復職の話が具体的になってくると、休みはじめのころとは違う重さが出てきます。主治医からそろそろどうかと言われた、会社から面談の連絡が来た、休職期間の満了日が近づいている。きっかけはいろいろですが、日付が近づくほど、戻ること自体が怖くなります。
怖さを消す方法は、この記事には書けません。かわりにやるのは、怖さの中身を分けることです。「復職が怖い」とひとかたまりで抱えているうちは打つ手が見えませんが、「また同じように潰れるのが怖い」「いきなり毎日フルタイムは無理だと思う」「あの上司と同じ部屋に戻るのが怖い」と分けていくと、それぞれに制度の側が用意しているものが対応します。
以下は、厚生労働省と独立行政法人労働者健康安全機構が出している改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きを中心に、公的な資料で確認できたものだけを並べたものです。不安が消えないままでも、どこへ話を持っていけばいいかは決められます。
怖さの中身と、用意されている仕組みの対応表
先に全体を並べます。それぞれの根拠は、このあとの節で確認します。
| 怖さの中身 | 制度として用意されているもの |
|---|---|
| また同じように潰れるのではないか | 復帰後の労働負荷を軽減し、段階的に元へ戻す配慮が重要だと手引きに書かれています。業務内容や業務量の変更は職場復帰支援プランの検討項目です |
| いきなり毎日フルタイムは無理だ | 短時間勤務、軽作業や定型業務への従事、残業・深夜業務の禁止などが、就業上の配慮の例として示されています |
| 働く感覚が戻っているか確かめたい | 会社に試し出勤制度がある場合は、正式な復帰決定の前に試せます。会社の外には地域障害者職業センターのリワーク支援があり、利用料はかかりません |
| 同じ上司、同じ環境に戻るのが怖い | 「まずは元の職場への復帰」が原則ですが、配置転換や異動の必要性は職場復帰支援プランで検討する項目に入っています |
| 周囲にどう思われるかが怖い | 受け入れる側の管理監督者や同僚に過度の負担がかからないよう配慮することは、会社側がやることとして書かれています |
| 復帰してまた休んだら終わりではないか | 第5ステップとして職場復帰後のフォローアップが手順に組み込まれています。プランの評価と見直しまで含まれます |
| お金が心配で焦ってしまう | 傷病手当金の支給期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月です |
| そもそも決められない | 復職の可否は主治医の診断書、産業医等の意見、会社の判断を経て決まります。ひとりで決める手順にはなっていません |
復職の全体の段取り、つまり5つのステップが何で、職場復帰支援プランに何を書くのかは復職の進め方にまとめてあります。この記事は、その手順のうち「怖さ」に効く部分だけを抜き出したものです。
また同じように潰れるのではないか、という不安
前と同じ働き方に戻れば、前と同じ結果になるのではないか、という不安です。
手引きは、そこを前提として扱っています。「数か月にわたって休業していた労働者に、いきなり発病前と同じ質、量の仕事を期待することには無理がある」と書いたうえで、うつ病などでは回復過程においても状態に波があることも事実だと続けています。そのため、職場復帰後の労働負荷を軽減し、段階的に元へ戻す等の配慮は重要な対策となる、という組み立てです。
つまり、復帰した日から元の業務量に戻す設計にはなっていません。職場復帰支援プランを作る場面についても、「通常、元の就業状態に戻すまでにはいくつかの段階を設定しながら経過をみる」とされていて、各段階に応じた内容と期間を設定する必要があると書かれています。
プランに書き込まれる、業務上の配慮
その段階の中身は、職場復帰支援プランという文書に書き込まれます。プランの検討項目には、管理監督者による就業上の配慮として「業務内容や業務量の変更」「段階的な就業上の配慮(残業・交替勤務・深夜業務等の制限または禁止、就業時間短縮など)」が並んでいますし、人事労務管理上の対応として配置転換や異動の必要性も挙げられています。
ここで押さえておきたいのは、これらが個人的なお願いではなく、手順の中に最初から用意されている検討項目だという点です。復帰前の面談で業務量の話を出すことは、想定されている流れの一部にあたります。
なお、手引きには反対方向の注意も書かれています。同僚に比べて過度に業務を軽減されることは逆にストレスを高めることもあるので、負荷業務量等についての調整が必要である、という記述です。どの配慮をどの順番で適用するかは主治医に相談するなどして慎重に検討するのが望ましい、という整理になっています。
いきなり毎日フルタイムは無理だ、という不安
体感としての段差の話です。仕組みは二種類あります。復帰後に効くものと、復帰の前に使えるものです。
