障害者手帳について調べていると、「デメリット」という言葉が必ず一緒に出てきます。何かを失うのではないか、一度取ったらあとで困ることになるのではないか、という不安から検索されているのだと思います。

先にお伝えすると、心配されていることのいくつかは、制度上そうなりません。ただ、まったく負担がないわけでもありません。ここでは、公的な資料で確認できることだけを使って、心配されている点とメリットの両方を並べます。確認できなかったことは、確認できなかったと書きます。

手帳をすすめる記事でも、やめておいたほうがいいという記事でもありません。この記事は主に精神障害者保健福祉手帳について扱いますが、共通する部分は身体障害者手帳や療育手帳にも当てはまります。

「デメリット」として検索されていること

実際に検索されている不安を整理すると、次の5つに集まります。まず一覧で答えを書いておきます。

心配されていること 確認できた範囲での答え
会社に知られてしまうのではないか 申請は市区町村の窓口で行い、会社を経由しません。会社に申告するかどうかは本人が選べます
運転免許を取り上げられるのではないか 免許の判断材料は道路交通法の「一定の病気等」です。警察庁の説明に障害者手帳は出てきません
生命保険に入れなくなるのではないか 引受の基準は保険会社ごとに違います。全国共通の公的な基準は確認できませんでした
うつ病でも対象になるのか 対象になります。気分障害は対象疾患に含まれています
ADHDやASDでも対象になるのか 対象になります。発達障害も対象疾患に含まれています

以下、ひとつずつ根拠を示しながら書いていきます。

手帳を持っていることは会社に知られるのか

いちばん多く検索されている不安です。結論から言うと、手帳を持っているという情報が会社に自動的に届く仕組みはありません。

申請の手続きに会社は登場しない

精神障害者保健福祉手帳の申請は、お住まいの区市町村の担当窓口に行います。特別区の地域では保健所や保健センター、市町村の地域では市役所や町村役場の障害者福祉の担当課が窓口です。必要なのは申請書、医師の診断書(または障害年金の受給証書等の写し)、本人の写真で、勤務先が関わる書類はありません。

傷病手当金の申請書のように会社が記入する欄がある手続きとは、この点が違います。

会社が障害の有無を確認するときのルール

では、会社の側から聞かれることはあるのでしょうか。この場面には、厚生労働省が定めた「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」というルールがあります。高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者であることの確認の方法では、要点が次のように整理されています。

  • 採用後に障害の有無を確認する場合は、雇用する労働者全員に対して、画一的な手段で申告を呼びかけることを原則とする
  • 社内の風評や上司の印象を根拠に、特定の人にだけ呼びかけることは適切ではない
  • 呼びかけるときは、利用目的(障害者雇用状況報告のため、など)と、業務命令ではないことを明示する
  • 健康診断の結果や診療記録、職場の風評を根拠に個人を特定して照会することはできない

つまり、会社が「あなたは手帳を持っていますか」と個別に問い詰めるようなやり方は、このガイドラインが想定していない形です。全員向けの案内が来ることはあっても、答えるかどうかは本人が決められます。

会社に提出すると何が変わるか

申告した場合の扱いも書いておきます。手帳を会社に提出すると、その人は障害者雇用率の算定対象になります。厚生労働省は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としています。

会社の側から見れば、法定雇用率の達成に関わる情報です。だから提出を歓迎する会社もあります。本人の側から見れば、障害者雇用促進法にもとづく合理的配慮を求めやすくなります。障害者雇用促進法では、事業主に対して、募集や採用で均等な機会を与えること、賃金や教育訓練などの待遇で不当な差別的取扱いをしないこと、そして必要な措置を講じることが求められています(過重な負担となる場合を除きます)。

会社に申告しない 会社に申告する
手帳の効力 変わりません。税や割引などは通常どおり使えます 変わりません
雇用率の算定 対象になりません 対象になります
配慮の求めやすさ 制度を根拠にしにくくなります 障害者雇用促進法を根拠に求めやすくなります
決める人 本人 本人

どちらが正解ということはありません。申告しないまま手帳の税制上の扱いを使うこともできます。年末調整で障害者控除を申請すると勤務先に伝わりますが、確定申告で自分で手続きする方法もあります。

