと、この場面で効いてきます。免除期間は納付要件の計算に入るからです。
3. 障害の状態
障害認定日に、政令の障害等級表に定める状態に当たっていることが必要です。精神の障害については、日本年金機構の「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の第8節に、認定の考え方が定められています。
認定基準では、精神の障害の程度は「その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定する」とされています。病名だけで決まるものではなく、日常生活にどれだけの制限が生じているかが中心に見られます。
対象になる病名と、原則として対象にならない病名
ここは誤解が実害につながるところなので、認定基準の書き方に沿って正確に書きます。
障害認定基準では、精神の障害を次の6つに区分しています。
| 区分 | 含まれるもの(認定基準の記載から) |
|---|---|
| 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 | 統合失調症など |
| 気分(感情)障害 | うつ病、双極性障害など |
| 症状性を含む器質性精神障害 | 頭部外傷などによる精神障害、高次脳機能障害、認知症、アルコールや薬物などの精神作用物質の使用による精神及び行動の障害 |
| てんかん | てんかん |
| 知的障害 | 知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれたもの |
| 発達障害 | 自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など |
そのうえで、認定基準には次の2つが明記されています。
- 神経症については、「その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない」。ただし、臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものは、統合失調症または気分(感情)障害に準じて取り扱うとされています。
- 人格障害は、「原則として認定の対象とならない」。
不安障害、パニック障害、適応障害、強迫性障害などは、いわゆる神経症圏(ICD-10のF4)に分類されます。ここに当てはまる診断名だけで請求すると、原則として対象外という判断になります。
ただし、道が完全に閉じているわけではありません。診断書の記載要領には、傷病名の欄に神経症圏の傷病名を記入した場合であっても、統合失調症などや気分(感情)障害の病態を示しているときは、その病態とICD-10コードを備考欄に記入することと書かれています。つまり、実際の病態がどうかを医師に記載してもらう欄が制度として用意されています。
これは本人が言い張って通る話ではなく、主治医の医学的な判断によるものです。診断名だけを見て自分で結論を出さず、通院先で現在の病態がどう評価されているかを確認するところから始めてください。
もらえないケースを、上から自己判定する
条件を裏返すと、支給されない理由はいくつかのパターンに整理できます。上から順に、自分に当てはまるかどうかだけ見ていってください。
1. 保険料の納付要件を満たしていない
3分の2要件も直近1年間の特例も満たしていない場合、状態がどれだけ重くても支給されません。ここは事後にやり直せない部分です。ねんきんネットや年金事務所で自分の納付記録を確認できます。
2. 初診日が特定できない、証明できない
初診日が決まらないと、どの年金の対象かも、納付要件を満たすかも判定できません。ただし、初診時の医療機関の証明が取れない場合の取り扱いは定められています。後半で書きます。
3. 初診日が国民年金で、状態が2級に届かない
障害基礎年金は1級と2級だけです。3級相当と判断される状態でも、初診日が国民年金なら支給されません。等級判定ガイドラインの目安表にも、「表内の3級は、障害基礎年金を認定する場合には2級非該当と置き換える」と注記されています。
4. 診断名が神経症圏で、精神病の病態を示していない
前の章のとおりで、原則として認定の対象になりません。
5. 障害認定日に、等級に当たる状態ではなかった
その時点にさかのぼる請求(障害認定日による請求)はできません。ただし、その後に悪化した場合は「事後重症による請求」という道があります。これも後半で書きます。
6. 65歳を過ぎてからの事後重症請求
事後重症による請求の場合、請求書は65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があります。
7. 日常生活の制限が、等級の水準に届いていない
診断書の「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」が、等級の目安に届いていない場合です。ただし目安はあくまで参考で、最終的には他の要素も含めた総合評価で判定されます。
