退職したあと、いちばん驚かれる出費が住民税です。収入が無くなっているのに、まとまった額の納税通知書が届きます。金額を見て、何かの間違いではないかと思う方が少なくありません。
間違いではありません。住民税は、前年の所得に対して課される税だからです。去年働いて得た所得に対する税額が、今年になって請求されます。だから、収入が途絶えたその年に、いちばん重くのしかかります。
しかも退職の時期によって、最後の給与からまとめて引かれるのか、あとから納税通知書が届くのかが変わります。どちらになるかを知らないまま退職日を迎えると、手取りが想定と大きくずれます。
この記事は、驚かないための予告として書きました。仕組みを地方税法の条文で確かめたうえで、退職金の扱い、翌年はどうなるか、そして納めるのが難しいときにどこへ相談できるかまで書いています。金額を減らす裏技はありませんが、相談できる先はあります。
なぜ収入が無くなった年に請求が来るのか
ここを最初に押さえておくと、あとの話が全部つながります。
課税の対象は「前年の所得」です
地方税法第313条第1項は、所得割の課税標準について「前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする」と定めています。今年の収入ではなく、前の年の1月から12月までの所得が基準です。
そして誰に課すかを決めているのが第318条です。「個人の市町村民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする」と書かれています。第294条第1項第1号は納税義務者を「市町村内に住所を有する個人」としているので、その年の1月1日にどこに住んでいたかで、課税する市区町村が決まります。
この2つを合わせると、こうなります。2026年1月1日にA市に住んでいた人は、2025年1月から12月までの所得にもとづく住民税を、2026年度分としてA市に納める。年の途中で退職しても、引っ越しても、この組み合わせは動きません。
だから、退職の翌年にもう一度来ます
名古屋市の会社を退職した後の市民税・県民税・森林環境税は?というQ&Aが、この事情をそのまま説明しています。令和7年10月に退職した方が、令和8年1月に届いた納税通知書で納め終えたと思っていたところ、令和8年6月にまた納税通知書が届いた、という相談です。
市の回答はこうです。1月に届いたのは令和6年中の所得にもとづく令和7年度分の残りで、6月に届いたのは令和7年1月から10月までの給与にもとづく令和8年度分です。年度が違うので、二重に課されているわけではありません。
退職の年をまたいで、住民税は2回やって来ます。ここを知らないと、一度払い終えたつもりでいたところに次が届いて、心が折れてしまいます。退職した年の所得に対する請求が、翌年の6月にもう一度来るとだけ覚えておいてください。
なお、所得割の税率は所得に対して10パーセント(道府県民税4パーセント、市町村民税6パーセント)で、これに定額の均等割4,000円が加わります。2024年度からは、均等割とあわせて森林環境税(国税)1,000円が徴収されています。総務省の解説に載っている数字です。
会社員のあいだは12回に分けて天引きされています
退職で何が変わるのかを見る前に、在職中の仕組みを確認します。
特別徴収は6月から翌年5月までの12回です
地方税法第321条の3第1項は、前年に給与の支払を受けていて、その年度の初日にも給与の支払を受けている人について、給与所得に係る所得割額と均等割額の合算額を特別徴収の方法によって徴収するものとすると定めています。会社が給与から天引きして市区町村へ納める方法です。
期間と回数を決めているのが第321条の5第1項です。会社は通知を受けた税額の12分の1を6月から翌年5月まで、給与の支払のたびに毎月徴収し、徴収した月の翌月10日までに市区町村へ納入する義務を負う、と書かれています。市区町村から会社への通知は、その年の5月31日までに行うこととされています(第321条の4第2項)。
住民税の1年が4月始まりではなく6月始まりなのは、このためです。前年の所得が確定して税額が計算できるまでに時間がかかるので、6月からのスタートになっています。
給与が止まると、この仕組みは続けられません
第321条の5第2項の本文は、納税義務者がその会社から給与の支払を受けないこととなった場合について、「その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額……は、これを徴収して納入する義務を負わない」と定めています。天引きの原資が無くなるので、会社の納入義務がそこで切れるという規定です。
切れた分がどこへ行くかというと、本人のところへ来ます。市区町村が直接、納税通知書を送って納めてもらう方法が普通徴収です。総務省も、普通徴収を「市町村が直接税金を納める方法」と説明しています。金額そのものが増えるわけではないのですが、天引きで見えていなかった分が急に目に見える形になるので、負担感はかなり違います。
