休職から戻る話が具体的になってくると、手続きとは別のところに、答えの出ない問いが残ることがあります。あの職場に戻るのか、という問いです。診断書のことも、傷病手当金のことも段取りがついて、体調も上向いてきた。それでもこの一点だけは、自分の中で決着がつかないまま残る、ということが起きます。
この記事が書くのは制度の話だけです。国が示している職場復帰支援の手引きが、復帰先について何と書いているか。どういうときに配置転換や異動が検討されることになっているか。誰に何を相談すると話が動くか。この3つに絞ります。診断名ごとにどうすべきかという話はしません。手引き自体が、診断名で場合分けをしていないからです。
先に結論を言っておくと、手引きは「まずは元の職場への復帰」を原則としています。ただしこれは、我慢して戻れという意味ではありません。原文を読むと、そこはかなりはっきりしています。
国の手引きは「まずは元の職場への復帰」を原則としている
手引きが示している復帰先の順番
- 1まずは元の職場に戻るここでいう元の職場とは、休職が始まったときの職場のこと
- 2業務負担を軽減しながら経過を観察するある程度のペースがつかめるまで、軽くした業務量で様子を見る
- 3その上で、配置転換や異動を考慮する今後配置転換や異動が必要と思われる事例でも、順番としては後に置かれている
厚生労働省の心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きは、平成16年10月に作られ、平成21年3月と平成24年7月に改訂されています。会社が自社の職場復帰支援の仕組みを作るときの土台になる文書です。
その「(4)職場復帰後における就業上の配慮等」の中に、「ア 『まずは元の職場への復帰』の原則」という項目があります。原文はこうです。
職場復帰に関しては元の職場(休職が始まったときの職場)へ復帰させることが多い。
まず確認しておきたいのは、ここでいう「元の職場」が、休職が始まったときの職場を指していることです。休職の直前にいた場所であって、何年も前に在籍していた職場ではありません。
なぜ元の職場が原則なのか
理由も、続けて書かれています。
これは、たとえより好ましい職場への配置転換や異動であったとしても、新しい環境への適応にはやはりある程度の時間と心理的負担を要するためであり、そこで生じた負担が疾患の再燃・再発に結びつく可能性が指摘されているからである。
読み方を間違えやすいところなので、言い換えておきます。ここで言われているのは、元の職場のほうが良いということではありません。新しい環境に移ること自体にも負担がかかる、ということです。しかも「たとえより好ましい職場への配置転換や異動であったとしても」と、わざわざ断りが入っています。希望どおりの異動でも、慣れるまでには時間と心理的な負担がかかる。それが復職と同時に来るのは重い、という組み立てです。
つまりこの原則は、「元の職場に耐えなさい」という話ではなく、負担を一度に二つ重ねないための順番の話として書かれています。手引きの続きを読むと、その意図がさらにはっきりします。
これらのことから、職場復帰に関しては「まずは元の職場への復帰」を原則とし、今後配置転換や異動が必要と思われる事例においても、まずは元の慣れた職場で、ある程度のペースがつかめるまで業務負担を軽減しながら経過を観察し、その上で配置転換や異動を考慮した方がよい場合が多いと考えられる。
「今後配置転換や異動が必要と思われる事例においても」という一文が入っています。手引きは、異動が必要なケースがあることを前提に書いています。そのうえで、順番として先に元の職場を置いている。「まずは」であって「ずっと」ではない、ということです。
戻ることと、元どおりに働くことは別
もうひとつ、原則とセットで押さえておきたいことがあります。元の職場に戻るというのは、元の仕事量に戻るという意味ではありません。手引きは、復職後の就業上の配慮についてこう書いています。
数か月にわたって休業していた労働者に、いきなり発病前と同じ質、量の仕事を期待することには無理がある。
そのうえで、短時間勤務、残業・深夜業務の禁止、出張制限といった配慮の例が並べられています。復職の段取り全体(5つのステップ、職場復帰支援プラン、試し出勤など)は、復職の進め方に分けてあります。
例外として配置転換や異動が検討される場合
原則の直後に、例外が書かれています。ここが、この記事でいちばん確認したかった箇所です。
ただし、これはあくまでも原則であり、異動等を誘因として発症したケースにおいては、現在の新しい職場にうまく適応できなかった結果である可能性が高いため、適応できていた以前の職場に戻すか、又は他の適応可能と思われる職場への異動を積極的に考慮した方がよい場合がある。
