休んでいるうちに、戻る場所のほうが遠く感じられてくることがあります。今の職場に戻る自分がどうしても想像できなくて、求人サイトを開いてみる。開いた瞬間に「これはやってはいけないことなのではないか」という気持ちがよぎって、閉じる。そういう往復をしている方は少なくないと思います。
先にお伝えします。休職中に転職活動をすること自体を禁止する法律は見当たりません。ただ、それは「だから何も気にしなくていい」という意味ではありません。禁止されているかどうかという一本の問いに見えているものは、実際には性質の違う3つの問いが重なっています。
ひとつめは、傷病手当金を受け取っている場合の「労務不能」という要件との関係です。ふたつめは、まだ籍が残っている会社との関係、つまり就業規則の問題です。みっつめは、体調と主治医との関係です。この3つは判断する人がそれぞれ違います。順番に分けていけば、自分がどこを確かめればよいのかが見えてきます。
この記事では、条文で確かめられることと、確かめられないことを分けて書きます。確かめられないところを断定しないのが、この記事の方針です。「絶対に問題ない」とも「違法だ」とも書きません。そのかわり、どこに聞けば答えが出るのかは具体的に書きます。
禁止する条文はどこにもありません
まず、いちばん多くの方が気にしているところから片づけます。
「休職中の転職活動を禁ずる」という法律はありません
休職という制度自体が、法律で作られたものではありません。厚生労働省のモデル就業規則は、休職を定めた条の解説で「休職の定義、休職期間の制限、復職等については、労基法に定めはありません」とはっきり書いています。法律が作っていない制度なので、そこに「休職中はこれをしてはいけない」という国のルールが用意されているわけでもありません。
参考になるのは、副業・兼業についての国の整理です。モデル就業規則(令和7年12月版)第70条第1項は「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と書いています。その解説には、裁判例で「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であることが示されている」と述べられています。
転職活動は副業ではありませんし、この解説がそのまま休職中に当てはまると言い切ることもできません。ただ、勤務時間の外の行動を会社が当然に支配できるわけではない、という考え方が国の資料に明記されていることは知っておいてよい事実です。
かわりに、問いを3つに割ってください
「休職中に転職活動をしていいか」は、3つの問いに分かれます
そのうえで、「禁止されているか」という問いのままでは前に進みません。実際に効いてくるのは次の3つで、それぞれ判断する人が違います。
| 確かめる場所 | 何が問題になるか | 判断するのは誰か |
|---|---|---|
| 傷病手当金 | 「療養のため労務に服することができない」という要件を満たすか | 加入している健康保険(保険者) |
| 就業規則 | 在籍中の義務に触れるか、伝える必要があるか | 勤め先 |
| 体調 | 転職活動という負荷に今の状態が耐えられるか | 本人と主治医 |
この表のどこにも「国」は出てきません。だから、いくら検索しても一律の答えが出てこないのだと思います。以下、ひとつずつ見ていきます。
いちばん重いのは、傷病手当金との関係です
3つのうちで実際にお金が動くのはここなので、いちばん丁寧に扱います。
条文が求めているのは「療養のため労務に服することができないとき」です
健康保険法第99条第1項は、傷病手当金についてこう定めています。
被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
読むべきところは「療養のため労務に服することができないとき」と「労務に服することができない期間」の2か所です。傷病手当金は、休んでいることに対して出るお金ではなく、療養のために働けない状態にあることに対して出るお金だ、という組み立てになっています。
条件そのものを順に確かめたい方は、傷病手当金の条件は4つにまとめてあります。この記事では、転職活動と関係するところだけを扱います。
判断するのは会社でも本人でもなく、保険者です
ここが誤解されやすいところです。労務に服することができるかどうかを決めるのは、勤め先ではありません。
健康保険法第4条は、健康保険の保険者を全国健康保険協会と健康保険組合だと定めています。傷病手当金を支給するかどうかは、この保険者が決めます。第189条が「保険給付に関する処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をし」と定めているのも、支給の可否が保険者の処分だからです。
