休むことを考え始めたときに、いちばん先に頭に浮かぶのがお金のことだと思います。休んでいるあいだ、給与はどうなるのか。それがわからないままだと、休むかどうかも決められません。

先に結論をお伝えします。休職中に給与を支払うことを、法律は会社に義務づけていません。ただ、これは「もらえない」という意味ではありません。給与が出るかどうかは、勤め先の就業規則で決まります。そして給与が出ない期間には、健康保険から傷病手当金という別の支えがあります。

この記事では、法律がどこまで決めていて、どこから先が会社ごとの決まりなのかを分けて説明します。そのうえで、賞与や昇給や退職金への影響と、給与が止まっても出ていき続けるお金についても整理しました。自分の会社の規定を読む前の下地として使ってください。

法律は休職中の給与について何を決めているか

順番に見ていきます。関係する条文は3つです。

賃金は働いたことに対して支払われます

労働基準法第24条は、賃金について「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。ここで決められているのは支払い方です。何に対して賃金が発生するのかは、この条文では決めていません。

賃金は、労働の対価として支払われるものです。ですから、働いていない時間について賃金が当然に発生するわけではありません。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼ぶことがあります。法律の条文にこの言葉が書かれているわけではないのですが、賃金の性質からそう理解されています。

休職は、働くことができない状態が続くときに、会社に籍を置いたまま働く義務を免除してもらう扱いです。働く義務が免除されている以上、その期間について賃金の支払い義務も当然には生じません。ここが出発点になります。

休業手当(労働基準法第26条)は原則として当てはまりません

「休んでいるあいだは6割もらえると聞いた」という話を耳にした方がいるかもしれません。これは労働基準法第26条の休業手当のことです。条文はこうなっています。

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

大事なのは冒頭の「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては」という部分です。会社の側に理由がある休業のときに、平均賃金の6割以上を支払いなさい、という定め方になっています。厚生労働省のモデル就業規則でも、この条文にあたる規定は「臨時休業の賃金」という条に置かれていて、解説では「会社側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により、所定労働日に労働者を休業させる場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません」と説明されています。

病気やケガで働けなくなって休むのは、会社の都合による休業ではありません。ですから私傷病による休職には、この休業手当は原則として当てはまりません。6割という数字を見かけたら、それが休業手当の話なのか、後で説明する傷病手当金(およそ3分の2)の話なのかを確かめてください。混ざりやすいところです。

そもそも休職という制度は法律にありません

もうひとつ知っておくと迷わずに済むことがあります。厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)は、休職を定めた第9条の解説で「休職の定義、休職期間の制限、復職等については、労基法に定めはありません」とはっきり書いています。

つまり、休職できる事由も、休職できる期間も、そのあいだの賃金も、法律が全国一律に決めているものではありません。だから、インターネットで「休職 給与」と調べても、どの記事も最後は「就業規則によります」で終わります。もどかしく感じるかもしれませんが、答えが載っている場所が会社の中にある、というだけのことです。

答えが書いてあるのは就業規則です

厚生労働省が公開しているモデル就業規則は、多くの会社が自社の規則を作るときの下敷きにしているものです。そこには「休暇等の賃金」という条があり、休職期間中の賃金について次のような規定例が示されています。

第9条に定める休職期間中は、原則として賃金を支給しない( か月までは 割を支給する)

空欄になっているのは、そこを各社が埋めるからです。同じページの解説には、「休職の期間を無給とするか有給とするかについては、各事業場において決め、就業規則に定めてください」と書かれています。さらに、有給とする場合は「通常の賃金を支払う」「基本給の○○%を支払う」のように、できるだけ具体的に定めるようにと続いています。

ここからわかることは2つです。ひとつは、給与が出るか出ないかを決めているのは会社だということ。もうひとつは、その決定は就業規則に書いてあるはずだということです。

就業規則のどこを開くか

見るところは2か所だけです。

見る場所 書かれていること モデル就業規則での条
休職の条 どんなときに休職できるか、期間はどのくらいか、期間が満了したらどうなるか 第9条
賃金の章の「休暇等の賃金」の条 休職期間中の賃金を支給するのか、するならいくらか 第43条

会社によって条の番号も見出しの言葉も違いますが、目次に「休職」と「賃金」の項目があるはずなので、そこから探せます。給与の扱いは休職の条ではなく賃金の章に書かれていることが多いので、休職の条だけを読んで「何も書いていない」と判断しないでください。

なお、労働基準法第89条は、就業規則に必ず書かなければならない事項として「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を挙げています。賃金の扱いは、書いていなくてよい類のものではありません。

休職が始まるまでの「欠勤」の期間にも目を向けてください

給与の扱いが変わる3つの期間

  1. 1有給休暇を使う期間所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金が出る
  2. 2有給を使い切ったあとの欠勤の期間基本給から、その日数または時間分の賃金が控除される
  3. 3休職の期間支給しないのか、何割かを支給するのかは就業規則の定めによる
モデル就業規則の定め方にもとづく順番です。欠勤が何か月続いたら休職に切り替わるかは、会社ごとに違います。

