退職の日が決まると、健康保険をどうするかという問題が出てきます。これまで保険証は会社が用意してくれていたので、自分で選んだ経験がないという方がほとんどだと思います。しかも会社から渡される案内は事務的で、どれを選べばよいのかまでは書かれていません。
先に結論をお伝えします。退職後の健康保険には3つの選択肢があり、どれを選ぶかで毎月の負担がかなり変わります。そのうちのひとつである任意継続には、資格喪失日から20日以内という申出の期限が健康保険法で決められています。この期限を過ぎると、原則として選べなくなります。
もうひとつ、体調を理由に会社を辞める方に知っておいてほしい制度があります。国民健康保険には、倒産や解雇で職を失った人と、やむを得ない理由で離職した人を対象に、前年の給与所得を100分の30とみなして保険料を計算する軽減があります。対象になるかどうかで金額が大きく変わるので、比べる前に確認しておく価値があります。
この記事では、3つの中身と、比べるときの観点と、決める順番を整理します。具体的な金額は、住んでいる市区町村と退職前の給与によって変わるので出せません。かわりに、どこに何を聞けば自分の数字が分かるのかを書きます。
退職後に入る健康保険は3つあります
退職したあとの健康保険は3択
まず全体像です。全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続の案内も、退職後の健康保険には「健康保険任意継続」「国民健康保険」「ご家族の健康保険(被扶養者)」の3つの選択がある、という説明をしています。毎月納める保険料などを比較したうえで、選んだ健康保険に手続きしてください、という案内です。
| 選択肢 | 手続きをする場所 | 保険料の決まり方 |
|---|---|---|
| 健康保険の任意継続被保険者 | 加入していた健康保険(協会けんぽならお住まいの都道府県支部) | 退職時の標準報酬月額に、お住まいの都道府県の保険料率をかけた額 |
| 市区町村の国民健康保険 | お住まいの市区町村の国民健康保険担当窓口 | 前年の所得と世帯の人数などにもとづき、市区町村ごとの計算方法で決まる |
| 家族の健康保険の被扶養者 | 家族の勤め先を通じて | 保険料の負担はありません |
3つのうち、どれかひとつには必ず入ります。日本に住んでいる人は公的医療保険に入る仕組みになっていて、会社の健康保険をやめて、共済組合などにも入らず、家族の被扶養者にもならない場合は、国民健康保険法第6条と第7条により、自動的に国民健康保険の被保険者になります。何も手続きしなければ無保険になる、という話ではありません。ただし、手続きをしないと保険証にあたるものが手元にないので、病院の窓口でいったん全額を払うことになります。
順番に見ていきます。
任意継続被保険者は、20日で決まります
入れるのはどういう人か
健康保険法第3条第4項が定義しています。適用事業所に使用されなくなったために被保険者の資格を失った人で、喪失の日の前日まで継続して2か月以上被保険者だった人が、保険者に申し出て、継続してその保険者の被保険者になったもの、という書き方です。
協会けんぽの案内では、これが「退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上あること」という言い方になっています。年単位の勤務が必要なわけではありません。ここは、あとで出てくる傷病手当金の継続給付の条件(継続して1年以上)と数字が違うので、混ざらないように気をつけてください。
申出は資格喪失日から20日以内です
いちばん取り返しがつかないのがここです。健康保険法第37条第1項は、第3条第4項の申出は被保険者の資格を喪失した日から二十日以内にしなければならないと定めています。資格喪失日は退職日の翌日なので、協会けんぽの案内も「退職日の翌日から20日以内」となっています。20日目が土日祝日の場合は翌営業日まで、郵送の場合は20日以内に必着です。
この20日は、体調が悪い時期にはかなり短く感じる期間だと思います。退職日が決まった時点で、カレンダーに20日目を書き込んでおくくらいでちょうどよいと思います。
同じ第37条第1項には、ただし書きもあります。保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができるという定めです。何が正当な理由に当たるかは保険者が判断するので、事情があって間に合わなかった場合は、あきらめる前に一度電話して聞いてみてください。