では保険者は何を見ているのか。全国健康保険協会は、仕事に就くことができない状態の判定について「療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます」と説明しています。主治医の意見が土台になり、そのうえでその人の仕事の内容が考慮される、という順序です。
つまり、この判断には二つの特徴があります。ひとつは、医師の意見が基礎になること。もうひとつは、「働けるかどうか」が抽象的にではなく、その人の仕事に即して見られることです。
だから、この記事は「大丈夫です」とは書きません
インターネットには、休職中の転職活動について「ばれないから問題ない」と書いてあるものも、「不正受給になる」と書いてあるものもあります。どちらも根拠のある書き方には見えません。
条文と協会けんぽの記載から言えるのは、次のところまでです。
- 傷病手当金は療養のため労務に服することができない期間について支給されるものです
- その判定は保険者が、療養担当者の意見等を基に、その人の仕事の内容を考慮して行います
- 判定の物差しについて、転職活動を名指しで扱った公的な資料は見つけられませんでした
3つめについては、正直に「見つけられませんでした」と書いておきます。だから当サイトは、面接を受けたら支給が止まるとも、止まらないとも書きません。ここは書けないところです。
そのうえで、実際に迷っている方に役立つ形にすると、確かめる先は2か所になります。
ひとつは加入している健康保険です。保険証やマイナポータルで、協会けんぽなのか、勤め先の健康保険組合なのかを確認してください。そのうえで「療養中にこういうことをした場合の取扱いはどうなりますか」と一般的な聞き方で問い合わせることができます。名前を告げずに一般論として聞くこともできます。判断する主体に直接聞くのが、いちばん確実です。
もうひとつは主治医です。判定の土台になるのは療養担当者の意見なので、主治医が今の状態をどう見ているかは、制度の上でも意味を持ちます。次の項でもう一度触れます。
報酬を受け取ると調整が入ります
もう一点、条文で確かめられることがあります。健康保険法第108条第1項は、報酬の全部または一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は傷病手当金を支給しないと定めています。ただし、その報酬の額が傷病手当金の額より少ないときは差額が支給されます。
在籍中の給与の話としては休職中に給与は出るのかで扱っていますが、転職活動との関係で言えば、次の勤め先から報酬を受け取り始めた時点で、話は完全に別の段階に移ります。働き始めれば労務不能ではなくなるからです。この段差は、次の章のお金の順番に直結します。
順番を間違えると、受け取れる額が変わります
ここは手続きの話というより、日付の話です。
退職しても傷病手当金が続く仕組みがあります
健康保険法第104条は「傷病手当金又は出産手当金の継続給付」という見出しで、退職して被保険者でなくなったあとも給付が続く場合を定めています。条文が求めているのは、大きく次の2つです。
- 資格を喪失した日(退職日の翌日)の前日、つまり退職日までに、引き続き1年以上被保険者であったこと
- その資格を喪失した際に、傷病手当金の支給を受けていること
全国健康保険協会は、この2つめを「現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態」と説明しています。また1つめの被保険者期間からは、任意継続被保険者や共済組合の組合員であった期間、国民健康保険に加入していた期間は除かれるとしています。
条件を満たしていれば、「被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる」と条文は続きます。退職後も、辞めた会社の健康保険から受け取るという形になります。
退職日に出勤すると、条件から外れることがあります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい一行かもしれません。
全国健康保険協会は、傷病手当金に関するよくあるご質問のなかで「なお、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません」と書いています。
退職日に、私物を取りに行ったり、挨拶をしたり、書類を受け取りに行ったりする方は多いと思います。それが出勤として扱われると、退職日に労務不能だったと言えなくなり、条件から外れる場合があるということです。
もうひとつ、協会けんぽは「一旦仕事に就くことできる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません」とも書いています。退職後の継続給付は、いったん途切れると戻ってこない性質のものだ、ということです。
傷病手当金の支給期間は健康保険法第99条第4項で「その支給を始めた日から通算して一年六月間」とされています。もし残りの期間がまだ長いのであれば、退職日の決め方ひとつで、受け取れるはずだった期間がまるごと消えることがあります。金額の大きさは人によりますが、月単位で効いてくる話です。
