適応障害と診断されて、もうこの会社にはいられないと感じている。そう思って検索した方に向けて書いています。
この記事は、辞めたほうがいいとも、辞めないほうがいいとも言いません。それを決めるのはご本人だからです。ここでお渡しするのは、辞める前に知っておくと選べる道が増える情報だけです。
先に、いちばん効くことを書きます。辞めるかどうかより、順番のほうが結果を大きく変えます。休職して傷病手当金を受け始めてから退職するのと、いま何もしないまま退職するのとでは、退職後に受け取れるものが変わってきます。健康保険法にそう書いてあるからです。ここを知らずに退職届を出してしまうと、あとから取り返すことができません。
そのうえで、退職という手続き自体がどういう仕組みになっているのかも整理しました。いつ成立するのか、何を伝える必要があって何は伝えなくてよいのか、会社から辞めるよう促されているときにどう考えればよいのか。最後に、退職以外の道も並べています。全部を今日読み切る必要はありません。気になるところだけ拾ってください。
辞めるかどうかより先に、順番のことを知ってください
体調を崩したまま退職すると、収入が完全に止まります。そうならないための仕組みが健康保険にあり、その仕組みには使える順番があります。
退職の前に傷病手当金が始まっているかどうかで変わります
健康保険法第104条が書いていること
条文を見てみます。健康保険法第104条は「傷病手当金又は出産手当金の継続給付」という見出しの条で、次のように定めています。
被保険者の資格を喪失した日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者(第百六条において「一年以上被保険者であった者」という。)であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。
長い一文なので、条件を分けます。条文が求めているのは2つです。
| 条文が求めていること | 意味 |
|---|---|
| 資格喪失日の前日まで引き続き1年以上被保険者であったこと | 退職日まで、その健康保険に途切れずに1年以上入っていること |
| その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けていること | 退職の時点で、すでに傷病手当金が始まっていること |
大事なのは2つ目です。条文が要求しているのは「退職の時点ですでに受けていること」であって、「退職してから申請すること」ではありません。順番が逆だと、この条文の入口に立てません。
まだ休職も傷病手当金の申請もしていない状態で退職してしまうと、退職後の傷病手当金という道は使えなくなります。逆に、先に休職して傷病手当金を受け始めていれば、退職したあとも、被保険者として受けることができるはずであった期間について、同じ保険者から給付を受け続けられます。
保険者はどう説明しているか
ここからは条文の話ではなく、保険を運営している側の説明です。条文に書いてあることと、保険者の運用の説明は、別のものとして読んでください。
全国健康保険協会(協会けんぽ)は、病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)のよくあるご質問の中で、退職後も引き続き傷病手当金を受けられる条件を2点挙げています。ひとつは、資格喪失をした日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間があること。もうひとつは、資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていることです。
そして、2つ目の条件にはこういう注記がついています。
なお、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません。
条文には「退職日に出勤してはいけない」とは書かれていません。これは、資格喪失時に傷病手当金を受けているか受ける条件を満たしているか、という要件を保険者が具体的にあてはめた結果の説明です。ただ、実務としてはこの説明のとおりに処理されます。
つまり、退職日に挨拶や荷物の引き取りのために出社する段取りになっていないかを、退職日を決める段階で確かめておく必要があります。荷物の受け渡しは郵送でも済みます。ここは、知っていれば避けられて、知らなければ避けられない種類の落とし穴です。
なお、退職日を年次有給休暇にあてる場合にどう扱われるかは、判断が分かれるところです。退職日を決める前に、加入している健康保険に電話で確認してください。 協会けんぽなら都道府県支部、勤め先が健康保険組合に入っているならその組合です。「退職後も傷病手当金の継続給付を受けたいのですが、退職日をこうする予定です」と伝えれば、その日程で問題ないかを教えてもらえます。
