朝、家を出る前に胃が重くなる。特定の人の足音がわかるようになる。そういう状態が続いているときに、「これはパワハラなのだろうか」と検索する方は多いと思います。

先にお伝えしたいことが2つあります。ひとつは、会社にはパワハラの相談に応じる体制を整える法律上の義務があるということです。窓口を置くかどうかは会社の好意でも任意でもありません。もうひとつは、相談したことを理由に不利益な扱いをすることが、法律の条文ではっきり禁止されているということです。相談すると立場が悪くなるのではないか、というのが最初の不安だと思うので、そこは先に書いておきます。

この記事で扱うのは、どこに相談できるのかという地図と、どうやって記録を残すのかという手順です。定義については、自分の状況を照らせる程度に、条文と国の指針の言葉をそのまま引いて確認していきます。全部を今日読む必要はありません。相談先の一覧だけ見て閉じても構いません。

パワハラかどうかは、3つの要素がそろうかで決まります

根拠になっているのは、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)です。長い名前なので、労働施策総合推進法と呼ばれます。パワハラ防止法という通称で紹介されることもありますが、そういう名前の法律があるわけではありません。

労働施策総合推進法第30条の2第1項に、次のように書かれています。

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

この条文を受けて厚生労働省が定めたのが、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)です。指針は、職場におけるパワーハラスメントを次のように整理しています。

職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。

大事なのは「全て満たすもの」という部分です。3つのうちどれかに当てはまればパワハラ、という作りにはなっていません。

3つの要素は、それぞれこう説明されています

要素 指針の説明
①優越的な関係を背景とした 言動を受ける労働者が、行為者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた 社会通念に照らし、その言動が明らかに業務上必要性がない、またはその態様が相当でないもの
③労働者の就業環境が害される その言動により身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じること

①について、指針は「職務上の地位が上位の者による言動」だけを想定していません。同僚や部下による言動でも、その人が業務上必要な知識や豊富な経験を持っていて協力を得なければ仕事が回らない場合や、集団による行為で抵抗や拒絶が困難な場合は、①に含まれると書かれています。上司からのものだけがパワハラだ、という理解は指針とずれています。

③の判断の基準として示されているのは「平均的な労働者の感じ方」です。同じ状況で同じ言動を受けたときに、社会一般の労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうか、という見方になります。自分が人一倍こらえ性がないのではないか、という自問に、この基準は関係しません。

適正な指導はパワハラに当たりません。ただし判断は総合的です

指針にはこうも書かれています。「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」。厳しい指導のすべてがパワハラになるわけではない、ということです。

そのうえで②の判断については、言動の目的、労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮することが適当である、と続きます。

「労働者の属性や心身の状況」が考慮要素に入っていることは、この記事を読んでいる方にとっては大きいと思います。もともと体調を崩している人に同じ言動が向けられたときと、そうでない場合とで、判断が同じになるとは指針は言っていません。

6つの類型には、該当する例と該当しない例が両方あります

指針は、代表的な言動の類型として6つを挙げています。それぞれに、パワハラに該当すると考えられる例と、該当しないと考えられる例の両方が示されています。自分の状況を照らすときに使えるのは、その両方です。原文の例をそのまま並べます。

身体的な攻撃(暴行・傷害)

該当すると考えられる例は「殴打、足蹴りを行うこと」「相手に物を投げつけること」。該当しないと考えられる例は「誤ってぶつかること」です。

精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

該当すると考えられる例として、次の4つが挙がっています。

  • 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む
  • 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
  • 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
  • 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を、その相手を含む複数の労働者宛てに送信すること

該当しないと考えられる例は、「遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること」「その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること」です。

線が引かれているのは「強く注意したかどうか」ではなく、人格の否定に及んでいるか、繰り返されているか、人前で行われているかといったところだとわかります。

人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

該当すると考えられる例は、「自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること」「一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること」。

該当しないと考えられる例は、「新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること」「懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること」です。

過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

該当すると考えられる例は、「長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること」「新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」「労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること」。

該当しないと考えられる例は、「労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること」「業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること」です。

過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

該当すると考えられる例は、「管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること」「気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと」。

該当しないと考えられる例は、「労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること」です。体調を考慮して業務が軽くなること自体は、指針では該当しない側に置かれています。