細かい取扱いは加入している健康保険によって違うことがあります。書類の受け取りだけならどうなのか、有給休暇を当てた日はどう扱われるのかといったところは、必ず自分の保険者に確認してください。この記事で断定できるところではありません。
退職後の傷病手当金については傷病手当金は退職後も受け取れますで詳しく扱っています。退職を考え始めた段階で、先にそちらを読んでおくと日付の決め方が変わると思います。
順番として整理すると
日付の前後関係だけを取り出すと、確かめる順番はこうなります。
| 確かめること | いつまでに |
|---|---|
| 被保険者期間が退職日まで継続して1年以上あるか | 退職を申し出る前 |
| 退職日に出勤しない形にできるか | 退職日を決めるとき |
| 退職後の申請先と申請方法 | 退職前に保険者へ |
3つとも、退職の意思を伝えたあとでは動かしにくくなるものです。順番として、お金の確認が先、退職の申し出が後になるように置いてください。
失業手当は、療養中には使えません
転職活動を考えるときに雇用保険を思い浮かべる方は多いと思うので、概要だけ触れておきます。
雇用保険法第4条第3項は、失業をこう定義しています。
この法律において「失業」とは、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいう。
「労働の意思及び能力を有するにもかかわらず」という部分が要です。基本手当(失業手当)は、働ける状態にあって仕事を探している人のための給付です。ハローワークも、病気やけがですぐには就職できない場合には基本手当を受けられないと案内しています。
つまり、傷病手当金と失業手当は前提が正反対です。働けないことを要件とする給付と、働けることを前提とする給付なので、同じ時期に両方を受け取ることはできません。
そのかわりに用意されているのが受給期間の延長です。雇用保険法第20条第1項は、基本手当を受けられる期間を原則として離職の日の翌日から1年としたうえで、その期間内に妊娠、出産、育児その他厚生労働省令で定める理由により引き続き30日以上職業に就くことができない者が申し出た場合には、その日数を加算すると定めています。加算された期間が4年を超えるときは4年とされていて、これが「延長は最長3年」と説明されている根拠です。
ここから読み取れるのは、回復してから受け取るという順番が、制度として認められているということです。療養中に無理に受給しようとする必要はありません。手続きの時期や必要書類は住所地のハローワークで確認してください。
この記事では雇用保険の話はここまでにします。退職後の全体像については「休職したら終わり」は本当かでも触れています。
在籍している会社との関係で、見ておく条
まだ籍がある以上、就業規則は無関係ではありません。ただ、見るべき場所は限られています。
服務規律の条を開いてください
厚生労働省のモデル就業規則は、第10条(服務)で「労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない」と定め、第11条(遵守事項)で守るべきことを列挙しています。そこに並んでいるのは、たとえば次のような内容です。
- 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと
- 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと
- 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと
読んでいただくと分かるとおり、ここに書かれているのは「勤務中」と「機密」と「名誉・信用」の話です。次の仕事を探すこと自体を禁じる規定は、モデル就業規則には置かれていません。
ただし、自分の会社の就業規則がモデルと同じとは限りません。副業・兼業について届出を求める条が置かれていることもありますし、休職中の過ごし方について独自の定めがあることもあります。就業規則は働く人に周知することが会社に義務づけられているので、人事や総務に見せてほしいと伝えて差し支えありません。理由を細かく説明する必要はなく、休職中の規定を確認したいと言えば足ります。
会社に伝える義務があるかどうか
休職中に転職活動をしていることを会社に申告しなければならない、という一般的な法律上の義務は見当たりませんでした。ここも分からないものは分からないと書いておきます。
現実的な話をすると、伝えるかどうかは義務の問題というより段取りの問題になります。復職の準備を進めてもらっている最中に方向が変わると、産業医面談や復帰プランの調整をやり直すことになるからです。復職の手続きがどう進むかは復職はどう進むのかにまとめました。復職の判定が動き始める前か、動き始めたあとかで、伝えるかどうかの重みは変わります。
