「休職したら終わり」という言葉は、検索するとあちこちで見かけます。休職を考えている時期や、休みに入った直後に、この言葉が頭から離れなくなる方は少なくないと思います。

ただ、この「終わり」が何を指しているのかは、意外とはっきりしません。復職できなくなるという意味なのか、社内での評価が下がるという意味なのか、転職の道が閉じるという意味なのか。輪郭のないまま抱えていると、不安だけが大きくなります。

そこでこの記事では、休職したあとに実際どうなるのかを、公的な資料で確認できる範囲だけ並べました。確認できたことと、確認できなかったことは分けて書きます。

休職している人は、思っているより多い

まず数の話からです。厚生労働省の令和7年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況によると、過去1年間(令和6年11月1日から令和7年10月31日まで)に、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%でした。前年の調査では12.8%だったので、少しずつ増えています。

この数字は、事業所の規模で見ると印象がかなり変わります。

事業所の規模 該当する労働者がいた事業所の割合
1,000人以上 92.9%
500〜999人 89.7%
100〜299人 54.6%
10〜29人 6.8%

1,000人以上の会社では、9割を超える事業所に該当者がいます。規模の小さい会社で割合が下がるのは、そもそも母数となる人数が少ないためで、起きにくいという意味ではないと考えられます。

労働者側から見た割合も出ていて、連続1か月以上休業した労働者は0.6%、退職した労働者は0.2%です。身近には感じられない数字かもしれませんが、人事や産業保健のスタッフにとっては毎年繰り返し向き合っている出来事です。前例のない特殊なケースとして扱われるわけではありません。

休職のあとに続く道は、ひと通りではない

「終わり」という言葉が重く響くのは、休職の先に道が1本しかないように見えるからだと思います。実際には、少なくとも次のような分かれ方があります。

  • 元の職場に復職する
  • 配置や業務内容を変えたうえで復職する
  • 復職して働きながら、時期を見て転職する
  • 復職せずに退職し、療養を続けてから次を探す
  • 働く時間や雇用の形を変えて、働き方ごと組み直す

どれになるかは今の時点では決まっていませんし、決めるのも今日ではありません。この記事の残りは、それぞれの道が制度としてどう用意されているかの説明です。

復職の進み方には、国が示した型がある

復職は会社がその場の判断で決めるものではありません。厚生労働省と労働者健康安全機構が心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きを出しており、多くの会社はこれに近い形で進めます。流れは5つの段階です。

  1. 病気休業の開始と、休業中のケア
  2. 主治医による職場復帰可能の判断
  3. 職場復帰の可否の判断と、職場復帰支援プランの作成
  4. 最終的な職場復帰の決定
  5. 職場復帰後のフォローアップ

注目してほしいのは5番目です。復職は「戻れたら終わり」ではなく、戻したあとの確認と調整までが手順に含まれています。 体調や勤務状況の確認、治療状況の確認、復帰プランの評価と見直しを続けることになっています。3番目の段階で作る「職場復帰支援プラン」は、復職日や就業上の配慮の内容をその人ごとに具体的に決める文書です。

復職したあとの扱いには、原則が決まっている

手引きには、復職後の扱いについて二つの原則が書かれています。どちらも「終わり」という不安に直接答える内容です。

ひとつは、「まずは元の職場への復帰」という原則です。手引きでは、より好ましい職場への配置転換であっても新しい環境への適応には時間と心理的な負担がかかるため、まずは元の慣れた職場に戻し、業務負担を軽減しながら経過を見て、そのうえで異動を考えるほうがよい場合が多いとされています。休職したら別の部署に飛ばされる、と決まっているわけではありません。ただし異動をきっかけに発症した場合など、配置転換を積極的に検討したほうがよいとされる例外もあります。

もうひとつは、復職直後から発症前と同じ質・量の仕事を求めるのは無理があるという前提です。手引きは、復職後の労働負荷を軽減して段階的に元へ戻す配慮が重要だとしたうえで、具体例を挙げています。

  • 短時間勤務
  • 軽作業や定型業務への従事
  • 残業・深夜業務の禁止
  • 出張の制限
  • 交替勤務の制限
  • 危険作業や運転業務などの業務制限
  • フレックスタイム制度の制限または適用
  • 転勤についての配慮

短時間勤務については、生活リズムの観点から、始業時間を遅らせるよりも終業時間を早めるほうが望ましいとまで書かれています。ここまで細かく想定されている、という事実は知っておいて損がありません。

復職の前に、助走をつける仕組みがある

休職から復職への段差が大きく感じられるときのために、いくつかの仕組みがあります。会社側の制度としては、手引きに次の3つが例示されています。

呼び方 内容
模擬出勤 通常の勤務時間と同じ時間帯に、模擬的な軽作業やグループミーティングなどを行う
通勤訓練 自宅から職場の近くまで通常の経路で移動し、一定時間過ごしてから帰宅する
試し出勤 復職の判断などを目的に、本来の職場へ試験的に一定期間出勤する

手引きでは、これらの制度があると復職の試みを早い段階で始められ、就業に関する不安の緩和にもつながると説明されています。ただし会社に制度があるとは限らないので、確認は必要です。

会社の外にもあります。全国の地域障害者職業センターが行っているリワーク支援です。運営は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構で、民間企業などの雇用保険適用事業所に雇用されている休職中の方が対象になり、利用料はかかりません。 生活リズムの立て直しやストレスへの対処を学ぶ講座を行い、会社の担当者には受け入れ準備の助言も行われます。

