仕事が原因で体調を崩したのではないか、と考え始めた方が最初にぶつかるのが「労災認定基準」という言葉です。調べてみると、条文らしきものと難しい表がたくさん出てきて、自分の状況がどこに当てはまるのかがつかめないまま閉じてしまう。そういうことが起きやすい資料です。
先にお伝えしておきます。この基準は、読んだ人が自分で結論を出すために作られたものではありません。労働基準監督署が調査した事実をもとに判断するときの、行政内部の物差しです。それでも読む意味はあります。署が何を見て、何を材料に判断するのかが書いてあるからです。自分の身に起きたことのうち、どれが評価の対象になるのかが分かるだけでも、次に何を整理すればよいかが見えてきます。
この記事では、令和5年9月1日付け基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の本文と、別表1「業務による心理的負荷評価表」、別表2「業務以外の心理的負荷評価表」を、原文の言葉を引きながら順に見ていきます。手続きの進め方ではなく、基準そのものの構造を扱います。
数字が出てくるところは、すべて厚生労働省の公表資料で確認したものを使っています。読むのがしんどい日は、最初の3つの節だけでも十分です。
認定基準とは何か。法律そのものではありません
まず位置づけを整理しておくと、あとの理解がずいぶん楽になります。
根拠になっているのは労働基準法施行規則別表第1の2第9号
労働基準法施行規則第35条は、労働基準法第75条第2項による業務上の疾病を「別表第一の二に掲げる疾病とする」と定めています。その別表第1の2の第9号が、精神障害に対応する号です。条文はこうなっています。
人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病
法令として書かれているのは、この一文だけです。ここから先、どういう出来事がどのくらいの負担にあたるのかは、条文には書かれていません。
認定基準は、その判断のしかたを定めた通達です
そこを埋めているのが認定基準です。認定基準の本文は、3つの要件を満たす対象疾病を「労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う」と書いています。つまり、条文の一文を実務で使える形に落とし込んだものが認定基準です。
形式は、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長にあてた通達です。あて先が働く人ではなく行政機関である、という点は覚えておいてよいところだと思います。法律の条文とは性質が違います。
判断するのは労働基準監督署です
そしてもうひとつ。当てはまるかどうかを決めるのは、本人でも会社でも主治医でもありません。労働基準監督署が調査して判断します。認定基準は、発病の有無や時期について主治医の意見を求め、事案によっては専門医や地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見も求めたうえで判断する、という手順を定めています。
自分で読んで「無理そうだ」と結論を出す必要はない、ということです。
認定基準が対象にしているのは、どの範囲の精神障害か
次に、そもそもこの基準がどこまでを扱っているのかを見ておきます。ここは病気の説明ではなく、基準の適用範囲の話として読んでください。
認定基準の第1は、対象疾病をこう限定しています。
疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回改訂版(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く。
ICD-10という国際的な分類の第V章に入るもの全体が入口で、そこから器質性のもの(F0)と有害物質に起因するもの(F1)が除かれます。頭部外傷や脳血管障害などにともなうもの、化学物質によるものは、この基準ではなく別の枠組みで個別に判断される、という整理です。
そのうえで本文は、業務に関連して発病する可能性のあるものは「主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害である」としています。厚生労働省のパンフレットでは、F3が気分[感情]障害、F4が神経症性障害・ストレス関連障害・身体表現性障害と示されています。
もうひとつ、原文にはっきり書かれていることがあります。「心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」。ここは見落とされやすいところです。
認定要件は3つです
ここが記事の背骨にあたる部分です。認定基準の第2は、次の1、2及び3のいずれの要件も満たす対象疾病を業務上の疾病として取り扱う、と定めています。
1 対象疾病を発病していること。 2 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。 3 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
3つとも満たす必要があります。逆に言えば、見るべき論点も3つしかありません。
この立て方の背景として、認定基準は「ストレス-脆弱性理論」に依拠していると説明しています。環境由来の心理的負荷と、個体側の反応性・脆弱性との関係で決まるという考え方で、心理的負荷が非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても破綻が起こり、脆弱性が大きければ心理的負荷が小さくても破綻が生ずる、という整理です。だから、業務側の負荷(要件2)と、業務以外の要因・個体側要因(要件3)を、両方から見る形になっています。