もうひとつ、第37条第2項に見落としやすい定めがあります。申出をした人が初めて納付すべき保険料を納付期日までに納付しなかったときは、任意継続被保険者とならなかったものとみなされます。申出書を出しただけでは終わらないということです。最初の納付書が届いたら、期日を確認してください。
期間は最長2年で、途中でやめることもできます
健康保険法第38条第1号により、任意継続被保険者となった日から2年を経過すると資格を失います。それより前に資格を失う事由も同じ条に並んでいて、就職して他の健康保険の被保険者になったとき、亡くなったとき、保険料を納付期日までに納めなかったとき、後期高齢者医療の被保険者等になったときが挙げられています。
そして第7号に、任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を保険者に申し出た場合において、その申出が受理された日の属する月の末日が到来したときという事由があります。これは令和4年1月から加わったもので、それ以前は、いったん任意継続を選ぶと基本的に2年間は自分の意思でやめられませんでした。
なぜこれが大事かというと、国民健康保険の保険料は前年の所得で決まるからです。退職した年の翌年は、前年の所得が下がっている分だけ国民健康保険の保険料も下がることが多くなります。1年目は任意継続のほうが安く、2年目は国民健康保険のほうが安い、という逆転が起こり得ます。今は途中で切り替えられるので、1年経ったところでもう一度比べ直す、という進め方ができます。
やめるときは「任意継続被保険者資格喪失申出書」の提出が必要です。
保険料は全額を自分で負担します
在職中は、保険料の半分を会社が負担していました。健康保険法第161条第1項の本文が「被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する」と定めているからです。
そして同じ条のただし書きに、任意継続被保険者は、その全額を負担すると書かれています。会社の負担分がなくなるので、単純に言えば在職中の倍になります。協会けんぽの説明も「退職後は事業主負担分も負担することとなりますので、退職時の健康保険料の2倍となります」という言い方です。給与明細に載っていた健康保険料の欄の数字を2倍すると、おおよその見当がつきます。
計算の中身はこうなっています。
退職時の標準報酬月額×お住まいの都道府県別保険料率(子ども・子育て支援金率を含む)
令和8年度の保険料は3つの率を足して計算します。都道府県ごとの健康保険料率と、全国一律の子ども・子育て支援金率0.23パーセントと、40歳から64歳までの方に加わる介護保険料率1.62パーセントです。健康保険法第156条第1項第1号の条文にも子ども・子育て支援金率が入っています。2つで計算すると額が合いません。
休職していた期間に会社へ直接払っていた保険料と比べると、金額の水準は近くなります。休職中に出ていくお金を整理した休職中に受け取れるお金と出ていくお金の全体像もあわせて見ると、退職の前後で何が変わって何が変わらないのかが見えてきます。
保険料には上限があります
高い給与を受けていた方ほど関係するのが、この上限です。健康保険法第47条第1項は、任意継続被保険者の標準報酬月額を、資格を喪失したときの標準報酬月額と、前年9月30日時点の全被保険者の標準報酬月額の平均額から算出した額のうち、いずれか少ない額とすると定めています。
協会けんぽが令和7年12月10日に公表したお知らせによれば、令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限は32万円です。令和7年9月30日時点の全被保険者の標準報酬月額の平均額が318,100円で、これが標準報酬月額の第23級(32万円)に当たるためだと説明されています。退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた場合は、32万円で計算されます。
上限に当たる場合の金額を、東京支部の令和8年度の保険料額表で確かめると次のようになります。
| 年齢 | 月額の保険料(標準報酬月額32万円・東京支部・令和8年度) |
|---|---|
| 40歳未満または65歳以上 | 健康保険料31,520円+子ども・子育て支援金736円=32,256円 |
| 40歳以上65歳未満 | 上記に介護保険料が加わり、36,704円+736円=37,440円 |
保険料率は都道府県によって違うので、金額もお住まいの都道府県で変わります。ここは「上限に当たるとこのくらい」という感覚をつかむための数字として見てください。