条件や金額の詳しい話はこの記事では扱いません。傷病手当金は退職後も受け取れますに整理してあります。まだ受け始めていない方は、そもそも自分が対象になるかを傷病手当金の条件は4つで確かめてください。
退職はいつ成立するのか
次に、退職という手続きそのものの仕組みを見ます。ここは法律がはっきり決めているので、会社ごとに違うわけではありません。
期間を定めない雇用の場合は、2週間です
民法第627条第1項の条文です。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
読みどころは2つあります。ひとつは「いつでも」という言葉です。理由の説明も、会社の承認も、条文には出てきません。もうひとつは「経過することによって終了する」という書き方です。誰かが判断して終了させるのではなく、期間が経てば終わるという定め方になっています。
厚生労働省のモデル就業規則も、退職の条の解説でこう書いています。期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができ、会社の承認がなくても、民法の規定により退職の申出をした日から起算して原則として14日を経過したときは退職となります、と。
就業規則が「1か月前」としているとき
多くの会社の就業規則には、退職を申し出る時期についての定めがあります。1か月前、あるいは2か月前と書かれていることもあります。
厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、この点について2つのことを書いています。ひとつは、一般的に就業規則等に退職の手続が定められているので、就業規則等で退職手続がどうなっているかも確認したうえで、ルールを守った適切な退職手続をとることがトラブル防止のためには重要だ、ということ。もうひとつは、会社の就業規則などでこの期間を大幅に伸ばすよう規定したり、上記の期間を超える場合にも会社の許可を条件とするような規定が設けられていたとしても、そのような規定は無効とされることとなる、ということです。
ここは断定を避けて読んでください。「無効とされることとなります」という書き方は、裁判例を踏まえた説明であって、どんな規定も自動的に無効になると言い切っているわけではありません。実際の場面では、まず就業規則の定めに沿って申し出るのが穏当です。そのうえで、体調の事情でその期間を待てないときには、民法第627条第1項という別の物差しがあることを知っておくと、話し合いの持ちようが変わります。
有期契約は別の条文になります
契約期間が決まっている働き方の場合、話が変わります。民法第628条です。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
期間を決めて契約したのだから途中では抜けられないのが原則で、やむを得ない事由があるときには直ちに解除できる、という組み立てです。何がやむを得ない事由にあたるかは、条文には書かれていません。
ただし、例外があります。労働基準法の附則第137条は、期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る)を締結した労働者は、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができると定めています。高度の専門的知識等を有する労働者や満60歳以上の労働者は対象から外れます。
有期契約で働いていて、契約期間が1年を超えていて、すでに1年が経っているなら、いつでも辞められる、ということです。自分の契約書を出して、契約期間の初日と長さを確かめてみてください。
退職の申し出をどうするか
ここからは、実際に伝える段階の話です。体調が落ちているときに、この作業がいちばん重く感じられると思います。決めることを絞ります。
「退職願」と「退職届」は違う書類です
同じようなものに見えますが、法律上の意味が違います。厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、次のように整理しています。
| 書類 | 位置づけ | 効き方 |
|---|---|---|
| 退職願 | 合意退職の申し込み | 会社が承諾しなければ効果が発生しません。承諾されるまでは撤回できます |
| 退職届 | 一方的な解約の申し入れ(任意退職) | 会社に到達し、会社が承諾すればその時点で、承諾しなければ2週間後に効力が発生します |
同じページには、確実に一定の期日をもって退職をしたいという場合には、必要な一定の期間を見込んだうえで、合意退職の申し込みと解釈されないような表現で、退職の意思を明確に記載した「退職届」を提出して任意退職の申し入れを行うことが無難でしょう、と書かれています。