等級ごとの状態のイメージ
障害年金ガイドでは、等級の状態が次のように説明されています。
| 等級 | 状態の説明(障害年金ガイドより) |
|---|---|
| 1級 | 他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態。身のまわりのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない方など |
| 2級 | 必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害。家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方など |
| 3級 | 労働が著しい制限を受ける、または労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態。日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある方 |
3級と障害手当金は厚生年金保険にしかありません。障害基礎年金は1級と2級だけです。
精神の障害についてはさらに具体的な例示があります。障害認定基準は、統合失調症と気分(感情)障害の各等級について、たとえば次のように書いています。
- 1級(統合失調症)高度の残遺状態または高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の援助が必要なもの
- 2級(気分障害)気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、またはひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの
- 3級(気分障害)気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したりまたは繰り返し、労働が制限を受けるもの
気分(感情)障害については、「本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すもの」であるため、「現症のみによって認定することは不十分」であり、症状の経過とそれによる日常生活活動の状態を十分考慮するとされています。調子の良い日に受診したときの印象だけで決まる仕組みにはなっていない、ということです。
等級判定ガイドラインの「目安」
平成28年9月から、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が使われています。都道府県によって認定の傾向に差があったことを受けて、判定の目安をそろえるために作られたものです(てんかんは対象から除かれています)。
このガイドラインでは、診断書の「日常生活能力の程度」(5段階)と「日常生活能力の判定」(7項目を4段階で評価し、その平均)を組み合わせた表で、どの等級に相当するかの目安を示しています。判定の平均が高いほど、そして程度の評価が重いほど上位の等級が目安になり、組み合わせによっては「1級または2級」「2級または3級」のように幅のある目安になります。
ただしガイドライン自身が、目安は総合評価の参考にとどまり、「個々の等級判定は、診断書等に記載される他の要素も含めて総合的に評価されるものであり、目安と異なる認定結果となることもあり得る」と注記しています。目安の表だけで結論を出せるものではありません。
金額(令和8年度)
以下はすべて令和8年度(2026年度)の額です。年金額は毎年度改定されるので、古い年度の数字を見ていないか確認してください。
障害基礎年金
| 等級 | 年額(昭和31年4月2日以後生まれ) | 年額(昭和31年4月1日以前生まれ) |
|---|---|---|
| 1級 | 1,059,125円 | 1,056,125円 |
| 2級 | 847,300円 | 844,900円 |
生計を維持されている子がいる場合は、次の加算がつきます。対象は18歳になった後の最初の3月31日までの子と、20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子です。
| 対象 | 加算額(年額) |
|---|---|
| 子2人まで | 1人につき 243,800円 |
| 子3人目から | 1人につき 81,300円 |
障害厚生年金・障害手当金
| 等級 | 年金額 | 最低保障 |
|---|---|---|
| 1級 | 報酬比例の年金額 × 1.25 + 配偶者の加給年金額 243,800円 | ― |
| 2級 | 報酬比例の年金額 + 配偶者の加給年金額 243,800円 | ― |
| 3級 | 報酬比例の年金額 | 635,500円(昭和31年4月1日以前生まれは633,700円) |
| 障害手当金(一時金) | 報酬比例の年金額 × 2 | 1,271,000円(昭和31年4月1日以前生まれは1,267,400円) |