異動や配置転換のあとに不調になった場合について、手引きは名指しで例外を置いています。しかも「積極的に考慮した方がよい」という書き方です。この場合の「元の職場」は、休職の直前にいた職場ではなく、その前の、適応できていた職場を指すことになります。異動して数か月で休職に入った方にとっては、意味の大きい一文だと思います。
例外はこれだけではありません。続きにこう書かれています。
その他、職場要因と個人要因の不適合が生じている可能性がある場合、運転業務・高所作業等従事する業務に一定の危険を有する場合、元の職場環境等や同僚が大きく変わっている場合などにおいても、本人や職場、主治医等からも十分に情報を集め、総合的に判断しながら配置転換や異動の必要性を検討する必要がある。
整理すると、手引きが挙げている例外は次の4つです。
- 異動などを誘因として発症したケース
- 職場の要因と個人の要因の不適合が生じている可能性がある場合
- 運転業務や高所作業など、従事する業務に一定の危険がある場合
- 元の職場環境や同僚が大きく変わっている場合
2番目は幅の広い書き方ですが、それだけに、本人の側から材料を出す余地があるところです。そして最後に「本人や職場、主治医等からも十分に情報を集め」とあります。本人が情報源のひとつとして名指しされていることは、覚えておいてよいと思います。
会社の人事権と、本人の希望はどう扱われるのか
では、希望を言えばそのとおりになるのか。ここは正直に書いておきます。なりません。
希望は「集める情報」として位置づけられている
手引きは、復職の可否を判断する段階(第3ステップ)で会社が集める情報の一覧を示しています。その中に「今後の就業に関する労働者の考え」という項目があり、次の3つが挙げられています。
- 希望する復帰先
- 希望する就業上の配慮の内容や期間
- その他管理監督者、人事労務管理スタッフ、事業場内産業保健スタッフに対する意見や希望(職場の問題点の改善や勤務体制の変更、健康管理上の支援方法など)
希望を言うことは、手引きの手順の中にあらかじめ組み込まれています。わがままとして扱われる筋合いのものではありません。
ただし、希望がそのまま決定になるわけではない
同じ手引きの、職場復帰支援プランを作る場面には、こう書かれています。
また、本人の希望のみによって職場復帰支援プランを決定することが円滑な職場復帰につながるとは限らないことに留意し、主治医の判断等に対する産業医等の医学的な意見を踏まえた上で、総合的に判断して決定するよう気をつける必要がある。
最終的な職場復帰の決定は、事業者が行うものとして手引きに書かれています。配置転換や異動についての配慮を担当するのは人事労務管理スタッフだ、という役割分担も明記されています。希望を伝える相手と、決める人が違う、という構造です。
会社の側にかかっている制約
一方で、会社が何をしてもよいということでもありません。手引き自体が、処遇の変更を伴う場合について次のように書いています。
処遇の変更及び変更後の処遇の内容について、あらかじめ就業規則に定める等ルール化しておくとともに、実際の変更は、合理的な範囲とすること、また、本人にその必要性について十分な説明を行うことがトラブルの防止につながる。
もうひとつ、厚生労働省の労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針には、不利益な取扱いの防止という項目があります。心身の状態の情報の取扱いに労働者が同意しないことや、その情報の内容を理由として、「不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること」は、原則として行ってはならないとされています。配置転換は、体調の情報を理由にした事実上の処分に使ってよいものではない、ということです。
法律の側の一般的な枠としては、労働契約法第3条が、労働契約は労働者と使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、変更すべきものとしたうえで、権利の行使にあたってそれを濫用してはならないと定めています。
そのうえで、手引きは復職の可否をめぐる裁判例について、こう注意を促しています。
なお、これらの判例の中には、労働者と職種を限定した雇用契約を結んでいる場合と、職種を限定しない契約を結んでいる場合とで、異なった判断をしているものがある。
自分の雇用契約が職種を限定したものかどうかで、扱いが変わることがある、ということです。ここから先は個別の契約と就業規則の話になります。配置転換の範囲も休職からの復帰の扱いも会社ごとに違い、全国共通の答えはありません。自分の会社の就業規則を確認するのが、いちばん確かな一歩になります。
誰に、何を相談するのか