個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

該当すると考えられる例は、「労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること」「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」。

該当しないと考えられる例は、「労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと」「労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと」です。

病歴が「機微な個人情報」として明記されている点は、通院や休職のことを知られたくない方にとって手がかりになります。了解を得たかどうかが分かれ目になっています。会社にどこまで話す義務があるかは、休職を上司や人事にどう伝えるかにまとめました。

なお指針は、これらの例について「個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、次の例は限定列挙ではないこと」に留意するよう書いています。ここに書かれていないからパワハラではない、ということにはなりません

会社には、相談に応じる体制を整える義務があります

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

窓口を置くことは義務です

第30条の2第1項は、「必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と書いています。「講じなければならない」という書き方です。厚生労働省によれば、この措置義務は大企業では令和2年6月1日から、中小企業では令和4年4月1日から適用されています。今はすべての事業主が対象です。

指針は、講じなければならない措置として、相談への対応のための窓口をあらかじめ定めて労働者に周知することを挙げ、担当者を定める、制度を設ける、外部の機関に委託する、といった形を例示しています。

「該当するか微妙」でも相談してよいと書いてあります

窓口に持っていく前に、これはパワハラと言えるだろうかと自問して止まってしまう方は多いと思います。指針は、その点についてはっきりした書き方をしています。

被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。

該当するかどうかを自分で判定してから相談する必要はありません。判定するのは窓口の側の仕事だと、指針は組み立てています。

相談したことを理由とする不利益な取扱いは禁止されています

労働施策総合推進法第30条の2第2項の条文です。

事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

守られているのは、被害を受けた本人だけではありません。会社の事実確認に協力して事実を述べた人も条文に入っています。同僚に「見ていたことを話してもらえないか」と頼むときに、この条文があることは伝えられます。

社外の手続きを使ったときも同じです。第30条の5第2項は都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めた場合について、第30条の6第2項は調停を申請した場合について、それぞれ第30条の2第2項を準用すると定めています。労働局に相談したことを理由に不利益な扱いをすることも、条文で禁じられているということです。

指針は、この不利益取扱いの禁止について、会社が講じなければならない措置としてもう一歩踏み込んでいます。「解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること」。就業規則や社内報にその記載があるかどうかは、あなたが確かめられることのひとつです。

相談したあと、会社が何をすることになっているか

先の見通しが立たないと、相談する気力は出にくいものです。指針が会社に求めている対応を並べておきます。

  1. 事実関係を迅速かつ正確に確認する。相談者と行為者の双方から確認し、主張が食い違って確認が十分にできないときは第三者からも聴取する
  2. パワハラが生じた事実が確認できた場合は、被害を受けた労働者への配慮の措置を速やかに行う。例として、行為者と引き離すための配置転換、行為者の謝罪、労働条件上の不利益の回復、産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応が挙げられている
  3. 行為者に対する措置を適正に行う
  4. 再発防止に向けた措置を講じる。これは、パワハラが生じた事実が確認できなかった場合も同様とされている
  5. 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知する。プライバシーには性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれる

4番目は覚えておいてよいところです。事実が確認できなかったからといって、何もなかったことにして終わる建て付けにはなっていません。

令和8年10月1日から、条文の番号が変わります

先の話をひとつだけ書いておきます。令和7年6月11日に公布された改正法(令和7年法律第63号)が令和8年10月1日から施行され、パワハラに関する規定は第30条の2から第31条へ、紛争解決の手続きは第35条以下へ移ります。厚生労働省が令和8年4月24日付けで都道府県労働局長宛てに出した通達(雇均発0424第2号)に、この整理が示されています。この通達自体も令和8年10月1日から適用されるもので、この記事で引用している運用の説明はその改正後の版によっています。同じ日から、顧客等からの著しい迷惑行為についても事業主の措置義務が始まります。内容の骨格が変わるわけではないので、この記事より後に読んだ資料で条番号が違っていたら、そういう事情だと思ってください。