報酬比例の年金額は、それまでの標準報酬をもとに計算されます。加入期間の合計が300月(25年)未満の場合は300月とみなして計算されるので、若いうちに初診日があった方でも極端に少なくなりにくい作りです。配偶者の加給年金額は、生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に1級・2級へ加算されます。3級にはつきません。
障害年金生活者支援給付金
障害基礎年金を受けている方で、前年の所得額が「4,794,000円+扶養親族の数×38万円」以下であれば、年金とは別に給付金を受け取れます。令和8年度の月額は次のとおりです。
| 障害等級 | 月額 |
|---|---|
| 1級 | 7,025円 |
| 2級 | 5,620円 |
障害基礎年金を受けている方が対象なので、障害厚生年金3級だけを受けている場合は対象になりません。
働きながら受けられるのか
ここは誤解がいちばん多いところです。結論から言えば、就労していること自体が、そのまま不支給の理由になるわけではありません。ただし、就労状況は必ず判断材料として見られます。
障害認定基準には、日常生活能力等の判定について次のように書かれています。現に仕事に従事している者については、「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず」、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること、と定められています。
日本年金機構が医師に向けて出している診断書の記載要領は、さらにはっきりしています。診断書の「現症時の就労状況」欄について、この欄はどの程度の援助を受けて就労ができているかを確認するために設けたものだと説明したうえで、「就労している事実だけで、障害年金の支給決定が判断されることはありません」と明記されています。
等級判定ガイドラインの「就労状況」の項目には、次のような考え方が並んでいます。
- 援助や配慮が常態化した環境下で安定して就労できている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する
- 就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型・B型)や障害者雇用制度による就労、就労移行支援については、1級または2級の可能性を検討する
- 障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営などでの就労でも、それらと同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する
- 1年を超えて就労を継続できていたとしても、就労の頻度や、継続するために受けている援助・配慮の状況を踏まえ、就労の実態が不安定な場合はそれを考慮する
- 就労の影響で、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、両方の場面の状況を考慮する
つまり制度は、「働いているかどうか」ではなく「どんな条件のもとで、どれだけの援助を受けて働けているか」を見ようとしています。ですから働いていることを隠す必要はありませんし、隠さないほうがいいです。むしろ遅刻や欠勤の頻度、職場で受けている配慮の内容、業務が単純作業に限られていることなど、実際の働き方を主治医に具体的に伝えておくことに意味があります。それが診断書の記載につながります。
手帳の等級と、障害年金の等級は別です
「精神障害者保健福祉手帳3級だから、障害年金も3級がもらえるはず」という誤解がよくありますが、この2つは別の制度で、別々に判定されます。
精神障害者保健福祉手帳は精神保健福祉法にもとづく制度で、厚生労働省の説明では、等級は精神疾患の状態と能力障害の状態の両面から総合的に判断されます。一方、障害年金の等級は国民年金法・厚生年金保険法の政令別表と、それを受けた障害認定基準で判定されます。日本年金機構の障害年金ガイドの障害等級表にも、身体障害者手帳の等級とは異なる旨がわざわざ注記されています。
とくに注意したいのは、初診日が国民年金だった方です。障害基礎年金には3級がないので、手帳3級を持っていても、年金は2級以上と判断されなければ支給されません。手帳と年金の等級が食い違うこと自体は、制度上おかしなことではありません。
手帳の等級が何を意味するのかは、精神障害者保健福祉手帳3級は「意味ない」のかにまとめています。手帳を持つかどうかで迷っている段階の方は、障害者手帳のメリットとデメリットのほうが役に立つと思います。通院費の負担を軽くする自立支援医療制度は、また別の制度です。
診断書と、病歴・就労状況等申立書
申請の実務でいちばん重いのがこの2つです。書類の性格がまったく違うので、分けて見ていきます。
診断書(精神の障害用)