相談相手は4人いて、それぞれ役割が違います。同じ話を4回するより、相手ごとに渡す材料を変えたほうが話が動きます。
| 相手 | 主に伝えるとよいこと | その人ができること |
|---|---|---|
| 主治医 | 復職後に働くことになる職場の具体的な状況(業務の内容と量、勤務時間、通勤、上司や同僚との関係、会社にある制度) | 職場復帰が可能かどうかの判断、就業上の配慮についての意見を診断書や意見書に書くこと |
| 産業医など | 職場で自分に求められる業務の実態と、体調との関係。主治医に伝えてある内容と伝えていない内容 | 主治医から情報や意見を集めること、医学的な立場から会社に意見を述べること、三者面談の設定 |
| 人事労務管理スタッフ | 希望する復帰先、就業規則や配置転換の規定について確認したいこと、勤務制度の変更の希望 | 労働条件の改善、配置転換や異動についての配慮、勤務制度の変更の検討 |
| 上司(管理監督者) | 復帰後にできること、まだ負担が大きいこと、業務量やサポートの希望 | 業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、復帰後の観察とフォロー |
主治医に職場の情報が届いていないと、判断がずれます
この表の中で、いちばん見落とされやすいのが1行目です。主治医は、あなたの職場を見たことがありません。診察室で聞いた話だけが情報源です。
手引きは、この点を会社側の課題として書いています。第2ステップの記述です。
ただし現状では、主治医による診断書の内容は、病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、それはただちにその職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らないことにも留意すべきである。
そのうえで、次のように続きます。
あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力の内容や社内勤務制度等に関する情報を提供した上で、就業が可能であるという回復レベルで復職に関する意見書を記入するよう依頼することが望ましい。
会社が主治医に職場の情報を渡してから意見書を書いてもらうのが望ましい、と書かれているということです。手引きの後半にも、主治医に対して関係者それぞれの立場や役割、試し出勤制度や就業上の配慮などの社内の規則、本人に求められる業務の状況について十分な説明を行うことが必要だとあり、状況によっては主治医と本人を含めた三者面談を行うことも考えられる、とされています。
ただし、これが実際に行われているかは会社によります。行われていない場合、主治医は職場の実態を知らないまま「復職可」と書くことになります。復帰先の希望を出したいなら、まず主治医に職場の状況が伝わっているかを確認するのが先です。こころの耳の職場復帰のガイダンスでも、産業医や人事労務管理者が本人を経由して主治医と連携する手順が紹介されています。
なお、産業医が主治医に情報提供を依頼するときは、本人の同意を得たうえで行うこととされています。手引きに付いている「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」の様式例にも、本人が同意を記入する欄が設けられています。知らないうちに主治医とやりとりが進む、という形にはなっていません。
診断書そのものの書き方や依頼の仕方は、復職の診断書にまとめてあります。
「気まずい」は、あなたの気の持ちようの問題ではありません
戻ることを考えるときに出てくる気持ちのうち、「気まずい」は扱いにくいものだと思います。制度の話にならず、自分の弱さの話になってしまいがちだからです。ここは手引きの側から見ておきます。留意すべき事項の中に、次の一文があります。
職場復帰支援をスムーズに進めるためには、休業していた労働者とともに、その同僚や管理監督者に対する過度の負担がかからないように配慮する必要があること。
配慮する主語は会社です。復帰する本人だけでなく、周りにかかる負担も会社が調整する対象として書かれています。同じ趣旨は、復職後のフォローアップの段階にも「管理監督者、同僚等への配慮等」という項目として置かれ、管理監督者や同僚に対して心の健康問題に関する教育研修や情報提供を行うことが望ましい、とされています。
復職の可否を判断するときに評価する項目にも、職場側の状態が入っています。
- 業務と労働者の能力及び意欲・関心との適合性
- 職場の同僚や管理監督者との人間関係など
- 復帰者を支える職場の雰囲気やメンタルヘルスに関する理解の程度
- 実施可能な就業上の配慮、実施可能な人事労務管理上の配慮