要件2の「強い心理的負荷」については、判断のしかたに大事な但し書きがあります。発病した本人が主観的にどう受け止めたかで評価するのではなく、同じ事態に遭遇した場合に「同種の労働者」が一般的にどう受け止めるかという観点から評価する、というものです。ここでいう同種の労働者とは、職種、職場における立場や職責、年齢、経験などが類似する人を指します。
別表1「業務による心理的負荷評価表」の読み方
要件2を判断する物差しが別表1です。検索でいちばんよく見られるのがこの部分だと思います。
まず「特別な出来事」があるかどうかを見ます
発病前おおむね6か月の間に、別表1の「特別な出来事」に該当する出来事が認められた場合には、それだけで心理的負荷の総合評価が「強」と判断されます。特別な出来事は2つの類型に分かれています。
ひとつは「心理的負荷が極度のもの」です。別表1は次の4つを挙げています。
- 生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病による療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)
- 業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)
- 強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた
- その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの
もうひとつは「極度の長時間労働」です。こちらは時間数で書かれています。
発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った
なお、ここでいう時間外労働時間数とは、認定基準の定義では週40時間を超えて労働した時間数のことです。会社が示す36協定上の残業時間とは数え方が違うことがあります。
特別な出来事がなければ、29の「具体的出来事」に当てはめます
特別な出来事がない場合は、実際に起きた出来事を別表1の「具体的出来事」のどれに当たるかを判断し、合致しない場合にも近いものに当てはめて総合評価を行います。具体的出来事は7つの類型に分かれ、全部で29項目あります。
| 出来事の類型 | 項目数 | 具体的出来事の例 |
|---|---|---|
| ①事故や災害の体験 | 2 | 業務により重度の病気やケガをした/悲惨な事故や災害の体験、目撃をした |
| ②仕事の失敗、過重な責任の発生等 | 8 | 重大な人身事故を起こした/多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした/達成困難なノルマが課された/違法な行為等を強要された |
| ③仕事の量・質 | 5 | 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった/1か月に80時間以上の時間外労働を行った/2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った |
| ④役割・地位の変化等 | 6 | 退職を強要された/転勤・配置転換等があった/複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった |
| ⑤パワーハラスメント | 1 | 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた |
| ⑥対人関係 | 6 | 同僚等から暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた/上司とのトラブルがあった/顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた |
| ⑦セクシュアルハラスメント | 1 | セクシュアルハラスメントを受けた |
それぞれの具体的出来事には、平均的な心理的負荷の強度が強い方から「Ⅲ」「Ⅱ」「Ⅰ」として示されています。ただし、この強度がそのまま結論になるわけではありません。そこから「心理的負荷の総合評価の視点」と、「弱」「中」「強」の具体例に照らして、事案ごとに総合評価を出します。
原文には、読む側にとって大事な一文があります。「具体例はあくまでも例示であるので、具体例の『強』の欄で示したもの以外は『強』と判断しないというものではない」。表に自分とそっくりの記述が見つからなくても、それだけで終わりではないということです。
出来事そのものだけでなく、そのあとの状況も評価されます
ここが評価表のいちばん特徴的なところだと思います。認定基準は、類型①「事故や災害の体験」を除いて、出来事と出来事後の状況の両者を軽重の別なく評価すると書いています。そして総合評価が「強」となるのは、次の2つの場合だとしています。
- 出来事自体の心理的負荷が強く、その後に当該出来事に関する本人の対応を伴っている場合
- 出来事自体の心理的負荷としては中程度であっても、その後に当該出来事に関する本人の特に困難な対応を伴っている場合
さらに「総合評価の留意事項」には、評価を強める要素が2つ挙げられています。ひとつは職場の支援・協力が欠如した状況であること(問題への対処、業務の見直し、応援体制の確立、責任の分散などがなされていない)。もうひとつは仕事の裁量性が欠如した状況であること(仕事が孤独で単調となった、自分で仕事の順番ややり方を決められなくなった、自分の技能や知識を仕事で使うことが要求されなくなった)です。
