体調を崩して会社を辞めることになったとき、いちばん困るのは、やることが多いことそのものではありません。何がいつまでなのかが、どこにもまとまっていないことです。会社の説明、市役所の案内、ハローワークの案内、それぞれが自分の担当分だけを話すので、全体の順番が見えません。

この記事は、その順番だけを並べたものです。ひとつひとつの制度の中身には踏み込みません。かわりに、何を、いつまでに、どこでやるのかを、退職日を基準にした時系列で置いていきます。

先に、期限の短いものを3つだけ挙げておきます。健康保険の任意継続を選ぶなら退職日の翌日から20日以内、国民健康保険と国民年金の切り替えは14日以内、雇用保険の基本手当は離職日の翌日から1年です。14日と20日が違うことが、いちばん間違えられるところです。

そして、体調が悪くて全部はできないときのための章を後半に置きました。判断する力が落ちているときに読むものなので、先にそこだけ見てもらっても構いません。

退職を決めてから、最終出社日までにやること

まだ会社に在籍しているあいだにしかできないことがあります。ここで手を打っておくと、あとの負担がずいぶん減ります。

就業規則で、退職の申し出の期限を確かめる

退職を申し出る時期は、就業規則に書かれていることが多くあります。「1か月前までに」といった定めです。会社によって違うので、休職の規定を確認したときと同じ場所を開いてください。休職から退職へ進む流れは休職の手続きと過ごし方に書いています。

あわせて、退職金の規定と、傷病手当金の申請を誰が担当するのかも見ておくと、あとで聞き直す回数が減ります。

有給休暇の残りを確かめる

残っている年次有給休暇の日数は、給与明細か人事に聞けば分かります。退職日までに使えるかどうかは会社と相談することになりますが、残日数を知らないまま退職日を決めると、選択肢がひとつ減ります

傷病手当金を受けているなら、退職日は休む日にする

ここがこの章でいちばん大事なところです。

健康保険法第104条は、資格を喪失した日の前日まで引き続き1年以上被保険者だった人が、その資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているときは、被保険者として受けることができるはずだった期間、継続して同じ保険者から給付を受けられる、と定めています。

そして協会けんぽの会社を退職するとき(任意継続)は、この条件について「退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません」と説明しています。条文が求めているのは資格喪失の際に支給を受けていることで、退職日に出勤しないという話は、そこから導かれる運用上の帰結です。

つまり、あいさつのために最終出社日を退職日に合わせると、退職後の傷病手当金が受けられなくなることがあります。挨拶回りや荷物の引き取りは、退職日より前の日に済ませてください。この一点だけは、あとから取り返しがつきません。条件の詳しい中身は傷病手当金は退職後も受け取れますにまとめています。

最終出社日から退職日までにやること

会社に返すもの

返却物は会社によって違うので、一覧をもらうのが確実です。よくあるのは社員証、鍵やセキュリティカード、貸与されたパソコンや携帯電話、通勤定期券、名刺、制服です。

健康保険については、資格確認書の交付を受けている場合はそれを返します。マイナンバーカードを健康保険証として使っている場合は返すものがありませんが、いずれにしても退職日の翌日に会社の健康保険の資格は失われます。扶養に入っている家族の分も同じです。次の健康保険が決まるまでのあいだに受診の予定があるなら、そのことを窓口で伝えてください。

受け取るものを、この時点で頼んでおく

次の章の6つの書類は、黙っていても全部そろうとは限りません。請求してはじめて出るものが含まれています。最終出社日に人事へ「離職票と退職証明書をお願いします」と伝えておくのがいちばん手数が少なくて済みます。メールで送っておくと、記録が残って安心です。