逆に言えば、まだ迷っているなら「退職願」のほうが引き返せます。会社が承諾するまでの間は撤回できるからです。ただし、承諾されたあとや、任意退職の申し入れをしたあとに撤回したい場合は、会社の同意が必要になります。同じページも、退職の意思表示は容易には撤回が認められないので慎重に検討したうえで行うことが大切だと述べています。
適応障害と診断された直後は、判断そのものが重い時期です。今日中に書類を出さなければならない理由がないなら、出す前に一晩置くだけでも意味があります。
理由をどこまで話すか
民法第627条第1項は、解約の申入れに理由を求めていません。ですから、退職の申し出そのものに病名を書く義務はありません。「一身上の都合により」という定型の書き方で足ります。
伝えるかどうかを分けて考えるとすっきりします。
- 退職の手続きに必要なものは、退職の意思と退職希望日だけです
- 傷病手当金の手続きに必要なものは、医師の記入です。協会けんぽの傷病手当金支給申請書は、被保険者と事業主と主治医が各項目を記入して提出する様式になっています
- 退職以外の道を探すために必要なものは、体調のことを話すことです。休職や配置転換を検討してもらうなら、事情を伝えないと話が始まりません
つまり、辞めると決めているなら病名を説明する必要はなく、辞めずに済む道も探したいなら伝えたほうが選択肢が増える、という関係になっています。どちらが正しいということはありません。
口頭か、メールか、書面か
法律は形式を決めていません。ただ、あとから「言った・言わない」で争いになるのは、体調が悪いときにいちばん消耗します。
現実的な進め方としては、口頭で伝えたあとに同じ内容をメールで送っておく方法が負担が少なくて済みます。「本日お伝えした件について、念のため文面でも残させてください」と前置きして、退職の意思と希望日だけを書けば十分です。書式にこだわる必要はありません。
会って話すこと自体がつらい場合、メールだけで先に伝えても、条文上は問題ありません。民法第627条第1項は伝え方を限定していないからです。
退職するときに請求できる2つのもの
労働基準法に、退職した人のために置かれている条文が2つあります。どちらも請求しないと始まりません。
ひとつは第22条第1項です。
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
これを退職証明書と呼びます。使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由の5つが対象です。そして同条第3項に、こういう定めがあります。
前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
書いてほしい項目を、自分で選べます。 退職の事由だけを書いてもらうこともできますし、逆に退職の事由は書かないでほしいと求めることもできます。病気のことを書かれるのが心配な方には、この第3項が支えになります。
もうひとつは第23条第1項です。
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
未払いの賃金や、預けていたものの返還について、請求から7日以内という期限が置かれています。退職後に連絡が途絶えてしまったときは、この条文を根拠に請求できます。
退職のときに受け取る書類や、そのあとの手続きについては、この記事では扱いません。退職の手続き一覧に、会社に頼むものと期限のあるものを時系列で並べてあります。
会社から辞めるよう促されているとき
ここを読んでいる方の中には、自分から辞めたいというより、会社から辞めるよう言われている方もいると思います。この2つは、まったく別のこととして扱われます。
退職勧奨に応じる義務はありません
厚生労働省の確かめよう労働条件「退職、解雇、雇止めなど」は、退職勧奨について次のように説明しています。
退職勧奨とは文字どおり、労働者自身の意思で退職するように勧めるものですので、勧めに応じて退職することも、拒否して勤め続けることも、労働者が自由に選択できます。
同じページは、退職を勧奨されてもその場で承諾することなく、その後の転職の可能性などを総合的に勘案した上で選択することが賢明だとも述べています。その場で返事をしなくてよいということです。持ち帰りますと伝えて構いません。
さらに、退職勧奨の手段・方法は社会通念上相当と認められる範囲に限られ、この域を超えた退職を強要するような行為は違法とされる、とも書かれています。勧奨が繰り返されて退職強要と考えられる場合には、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど公的な相談機関に相談することを勧める、という案内が続いています。