復帰後の就業上の配慮
手引きが挙げている具体例は次のとおりです。
- 短時間勤務
- 軽作業や定型業務への従事
- 残業・深夜業務の禁止
- 出張制限、交替勤務制限
- 業務制限(危険作業、運転業務、窓口業務、苦情処理業務等の禁止または免除)
- フレックスタイム制度の制限または適用
- 転勤についての配慮
短時間勤務については、適切な生活リズムが整っていることが望ましいという観点から、始業時間を遅らせるのではなく終業時間を早めるほうが望ましい、というところまで書かれています。
配慮の内容は、事業者による最終的な職場復帰の決定のときに本人へ通知されることになっていて、口約束のまま曖昧に始まる想定にはなっていません。処遇の変更を行う場合も、あらかじめ就業規則に定める等ルール化しておくこと、実際の変更は合理的な範囲とすることがトラブルの防止につながる、とされています。
試し出勤制度。ただし、会社にある場合に使えるものです
「職場復帰における支援」に取り組んでいる事業所の割合
復帰の前に助走をつける仕組みとして、手引きは次の3つを例示しています。
| 呼び方 | 内容 |
|---|---|
| 模擬出勤 | 通常の勤務時間と同様な時間帯に、デイケア等で模擬的な軽作業やグループミーティング等を行ったり、図書館などで時間を過ごす |
| 通勤訓練 | 自宅から職場の近くまで通常の出勤経路で移動し、そのまま、または職場付近で一定時間を過ごした後に帰宅する |
| 試し出勤 | 職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する |
手引きは、これらの制度があると、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができ、長期に休業している労働者にとっては就業に関する不安の緩和に寄与する、と説明しています。
ただし、ここは正確に読む必要があります。手引きの書き方は「社内制度として……試し出勤制度等を設けている場合」です。会社が制度として用意している場合に使えるもので、どの会社にもあるとは限りません。 厚生労働省の令和7年(2025年)「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況では、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、取組内容として「職場復帰における支援(職場復帰支援プログラムの策定を含む)」を挙げた事業所は23.5%でした。規模別にみると1,000人以上の事業所で90.1%、100〜299人で42.0%です。会社の規模によって、用意されているものはかなり違います。
制度がある場合も、手引きは留意点を挙げています。この間の処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけについて、あらかじめ労使間で検討しルールを定めておくこと。使用者が作業の指示を与えたり作業内容が業務にあたる場合などには労働基準法等が適用される場合があり、賃金等について合理的な処遇を行うべきこと。主治医からも、試し出勤等が本人の療養を進める上での支障とならないとの判断を受けること。そして、いたずらに長期にわたることは避けること。制度が事業場の側の都合ではなく、労働者の職場復帰をスムーズに行うことを目的として運用されるよう留意すべきである、とも明記されています。
会社の外にある仕組み
会社に制度がない場合や、その前の段階から準備したい場合には、会社の外にも仕組みがあります。全国の地域障害者職業センターが行うリワーク支援です。運営は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構で、民間企業などの雇用保険適用事業所に雇用されている休職中の方が対象になります。大阪障害者職業センターのリワーク支援の案内には「リワーク支援に利用料はかかりません」と明記されています。
内容としては、生活リズムの再構築や体調の自己管理、体力回復と集中力の確認、職場復帰に必要な基礎知識の習得、コミュニケーション技法の体験などが挙げられています。企業の担当者には、職場復帰の受け入れ準備のアドバイスが行われます。東京障害者職業センターの案内では、休職中の社員、企業の担当者、主治医の3者による協働体制を作ることが重要だとされていて、利用説明会からプログラム終了までの期間はおおむね4〜6か月程度と書かれています。支援の実施には本人、主治医、事業所の同意が必要です。
自分ひとりで会社と交渉する構図にはならない、というのがこの仕組みの特徴です。詳しくはリワークとは何かにまとめています。
同じ上司、同じ環境に戻るのが怖い
具体的な人の顔や、特定のフロアの光景が浮かんで動けなくなる、という怖さです。ここは手引きの原則を正確に知っておいたほうがいいところです。