手帳を取ると運転免許はどうなるのか

「デメリット 運転免許」という組み合わせも多く検索されています。ここは事実関係を分けて考える必要があります。

免許の判断材料は病気であって、手帳ではない

警察庁は、運転免許の拒否や保留の対象となる「一定の病気等」として、次のものを挙げています。

  1. 介護保険法第5条の2に規定する認知症
  2. アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒
  3. 統合失調症など、幻覚の症状を伴う精神病
  4. てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症など、発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気
  5. そううつ病、睡眠障害など、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気

取消しや停止の対象には、これに加えて「目が見えないことその他自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある身体の障害」が入ります。

この一覧に障害者手帳は出てきません。警察庁の運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等についての説明の中に、手帳の交付を受けたこと自体を理由として挙げた記載はありません。判断の材料になっているのは病気とその症状であって、手帳を持っているかどうかではありません。

ただし、病気そのものは別の話です

正直に書くと、ここで安心して終わりにはできません。上の一覧のうち、3と5は精神障害者保健福祉手帳の対象疾患と重なります。手帳を取るかどうかとは関係なく、病気の症状そのものについては運転との関係が問われることがあるという点は、事実として押さえておいてください。

ただし警察庁の説明には、それぞれの病気について「除きます」という但し書きが付いています。病名が付いた時点で一律に判断されるのではなく、症状の程度に応じて個別に判断される仕組みです。

服薬や症状が運転にどう影響するかは医学的な判断になるので、ここでは断定しません。主治医に、運転をしていること(または再開したいこと)を具体的に伝えて相談するのが確実です。

警察に直接相談できる窓口があります

警察庁は、身体の障害や一定の症状を呈する病気等のために安全な運転に支障のある方などを対象に、安全運転相談窓口を設けています。全国統一の専用相談ダイヤル#8080にかけると、発信場所を管轄する都道府県警察の窓口につながります。

警察庁の安全運転相談窓口についての案内では、運転にどのような影響があるかの個別の判断のほか、「運転免許に一定の条件を付すことにより補うことができる場合や、治療により回復する場合等」についての相談にも応じるとされています。免許を失うかどうかの二択ではない、という前提で相談できる場所です。

生命保険に入れなくなるのか

これは正直に書きます。確認できませんでした。

生命保険に加入できるかどうかは、それぞれの保険会社が定める引受の基準によります。全国共通の公的な基準を探しましたが、見つけられませんでした。したがってこの記事では、「手帳を持つと生命保険に入れなくなる」とも「問題なく入れる」とも言えません。加入を検討している保険会社に、契約の前に直接確認する方法がいちばん確実です。

ひとつだけ、公的な資料で確認できたことがあります。金融庁が定めている「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」では、障害を理由として、正当な理由なく、サービス等の提供を拒否することは、不当な差別的取扱いに該当するとされています。あわせて、障害者でない人には付さない条件を付けたり、特別な手数料を課したりすることも、不当な差別的取扱いの例として挙げられています。

一方で、「客観的に判断して、当該取扱いが当該事業の目的・内容・機能に支障をきたすと判断される場合」は、不当な差別的取扱いには当たらないとも書かれています。保険の引受は個別の審査を伴うものなので、この線引きがどう当てはまるかは、その場その場の判断になります。

納得できない対応を受けたときのために、金融庁には障害を理由とする差別に関する相談窓口が置かれています。金融庁が所管する事業者の対応については「金融サービス利用者相談室」が窓口です。

うつ病でも手帳の対象になるのか

なります。こころの情報サイト(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)では、精神障害者保健福祉手帳の対象疾患として次のものが挙げられています。

  • 統合失調症
  • うつ病、そううつ病などの気分障害
  • てんかん
  • 薬物依存症
  • 高次脳機能障害
  • 発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)
  • その他の精神疾患(ストレス関連障害等)

対象になるのは「何らかの精神障害により、長期にわたり日常生活又は社会生活への制約がある方」です。病名が付いていればそれだけで交付されるわけではなく、精神疾患の状態と能力障害の状態の両面から総合的に判断されます。

要件としてもうひとつ、初診日から6か月以上経過していることがあります。診断書は、精神障害に係る初診日から6か月を経過した日以後の日に作成されたもので、かつ作成日が申請日から3か月以内のものが必要です(東京都の例)。調子を崩してすぐの時期には申請できない仕組みになっているので、この点は最初に知っておくと予定が立てやすくなります。