もうひとつ確認しておきたいのが、休職がいつから始まるのかです。モデル就業規則の休職の規定は、休職の事由をこう書き出しています。

業務外の傷病による欠勤が か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき

つまり、体調を崩してすぐに休職が始まるのではなく、一定期間の欠勤が続いてはじめて休職に切り替わるという組み立てになっている会社が多いということです。空欄に入る月数は会社によって違います。

そして、この欠勤の期間の賃金についても規定があります。モデル就業規則は「欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する」と定めています。有給休暇を使い切ったあとの欠勤の日は、その分の賃金が控除されるということです。

順番としては、有給休暇を使う期間、有給を使い切ったあとの欠勤の期間、そして休職の期間、という流れになります。どこからどこまでが欠勤で、どこから休職になるのかを先に把握しておくと、いつから収入の形が変わるのかが見えてきます。

見せてもらうことができます

就業規則を見たことがない方も多いと思います。労働基準法第106条は、使用者は就業規則を「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない」と定めています。働く人が読めるようにしておくことは、会社の義務です

社内のイントラネットに置かれていることもありますし、人事や総務に「休職のところと、休職中の賃金のところを見たいのですが」と伝えれば見せてもらえるのが原則です。理由を細かく説明しなくても構いません。制度を確認したいという以上のことを言う必要はありません。

伝え方に迷うときは、休職を会社にどう伝えるかも参考になります。

有給休暇を使っているあいだは賃金が出ます

ここは法律がはっきり決めているところです。

労働基準法第39条は、6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した人に10労働日の有給休暇を与えなければならないと定めています。有給休暇の「有給」は、その日に賃金が支払われるという意味です。モデル就業規則でも、年次有給休暇の期間については「所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う」と定められています。

多くの会社では、休職に入る前にまず有給休暇を使う流れになります。有給の日は通常の賃金が出るので、手取りはこのあとに説明する傷病手当金より多くなります。

ただし、注意点があります。給与が支払われた日には、傷病手当金は支給されません。全国健康保険協会の病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)も、休業した期間について給与の支払いがないことを支給の要件として挙げたうえで、給与の支払いがあっても傷病手当金の額より少ない場合はその差額が支給される、と説明しています。つまり有給休暇と傷病手当金は、重ねて満額ずつ受け取れるものではありません。

有給を先に使い切るか、いくらか残しておくかは、考える余地のあるところです。復職してからも通院が続くことが多く、通院日に有給を使えると助かります。会社から「まず有給を消化してください」と言われたときも、何日か残しておきたいという希望を伝えることはできます。

給与が出ない期間を支えるのが傷病手当金です

有給を使い切ったあと、休職期間が無給と定められていれば、その間の収入はゼロになります。そこを支えるのが健康保険の傷病手当金です。

健康保険法第99条は、被保険者が療養のため労務に服することができないときに、労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、傷病手当金を支給すると定めています。額は同条第2項で、支給を始める日以前の直近12か月の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の、さらに3分の2にあたる金額とされています。おおよそ給与の3分の2と考えると、生活費の見通しを立てやすいと思います。

会社から出るお金ではなく、健康保険から出るお金です。ここを取り違えると、会社に問い合わせるべきことと健康保険に問い合わせるべきことが混ざってしまいます。会社に聞くのは休職の期間と休職中の賃金の扱い、健康保険に聞くのは傷病手当金の対象になるかと金額です。

条件や手続きはこの記事では扱いません。自分が対象になるかを確かめたい方は傷病手当金の条件は4つを、休職中のお金を全体として見渡したい方は休職中に受け取れるお金と出ていくお金の全体像を読んでください。

賞与・昇給・退職金への影響

給与そのものだけでなく、休職はほかの支給にも影響します。ここも法律ではなく、就業規則と賃金規程で決まります。

賞与

モデル就業規則の解説は、「賞与は、労基法その他の法律によって設けることが義務付けられているものではありません」と述べています。そのうえで、支給する場合は支給対象時期、算定基準、査定期間、支払方法などを就業規則に明確にしておくことが必要だとしています。

さらに解説は、支給対象者を一定の日(たとえば6月1日や12月1日、または賞与支給日)に在籍した者とする規定を設けることで、その日に在職しない人には支給しないこととすることも可能だ、と説明しています。休職中は在籍していますが、算定対象期間の勤務実績が考慮される仕組みであれば、額が下がることは十分にあり得ます。

ひとつ添えておくと、モデル就業規則は、年次有給休暇を取得した労働者について、賃金の減額や精皆勤手当、賞与の額の算定にあたって有給休暇の取得日を欠勤として取り扱うといった不利益な取扱いをしてはいけない、とも書いています(労働基準法附則第136条)。有給を使ったことそのものを理由に賞与を減らすのは、休職期間を欠勤として扱うのとは別の話になります。

昇給

労働基準法第89条により、昇給に関する事項は就業規則に必ず書かなければなりません。モデル就業規則では「昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年 月 日をもって行うものとする」という規定例が示され、昇給額は勤務成績等を考慮して各人ごとに決定するとされています。