どこに相談できるのか。窓口の順番と使い分け

社内と社外に分けて、上から順に並べます。上から順に進めなければならない決まりはありません。社内が使えないなら、いきなり社外から始めて構いません。

窓口 できること 費用
社内の相談窓口 事実確認、配置転換などの配慮措置、行為者への措置、再発防止 無料
総合労働相談コーナー あらゆる労働問題の相談。手続きの案内、権限部署への取次ぎ 無料
都道府県労働局長による助言・指導・勧告 労働局長が当事者に解決策を提示し、受け入れを促す 無料
紛争調整委員会による調停 中立の第三者が間に入り、歩み寄りによる解決案を出す 無料
労働基準監督署 労働基準法などの違反に対する監督。労働時間や賃金が中心 無料
法テラス 相談窓口の情報提供。資力の基準を満たせば無料の法律相談と弁護士費用の立替え 情報提供は無料
こころの耳 メンタルヘルスの電話・SNS・メール相談 無料

①社内の相談窓口

置くことが法律上の義務なので、まずここに何があるかを確かめる価値はあります。名称は会社によって違い、ハラスメント相談窓口、コンプライアンス窓口、外部委託のホットラインなど、いろいろな形があります。

社内の窓口を使う利点は、配置転換のように会社にしかできない措置につながることです。加害者と物理的に離れるという解決は、外部機関から直接は出てきません。

一方で、担当者が行為者と近い関係にある、そもそも窓口が機能していない、ということも起こります。そのときは次に進んで構いません。窓口が形式的に置かれているだけでは足りないというのが、厚生労働省の通達の立場です。

②総合労働相談コーナー

社外の入口として、いちばん敷居が低いところです。厚生労働省の総合労働相談コーナーのご案内によると、全国378か所に置かれていて、各都道府県労働局と全国の労働基準監督署内などにあります。

  • 無料で、予約もいりません
  • 専門の相談員が、面談または電話で対応します
  • 解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど、あらゆる分野の労働問題を扱います
  • 労働者からも事業主からも相談を受け付けます
  • プライバシー保護に配慮した対応が行われます

「まだ相談するほどのことかわからない」という段階で行っても構いません。話を聞いたうえで、次にどの手続きが向いているかを案内してくれる場所です。法律違反が疑われる場合は権限のある部署に取り次いでもらえます。

③都道府県労働局長による助言・指導と、紛争調整委員会による調停

会社との間に行政が入る手続きは2つあります

相談だけで終わらせず、会社との間に行政に入ってもらう
助言・指導・勧告都道府県労働局長が具体的な解決策を提示し、自発的に受け入れることを促します。従うことを強制するものではありません
調停紛争調整委員会が間に入り、歩み寄りによる解決案を出します。法律に抵触するかどうかを判定する手続きではありません
どちらも費用はかかりません。パワハラについては、あっせんではなく調停によることになっています。会社の措置が行われた日から1年を経過した紛争は、原則として調停に付すことは適当と認められないとされています。

相談だけで終わらせず、会社との間に行政が入る手続きが2つあります。

助言・指導・勧告は、労働施策総合推進法第30条の5にもとづくものです。当事者の双方または一方から解決の援助を求められた場合に、都道府県労働局長が必要な助言、指導または勧告をすることができる、と定められています。厚生労働省の通達は、これを「具体的な解決策を提示し、これを自発的に受け入れることを促す手段」と説明しています。従うことを強制するものではありません

調停は、同法第30条の6にもとづくものです。当事者の双方または一方から申請があり、解決のために必要があると認めるときに、都道府県労働局長が紛争調整委員会に調停を行わせます。通達は調停の性質を、行為が法律に抵触するかどうかを判定するものではなく、結果として生じた損害の回復などについて現実的な解決策を提示し、歩み寄りによって解決しようとするものだ、と説明しています。

ひとつ整理しておきたいことがあります。一般の労働紛争では、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)にもとづいて、第4条の助言・指導と、第5条のあっせんが使われます。ところがパワハラについては、労働施策総合推進法第30条の4が同法第4条・第5条などを適用しないと定めていて、あっせんではなく調停によることになっています。窓口の案内で「あっせん」と「調停」の言葉が混ざって出てくることがありますが、パワハラの手続きの正式な名前は調停です。

もうひとつ、時間のことです。通達は、会社の措置が行われた日(継続する措置の場合はその終了した日)から1年を経過した紛争については、原則として調停に付すことは適当と認められない、としています。急いで動くべきだという意味ではありませんが、無期限ではないことは頭の隅に置いておいてください。