普通徴収の納期は、地方税法第320条で「六月、八月、十月及び一月中において」各市区町村の条例で定めることとされています。回数も期日も自治体によって違うので、届いた通知書で確かめてください。
休職中の段階から同じことが起きます。給与が止まる時点で切り替わる仕組みなので、「休職手当」という制度はありません。休職中に受け取れるお金と、出ていくお金の全体像もあわせて見ておくと、退職前後の見通しが立てやすくなります。
退職の時期で、扱いが変わります
ここがこの記事の中心です。第321条の5第2項には、本文の原則に対して長いただし書が付いていて、そこで時期による違いが決まっています。
| 退職した時期 | 残りの税額の扱い | 本人の申し出 |
|---|---|---|
| 1月1日〜4月30日 | 5月31日までに支払われる給与や退職金から一括徴収されます(原資が足りるとき) | 不要 |
| 5月1日〜5月31日 | 5月に支払われる給与から5月分を徴収して完了するため、残りはありません | ー |
| 6月1日〜12月31日 | 本人が申し出れば一括徴収、申し出なければ普通徴収 | 必要 |
1月から4月の退職は、会社に納入の義務があります
ただし書は、退職などの事由が「その年の翌年の一月一日から四月三十日までの間において発生した場合」について、申し出を要件にしていません。ここが6月以降の退職との決定的な違いです。
そのうえで条文は、「当該納税義務者に対してその年の五月三十一日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り」という条件を置き、その場合には給与または退職手当等の支払をする際に全額を「徴収し、その徴収した月の翌月十日までに、これを当該市町村に納入しなければならない」としています。「ものとする」でも「できる」でもなく、しなければならないという書き方です。会社の側に義務がある形になっています。
ただし、条件が付いていることも同じくらい大事です。5月31日までに支払われる給与や退職金が残額に足りない場合は、一括徴収は行われません。その分は普通徴収に回ります。さいたま市も、1月から4月までの退職等について「未徴収税額を超える給与等の支給があるときは、一括徴収が原則」と、条件付きであることを明記して案内しています。
実務上の意味はひとつです。年明けから4月末までに退職すると、最後の給与や退職金の手取りが、住民税の残り数か月分だけまとめて減ります。3月末の退職なら、4月分と5月分の2か月分が最後の支払いから引かれる計算です。退職金を生活費の当てにしているときほど、先に金額を聞いておいてください。
6月から12月の退職は、申し出るかどうかを選べます
同じただし書は、事由が「当該年度の初日の属する年の六月一日から十二月三十一日までの間において発生し、かつ、総務省令で定めるところにより……特別徴収の方法によつて徴収されたい旨の納税義務者からの申出があつた場合」を、もうひとつの場合として並べています。申し出があってはじめて一括徴収の対象になる、という構造です。
申し出をしなければ、本文の原則どおり会社に納入の義務はなく、残りは普通徴収になります。名古屋市も、6月1日から12月31日までの退職は「一括して差し引くことを申し出た場合」を例外として挙げ、それ以外は納税通知書で納める形になると案内しています。
どちらが得ということはありません。総額は同じです。まとめて引かれれば手取りが一度に減りますが、あとから納付書と向き合う手間はなくなります。分けて納めれば当座の手元は残りますが、収入の無い時期に納期が来ます。体調が悪いときは、通知書の管理という作業そのものが負担になることも、判断材料に入れておいてください。
5月の退職と、転職する場合
5月に退職した場合は、5月に支払われる給与から5月分を徴収してその年度が終わるので、原則として残りの税額はありません。さいたま市も同じ説明をしています。
転職先が決まっている場合には、天引きを引き継ぐ道もあります。地方税法第321条の4第5項は、新しく給与を支払う人を通じて、従前の会社から給与を受けなくなった日の属する月の翌月10日まで(その日が4月中のときは同月30日まで)に申し出れば、新しい勤め先を特別徴収義務者として指定すると定めています。期限が短いので、転職の予定があるなら早めに双方へ伝えてください。
退職金にかかる住民税は、別枠で計算されます
退職金は、給与とは切り離して扱われます。
地方税法第328条は、退職手当等に係る所得割について他の所得と区分し、退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の1月1日現在の住所地の市区町村が課すと定めています。第328条の2は課税標準をその年中の退職所得の金額とし、その計算は所得税法第30条第2項の例によるとしています。そして第328条の4が、この徴収は特別徴収の方法によらなければならないとしているので、退職金が支払われるときに天引きされて完結します。あとから請求が来る性質のものではありません。