休職していた期間の勤務成績をどう評価するかは、会社の評価制度によります。復職の時期によっては、その年の昇給の対象から外れることもあります。

退職金

退職金制度そのものが、必ず設けなければならないものではありません。モデル就業規則の解説も、設けたときは適用される労働者の範囲や支給要件、計算方法、支払時期などを就業規則に記載しなければならない、という書き方をしています。

休職との関係で目を引くのは、退職金の額を定めた条の第2項です。「第9条により休職する期間については、会社の都合による場合を除き、前項の勤続年数に算入しない」という規定例が置かれています。勤続年数に応じた支給率で退職金を計算する仕組みでは、休職した期間が勤続年数から差し引かれる形になります。

すべての会社がこのとおりに定めているわけではありません。ただ、退職金の計算から休職期間を除く定めは珍しくないということは、知っておいたほうがよい情報です。長く休むかどうかを判断するときの材料になります。

いずれも自分の会社の賃金規程を見ないと確かめられません。就業規則を確認するときに、賞与・昇給・退職金の条もあわせて見ておくと、一度で済みます。

給与が止まっても、出ていくものは止まりません

ここが見落とされやすいところです。入ってくるお金のことばかり考えていると、支出が続くことを忘れてしまいます。手元に残る額をつかむために、両方を並べて見てください。

入ってくるもの どうなるか
給与 有給休暇を使っている日は通常の賃金が出ます。休職期間中に出るかどうかは就業規則の定めによります
傷病手当金 給与の支払いがない日について、おおむね給与の3分の2にあたる額。健康保険から支給されます
出ていくもの どうなるか
健康保険料・厚生年金保険料の本人負担 休職中も被保険者であり続けるため発生し、その半分を本人が負担します。給与から天引きできないので、会社に直接支払う形になるのが一般的です
住民税 前年の所得にもとづいて課されるため、収入が下がった年も前年分の請求が来ます
医療費(通院と薬代) 通院が続く分だけかかります
診断書などの文書料 休職に入るときと復職のときに必要になります

厚生労働省のこころの耳に掲載されている社員がメンタルヘルス不調で休業することになったらも、休職に入るときに会社が決めておくべきこととして、休職中の社会保険料は免除されないため本人にも負担してもらう必要があり、具体的な取り決めをしなければならないと述べています。

払い方は会社によって違います。毎月指定口座に振り込む会社、傷病手当金が入ってから支払う会社、復職後の給与からまとめて差し引く会社があります。あとでまとまった額を請求されて驚かないよう、休職に入る前か入った直後に「休職中の保険料はどうやって払いますか」と聞いておいてください。この一言があるかないかで、数か月後の負担感がかなり変わります。

社会保険料と住民税の詳しい仕組みは休職中に受け取れるお金と出ていくお金の全体像にまとめました。通院費の負担を軽くする制度については自立支援医療制度で精神科の通院費を1割にする手順を見てください。

会社に確認するときの聞き方

体調が落ちているときに、細かい交渉をするのは負担が大きいと思います。聞くことを3つに絞りました。このまま読み上げても構いません。

  1. 就業規則の休職の規定と、休職期間中の賃金の規定を見せてください
  2. 休職中の社会保険料は、どうやって支払えばよいですか
  3. 賞与と退職金の計算で、休職期間はどのように扱われますか

このうち3つ目は、余力があるときで構いません。1つ目と2つ目がわかれば、当面の見通しは立ちます。

メールで聞いても差し支えありません。むしろ文面が残るほうが、あとで確認し直せて安心です。口頭で説明を受けた場合も、「念のため確認させてください」と書いてメールを送っておくと、認識のずれを防げます。

休職の手続き全体の流れは休職の手続きと過ごし方に、診断書の受け取り方は休職の診断書はどうもらうかにまとめています。

今日は一行だけ確かめれば十分です

ここまで読んで、確認することが多いと感じたかもしれません。全部を今日やる必要はありません。

いちばん最初に効くのは、就業規則の「休職期間中の賃金」の一行を読むことです。そこに「賃金を支給しない」と書いてあるのか、「○か月までは○割を支給する」と書いてあるのかで、その先の見通しがまったく変わります。一行読むだけで、これから考えるべきことの半分が決まります。

そしてもうひとつ。給与が出ないと書かれていたとしても、それは収入がゼロになるという意味ではありません。健康保険の傷病手当金が控えていて、有給休暇も残っているかもしれません。制度は、名前を知って窓口に問い合わせれば使えるものばかりです。

給与のことがわからないまま休むかどうかを決めるのは、とてもつらいことです。逆に言えば、数字の輪郭さえ見えれば、休むという選択はずいぶん考えやすくなります。まずは一行、確かめるところからで大丈夫です。

わたしたちは就労支援の現場で、休職中のお金の相談を受けることがあります。給与が出るかどうかを調べるより先に、いつから出なくなるのかを確かめておくと、あとの計画が立てやすくなります。有給休暇が残っている間は入ってきて、その先で止まるという段差があるからです。段差の位置が分かるだけで、準備できることが増えます。