「職場の雰囲気」も「人間関係」も、評価される項目として並んでいます。手引きは復職の判断基準についても、労働者の業務遂行能力が復帰時にはまだ病前のレベルまで完全に改善していないことも考慮したうえで、「職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断する」としています。片側だけを見る設計になっていません。
さらに手引きは冒頭で、心の健康問題については「健康問題以外の観点から評価が行われる傾向が強いという問題や、心の健康問題自体についての誤解や偏見等解決すべき問題が存在していること」に留意する必要があると述べています。気まずさの一部は、その誤解や偏見が場に残っていることから来ています。一人で引き受ける話にはなっていません。
復職そのものへの不安や怖さの扱い方は、復職が怖いときに分けてあります。
ハラスメントや長時間労働が背景にある場合は、別の話になります
背景にハラスメントや長時間労働がある場合は、話の筋が変わります。配置転換の希望として処理してしまうと、原因のほうが職場に残ります。
パワーハラスメントについては、労働施策総合推進法に基づき、事業主に防止措置が義務づけられています。厚生労働省の職場におけるハラスメントの防止のためにによると、令和2年6月1日に施行され、令和4年4月1日からは中小企業の事業主にも義務化されました。事業主が講ずべき措置には、方針を明確化して労働者に周知・啓発すること、相談や苦情に応じ適切に対応するために必要な体制を整備すること、相談があった場合に事実関係を迅速かつ正確に確認して適正に対処し再発防止に向けた措置を講ずることなどが挙げられています。相談窓口を置くことは、会社の義務です。社内で相談しにくい場合の外部の窓口としては、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が案内されています。
もうひとつ、都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などに置かれている総合労働相談コーナーがあります。厚生労働省の総合労働相談コーナーのご案内によると全国378か所にあり、解雇、雇止め、配置転換、賃金の引下げ、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど、あらゆる分野の労働問題を対象としています。専門の相談員が面談または電話で対応し、利用は無料、予約も不要です。個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づく「助言・指導」や「あっせん」の案内も行われています。
相談したからといって、必ず何かを申し立てなければならないわけではありません。まず状況を整理するために使える窓口です。
戻らないという選択肢もあります
ここまで書いてきたのは、復職するという前提での話です。職場復帰支援の手引きも復職を前提に作られた文書なので、戻らない道については何も書いていません。
けれども、退職や転職という形になる場合もあります。そのときに何があるか、たとえば雇用保険の受給期間の延長といった制度については、「休職したら終わり」は本当かで扱っています。転職を勧めるつもりはありません。そういう道も制度としては用意されている、ということだけ置いておきます。
今日、戻るか変えるかを決めなくて構いません
手引きを最後まで読んで、いちばん意外だったのは、この文書が「元の職場に戻すか、異動させるか」を二択として扱っていないことでした。まずは元の職場で、負担を軽くしながら様子を見て、そのうえで考える。そういう順番として書かれています。復職後にまた不調になったときも含めて、復帰支援プランを評価して見直すことが前提になっています。決定は一度で終わりません。
だから、いま自分の中で答えを出しておかなければ、ということはありません。決めておいたほうがよいのは、結論ではなく材料のほうです。異動の直後に不調になったのか。業務の内容と自分の状態がどう合わなかったのか。職場の顔ぶれは変わったのか。ハラスメントや長時間労働はあったのか。これらは、手引きが集めるべき情報として挙げているものと重なります。
そして、その材料を最初に渡す相手は主治医です。職場のことが伝わっていないまま復職可の判断が出ると、そのあとの話がすべてずれていきます。次に会うときに、いまの職場のことを一度話してみる。今日のところは、それだけで十分だと思います。
わたしたちは就労支援の現場で、適応障害と診断された方に会うことがあります。話を聞いていて感じるのは、環境との組み合わせで起きたことを、自分の弱さの問題として引き受けてしまっている方が多いことです。何が合わなかったのかを言葉にしておくと、次に同じ組み合わせを避けるための材料になります。自分を責めるための材料にはしないでください。