ADHDやASD(発達障害)でも対象になるのか

こちらも対象になります。上の一覧のとおり、自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等を含む発達障害は対象疾患に入っています。

区別が必要なのは知的障害です。知的障害のみの場合は、精神障害者保健福祉手帳ではなく療育手帳の対象になります。療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所で知的障害があると判定された方に交付されるもので、判定基準などの運用方法は各自治体が定めています。

手帳で実際にできること

ここからはメリット側です。大事なのは、全国どこでも共通のものと、住んでいる場所や事業者によって変わるものが混ざっているという点です。ネット上の「手帳のメリット一覧」は、この2つを区別せずに並べていることが多く、それが「聞いていた話と違う」の原因になります。

全国で共通しているもの

税の控除は所得税と住民税の両方にあります。所得税の障害者控除について、国税庁のタックスアンサー「No.1160 障害者控除」は次のように案内しています。

区分 所得税の控除額
障害者 27万円
特別障害者 40万円
同居特別障害者 75万円

精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人はこの対象になり、障害等級が1級と記載されている人は特別障害者になります。

住民税にも障害者控除があります。大阪市の案内では、障害者は1人につき26万円、特別障害者は30万円、同居の特別障害者である場合は53万円とされています。

いずれの金額も2026年8月時点で公表されているものです。住民税のほうは市区町村が案内しているので、お住まいの自治体のページでも確認してください。

このほか、こころの情報サイトでは全国一律のサービスとして、NHK受信料の減免、税金の控除・減免、生活福祉資金の貸付が挙げられています。

NHKの放送受信料の免除については、NHKの案内で条件が示されています。全額免除は「障害者を構成員とする世帯で、世帯構成員全員が市町村民税非課税」の場合です。半額免除は、重度の障害がある方が世帯主で受信契約者である場合が対象で、こちらには生活状態の基準がありません。申請は、お住まいの自治体で免除事由の証明を受けてNHKに提出する流れになります。

なお、厚生労働省は「いずれの手帳をお持ちの場合でも、障害者総合支援法の対象となり、様々な支援策が講じられています」と説明しています。

障害者雇用という選択肢が増えること

手帳があると、障害者雇用枠での就職という道が選べるようになります。

厚生労働省によると、民間企業の法定雇用率は2.7%で、従業員を37.5人以上雇用している事業主は障害者を1人以上雇用しなければならないとされています(この率と規模は令和8年〈2026年〉7月からのものです)。企業側に採用の必要があるため、求人そのものは一定数あります。

ただし、期待しすぎない書き方もしておきます。障害者雇用枠の求人は、仕事の内容も勤務時間も賃金も、求人ごとに大きく違います。「手帳を取れば就職できる」という関係ではなく、応募できる枠がひとつ増える、というのが実際のところです。一般枠での就職を続ける選択肢がなくなるわけでもありません。

住んでいる場所や事業者によって変わるもの

こころの情報サイトでは、公共交通機関の運賃割引、携帯電話料金の割引、公営住宅の優先入居などは、地域や事業者によるものとして分類されています。ここは「全国どこでも同じ」ではありません。

東京都の例では、都営交通の乗車証、路線バスの半額割引、都営住宅の優遇、都立施設の入場料免除などが挙げられています。これらは東京都の制度なので、他の道府県ではそのまま当てはまりません。

鉄道については、2025年4月1日からJRグループで精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方の運賃割引制度が始まっています。対象になるのは、手帳の「旅客鉄道株式会社等旅客運賃減額」欄に第1種または第2種の記載があるもので、顔写真が貼られていない手帳や有効期限の切れた手帳は対象外です。第1種の方と介護者が一緒に利用する場合と、単独で片道の営業キロが100キロを超える区間を利用する場合とで、割引の対象になる乗車券の種類が変わります。手帳に減額欄の記載がない場合は、市区町村の窓口で記載を受ける手続きがあります(2025年4月1日以降に更新される手帳には、手続きなしで記載されます)。

いずれにしても、お住まいの市区町村の障害福祉の窓口で、その地域で使えるものの一覧をもらうのが確実です。手帳を受け取るときに一緒に渡されることが多い冊子が、その地域の正解です。