④労働基準監督署

労働基準監督署は、労働基準法や労働安全衛生法などにもとづく監督を行うところです。扱う中心は労働時間、割増賃金、安全衛生といった法律に明確な基準がある事柄です。

パワハラそのものについて、監督署が会社を是正指導する仕組みにはなっていません。ただし、パワハラと並行して長時間労働や残業代の不払いが起きている場合、そちらは監督署の管轄です。監督署の中には総合労働相談コーナーが置かれていることも多いので、行った先で振り分けてもらえます。何を持ち込むかで窓口が変わると考えてください。

⑤法テラス(日本司法支援センター)

法テラスは、問い合わせの内容に合わせて、解決に役立つ法制度や、地方公共団体・弁護士会・司法書士会などの相談窓口を無料で案内しています。この情報提供は収入に関係なく使えます。法テラス・サポートダイヤル(0570-078374)は平日9時から21時、土曜9時から17時に受け付けています。

そのうえで、民事法律扶助という制度があります。収入と資産が資力基準以下であること、勝訴の見込みがないとはいえないこと、民事法律扶助の趣旨に適することという3つの要件を満たすと、無料で法律相談を受けたり、弁護士・司法書士の費用を立て替えてもらったりできます。休職して収入が下がっている時期は、この基準に当てはまりやすくなることがあります。

損害賠償や裁判の話は、この記事では扱いません。そこまで考えるときは弁護士の領分になるので、入口として法テラスを覚えておいてください。

⑥こころの耳(電話・SNS・メール)

制度の手続きではなく、話を聞いてもらう窓口です。厚生労働省の「こころの耳」が運営しています。

  • 電話相談:0120-565-455。平日(月から金)17時から22時(受付は21時50分まで)、土日10時から16時(受付は15時50分まで)。祝日と年末年始は除きます
  • SNS相談:LINEを使います。平日17時から22時(受付は21時30分まで)、土日10時から16時(受付は15時30分まで)。匿名で無料です
  • メール相談もあります

対象は働く方とそのご家族、企業の人事労務担当者です。ただし、診断や治療方法の提示、法律相談には対応していません。誰かに話すことで頭が整理できる段階の窓口だと思ってください。夜間や土日に受け付けているのは、この種の窓口では珍しいことです。

公務員と教員は窓口が違います

一般職の国家公務員と、多くの地方公務員については、総合労働相談コーナーと都道府県労働委員会では相談を扱っていません。国家公務員は人事院の相談窓口または所属府省の人事担当部局、地方公務員は各自治体の人事委員会(公平委員会)や人事担当部局に置かれた窓口、公立学校の教員は服務監督権限を持つ教育委員会の相談窓口が案内されています。行ってから断られると消耗するので、先に確かめておいてください。

証拠は、あとから作ることができません

ここからは手を動かす話です。ただし、証拠がそろわないと相談できないという意味ではありません。記録は相談を始めてからでも足していけるものです。

書き残すのは5つです

厚生労働省のあかるい職場応援団の相談窓口のご案内が、総合労働相談コーナーを使うときの準備として挙げているのが次の項目です。

項目 書き方の例
いつ 8月12日 14時30分ごろ
どこで 3階の会議室B/自席/オンライン会議中
どのようなことを言われたか、強要されたか 「この程度もできないなら辞めれば」と言われた
誰に言われたか、強要されたか ○○部長
そのとき誰が見ていたか 同席していた△△さん、隣席の□□さん

ポイントが2つあります。ひとつは、言われた言葉を、そのままの言い回しで残すことです。「ひどいことを言われた」という要約は、あとで読み返しても使えません。もうひとつは、誰が見ていたかを必ず書くことです。指針は、相談者と行為者の主張が食い違うときに第三者から事実関係を聴取する措置を挙げているので、その第三者が誰なのかを最初に押さえておくと、会社側の確認が進みやすくなります。

道具は何でも構いません。スマートフォンのメモ、手帳、自分宛てのメール。あとから書き足したかどうかが問題になることを避けたいなら、自分宛てにメールを送っておくと送信日時が残ります。

手元にあるものを消さない

新しく作らなくても、すでに残っているものがあります。

  • メールとチャットの履歴。特に、複数人が宛先に入っている叱責のメールは、指針が精神的な攻撃の例として挙げているものと重なります
  • 業務日報や勤怠の記録。過大な要求や過小な要求は、その日に何をしたかの積み重ねで見えてきます
  • 指示された内容がわかる資料。目標設定シート、指示書、タスク管理ツールの画面
  • シフト表や座席表。人間関係からの切り離しが問題になるときに、配置の変化が形として残ります

