休むと決めて手続きが一通り終わり、やることがなくなったころに、申し訳なさのほうが大きくなってきます。会社に迷惑をかけている、給料も出ていないのにお金を受け取っている、早く戻らないといけない。そう考えながら休んでいると、休んでいること自体がつらくなります。

この記事では、その気持ちを消す方法は書きません。かわりに、休職と傷病手当金が制度としてどう位置づけられているのかを並べます。後ろめたさは気合いでは動きませんが、「制度上こう決まっている」という事実は、いくつか反論の材料になります。

休職は、会社が「辞めさせないため」に置いている仕組みです

中央労働委員会の個別労働紛争のあっせん事例では、休職を次のように説明しています。労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、労働契約そのものは維持させながら労務への従事を免除すること、または禁止することです。

そのうえで傷病休職については、裁判例ではその趣旨は使用者が解雇を猶予して傷病の回復を待つことによって労働者を失職から保護することにあると解されている、制度の目的は解雇猶予である、と書かれています。

つまり休職は、働けない期間が生じても雇用を切らないでおくために先に用意されている枠です。会社が親切心で特別に許してくれているものではありません。今あなたがしているのは、その枠を想定どおりに使うことにあたります。

手続きそのものは休職の手続きと過ごし方に分けてあります。

傷病手当金は、あなたが払ってきた保険料から出ています

傷病手当金は健康保険の給付です。全国健康保険協会(協会けんぽ)は、これを「病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度」と説明しています。生活の保障が目的だと明記されているものです。

そして健康保険の保険料は、協会けんぽの費用の負担の説明によれば事業主と被保険者が折半で負担します。給与明細の健康保険料の欄が本人負担分にあたり、働いていた期間、あなたは毎月それを払い続けてきました。

会社の利益を削って渡されているお金ではありませんし、審査に通ったから恵んでもらえたものでもありません。保険料を払ってきた人が、給付の対象になる状態になったので受け取っている。それだけの構造です。

説明も配慮も、会社の側の役割として決められています

「人事に何度も聞くのは迷惑だろうか」と考えて、わからないまま抱えてしまう方がいます。ここも制度の側で決まっています。

厚生労働省と労働者健康安全機構の心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きでは、職場復帰支援の第1ステップを「病気休業開始及び休業中のケア」としています。そこには、労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念できるよう、次のような項目について情報提供等の支援を行うようにと書かれています。

  • 傷病手当金などの経済的な保障
  • 不安、悩みの相談先の紹介
  • 公的または民間の職場復帰支援サービス
  • 休業の最長(保障)期間など

聞くことが迷惑なのではなく、説明することが会社側の役割として整理されているわけです。連絡しにくければ、まとめて一度に聞いても構いません。

もう少し手前にも義務があります。こころの耳の用語解説では、安全配慮義務が次のように説明されています。労働契約の内容として具体的に定めていなくても、労働契約を結ぶことに伴って信義則上当然に、使用者は、労働者がその生命、身体等の安全(心身の健康を含みます)を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすべきとされている。判例で確立した考え方で、労働契約法第5条に定められています。

心身の健康が含まれると明記されている点が大事なところです。療養が必要だと診断された状態で休職を申し出ることは、この義務が果たされる形に持っていく行為であって、会社の負担を増やす行為として扱われているわけではありません。

同僚の顔が浮かんで苦しいとき

自分の仕事を誰かが引き受けている場面が浮かんでしまう、というのがいちばん多いと思います。

同じ手引きには、職場復帰支援をスムーズに進めるためには、休業していた労働者とともに、その同僚や管理監督者に対する過度の負担がかからないように配慮する必要があると書かれています。ここで配慮する主体は事業者です。業務の割り振りをどうするかは、休職している本人が背負う課題としては書かれていません。

こころの耳の「職場復帰のガイダンス」には、もう一段踏み込んだ記述があります。職場に迷惑をかけられないという気持ちから仕事を続けても成果はあまり上がらず、むしろミスが多くなったりして、かえって職場の仲間に迷惑をかけてしまう可能性もある、というものです。そのうえで、一時的に上司や同僚に仕事を預けて休業に入ることが重要だとされています。

手続きの面でできることがあるとすれば、引き継ぎに渡す情報の範囲を早めに区切ってしまうことです。ファイルの場所と進行中の案件をひとまとめにして渡し、そこから先は会社が判断するという線を引いておきます。休職に入ったあとで問い合わせが少しずつ来る状態のほうが、結果的に双方の負担が長引きます。

会社から連絡が来て、それだけで消耗するとき

会社名が画面に出ただけで身構えてしまう、という声はよく聞きます。

こころの耳の職場との連絡、相談等には、休業中に職場から届く連絡について、こう書かれています。ありがたいものではあるけれど、体調の安定しない中で文面を読んだり返信をしたりすることは心身の負担になりがちなので、しばらく返信ができない旨を伝えて、連絡を控えるのもよい。お礼は復調してからゆっくりすればよい。厚生労働省の資料に返信しなくてよいと書かれている事実は、覚えておく価値があると思います。