なお、保険料は月単位で計算され、日割りはありません。加入が月初めでも月末でも同じ1か月分を納めます。
納付が遅れると、その時点で資格を失います
任意継続でいちばん怖いのはここです。健康保険法第38条第3号により、初めて納付すべき保険料を除く保険料を納付期日までに納付しなかったときは、その翌日に資格を失います。納付が遅れたことについて正当な理由があると保険者が認めたときを除くとありますが、原則としては一度の納め遅れで終わります。
国民健康保険のような減免の仕組みが任意継続にはありません。納付を続けられるかどうかは、選ぶ前に考えておく必要があります。資格を失ったあとは、国民健康保険に入るか家族の被扶養者になるかのどちらかになります。
傷病手当金は、任意継続では新しく始まりません
ここは誤解がとても多いところなので、丁寧に分けて書きます。
健康保険法第99条第1項は、傷病手当金の対象を「被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)」と書いています。条文の括弧書きで、任意継続被保険者がはっきり外されているということです。協会けんぽも、任意継続被保険者期間中に発生した病気やケガによる傷病手当金は支給されない、と案内しています。
一方で、これとはまったく別に、健康保険法第104条の資格喪失後の継続給付という仕組みがあります。退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けている人は、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けられる、という定めです。
この2つは別の話です。混ぜて考えると判断を間違えます。
| 場面 | 傷病手当金 |
|---|---|
| 任意継続被保険者になってから体調を崩した | 支給されません(第99条第1項の括弧書き) |
| 退職前から受けていて、第104条の条件を満たしている | 退職前の健康保険から受け取り続けられます。任意継続を選んでも国民健康保険に入っても変わりません |
つまり、傷病手当金を受け取りたいという理由だけで任意継続を選ぶ必要はありません。継続給付の条件や、退職日に気をつけることは傷病手当金は退職後も受け取れますにまとめてあります。そもそも自分が傷病手当金の対象になるかを確かめたい方は傷病手当金の条件は4つを先に読んでください。
国民健康保険は、市区町村ごとに違います
保険料の決まり方
国民健康保険の保険料について、この記事では具体的な金額を書きません。書けないからです。
理由は制度の作りにあります。国民健康保険法第76条第1項は、市町村は保険料を徴収しなければならないと定めていますが、率も額もこの法律には書かれていません。厚生労働省の説明でも、具体的な算定方法や徴収の期限・方法などは各市町村の条例などで定められている、とされています。同じ収入でも、住んでいる市区町村が違えば保険料が違います。
大まかな骨格だけ書いておくと、国民健康保険の保険料は世帯単位で計算され、所得に応じてかかる部分と、被保険者の人数などに応じて等しくかかる部分を組み合わせて決まります。会社の健康保険と違って扶養という考え方がなく、家族それぞれが被保険者になります。ですので、扶養している家族が多いほど、任意継続と比べたときに国民健康保険が不利になりやすい、という傾向があります。
金額を知る方法はひとつです。お住まいの市区町村の国民健康保険の窓口で試算してもらってください。前年の所得が分かる資料(源泉徴収票や課税証明書)と、退職予定日、世帯の人数を伝えれば計算してもらえます。電話で受け付けている自治体も多くあります。まだ退職していない段階でも、退職予定として試算してもらえます。
届出は14日以内です
国民健康保険法第9条第1項は、世帯主が被保険者の資格の取得・喪失に関する事項を市町村に届け出なければならないと定め、詳しいことは厚生労働省令に委ねています。その省令である国民健康保険法施行規則第3条が、法第6条各号のいずれにも該当しなくなったために被保険者の資格を取得した者があるときは、世帯主は14日以内に届書を提出しなければならない、と定めています。
ここで押さえておきたいのは、届出と資格が別だということです。国民健康保険法第7条により、資格そのものは第6条各号のいずれにも該当しなくなった日、つまり会社の健康保険を抜けた日(退職日の翌日)に発生しています。届出が遅れても、資格はその日から始まっていた扱いになります。