会社を離れると社内システムにアクセスできなくなるので、今のうちに手元に写しを取っておいてください。ただし、会社の情報管理の規程で持ち出しが制限されていることがあります。自分に関する記録に絞るのが無難です。

録音については、断定を避けて整理します

「録音は違法ではないか」という不安は、よく聞くところです。ここは法的な評価を断定できないところなので、区別だけしておきます。

自分が当事者として参加している会話を録音することと、自分がいない場所で交わされている他人の会話を無断で録ることは、同じようには扱われません。前者のほうが問題になりにくい、という程度に理解しておいてください。そのうえで、会社によっては就業規則や情報管理の規程で職場での録音を制限していることがあります。制限があるかどうかは、自分の会社の定めを見ないとわかりません。

録ったものをどう使うかは、また別の判断になります。そこまで踏み込む必要が出てきたら、都道府県労働局の相談窓口か、弁護士に確認してください。この記事で言い切れるところではありません。

そして、録音がなくても記録は意味を持ちます。録音のことを考えて動けなくなるより、5つの項目を今日から書き始めるほうが確実です。

受診の記録は、いちばん作り直しがきかない記録です

体調に影響が出ているなら、医療機関にかかった記録が残ります。これは自分では作れない種類の記録です。

診察のときに、いつ頃から、職場のどんなことがあって今の状態になったのかを伝えておくと、その内容がカルテに残ります。細かく話す必要はありません。「上司から人前で叱責されることが続いていて、○月頃から眠れなくなった」という程度で十分です。

診断書のもらい方と医師への頼み方は診断書のもらい方にまとめました。通院が続くときの費用は自立支援医療制度で精神科の通院費を1割にする手順で軽くできることがあります。

体調を崩しているときに、先にやっておくこと

相談窓口の話をひととおり書きましたが、体調が落ちているときは、手続きより先に体を止めるほうが優先されることがあります。

受診する。記録が残るという意味でも、楽になることがあるという意味でも、いちばん先に置いておきたいことです。

休職という選択肢がある。相談を続けながら休むことはできますし、休んでから相談を始めることもできます。パワハラの相談が片づくまで働き続けなければならない、という決まりはありません。手続きの流れは休職の手続きと過ごし方に、休むことへの気持ちの引っかかりが強いときは休職中の罪悪感がつらいときを置いておきます。

労災という道がある。厚生労働省は、職場のハラスメントによる強いストレスを受けてうつ病などの精神障害を発症した場合、認定条件を満たせば労災補償の対象となることがある、と案内しています。精神障害の労災認定には基準があり、そこにパワーハラスメントも位置づけられています。ここでは入口を示すだけにとどめます。申請すると実際に何が起きるのかは適応障害で労災を申請するとき、実際に何が起きるかに、認定の基準そのものの読み方は精神障害の労災認定基準の読み方にまとめました。

今日は、一行だけ書き残せば十分です

ここまで読んで、確認することが多いと感じたかもしれません。全部を今日やる必要はありません。

いちばん最初に効くのは、いちばん最近つらかった出来事を、5つの項目で1行書き残すことです。いつ、どこで、何を言われたか、誰に、誰が見ていたか。書いてみると、頭の中でぐるぐるしていたものが一度外に出ます。それだけで少し楽になることがあります。

そしてもうひとつ。相談することは、会社にお願いすることではありません。会社が相談に応じる体制を整えることは、法律が事業主に課した義務です。相談したことを理由に不利益な扱いをすることも、条文で禁じられています。あなたが使おうとしているのは、あなたのために作られた仕組みです

社内が使いにくければ、労働局の総合労働相談コーナーがあります。無料で、予約もいらなくて、話がまとまっていなくても構いません。今日はまだ電話しなくていいので、電話できる場所があるということだけ、覚えて閉じてください。

わたしたちは就労支援の現場で、職場での出来事がきっかけで体調を崩した方に会います。相談に踏み切れない理由として多いのは、これがパワハラに当たるのかどうかを自分で判定しようとして、そこで止まってしまうことです。当たるかどうかを判断するのは相談を受ける側の仕事なので、迷っている段階のまま聞いてしまって構いません。