手引きは「まずは元の職場への復帰」を原則としています。理由も書かれていて、たとえより好ましい職場への配置転換や異動であったとしても、新しい環境への適応にはある程度の時間と心理的負担を要するためであり、そこで生じた負担が疾患の再燃・再発に結びつく可能性が指摘されているから、というものです。今後配置転換や異動が必要と思われる事例でも、まずは元の慣れた職場である程度のペースがつかめるまで業務負担を軽減しながら経過を観察し、その上で配置転換や異動を考慮したほうがよい場合が多い、とされています。
この原則は、罰として元の場所に戻される、という意味ではありません。環境が変わることの負担のほうを重く見た結果として置かれています。
そのうえで、手引きは例外もはっきり書いています。異動等を誘因として発症したケースでは、現在の新しい職場にうまく適応できなかった結果である可能性が高いため、適応できていた以前の職場に戻すか、他の適応可能と思われる職場への異動を積極的に考慮したほうがよい場合がある、というものです。元の職場環境等や同僚が大きく変わっている場合なども挙げられていて、本人や職場、主治医等から情報を集めて総合的に判断しながら、配置転換や異動の必要性を検討する必要があるとされています。
さらに、復職の可否を判断するために集める情報の中には「今後の就業に関する労働者の考え」という項目があります。中身は、希望する復帰先、希望する就業上の配慮の内容や期間、そして職場の問題点の改善や勤務体制の変更などについての意見や希望です。戻る先について希望を述べる場が、手順の中に用意されています。
元の職場に戻るのか、変えてもらうよう相談するのか。その判断そのものは適応障害からの復職。同じ職場に戻るかどうかで扱います。この記事で言えるのは、相談する先と、相談する場面が制度として決まっている、というところまでです。
周囲にどう思われるかが怖い
自分が抜けたぶんを誰かが背負っていたはずだ、戻ったときにどんな顔をされるだろう、という怖さです。
手引きの第5ステップには「管理監督者、同僚等への配慮等」という項目があります。そこには、職場復帰する労働者への配慮や支援を行う管理監督者や同僚等に、過度の負担がかかることがないように配慮することが望ましい、と書かれています。あわせて、管理監督者や同僚に対してラインケア、セルフケアを促進するための教育研修・情報提供を行うことが望ましい、ともされています。同僚の負担をどう調整するかは、会社側の項目として整理されています。
もうひとつ知っておいてよいのが、復職の可否を判断するときに評価されるのが本人の状態だけではない、という点です。手引きは「職場環境等の評価」という項目を立てていて、その中に「職場側による支援準備状況」が入っています。具体的には、復帰者を支える職場の雰囲気やメンタルヘルスに関する理解の程度、実施可能な就業上の配慮、実施可能な人事労務管理上の配慮です。評価されるのは自分だけではなく、受け入れる側の準備状況も対象に入っています。
休んでいることへの後ろめたさそのものについては、休職中の罪悪感がつらいときで、休職と傷病手当金がどう位置づけられているかを整理しています。
復帰してまた休んだら、今度こそ終わりではないか
これも制度の作りで答えられる部分があります。手引きの5つのステップの最後は「職場復帰後のフォローアップ」です。復帰したら終わり、という設計ではありません。
フォローアップの面談で見るのは、疾患の再燃・再発や新しい問題の発生等の有無、勤務状況および業務遂行能力の評価、プランの実施状況と治療状況の確認、プランの評価と見直し、職場環境等の改善、管理監督者や同僚等への配慮です。
この第5ステップの前置きにあたる部分の書き方が、いちばんはっきりしています。職場復帰の可否の判断やプランの作成には多くの不確定要素が含まれることが少なくない。また、たとえ周到に職場復帰の準備を行ったとしても、実際には様々な事情から当初の計画通りに職場復帰が進まないこともある。だからこそ職場復帰後の経過観察とプランの見直しも重要になる、という流れです。計画どおりに進まないことが、あらかじめ想定に入っています。
具体的な対応も書かれています。職場復帰後に、突発的な休業等が職場復帰決定時に想定していた程度を超えるような場合は、事業場内産業保健スタッフ等が面接を行い、主治医と連携をとりながら適切な対応を検討すべきである、というものです。
復帰後に実際に調子が落ちたときの動き方は復職後にまた不調になったときで扱います。ここで確認しておきたいのは、それが手順の外にある事故ではなく、手順の中に置かれている想定だということです。
お金が心配で、焦ってしまう
怖いのに急いでしまう理由として、収入の問題があります。ここは事実だけ置きます。