解雇は、退職勧奨とはまったく別の仕組みです
会社の側から一方的に労働契約を終わらせるのが解雇です。こちらには法律の制限がかかります。労働契約法第16条の条文は短く、こうなっています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
厚生労働省のモデル就業規則も、解雇の条の解説でこの条文を引いたうえで、就業規則に解雇の事由を定めるにあたっては法律の規定に抵触しないようにしなければならない、と述べています。
ある解雇が有効かどうかは、最終的には裁判所が判断することです。ここで断定はできません。ただ、退職勧奨に応じて自分から辞めた場合と、解雇された場合とでは、そのあとの扱いが変わります。 会社から言われている内容が勧奨なのか解雇なのかがあいまいなときは、そこをはっきりさせておいてください。労働基準法第22条第1項は、退職の事由が解雇の場合にはその理由を含めて証明書を請求できると定めています。
休職期間が満了して退職扱いになる場合
もうひとつ、当事者が「辞める」と言っていないのに労働契約が終わる形があります。休職期間の満了です。
厚生労働省のモデル就業規則は、休職を定めた第9条の第3項で、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする、という規定例を示しています。そして退職を定めた条でも、休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないときを退職事由のひとつに挙げています。
ここで押さえておきたいのは、これが法律ではなく就業規則の定めによる扱いだということです。モデル就業規則の解説は、休職の定義、休職期間の制限、復職等については労働基準法に定めはありません、とはっきり書いています。厚生労働省の「確かめよう労働条件」も、私傷病による休職制度については法令で義務付けられているわけではないので、復職の手続や可否などについては就業規則等を踏まえ対応することが基本だ、としています。
つまり、自分の会社の休職期間が何か月なのか、満了したらどうなると書かれているのかは、就業規則を読めば分かります。日付だけでも早めに把握しておくと、取れる選択肢が変わります。
同じページには、職種や業務内容を特定していない正社員について、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討して配置可能な業務を指示すべきであるとする裁判例があることも紹介されていて、就業規則等で定められた復職手続にしたがって復職の申請をしたうえで会社と話し合いをしてみることが大切だ、と結ばれています。
迷ったら、労働局に聞いてください
ここまで書いてきたことは、どれも一般論です。自分の場合にどうあてはまるかは、事情を聞いてもらわないと分かりません。
厚生労働省が案内している総合労働相談コーナーが、その入口になります。総合労働相談コーナーのご案内によれば、全国378か所に設置されていて、各都道府県の労働局や労働基準監督署の中などにあります。解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど、あらゆる分野の労働問題が対象です。専門の相談員が面談または電話で対応し、予約は不要で、利用は無料です。土日祝日と年末年始は閉庁しています。
会社と争うために行く場所だと身構えなくて大丈夫です。「こう言われているのですが、これはどういう扱いになりますか」と聞くだけでも、判断の材料が増えます。
辞める前に確認しておく5つのこと
ここまでの内容を、確認するものだけに絞りました。順番に意味があります。上から見ていってください。
1. 傷病手当金を受け始めていますか
受け始めていないなら、退職の前に休職と申請を先に済ませたほうが、退職後の選択肢が残ります。健康保険法第104条が求めているのは、資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けていることだからです。まだ何も手をつけていない段階なら、休職の手続きと過ごし方から始めてください。
2. 同じ健康保険に、1年以上続けて入っていますか
健康保険法第104条のもうひとつの条件です。退職日まで引き続き1年以上の被保険者期間が必要です。転職して間もない方は、ここで足りているかどうかを確かめてください。前の会社での期間が通算されるかどうかは、保険者が変わったかどうかで扱いが違います。健康保険証や資格情報のお知らせを手元に置いて、加入している保険者に確認するのが確実です。
3. 退職日に出勤しない段取りになっていますか
協会けんぽは、退職日に出勤したときは継続給付を受ける条件を満たさないと説明しています。最終出社日と退職日は分けられます。荷物の引き取りや貸与物の返却は、退職日以外の日にするか、郵送で済ませてください。