会社から受け取る6つの書類

ここが退職手続きの土台です。この6つがそろえば、役所でもハローワークでも話が進みます。

書類 いつ受け取れるか 何に使うか もらえないとき
雇用保険被保険者離職票(-1、-2) 退職後。会社は資格喪失届と離職証明書を、事実のあった日の翌日から10日以内にハローワークへ出すことになっているので、手元に届くまで2週間ほどかかることがあります ハローワークで求職の申込みをして、基本手当の受給資格の決定を受けるとき 会社に確認し、それでも進まないときは住所地のハローワークに相談します
雇用保険被保険者証 退職時。会社が預かっていることが多い書類です 次の勤務先に提出するとき ハローワークで再交付を受けられます
源泉徴収票 所得税法第226条第1項により、年の中途で退職した人については退職の日以後1か月以内に交付されます 確定申告のとき、または次の勤務先の年末調整のとき 交付は法律上の義務なので、期限を過ぎたら会社に請求してください
健康保険の資格喪失を証明する書類 退職後。会社が発行することが多い書類です 国民健康保険に加入する手続きのとき 協会けんぽに加入していた場合は、日本年金機構に「健康保険・厚生年金保険 資格取得・資格喪失等確認請求書」を出して確認通知書を受け取れます
基礎年金番号通知書、または年金手帳 会社が預かっていれば退職時に返されます 国民年金の切り替え手続きのとき 年金事務所などで再交付を受けられます。マイナンバーカードでも手続きできます
退職証明書 労働基準法第22条第1項により、請求すれば遅滞なく交付されます 国民健康保険の加入手続き、任意継続の申出などで退職日の証明として 交付は会社の義務です。請求したことが分かるよう、書面かメールで頼んでください

年金手帳と基礎年金番号通知書の呼び名について

日本年金機構は、令和4年4月以降に初めて年金制度に加入する人には、これまでの年金手帳に代えて基礎年金番号通知書を発行する、と案内しています。すでに年金手帳を持っている人には通知書は発行されず、年金手帳が引き続き基礎年金番号を確認できる書類として使えます。手元にあるものがどちらでも困りません。会社の書式に「年金手帳」と書かれていても、同じものを指していると考えて差し支えありません。

もらえないときに使える2つの条文

労働基準法には、退職する人を守る条文が2つあります。ひとつは労働基準法第22条で、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由について証明書を請求したら、使用者は遅滞なく交付しなければならないというものです。同条第3項には「労働者の請求しない事項を記入してはならない」ともあります。書いてほしい項目を選んで請求できます

もうひとつは第23条です。使用者は、労働者の退職の場合において権利者の請求があったときは、7日以内に賃金を支払い、積立金や保証金など労働者の権利に属する金品を返還しなければならない、と定めています。最後の給与や積立金が戻ってこないときに、この条文を根拠に請求できます。

退職日から14日以内にやること

退職日の翌日から数える、14日と20日

国民健康保険と国民年金の切り替え(14日以内)

市区町村の窓口に届け出ます
過ぎても加入はできます

健康保険の任意継続(20日以内)

加入していた健康保険に申し出ます
どちらも退職日の翌日から数えます。14日を過ぎても国民健康保険には入れますが(保険料はさかのぼって請求されます)、20日を過ぎると任意継続は原則として選べなくなります。

ここからが役所です。14日と20日が混ざるところなので、分けて書きます。

健康保険は3つから選びます。任意継続だけ期限が20日です

協会けんぽは、退職後の健康保険には「健康保険任意継続」「国民健康保険」「ご家族の健康保険(被扶養者)」の3つの選択があると案内しています。手続き先はそれぞれ、住んでいる都道府県の協会けんぽ支部、市区町村の国民健康保険担当課、家族の勤務先です。

期限が別々です。

  • 任意継続は、健康保険法第37条第1項が「被保険者の資格を喪失した日から二十日以内にしなければならない」と定めています。資格を喪失する日は退職日の翌日です。協会けんぽも「退職日の翌日から20日以内(20日目が土日、祝日の場合は翌営業日)」と案内していて、郵送の場合は20日以内に必着とされています。
  • 国民健康保険は、国民健康保険法施行規則第3条が、会社の健康保険の被保険者でなくなったことにより国民健康保険の資格を取得した人について、世帯主は14日以内に届書を市町村へ提出しなければならないと定めています。

同じ健康保険の話なのに、14日と20日で違います。ここを取り違えると、任意継続を選びたかったのに選べなくなります。

なお、健康保険法第37条第1項にはただし書きがあり、「保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる」とされています。20日を過ぎてしまっても、事情があるなら一度は相談してみる余地があります。ただし受理されるかどうかは保険者の判断なので、あてにして遅らせるものではありません。

どちらが安いかは人によって変わります。この記事では比べません。3つの違いと選び方は退職後の健康保険の選び方にまとめました。比べる前に、まず20日という期限だけ手帳に書いてください。