裏を返すと、遅れた分の保険料はさかのぼって請求されます。得はしません。そして届出が済むまでは資格の確認ができないため、病院の窓口でいったん全額を払うことになります。14日を過ぎたからといって入れなくなるわけではないので、気づいた時点で窓口へ行ってください。
手続きには、会社の健康保険をやめたことが分かる書類が必要です。協会けんぽに加入していた場合、資格喪失を証明する書類は日本年金機構(年金事務所)が発行しています。
体調を理由に辞めた人こそ、この軽減を確認してください
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい章です。
前年の給与所得を100分の30とみなします
国民健康保険法施行令第29条の7の2第1項は、特例対象被保険者等について、保険料算定の基礎となる総所得金額に給与所得が含まれている場合は、その給与所得を100分の30に相当する金額によるものとすると定めています。
国民健康保険の保険料は前年の所得で決まるので、退職した直後の年は「収入がないのに、働いていた年の所得で計算された保険料」が来ます。これがいちばんきつい時期の負担になります。この軽減は、そこに効きます。
高額療養費の所得区分の判定についても、同じく給与所得を100分の30として扱われます。同じ施行令の第29条の3(高額療養費算定基準額)に、特例対象被保険者等について同じ読替えを行う定めが置かれています。医療費の自己負担の上限にも関係するということです。
対象になるのはどういう人か
厚生労働省保険局国民健康保険課長の通知(平成22年6月10日保国発0610第1号)が、対象者をこう書いています。国民健康保険の被保険者または特定同一世帯所属者のうち、雇用保険法第23条第2項に規定する「特定受給資格者」、または同法第13条第3項に規定する「特定理由離職者であって受給資格を有するもの」であって、それぞれの受給資格に係る離職の日の翌日の属する年度の翌年度の末日までの間にある者、という定め方です。施行令第29条の7の2第2項も同じ内容です。
言い換えると、対象は次の2つです。
| 区分 | どういう人か |
|---|---|
| 特定受給資格者 | 倒産や解雇など、会社の側の事情で離職した人 |
| 特定理由離職者であって受給資格を有するもの | 有期の労働契約が更新されなかった人と、雇用保険法第33条第1項の「正当な理由」がある自己都合離職をした人(雇用保険法施行規則第19条の2) |
体調を理由に辞めた方に関係してくるのは、下の段の後半です。自己都合で辞めたつもりでいても、健康上の理由による離職は「正当な理由」がある離職として扱われる場合があり、そのときは特定理由離職者に当たり得ます。該当するかどうかを判断するのはハローワークで、判断された結果は雇用保険受給資格者証(マイナンバーカードで受給する場合は雇用保険受給資格通知)の離職理由の欄に表れます。
自分で「自己都合だから対象外だ」と決めてしまわないでください。これがこの記事で書きたかったことの中心です。特定理由離職者に当たるかどうかの判断の中身と手続きは雇用保険の話になるので、この記事では扱いません。病気で退職したときの失業保険で説明しています。ここでは、その判断が国民健康保険の保険料にもつながっているということだけ覚えておいてください。
いつまで軽減されるか
軽減の対象になる期間は、離職の日の翌日の属する年度の翌年度の末日までです。国民健康保険の年度は4月から翌年3月までなので、たとえば9月に離職した場合は、その年度の末(翌年3月)と、さらに翌年度の末(翌々年3月)までが対象になります。1年で終わりではなく、離職の時期によっては2年近く続く計算です。
なお、この期間の途中でどこかに就職して会社の健康保険に入り、その後また辞めた場合の扱いについては、先ほどの通知に例が整理されています。新たな雇用保険の受給資格が生じていなければ、軽減対象期間中は引き続き対象になる、という考え方です。
手続き
自動では適用されません。市区町村の国民健康保険の窓口への届出が必要です。持っていくのは雇用保険受給資格者証または雇用保険受給資格通知です。これはハローワークで求職の申込みなどをしたあとに交付されるものなので、国民健康保険の加入手続きより後になることがあります。その場合は、あとから届け出れば軽減が適用されます。
国民健康保険の加入手続きに行くときに、「非自発的失業者の軽減の対象になりますか」と一言聞いてください。窓口はこの制度を知っています。聞かれれば、必要な書類と手順を教えてもらえます。
家族の被扶養者になるという選択
3つ目は、配偶者や親、子どもなど、家族が入っている健康保険の被扶養者になる方法です。