本当のデメリットとして挙げられること

ここまで書いてきたとおり、心配されている「失うもの」は制度上ほとんど見当たりません。そのかわり、手間と費用は確実にかかります。こちらのほうが現実的な検討材料だと思います。

申請できるようになるまでと、手帳の有効期間

初診日から6か月
まだ申請できない
申請から交付まで
2か月ほど
有効期間 2年
初診日申請交付
交付までの期間は東京都の例です(紙形式で2か月程度、カード形式で2か月半程度)。有効期間は正式には交付日から2年が経過する月の末日までで、更新の申請は有効期限の3か月前から行えます。
負担 内容
診断書の費用 申請には医師の診断書が必要です。文書料は医療機関によって違うため、診察のときに確認してください
交付までの時間 東京都の場合、紙形式で2か月程度、カード形式で2か月半程度かかります
2年ごとの更新 有効期間は2年です(正式には交付日から2年が経過する月の末日までです)。更新のたびに手続きが必要になります
初診から6か月の待機 初診日から6か月を経過した日以後に作成された診断書が必要です

更新の申請は、有効期限の3か月前から行うことができます。審査に時間がかかるため、期限が近づいてから動くと空白期間ができることがあります。更新の案内が自動で届くかどうかは自治体によって違うので、交付を受けた時点で期限を控えておくと安心です。

更新しなければ、その期間の満了とともに終わります。いったん受け取ったあとで、結局使わなかった、という選び方もできます。手帳は持っていること自体で何かの義務が生じるものではありません。

よく混同される3つの制度

最後に、手帳とよく混同される制度を整理しておきます。この3つは名前も等級の呼び方も似ていますが、根拠も窓口も別々です。

精神障害者保健福祉手帳 自立支援医療(精神通院医療) 障害年金
何のためのもの 精神障害の状態にあることの認定と、それにもとづく支援 通院医療費の自己負担の軽減 生活の所得保障
申請 市区町村の窓口 別に申請が必要です 別に申請が必要です
等級 1級から3級 手帳の等級では決まりません 障害年金の等級(手帳とは別の基準です)

とくに誤解が多いのが次の2点です。

手帳と自立支援医療は別の制度です。 自立支援医療は、厚生労働省の説明では「通院による精神医療を継続的に要する者」の医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。手帳を持っていれば自動的に使えるようになるものではなく、それぞれ申請が必要です。手続きの詳細は自立支援医療制度で通院費の負担を軽くする手順にまとめています。

手帳の等級と障害年金の等級は、別の基準で判定されます。 日本年金機構は、障害年金の障害等級について「身体障害者手帳の等級とは異なります」と明記しています。手帳が3級だから年金も3級、という関係にはなりません。障害年金の条件や申請については精神疾患での障害年金で書いています。

また、手帳の等級によって受けられるものは変わります。何が等級で分かれ、何が分かれないのかは精神障害者保健福祉手帳3級は「意味ない」のかで整理しました。

それでも迷うときは

手帳を申請するかどうかは、多くの場合、急いで決めなければならないものではありません。初診日から6か月という要件があるので、そもそもすぐには申請できない時期もあります。

判断に迷うときの現実的な進め方を書いておきます。まず、お住まいの市区町村の障害福祉の窓口に電話して、「その地域で手帳があると使えるもの」の一覧を教えてもらうか、資料を送ってもらう方法があります。窓口で聞いたからといって申請が始まるわけではありません。そのうえで、自分が使いそうなものが一つでもあるかどうかを見ればよいと思います。

もうひとつ、診察のときに主治医に「手帳の診断書を書いてもらえる状態か」を聞いておくと、時期の見通しが立ちます。文書料もそのときに確認できます。

この記事で確認できた範囲でいえば、手帳を持つことで何かを失う仕組みは制度の中に見当たりませんでした。かかるのは、申請と更新のための手間と費用です。決めるときの重さとしては、その程度のものだと考えていただいて大丈夫だと思います。

わたしたちは就労支援の現場で、手帳を持っている方にも、迷ったまま持っていない方にも会います。取ってから後悔したという話は、わたしたちが接する範囲では聞いたことがありません。多いのは、決めきれないまま時間が過ぎて、使えたはずの割引や控除を逃していたという形です。急いで決める必要はありませんが、決めないままにしておくことにも小さな費用がかかります。