額の計算で効いてくるのが退職所得控除です。国税庁の退職金を受け取ったとき(退職所得)は次のように示しています。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げます。国税庁の例では、勤続10年2か月なら勤続年数は11年となり、控除額は40万円×11年で440万円です。退職金がこの控除額に収まれば、課税される退職所得は生じません。勤続年数がそれなりにある方の退職金は、控除の範囲に収まることが珍しくありません。
もうひとつ、知っておいてよい定めがあります。国税庁は、障害者になったことが直接の原因で退職した場合の退職所得控除額は、計算した額に100万円を加えた金額になるとしています。該当しそうな場合は、退職金を受け取る前に会社の担当者に伝えておいてください。
一般の退職手当等では、控除額を超えた部分をさらに2分の1にした額が課税の対象になります。細かい計算まで自分で追う必要はありません。退職金は分離して課税され、支払時に引かれて終わるという形だけ押さえておけば十分です。
翌年はどうなるか
ここは、この記事で数少ない明るい話です。
住民税は前年の所得で決まります。裏を返せば、退職した年の所得が少なければ、翌年度の住民税は下がります。働いていない期間が長いほど、翌年度の負担は軽くなります。前年の所得がゼロなら、翌年度に課される所得割もありません。
そのうえで、いくつか押さえておきたい点があります。
傷病手当金は住民税の課税対象になりません。 国税庁のタックスアンサー給与所得(給与所得以外に「傷病手当金」「育児休業手当金」を受け取った場合)は、健康保険から支給を受けた傷病手当金について「非課税所得であり、所得税は課されません」と明記し、根拠として健康保険法の第52条・第62条・第99条を挙げています。第62条は「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」という条文で、地方税もここでいう公課に含まれます。国税庁の別の解説にあるとおり、非課税所得は所得金額の計算から除かれるので、住民税の課税標準にも入りません。傷病手当金で過ごした期間は、翌年度の住民税を押し上げません。傷病手当金そのものについては傷病手当金は退職後も受け取れます。継続給付の条件と、退職日に気をつけることを見てください。
退職金は翌年度の所得割には乗りません。 前に書いたとおり分離して課税され、支払時に済んでいるからです。「退職金をもらったせいで来年の住民税が跳ね上がる」という心配は要りません。
非課税の範囲に入ることもあります。 地方税法第295条第1項は、生活保護法による生活扶助を受けている人と、障害者・未成年者・寡婦・ひとり親で前年の合計所得金額が135万円以下の人には市町村民税を課することができない、と定めています(退職所得の分離課税に係る所得割は除かれます)。障害者手帳の交付を受けている方は、この規定が働く年があります。手帳で受けられる扱いの全体像は障害者手帳のデメリットは本当にあるのか。メリットとあわせて正直に整理しましたにまとめています。
課税される場合でも、障害者控除があります。額は所得税で27万円、住民税で26万円です。控除の詳しい要件は前の記事に譲ります。均等割だけを課される人の非課税の範囲は、地方税法が政令の基準に従って各市区町村の条例で定めるとしているので、金額は住んでいる自治体で確かめてください。
払えないときに、相談できる制度があります
一度に納められないときに用意されている3つ
ここがいちばんお伝えしたいところです。額を見て動けなくなってしまう方がいますが、放置するより先に相談したほうが、選べる方法は多く残ります。
徴収猶予
地方税法第15条第1項は、一定の事実があって「一時に納付し、又は納入することができないと認められるとき」に、その者の申請にもとづき、1年以内の期間を限って徴収を猶予することができると定めています。挙げられている事実のなかには、「納税者若しくは特別徴収義務者又はこれらの者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したとき」と、「その事業を廃止し、又は休止したとき」が含まれています。
同条第3項は、猶予する金額を猶予の期間内に分割して納付させることができるとしています。分割の相談に法律上の根拠があるということです。第4項では、やむを得ない理由があるときに期間を延長できるとされ、延長を含めても2年を超えられないと定められています。
換価の猶予
すでに納期限を過ぎてしまっている場合に関わるのが、第15条の5と第15条の6です。財産の差押えや売却を猶予する仕組みで、「その財産の換価を直ちにすることによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあるとき」などが要件になっています。申請による換価の猶予(第15条の6)は、納期限から各市区町村の条例で定める期間内に申請することが必要で、期間は1年以内です。