障害年金の診断書は8種類の様式に分かれていて、精神疾患では「精神の障害用」を使います。書くのは医師です。
この診断書で日本年金機構が確認するのは、記載要領によれば「精神疾患による病態に起因する日常生活の制限の度合い」です。中心になるのが次の2つの欄です。
日常生活能力の判定は、日常生活の7つの場面それぞれについて、4段階で評価します。
- 適切な食事
- 身辺の清潔保持
- 金銭管理と買い物
- 通院と服薬
- 他人との意思伝達及び対人関係
- 身辺の安全保持及び危機対応
- 社会性
ここで大事なのは、診断書の様式に「判断にあたっては、単身で生活するとしたら可能かどうかで判断してください」と書かれていることです。記載要領も、入所施設やグループホーム、援助を行える家族との同居などで支援が常態化した環境下で生活が安定している場合であっても、単身でかつ支援がない状況を想定して記載するよう求めています。家族が食事を用意してくれているから食べられている、声をかけてもらえるから薬を飲めている、という状態は「ひとりだったらどうなるか」で評価されます。
日常生活能力の程度は、日常生活全般の制限度合いを5段階で包括的に評価する欄です。判定の7項目と程度の評価は相互に関係していて、両者の整合性も見られます。
記載要領はもう一点、重要なことを書いています。判定は「診察時(来院時)の一時的な状態ではなく、現症日以前1年程度での障害状態の変動について、症状の好転と増悪の両方を勘案した上で」判断するものだ、という点です。診察室では調子よく話せてしまう日があるとしても、制度の側は1年程度の幅で見る前提になっています。良い日と悪い日の差や、悪いときにどうなるかを日ごろから医師に伝えておくことに意味があるのは、そのためです。
病歴・就労状況等申立書
こちらは本人(または代筆者)が書く書類です。医師ではありません。ここが診断書との決定的な違いです。
日本年金機構の記載要領には、書き方のルールがはっきり示されています。
- 病歴状況は、発病から現在までを、期間をあけずに順番に書く
- ひとつの期間が5年を超える場合は、その期間を3〜5年ごとに区切って書く
- 受診していた期間は医療機関名を書き、受診していなかった期間は「受診していない」を選ぶ
- 職種の欄は、仕事の内容を具体的に書く(「飲食店で接客業務」「派遣先でデータ入力業務」といった書き方が例示されています)
- 就労していなかった場合は、休職中だった場合も含めて理由を書く
そして、次の一文があります。日常生活について書く欄は「日常生活において本人がどのくらいの不自由さを感じているかを記入してください。主治医に確認する必要はありません」。
つまりこの書類は、医師の診断書では拾いきれない、本人の側から見た生活の実態を伝えるためのものです。うまく書こうとする必要はありませんが、空白期間があるとそこが分からなくなるので、通院していなかった時期は「通院できなかった」ことを含めて書いておくほうが、経過が伝わります。
書く量が多く、体調が悪い時期に一気に仕上げるのは大変です。何日かに分けて構いませんし、代筆者が書いた場合はその氏名と続柄を記入する欄が用意されています。家族や支援者に手伝ってもらう前提の書類でもあるということです。
初診日の証明が取れないとき
初診日の確認は、原則として初診時の医療機関の証明で行います。ただし記載要領には、証明が添付できない場合でも「初診日を合理的に推定できるような一定の書類により、本人が申し立てた日を初診日と確認することができます」と明記されていて、次の2つの方法が示されています。
- 第三者が証明できる場合。請求者の三親等以内の親族以外の人が、初診日の頃の受診状況を直接見て知っているときは、その第三者による証明を初診日を推定するための参考資料として扱います。20歳以降に初診日がある場合は、第三者証明2通と、初診日についての参考資料をあわせて確認します。ただし初診日の頃に受診した医療機関の担当医師や看護師など、医療従事者による証明であれば、1通で足り、参考資料も要りません
- 初診日が一定の期間内にあると確認できる場合。参考資料から初診日がある期間の始まりと終わりが示せて、その期間について継続して納付要件を満たしているときは、審査のうえ本人が申し立てた初診日を確認します
参考資料の例としては、身体障害者手帳等の申請時の診断書、生命保険・損害保険・労災保険の給付申請時の診断書のほか、お薬手帳、糖尿病手帳、領収書、診察券、母子健康手帳、小中学校の健康診断の記録や成績通知表などが挙げられています。自己判断が難しいところなので、「証明が取れないので無理だ」と結論を出す前に年金事務所に相談してみてください。
さかのぼって請求できる場合
請求のしかたは大きく2つあります。どちらに当たるかで、受け取れる開始時期が変わります。
| 比べるところ | 障害認定日による請求 | 事後重症による請求 |
|---|---|---|
| どんなとき | 障害認定日の時点で、すでに等級に当たる状態だった | 障害認定日には該当しなかったが、その後に悪化して該当する状態になった |