保険料の負担がありません
いちばん大きな違いはここです。被扶養者になった人について、健康保険料は発生しません。家族の保険料が上がることもありません。金額だけで見れば、要件を満たすならこれがいちばん軽い選択になります。
収入の要件
問題は要件です。日本年金機構の家族を被扶養者にするときの手続きの案内(2026年7月13日更新)によれば、被扶養者に該当するには、日本国内に住所を有していて、被保険者により主として生計を維持されていることに加えて、次の収入要件を満たす必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年間収入 | 130万円未満。60歳以上または障害者の場合は180万円未満 |
| 同居している場合 | 収入が被保険者の収入の半分未満であること |
| 別居している場合 | 収入が被保険者からの仕送り額未満であること |
ここでいう年間収入は、過去の収入ではなくこれから1年間の見込みの収入です。ですので、退職前の年収が130万円を超えていたことは、それだけでは障害になりません。目安として、給与などの収入がある場合は月額108,333円以下、雇用保険等の受給者の場合は日額3,611円以下であれば要件を満たす、と書かれています。
なお、扶養認定日が令和7年10月1日以降で、認定を受ける方が19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)の場合は150万円未満に変わっています。また、令和8年4月1日以降は、給与収入のみの場合に労働契約の内容から年間収入を判定する取扱いも始まっています。
傷病手当金も失業保険も、収入に入ります
ここを知らずに扶養の手続きを進めて、あとで外れることになる方がいます。
日本年金機構の案内には、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれますと、はっきり書かれています。給与だけを数えるのではないということです。
具体的に注意が要るのは次の2つです。
- 傷病手当金を受け取りながら扶養に入ろうとする場合。傷病手当金は日額で支給されるので、日額に365を掛けた見込み額が基準に照らされます
- 失業保険(基本手当)を受け取る場合。日本年金機構の案内には、雇用保険の待期期間中でも収入要件を満たしていれば被扶養者として認定することは可能だが、基本手当(3,612円以上)の支給が始まった場合は扶養削除の届出が必要と書かれています
つまり、給付を受け始めるタイミングで扶養から外れることがあり、そのときは自分で国民健康保険に入り直すことになります。入れるかどうかだけでなく、いつまで入っていられるかも先に確認してください。
そして、認定の運用は保険者ごとに違います。協会けんぽ(日本年金機構が認定します)と健康保険組合では、必要な書類も判断の細かさも変わります。確認先は、家族の勤め先を通じて、家族が加入している健康保険です。一般的な質問として先に聞いておけば、書類をそろえてから断られる事態を避けられます。
4つの観点で並べてみます
金額の比較表は作れません。国民健康保険が市区町村ごとに違うので、並べた瞬間に嘘になるからです。かわりに、判断に効く観点で並べます。
| 観点 | 任意継続 | 国民健康保険 | 家族の被扶養者 |
|---|---|---|---|
| 保険料の決まり方 | 退職時の標準報酬月額×都道府県別の保険料率。全額自己負担。上限は令和8年度で標準報酬月額32万円。原則2年間変わらない | 前年の所得と世帯の人数などにより、市区町村ごとの計算で決まる。翌年度は前年の所得が下がる分だけ下がることが多い | 負担なし |
| 期限 | 資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内。正当な理由があると保険者が認めれば例外あり | 14日以内。ただし遅れても加入はできる(保険料はさかのぼる) | 家族の勤め先の手続きによる。事実発生から5日以内が原則 |
| 扶養家族の扱い | 被扶養者の保険料はかからない | 扶養の考え方がなく、家族それぞれが被保険者になる | 本人が被扶養者になるので、家族の人数の話にはならない |
| 傷病手当金との関係 | 任意継続の期間中に始まった傷病では支給されない。退職前からの継続給付は別に受けられる | 国民健康保険に傷病手当金は原則ない。退職前からの継続給付は別に受けられる | 傷病手当金は収入に算入されるため、額によっては扶養に入れない |