国民年金の切り替えも14日以内です

会社を辞めて厚生年金保険を抜けると、国民年金の第2号被保険者ではなくなります。次の会社にすぐ入らない場合は、国民年金の第1号被保険者になる手続きが必要です。

日本年金機構の国民年金に加入するための手続きは、第1号被保険者の加入手続きについて、手続き先を住所地の市区役所または町村役場、提出書類を「国民年金被保険者関係届書(申出書)」、提出期限を「退職日の翌日から14日以内」、提出者を「ご本人または世帯主」と案内しています。持ちものは基礎年金番号通知書か年金手帳、またはマイナンバーカードです。

国民健康保険と同じ市区町村の窓口で、同じ日にまとめて済ませられることが多いので、行くのは1回で足ります。配偶者が加入する健康保険の被扶養者になる場合は、第3号被保険者の手続きになり、配偶者の勤務先を通じて行います。

保険料を納めるのが難しいときは、申請して承認されれば免除になる制度があります。日本年金機構も「納付が難しい場合は、必ず免除等の申請を行ってください」と案内していて、退職による特例免除もあります。払えないまま放っておくより、窓口で相談したほうが記録の上でも有利になります。免除の種類と、未納のままにした場合に何が変わるのかは退職したら国民年金の免除を申請してくださいで説明しています。

1か月以内をめやすにやること

ハローワークで求職の申込みをします

ハローワークインターネットサービスの基本手当については、住居を管轄するハローワークに行って「求職の申込み」を行ったのち、雇用保険被保険者離職票(-1、-2)を提出し、受給資格の決定を行うと説明しています。

持っていくものとして案内されているのは、離職票(-1、-2)、個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票のいずれか1種類)、身元確認書類、写真(最近の写真、正面上三分身、縦3.0センチメートル×横2.4センチメートル)2枚、本人名義の預金通帳またはキャッシュカードです。写真は当日に用意できないことがあるので、先に撮っておくと二度手間になりません。

基本手当は、失業の状態にあることが受給の要件です。ハローワークは、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態、と説明しています。体調が回復していなくてすぐには働けない場合は、次の受給期間の延長のほうが先になります

すぐには働けないときは、受給期間の延長を申請します

この手続きだけは、1か月以内という枠には収まりません。引き続き30日以上働くことができなくなった日の翌日以降でないと申し出ができないので、退職の直後には申請できないということです。忘れないように、ここに置いておきます。

雇用保険法第20条第1項は、基本手当を受け取れる期間を、原則として離職の日の翌日から起算して1年と定めています。そのうえで、この期間内に妊娠、出産、育児その他厚生労働省令で定める理由により引き続き30日以上職業に就くことができない人が公共職業安定所長に申し出た場合には、その日数を加算するとしています。加算された期間が4年を超えるときは4年が上限です。

ハローワークインターネットサービスは、この延長の要件を「病気、けが、妊娠、出産、育児等の理由により引き続き30日以上働くことができなくなったとき」と書き、延長できる期間は最長で3年間としています。もとの1年とあわせて、合計で最長4年ということです。

申請の時期については、引き続き30日以上職業に就くことができなくなった日の翌日以降、早期に申請するのが原則だが、延長後の受給期間の最後の日までの間であれば申請は可能と説明されています。つまり申請そのものの窓口は思ったより広く開いています。

それでも早めに動いたほうがよいのは、申請の期限を過ぎるからではなく、延長しないまま1年が過ぎると、受け取れる日数がそのぶん減ってしまうからです。療養が長引きそうだと分かった時点で、ハローワークに一本電話を入れておいてください。

体調を理由に辞めた場合の離職理由の扱いや、受け取れる日数については病気で退職したときの失業保険にまとめてあります。

住民税の納税通知書が届きます

住民税は前年の所得に対してかかります。会社に勤めているあいだは給与から天引きされていましたが、退職するとその仕組みが止まり、残りを自分で納めることになります。市区町村から納税通知書が届くので、金額と納期を確認してください。

収入が止まった年に前年分の請求が来るので、金額を見て驚く人が多いところです。納めるのが難しいときは、市区町村の税の窓口に相談する道があります。分割や猶予の扱いは自治体ごとに違うので、通知書に書かれた問い合わせ先に連絡するのが早道です。いつ、いくら来るのかの見通しは退職後の住民税はいつ、いくら来るのかで整理しています。

そのあとで間に合うこと

確定申告は、翌年になってからで大丈夫です

年の途中で退職してそのまま再就職しない場合は、年末調整を受けられません。国税庁は、この場合に所得税と復興特別所得税が納め過ぎになっていることがあり、中途退職した年の翌年になってから確定申告をすれば還付を受けられると説明しています。この申告は、その年の翌年1月1日から5年間できます。