手引きでは、休業者と接触するタイミングは職場復帰支援プログラムを作る段階で検討しておくことが望ましいとされています。連絡の頻度を先に決めておくことは制度の想定内です。何も決めないまま休職が始まっていたなら、あとから「窓口は人事の方に一本化してほしい」「月に一度、メールでお願いしたい」と伝えて構いません。わがままではなく、決めそこねていたことを決め直しているだけです。

SNSを開いて落ち込むとき

同期が普通に働いている投稿を見て、自分だけ止まっていると感じる。これは制度で解ける話ではありませんが、ひとつだけ制度の面から言えることがあります。

復職できるかどうかを決める手順の中に、他人の状況は入っていません。 手引きの流れでは、本人が復職の意思を伝え、主治医が職場復帰可能と判断した診断書を出し、会社がその内容と職場で必要な業務遂行能力を照らして可否を判断し、最終的に事業者が決定します。判断材料は診断書と職場側の情報です。同期の昇進も、他人の休職期間の長さも、この手順のどこにも登場しません。

数字も置いておきます。厚生労働省の令和7年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.8%でした。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は63.0%、労働者50人以上の事業所に限れば93.7%です。メンタルヘルス不調で休業する人がいることは、決して珍しいことではありません。

早く戻らなければ、と思ったとき

少し調子が上向いた日が続くと、もう戻れるのではないかと考えます。ここは資料でも慎重に扱われている領域です。

こころの耳には、焦って職場復帰を試みて症状が再び悪化し、結果的に再休業に至ると、そのまま休業を継続していた場合よりも働けない期間が長くなってしまうこともあると書かれています。早く復帰したいと思う場合でも、自分の判断だけで話を進めるのではなく主治医によく相談するように、とも続きます。

手引きのほうには、疾病による休業は多くの労働者にとって働くことについての自信を失わせる出来事であり、必要以上に自信を失った状態での職場復帰は健康及び就業能力の回復に好ましくない影響を与える可能性が高い、という記述があります。自信をなくすことが例外ではなく、支援の前提として書かれているわけです。

お金の面でも、急ぐ設計にはなっていません。傷病手当金の支給期間は令和4年1月1日から通算方式になり、厚生労働省の説明によれば、途中で就労するなどして支給されない期間がある場合は、支給開始日から1年6か月を超えても繰り越して支給されます。復職を試みて続かなかったときに、その分が丸ごと失われるわけではありません。時期を主治医と相談して決める余地があるという意味です。

罪悪感が強い日にできる、手続きの3つ

やっておくと後で効いてくる手続きだけ挙げます。

やること 効いてくるところ
通院を続けて、そのときの状態を医師に伝える 傷病手当金は医師が働けない状態と認めた期間について支給されます。証明が途切れると申請で困ります
会社の連絡窓口と頻度を決め直す 不定期の連絡が減るだけで、消耗する場面が一つ減ります
復職の時期を自分ひとりで決めない 判断は主治医の診断書と会社の判断で進む手順です。抱え込む必要のない部分です

3つとも、気持ちを立て直すためのものではなく、制度を設計どおりに使うための作業です。気分が動かない日でも手続きは進みます。

相談できるところ

こころの耳電話相談(厚生労働省)は、働く方やそのご家族、企業の人事労務担当者を対象にしたフリーダイヤルの相談窓口です。

  • 電話 0120-565-455
  • 平日(月曜日〜金曜日)17時〜22時(受付は21時50分まで)
  • 土曜日・日曜日 10時〜16時(受付は15時50分まで)
  • 祝日、振替休日、年末年始は除く

同じサイトにSNS相談とメール相談の窓口もあります。電話が苦手なら、そちらから始める方法もあります。

こころの耳の相談窓口案内には、仕事に関する相談、こころの健康に関する相談、生活に関する相談などの分類ごとに窓口がまとめられています。会社の中では言いにくいことでも、外側で相談先を選べます。

事実のほうを覚えておいてください

読み終えても申し訳なさは消えていないだろうと思います。感情のほうは、そう簡単には動きません。ただ、休職は解雇を猶予するために置かれた仕組みであること、傷病手当金は自分が払ってきた保険料から出ていること、休職者への説明も同僚の負担調整も会社側の役割として書かれていること。この3つは、あなたの体調とは関係なく成り立っている事実です。気持ちが揺れた日に、ここだけ思い出してもらえれば足ります。

わたしたちは就労支援の現場で、休職から先の段階の方に会うことが多いのですが、休んでいる時期に自分を責め続けた方ほど、そのあとに使える時間が減っていたように見えます。制度が想定している使い方をしているのだと、そこだけ受け取っておいてください。