もうひとつ、軽減の有無という観点があります。非自発的失業者の軽減の対象になる場合、国民健康保険の側の金額が大きく変わるので、それを確かめる前に比較しても意味がありません。
決める順番
やることを順番に並べます。上から順にやれば、20日の期限に間に合います。
- 退職前に、会社に標準報酬月額を確認する。給与明細の健康保険料の欄でも見当がつきます。この数字が任意継続の保険料の元になります。あわせて、退職日と資格喪失日、健康保険の資格喪失証明がいつ出るかも聞いておきます
- 加入している健康保険に、任意継続にした場合の保険料を確認する。協会けんぽならお住まいの都道府県支部です。40歳以上65歳未満の方は介護保険料が加わることも伝えてください
- 市区町村の国民健康保険の窓口で試算してもらう。このとき「非自発的失業者の軽減の対象になりますか」も必ず聞きます。離職理由がまだ確定していない段階なら、対象になった場合とならなかった場合の両方を聞いておくと判断しやすくなります
- 家族の扶養に入れる可能性があるなら、家族の勤め先を通じて健康保険に確認する。傷病手当金や失業保険を受け取る予定があることを、隠さずに伝えてください
- 20日目から逆算して、決める日を決めておく。迷ったまま20日が過ぎると、任意継続という選択肢だけが消えます。国民健康保険と扶養はあとからでも入れます
1から3までを電話で済ませれば、半日はかからないと思います。体調が悪いときにこれを全部やるのはしんどいので、3の市区町村の試算だけは家族に代わりに聞いてもらう、といった分け方をしても構いません。
保険料が払えそうにないとき
最後に、この話を避けずに書いておきます。
国民健康保険には減免と徴収猶予の仕組みがあります。国民健康保険法第77条は、市町村及び組合は、条例又は規約の定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができると定めています。厚生労働省の国民健康保険の保険料・保険税についての案内でも、災害その他特別の事情により保険料(税)を納めることが困難な場合は、減免や納付猶予を受けられる場合があるとされていて、まずは市町村の国民健康保険の窓口へ問い合わせるよう書かれています。
どういう事情なら認められるかは、市区町村の条例で決まっています。ですので、ここで「こういう場合は通ります」とは書けません。ただ、相談できる窓口があること自体は、全国どこでも同じです。所得が大きく下がったことを理由にした減免を設けている自治体もあります。
任意継続には、この仕組みがありません。先に書いたとおり、納付期日までに納めないと資格を失います。払い続けられるか不安がある段階なら、任意継続を選ぶ前に、国民健康保険の窓口で減免の相談ができるかを聞いておいてください。制度の作りが違うので、選び直しがきくかどうかもここで変わってきます。
通院費そのものを軽くする制度もあります。精神科の通院医療費の自己負担を原則1割にする自立支援医療(精神通院医療)は、どの健康保険に入っていても使えます。健康保険を切り替えたときは変更の届出が必要になるので、自立支援医療制度で精神科の通院費を1割にする手順もあわせて見ておいてください。
今日は、日付をひとつ書き留めるだけで大丈夫です
ここまで読んで、決めることが多いと感じたと思います。全部を今日やる必要はありません。
いちばん効くのは、退職日の翌日から数えて20日目がいつなのかを、どこかに書いておくことです。カレンダーでもメモでも構いません。その日付が決まると、それまでに何を聞けばいいかが自然に決まります。逆に、この日付が頭にない状態でほかのことを調べ始めると、いちばん取り返しのつかないものだけが手からこぼれていきます。
そのうえで、金額のことは焦らなくて大丈夫です。国民健康保険は遅れても入れますし、扶養もあとから手続きできます。試算は電話でもしてもらえます。3つとも「聞けば教えてもらえること」なので、調べ尽くしてから決める必要はありません。
保険証がどうなるか分からないという状態は、それだけで落ち着かないものだと思います。ただ、どれを選んでも、病院にかかれなくなることはありません。窓口での負担割合も、3つのどれでも変わりません。変わるのは毎月払う額と、手続きの場所だけです。まずは20日目の日付から始めてください。
わたしたちは就労支援の現場で、退職後の保険証のことで慌てている方に会うことがあります。どれが安いのかを調べているうちに20日が過ぎてしまうのが、いちばん惜しい形です。比べるのはあとからでもできるので、期限のあるほうを先に押さえておいてください。