進め方の特徴は、本人と会社の担当者と主治医の3者で協働体制を作り、支援を始める前に合意形成を行うと明記されている点です。自分ひとりで会社と交渉する構図にならずに済みます。

復職の判断で、実際に見られていること

不安が大きくなるのは、判断の基準が見えないときです。手引きには、復職の可否を判断するときに評価する項目が具体的に書かれています。

  • 適切な睡眠と覚醒のリズムがあるか
  • 昼間の眠気がないか
  • 注意力や集中力の程度
  • 安全に通勤できるか
  • 読書やパソコン操作を一定時間続けられるか、軽い運動ができるか、またそのあとの疲れの回復具合
  • 家事や趣味などの実施状況

つまり、仕事に直結する能力そのものより、生活のリズムと、負荷をかけたあとに戻る力を見ています。

同じ場面で「今後の就業に関する労働者の考え」も聞くことになっています。希望する復帰先、希望する就業上の配慮の内容と期間、職場の改善や勤務体制について伝えたいことです。復職の手続きは、本人の希望を述べる場を含んだ形で設計されています。 一方的に判定されるだけのものではありません。

キャリアや評価への影響について、分かっていること

ここは正直に書きます。休職がその後の昇進や賃金にどう影響するかを、全国的な数字として示した公的な統計は見つけられませんでした。「休職すると出世できない」という話も「関係ない」という話も、裏付けのある形では確認できていません。

そのうえで、はっきりしていることがあります。休職期間を勤続年数に通算するかどうか、賞与や昇給をどう扱うかは、法律で全国一律に決まっているものではなく、それぞれの会社の就業規則や賃金規程で定められているという点です。

これは不安の性質を変えてくれる事実だと思います。「世の中の常識としてどうなのか」は調べても答えが出ませんが、「自分の会社ではどうなっているか」は文書に書いてあり、読めば分かります。就業規則のどこを見ればよいかは、休職の手続きと過ごし方にまとめてあります。

退職という形になっても、制度は途切れない

基本手当を受けるための被保険者期間の要件

退職して、雇用保険の基本手当を申請する
通常離職日以前の2年間に、被保険者期間が通算12か月以上
特定受給資格者・特定理由離職者離職日以前1年間に、通算6か月以上でも要件を満たす
特定理由離職者の範囲には、体力の不足、心身の障害、疾病、負傷などにより離職した者が含まれています。退職が決まったら、ハローワークに早めに聞いておくと安心です。

復職に至らず、退職という形になることもあります。その場合でも制度上の道は残っています。

雇用保険の基本手当は、通常は離職日以前の2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることが条件です。ただし特定受給資格者や特定理由離職者にあたる場合は、離職日以前1年間に通算6か月以上でも要件を満たします。 そして特定理由離職者の範囲には「体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者」が含まれています。

もうひとつ知っておきたいのが受給期間の延長です。基本手当を受けられる期間は原則として離職日の翌日から1年間ですが、病気やけがなどの理由で引き続き30日以上働くことができないときは、働けなかった日数だけ受給期間を延長できます。延長できるのは最長3年です。

これが意味するのは、退職した時点で体調が回復していなくても、回復してから受け取るという順番が制度として認められているということです。ただし申請の時期によっては所定給付日数の全部を受け取れなくなることがあるので、退職が決まったらハローワークに早めに聞いておくと安心です。

健康保険の傷病手当金についても、退職後に受け取れるかどうかは条件次第です。詳しくは傷病手当金がもらえないケースで整理しています。

転職のとき、休職したことはどう扱われるか

ここも分からないことを分からないと書きます。休職歴を応募先に伝える義務があるかどうかについて、全国一律の答えを示した公的な資料は見つけられませんでした。

確認できたのは、採用選考についての国の基本的な考え方です。厚生労働省の採用選考時に配慮すべき事項は、採用選考は応募者の基本的人権を尊重し、応募者の適性と能力を基準として行うものだとしています。あわせて、就職差別につながるおそれのある事項として「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」を挙げています。

これは休職歴そのものについての規定ではありません。ただ、採用の場面で健康に関することを無制限に扱ってよいとはされていない、という事実は押さえておいてよいと思います。どう伝えるかで迷うときは、ハローワークの相談窓口や都道府県労働局に聞くのが確実です。

「終わり」に見えるのは、先が見えないから

ここまで並べてきたことをまとめます。

  • 復職には国が示した5段階の手順があり、「まずは元の職場へ」が原則とされている
  • 復職後は段階的に負荷を戻す前提で、配慮の具体例まで示されている
  • 復職前の助走として、会社の試し出勤制度や、無料で使えるリワーク支援がある
  • 昇進や賃金への影響は自分の会社の規定次第で、それは読めば確かめられる
  • 退職という形になっても、雇用保険には期間を延ばして待つ仕組みがある

「終わり」という言葉が浮かぶのは、その先に何が待っているのか誰も教えてくれないからだと思います。制度の側は、休職したあとを想定して手順を作っています。少なくとも、想定外の出来事として放り出される仕組みにはなっていません。

わたしたちは就労支援の現場にいて、休職を経てから相談に来られる方に会います。傾向として言えることが一つあります。回復を後回しにして先の見通しを立てようとした方より、休むことを先に済ませた方のほうが、あとから選べる道が多く残っています。 今日この記事を全部覚える必要はありません。道は1本ではない、ということだけ持っていってもらえれば十分です。