減免
第323条は、「天災その他特別の事情がある場合において市町村民税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより」減免することができる、と定めています。
大事なのは「当該市町村の条例の定めるところにより」という部分です。減免の要件も、申請の期限も、全国一律ではありません。同じ状況でも、住んでいる自治体によって扱いが違います。たとえば名古屋市は、退職後に雇用保険の基本手当などを受給している場合に、期限までに申請すれば減額されることがあると案内していますが、これは名古屋市の制度です。インターネットで見つけた他の自治体の条件をそのまま当てはめないでください。自分の住む市区町村のページを見るか、窓口で聞くのが確実です。
どこへ行けばよいか
窓口は市区町村の税務担当課です。市民税課・課税課といった課税を担当する部署と、納税課・収納課といった納付の相談を担当する部署が分かれていることが多いので、「住民税を一度に納めるのが難しいので相談したい」と伝えれば、担当につないでもらえます。都道府県民税も市区町村が市町村民税とあわせて賦課徴収するので、行き先はひとつで済みます。
言うことは難しくありません。「退職して収入が無く、届いた住民税を一度に納めるのが難しい」。これだけで、分割などの相談に応じてもらえることが多くあります。相談したからといって金額が消えるわけではありませんが、納期限が来る前に自分から連絡した人と、督促が来るまで動かなかった人とでは、その後の進み方がかなり違います。
放置した場合に何が起きるかも、一度だけ書いておきます。地方税法第329条は、納期限までに納められないときは原則として納期限後20日以内に督促状を発しなければならないとし(同条第3項により、特別の事情がある市町村では条例で異なる期間を定めることができます)、第331条は、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは財産を差し押えなければならないと定めています。滞納した分には延滞金も加わります。脅すつもりはありません。ただ、連絡さえすれば猶予や分割という道が用意されているのに、その道を通らないままここまで来てしまうのはもったいない、ということです。
生活そのものが立ち行かない状態が続くなら、生活保護を受けられる条件。何を見られて、どう決まるのかも選択肢として見ておいてください。生活扶助を受けている人は、地方税法第295条第1項第1号により市町村民税が課されません。通院費の負担については自立支援医療制度で精神科の通院費を1割にする手順が使えます。
確認する順番は3つだけです
やることを絞ります。全部を一度にやる必要はありません。
1つ目。会社に、最後の給与から何が引かれるかを聞く。 退職日が決まったら、「最後の給与から住民税がいくら引かれますか」と一言確認してください。1月から4月の退職なら一括徴収の対象になる可能性が高く、6月から12月の退職なら申し出をするかどうかを選べます。ここが分かるだけで、手取りの予想が立ちます。メールで聞いておくと、あとで見返せます。
2つ目。届いた納税通知書を開く。 開かずに置いてしまう方が本当に多いところです。見るのは年度・税額・納期の3か所だけで構いません。何年度の分なのかが分かれば、二重に来ているのではないかという不安は消えます。
3つ目。金額と納期をカレンダーに書く。 普通徴収は年に数回、間隔を空けてやって来ます。忘れたころに来るのがつらいので、先に日付として置いてしまってください。そしてその日までに用意できそうにないと分かった時点で、市区町村に連絡する。順番はこれだけです。
今日は、封を開けるところまでで十分です
住民税は、制度そのものが理不尽に感じられる税です。働けなくなった年に、働いていたころの所得で計算された額が請求されます。仕組みとしてはそうなっているのだと分かっていても、納得しづらいものだと思います。
それでも、この税には最初から相談の窓口が用意されています。徴収猶予も、分割も、減免も、法律や条例に書かれている正規の手続きです。無理を頼むわけではありません。困ったときに使うために置かれている仕組みを、そのとおりに使うだけです。
今日できることは、届いている封筒を開けて、年度と金額と納期を見るところまでで十分です。それ以上は、体調が動くときに回して構いません。金額が分かっているというだけで、分からないまま抱えているときより、ずいぶん落ち着きます。開けたあとで、納められそうにないと思ったら、そのときに電話をかければ間に合います。
わたしたちは就労支援の現場で、収入が止まったあとに届いた請求に驚いた、という話を聞くことがあります。住民税は前年の分なので、いちばん苦しい時期に重なります。額そのものは動かせなくても、相談すれば納め方のほうは動かせることがあります。