転職先に伝えるかどうかは、義務の問題として決めきれません
在職中に応募する場合、休職していることを応募先にどう扱われるのかは、大きな不安だと思います。
公的な資料で確認できたところ
全国一律の答えを示した公的な資料は見つけられませんでした。ただ、募集する側が守るべきこととして、職業安定法第5条の5が次のように定めています。
求職者、労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(中略)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。
「その業務の目的の達成に必要な範囲内で」という限定が置かれています。採用にあたって求職者の情報を無制限に集めてよいという建て付けにはなっていません。この条は求人者にも適用されます。
在職中の応募で気になる「今の会社に連絡されるのではないか」という点についても、はっきりした一般則を示す資料は見つけられませんでした。応募先に選考の進め方を確認しておく以上のことは、この記事では書けません。
義務の話より、入社後の話として整理してください
そのうえで、実務的な考え方をひとつだけ書きます。
伝えるか伝えないかを義務の有無で決めようとすると、答えが出ないまま時間が過ぎます。かわりに入社後に必要になる配慮を先に書き出すと、話が具体的になります。通院のための時間が必要なのか、残業が難しいのか、勤務時間の融通がいるのか。必要な配慮があるなら、それは入社前に伝えておいたほうが自分が楽になります。必要な配慮が特にないなら、伝えるかどうかの重みはその分だけ下がります。
配慮を前提にした働き方を制度として使う道もあります。障害者雇用の枠がどういう仕組みなのかは障害者雇用とはで整理しました。今すぐ選ぶ必要はありませんが、選択肢として知っておくと視野が広がります。
体調から見たときの判断材料
最後に、制度から離れた話をします。医学的なことは書けないので、事実として言えるところだけにします。
転職活動は、それ自体が負荷です
求人を探し、書類を書き、日程を調整し、面接に出て、結果を待つ。この一連は、時間の拘束としても、緊張の量としても、決して軽くありません。休職に入った理由が心身の不調であるなら、転職活動という活動そのものが、療養と別方向に働く可能性があることは意識しておいてよいと思います。
同時に、動くこと自体が支えになる時期があるのも事実だと思います。どちらが今の自分に当てはまるのかは、この記事からは判断できません。
主治医に相談することには、二重の意味があります
主治医に相談する意味は、体調の面だけではありません。制度の面でもあります。
繰り返しになりますが、傷病手当金の労務不能の判定は「療養担当者の意見等を基に」行われます。主治医が今の状態をどう見ているかは、給付の要件そのものに関わります。自分は動けると思っていても、意見書の内容と食い違えば、あとで説明がつかなくなります。
診察の場では、「転職を考えている」と切り出さなくても構いません。今どのくらいの活動なら負担にならないか、外出や人と話す場面をどのくらい持てそうか、という聞き方でも十分に情報は得られます。やっていいかを許可してもらう場ではなく、今の自分の負荷の上限を知る場だと考えると、話しやすくなると思います。
今日は、日付をひとつ確かめるだけで十分です
ここまで読んで、確かめることが多いと感じたかもしれません。全部を今日やる必要はありません。
いちばん先に効くのは、健康保険の被保険者になった日を確かめることです。退職日までに継続して1年以上あるかどうかで、退職したあとにお金が続くかどうかが変わります。保険証や、入社時の書類や、年金記録から確かめられます。ここが1年に届いていないなら、辞める時期の考え方が変わります。届いているなら、退職日を選ぶ余地があるということです。辞めるかどうかを考えている段階の方は、適応障害で退職を考えているときに、辞める前に確認しておくことをまとめてあります。
転職活動をしていいかどうかという問いは、突き詰めると誰も外から答えられません。ただ、答えが出せる問いに置き換えることはできます。自分の保険者はどこか。被保険者期間は何年あるか。就業規則の服務の条には何が書いてあるか。主治医は今の状態をどう見ているか。この4つは、どれも調べれば答えが出ます。
答えの出る問いから順に片づけていくと、答えの出ない問いのほうも、少しずつ形が見えてきます。今日は、日付をひとつ確かめるところまでで大丈夫です。
わたしたちは就労支援の現場で、休職中に次を探し始めた方の相談を受けることがあります。多いのは、体調が戻りきらないうちに活動のほうが先に進んでしまって、面接まで行ったところで消耗してしまう形です。動くこと自体を止める必要はないと思いますが、順番としては、辞める日をどこに置くかを先に決めておくほうが、あとで取り返しがききます。