4. 年次有給休暇が残っていませんか
有給休暇は労働契約が続いている間に使うものなので、退職日を過ぎると使えなくなります。残日数は給与明細や勤怠システムで確認できます。ただし、有給を使った日は賃金が支払われるため、傷病手当金との関係が出てきます。残っている有給をどう扱うかは、退職日をいつにするかとセットで、保険者に相談してから決めてください。
5. 退職の理由が、どういうことになっているか把握していますか
自分から辞めるのか、会社から勧められて辞めるのか、休職期間の満了によるのか。同じ「退職」でも、そこに至る経路が違うと、あとの手続きでの扱いが変わる場面があります。詳しくはここでは扱いませんが、労働基準法第22条第1項で退職の事由について証明書を請求できるので、認識がずれていないかを確かめる手段はあります。
この5つのうち、1と3はあとから取り返せません。ほかは後日でも間に合います。今日どれか1つだけ見るなら、1を見てください。
退職以外に、どんな道が用意されているか
最後に、辞めるという選択肢の隣に何があるのかを並べます。どれかを勧めているわけではありません。存在を知らないまま選択肢から外れてしまうことを避けたいだけです。
休職する
いちばん近い場所にあります。会社に籍を置いたまま、働く義務を免除してもらう扱いです。制度そのものは法律ではなく就業規則で決まっているので、まず自分の会社にあるかどうかを確かめることから始まります。休職したあとに何が起きるのかを知りたい方は「休職したら終わり」は本当かを読んでください。
就業場所を変えてもらう、労働時間を短くしてもらう
異動や配置転換は、会社の裁量の話だと思われがちですが、法律の中にも仕組みがあります。
労働安全衛生法第66条の10は、ストレスチェックについての条文です。その第3項は、検査の結果が一定の要件に該当する労働者が医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、事業者は面接指導を行わなければならないと定めています。そして「事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない」と続きます。
さらに第6項は、面接指導のあとに聴いた医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じなければならない、と定めています。健康診断についても、第66条の5にほぼ同じ内容の定めが置かれています。
条文が挙げているのは、まさに「働く場所を変える」「仕事の内容を変える」「働く時間を短くする」という措置です。退職か現状維持かの二択ではなく、その中間が法律の中に書かれているということです。会社がどう対応するかは個別の事情によりますが、少なくとも制度としては存在します。
適応障害で休職した人が同じ職場に戻るのかという論点は、適応障害で休職した人は、同じ職場に戻るのかで扱っています。
復職に向けて助走をつける
休職から職場に戻るまでの段差を埋める仕組みもあります。リワークと呼ばれるものです。種類がいくつかあり、費用も対象者も違います。
もうひとつ、就労移行支援というと離職後のサービスだと思われがちですが、休職中の方が使える復職支援型という形もあります。要件を満たせば、在職したまま利用できます。どちらもリワークとは何かに整理してあります。
今日は、何も決めなくて構いません
ここまで読んで、確認することが多いと感じたかもしれません。全部を今日やる必要はありませんし、今日決める必要もありません。
適応障害と診断された直後は、判断そのものにいちばん体力を使う時期だと思います。そういうときに大きな決断を急ぐと、あとで違う結論になっても引き返しにくくなります。退職届は出したら戻せませんが、出さないでおくことはいつでもできます。
今日ひとつだけやるとしたら、傷病手当金を受け始めているかどうかを確かめることです。まだなら、退職の話はそのあとでも遅くありません。順番を変えるだけで、退職後に手元に残るものが変わります。この記事で伝えたかったのは、結局そこだけです。
そして、辞めることを考えている自分を責める必要はありません。制度の側は、体調を崩した人が働き続けられなくなる場面をあらかじめ想定して、傷病手当金も、休職も、就業場所の変更も、相談窓口も用意しています。使う順番を知っておけば、選べる道はもう少し広く残ります。
わたしたちは就労支援の現場で、退職を決めたあとに相談に来られる方に会います。辞めたこと自体を悔やんでおられるというより、順番を知らないまま辞めてしまったことに後から気づいて困っている、という形が多いです。決めるのは本人ですが、決める前に確かめられることはいくつかあります。