| いつ分から受け取れるか | 障害認定日の翌月分から | 請求日の翌月分から |
| 期限 | さかのぼれるのは5年まで(時効) | 請求書は65歳の誕生日の前々日までに提出 |
障害認定日から何年も経っていても、あきらめる必要はありません。日本年金機構は、障害認定日から1年以上経過している場合でも、障害認定日時点の状態が分かる診断書と、現在の状態(請求日前3か月以内の症状)が分かる診断書の2枚を用意すれば請求できると案内しています。
ただし、5年以上前の年金については時効により受け取れません。認定日にさかのぼって認められた場合でも、実際に振り込まれるのは直近5年分までです。
事後重症の請求は、請求が遅くなるとその分だけ受け取りの開始が後ろにずれます。「もう少し様子を見てから」と迷っているうちに月をまたぐと、その月分は戻ってきません。
受け取り始めたあとの更新
障害年金は、決定したらそれで終わりではありません。障害の状態に応じて、引き続き受け取る権利があるかどうかを確認するしくみがあります。
提出が必要となる年には、「障害状態確認届(診断書)」が誕生月の3か月前の月末に日本年金機構から送られてきます。診断書の欄を医師に記載してもらい、誕生月の末日までに提出します。診断書には、提出期限前3か月以内の障害の状態が記入されている必要があります。次にいつ提出するのかは人によって違い、初回は年金証書の「次回診断書提出年月」の欄で、2回目以降は日本年金機構から届くお知らせで確認できます。
提出が遅れたり、記載内容に不備があると、年金の支払いが一時止まることがあります。医師の予約が取りにくい時期にぶつかることもあるので、届いた時点で受診日を押さえておくと安心です。
等級判定ガイドラインには、再認定にあたって下位等級への変更や非該当への変更を検討する場合は、前回認定時の書類を確認したうえで、受給者や家族、診断書を書いた医師への照会を行うなど、慎重に診査するよう留意すると書かれています。
なお、状態が悪くなったときは、こちらから年金額の改定を請求することもできます。65歳になるまでに障害の状態が重くなった場合、額を改定する請求ができるとされています(過去に障害等級2級以上に該当したことがある方は、65歳を過ぎても請求できます)。
傷病手当金を受けている場合
同一(関連)の傷病について傷病手当金と障害厚生年金の両方を受けられるときは、障害年金の額に応じて傷病手当金が調整されます(健康保険法第108条)。全国健康保険協会の説明では、障害年金の日額のほうが大きい場合は傷病手当金を受けられず、傷病手当金の日額のほうが大きい場合はその差額を受け取れる、という整理になっています。
注意が必要なのは、あとから障害厚生年金がさかのぼって決まったときです。日本年金機構の障害年金ガイドにも、過去に傷病手当金を受給した期間について、同一の病気やけがで障害厚生年金をさかのぼって受給できることになった場合は、受給済みの傷病手当金が調整されると書かれています。すでに受け取った傷病手当金の返金が必要になる場合があるということです。該当しそうなときは、加入している健康保険の保険者に連絡してください。
傷病手当金そのものの条件については、傷病手当金がもらえないケースにまとめています。
それでも判断がつかないときは
ここまで読んで、自分が当てはまるのかどうか判断がつかなかったとしても、それが普通です。初診日がいつか、その日にどの制度に入っていたか、納付記録がどうなっているかは、記録を見ないと確定しません。
相談先ははっきりしています。
- 年金事務所、街角の年金相談センター(障害厚生年金・障害手当金の請求先でもあります)
- 初診日が国民年金加入中や20歳前の場合は、お住まいの市区町村の窓口でも障害基礎年金の請求ができます
- 一般的な問い合わせはねんきんダイヤル 0570-05-1165(050から始まる電話からは 03-6700-1165)。月曜は8時30分〜19時、火曜から金曜は8時30分〜17時15分、第2土曜は9時30分〜16時です
- 耳や発声が不自由で電話が難しい方には、ファクシミリによる年金相談も用意されています
年金事務所は予約相談ができます。インターネット予約は土日祝日も含めて毎日8時から23時30分まで受け付けています。窓口に行く前に、初診日にあたりそうな時期と、当時の勤務先や加入していた制度をメモしておくと、話が早く進みます。
障害年金は本人が請求できる制度です。日本年金機構は年金請求書の記入方法を説明する動画も公開しています。手続きは確かに重いのですが、体調に合わせて何回かに分けて進めて構いません。今日は初診日にあたりそうな時期を思い出すところまで、で十分です。
わたしたちは就労支援の現場で、障害年金を受け取りながら通ってこられる方に会います。手続きでいちばん止まりやすいのは、初診日がはっきりしないところです。ここは記憶をたどる作業なので、体調のよい日に少しずつ進めるほかありません。一度で終わらせようとせず、思い出したことをメモに足していく形で構いません。