健康保険の傷病手当金の支給期間は、令和4年1月1日から通算方式になりました。厚生労働省の傷病手当金の支給期間の通算化についての説明では、同一のケガや病気に関する傷病手当金の支給期間は支給開始日から通算して1年6か月に達する日までが対象で、途中で就労するなど支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても繰り越して支給可能になります。
この記事は、だから早く復帰したほうがいいとは書きません。むしろ逆の記述が公的な資料にあります。厚生労働省こころの耳のメンタルヘルス不調の治療と休業には、症状が軽快しても焦って職場復帰を試みると症状が再び悪化し、再休業に至ることがあり、結果としてそのまま休業を継続していた場合よりも働けない期間が長くなってしまうこともある、と書かれています。そして、早く復帰したいと思う場合でも自分の判断だけで話を進めるのではなく主治医によく相談するように、と続きます。
支給されないケースについては傷病手当金がもらえないケースにまとめてあります。休職期間の満了日や、満了しても復職できない場合の扱いは会社の就業規則で決まっているので、日付だけでも早めに確認しておくと、選べる手が変わります。
まだ決められない、という状態のまま相談していい
最後に、決められないことそのものについてです。
復職の可否は、本人ひとりが決める手順にはなっていません。手引きの流れでは、本人が復職の意思を伝え、主治医が職場復帰可能という判断を記した診断書を出し、産業医等が職場で必要とされる業務遂行能力と照らして意見を述べ、事業場内産業保健スタッフ等を中心に可否を判断し、最終的に事業者が決定します。診断書に何が書かれるのか、どう依頼するのかは復職の診断書にまとめています。
そのうえで、手引き自身が適用範囲を限定しています。付記には、本手引きの第3ステップ以降は、医学的に業務に復帰するのに問題がない程度に回復した労働者を対象としたものである、と明記されています。そして、この適用が困難な場合には、主治医との連携の上で、地域障害者職業センター等の外部の専門機関が行う職業リハビリテーションサービス等の活用について検討することが考えられる、と書かれています。まだそこまで回復していないという状態は、手順の外に落ちるのではなく、別の支援に接続される場所として書かれているわけです。復職しないという選択を今日決める必要もありません。
手引きには、休業そのものについての記述もあります。疾病による休業は、多くの労働者にとって働くことについての自信を失わせる出来事である、というものです。そのうえで、必要以上に自信を失った状態での職場復帰は健康および就業能力の回復に好ましくない影響を与える可能性が高いため、休業開始から復職後に至るまで周囲からの適切な心理的支援が大切となる、と続きます。特に管理監督者は、労働者の焦りや不安に対して耳を傾け、健康の回復を優先するよう努めることとされています。自信をなくすことは、例外的な弱さとしてではなく支援の前提として資料に書かれています。
この記事で答えられないこと
正直に書いておきます。怖さそのものを小さくする方法は、制度の中にはありません。
ここで並べたのは、怖さが残ったままでも進められるように用意されている仕組みだけです。段階的に戻す設計になっていること、助走の場があること、戻る先について希望を言う場が手順にあること、復帰後のフォローアップまでが手順に含まれていること。どれも、怖いと感じる気持ちに直接は触れません。
気持ちのほうをどう扱うかは、主治医との診察の中で相談する領域です。あわせて、実際に人と場所のある環境で働く感覚を確かめていく場として、リワーク支援のような仕組みがあります。中身はリワークとは何かにまとめています。
持ち帰るのは、3つだけで足ります
読み終えても、たぶん怖さは残っています。最後に、体調と関係なく成り立つ事実を3つだけ置いておきます。
- 復帰したその日から元の業務量に戻す設計にはなっていません。段階的に戻すことが、国の手引きに前提として書かれています
- 復職の可否は、主治医、産業医等、会社の判断を経て決まります。決めるのはあなたひとりではありません
- 計画どおりに進まないことも手順の想定内で、復帰後のフォローアップまでが5つのステップに含まれています
会社に何の制度があるかは会社ごとに違うので、そこは確認が必要です。ただ、確認するという行為自体は、体調が万全でない日でもできます。人事や産業医に「試し出勤の制度はありますか」「復帰後の就業上の配慮はどこまで相談できますか」と聞くところからで構いません。日付を決めるのは、そのあとで足ります。
わたしたちは就労支援の現場で、復職を前にした方の怖さについて聞くことがあります。準備を積み上げれば怖さが消えるかというと、そうはならないことのほうが多いように見えます。それでも、怖いまま確認だけは進められます。怖さが消えてから動くのではなく、怖いまま一つずつ確かめていく、という進み方で構いません。