期限が5年もあるので、退職の直後に慌てて手をつける必要はありません。源泉徴収票を、なくさない場所にしまっておいてください。傷病手当金は非課税なので、源泉徴収票には載りません。

自立支援医療や手帳の変更届

自立支援医療を使っている場合、健康保険が変わったときは変更の届出が必要です。引っ越しをともなう退職なら住所の変更も出ます。障害者手帳を持っている場合も同じです。

いずれも期限が短いものではありませんが、保険証の情報が古いままだと、窓口での自己負担の扱いが変わってしまうことがあります。落ち着いてからで構わないので、健康保険が決まったら一度思い出してください。制度そのものについては自立支援医療制度で精神科の通院費を1割にする手順障害者手帳のデメリットは本当にあるのかにまとめています。

全部はできないときに、先にやる3つ

ここまで読んで、無理だと感じた方へ。ここがこの記事のいちばん大事な章です。

体力と判断力が落ちているときに、10も20も並んだやることリストは機能しません。逃すと取り返しがつかないものだけを3つに絞ります。ほかは全部あとまわしで構いません。

順位 やること 期限 逃すとどうなるか
1 傷病手当金を受けているなら、退職日に出勤しない段取りをする 退職日より前 退職後の継続給付が受けられなくなります
2 健康保険の任意継続を選ぶなら申し出る 退職日の翌日から20日以内 任意継続という選択肢が消えます
3 すぐに働けないなら、雇用保険の受給期間の延長を申し出る 早いほどよい 延長しないまま1年が過ぎると、受け取れる日数が減ります

1番目は、退職日が来る前にしか手を打てません。2番目は、期限が最も短いものです。3番目は、申請の窓口自体は長く開いていますが、遅れるほど目減りします。

残りはどうなるかというと、多くはあとからでも間に合います。国民健康保険の届出が14日を過ぎても、加入自体はできます(保険料はさかのぼって請求され、そのあいだの医療費はいったん全額の自己負担になることがあります)。ハローワークは離職票が届いてからで、そもそも急ぎようがありません。確定申告は5年あります。自立支援医療や手帳の変更届も、思い出したときで構いません。

だから、この3つ以外を今日できなくても、あなたは何も失っていません。ここを分けて考えられるだけで、気持ちの負担がかなり変わります。

家族に頼めるものと、本人でないとできないもの

代わってもらえるものがあります。

家族が代われるものとしては、国民年金の第1号被保険者の届出があります。日本年金機構の案内には、提出者として「ご本人または世帯主」と書かれています。国民健康保険の届出は、国民健康保険法第9条がそもそも世帯主の義務として定めています。同じ世帯の家族が市区町村の窓口に行けば、この2つは同じ日に済ませられます。書類の郵送や、金額を窓口で聞いてもらうことも頼めます。

一方、ハローワークの求職の申込みは、本人がハローワークに行って行うものとされています。手続きの中身の説明を受け、その場で受給資格の決定を受けるためです。

つまり、役所の分は家族に頼み、体が動く日にハローワークへ行くという分け方ができます。委任状が必要かどうかは窓口によって違うので、行く前に電話で確認してもらうと、二度手間になりません。

なお、健康保険や年金の手続きだけでは生活が立ちゆかないときには、別の制度が控えています。障害年金については精神疾患での障害年金、生活保護については生活保護を受けられる条件に条件を書いています。手続きの一覧の外側にも道はあります。

今日は、日付を3つ書くだけで十分です

読み終えて、やることの多さに気持ちが沈んだかもしれません。けれど今日必要なのは、動くことではなく、書き出すことだけです。

紙でもスマートフォンのメモでも構いません。退職日、その翌日から14日後の日付、その翌日から20日後の日付。この3つを書いてください。それだけで、期限のあるものは全部この3つのどれかに紐づきます。

手続きは、名前を知って窓口に電話をかければ進みます。全部を自分で理解している必要はありません。窓口の人は、あなたが制度に詳しくないことを前提に説明してくれます。分からないまま行っても、追い返されることはありません。

今日は日付を3つ書いて、それで終わりにしてください。続きは、動ける日にやれば間に合います。

わたしたちは就労支援の現場で、退職の手続きが途中で止まってしまった方に会うことがあります。やる気の問題ではなく、体調が落ちているときに項目が多すぎることが原因になっている場面がほとんどです。全部を並べたうえで、先にやる3つだけ決めておくと、動き出しやすくなります。