起きた出来事そのものより、そのあとに会社が何もしてくれなかったことのほうがつらかった、という受け止めは珍しくありません。認定基準は、そこを評価の対象にしています。
出来事が複数あるときの扱い
出来事がひとつだけ、ということのほうが少ないと思います。認定基準は複数ある場合の評価も定めています。
どれかひとつで「強」と判断できるなら、全体も「強」です。どれも単独では「強」と評価できない場合は、それらが関連して生じているかどうかを分けて考えます。関連して生じている場合は全体を一つの出来事として評価し、原則として最初の出来事を具体的出来事に当てはめ、あとから生じた出来事は出来事後の状況とみなして総合的に評価します。
関連なく生じている場合は、「中」の出来事が複数あるときに、出来事が生じた時期の近接の程度、各出来事と発病との時間的な近接の程度、継続期間、内容、数などによって、全体の総合評価が「強」となる場合もあり得るとされています。とくに、それぞれの出来事が時間的に近接・重複して生じている場合には、全体の評価はそれぞれの出来事の評価よりも強くなると考えられる、と書かれています。
なお、ハラスメントやいじめのように出来事が繰り返されるものは、繰り返される出来事を一体のものとして評価し、それが継続する状況は心理的負荷が強まるものと評価されます。
長時間労働はどの水準で評価されるか
時間数が出てくるところは、混ざりやすいので表にまとめます。すべて認定基準の本文と別表1に書かれている数字です。
| 場面 | 時間数 | 評価 |
|---|---|---|
| 極度の長時間労働(特別な出来事) | 発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働。または3週間におおむね120時間以上 | それだけで「強」 |
| 項目12(長時間労働そのものを出来事とする) | 1か月におおむね80時間以上の時間外労働 | 「中」 |
| 同上 | 発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上 | 「強」になる例 |
| 同上 | 発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上 | 「強」になる例 |
| 項目11(仕事量の大きな変化) | 時間外労働がおおむね20時間以上増加し、1月当たりおおむね45時間以上となる | 「中」である例 |
| 同上 | おおむね倍以上に増加し、1月当たりおおむね100時間以上となる | 「強」になる例 |
| 項目13(連続勤務) | 2週間以上にわたる休日のない連続勤務 | 「中」である例 |
| 同上 | 1か月以上にわたる連続勤務 | 「強」になる例 |
もうひとつ、「恒常的長時間労働」という考え方があります。別表1は1か月おおむね100時間の時間外労働を「恒常的長時間労働」の状況とし、他の出来事とあわせて評価する仕組みを置いています。具体的には、労働時間を加味せずに「中」と評価される出来事の後に恒常的長時間労働がある場合、出来事の前に恒常的長時間労働があって出来事後おおむね10日以内に発病している場合など、3つのパターンで「強」と判断されます。
長時間労働は、単独の出来事としてだけでなく、他の出来事の評価を押し上げる背景としても見られている、ということです。
業務以外の心理的負荷と、個体側要因はどう扱われるのか
3つ目の要件は、読む人がいちばん身構えるところだと思います。私生活のことを持ち出されて、自分のせいにされるのではないか、と。
原文の書き方を正確に確認しておきます。認定基準は、要件3を満たすのは次のア又はイの場合だとしています。
ア 業務以外の心理的負荷及び個体側要因が確認できない場合 イ 業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの、業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合
イに注目してください。業務以外の要因が「ある」だけでは、この要件は否定されません。それによって発病したことが医学的に明らかだと判断できる場合にはじめて否定される、という組み立てです。
業務以外の心理的負荷は別表2「業務以外の心理的負荷評価表」で評価されます。類型は6つで、①自分の出来事、②自分以外の家族・親族の出来事、③金銭関係、④事件、事故、災害の体験、⑤住環境の変化、⑥他人との人間関係です。それぞれの出来事の強度がⅠ・Ⅱ・Ⅲに区分され、強度がⅡ又はⅠの出来事しか認められない場合は、原則としてイに該当するもの、つまり要件を満たすものとして扱われます。Ⅲに当たる出来事が明らかにある場合に限って、その内容を詳細に調査したうえで、それが発病の原因だと判断することの医学的な妥当性が慎重に検討されます。
個体側要因のほうも、原文は範囲を限定しています。調査されるのは既往の精神障害や現在治療中の精神障害、アルコール依存状況等の存在が明らかな場合です。そのうえで、業務による強い心理的負荷が認められる事案について、重度のアルコール依存状況がある等の顕著な個体側要因がある場合には、それが発病の主因であると判断することの医学的な妥当性を慎重に検討する、という書き方になっています。
なお、発病の有無や時期の判断は、主治医の意見書や診療録などの関係資料をもとに医学的に行われます。通院を続けて、そのときの状態を医師に伝えておくことは、この局面でも意味を持ちます。診断書を頼むときの伝え方は診断書のもらい方にまとめました。
令和5年9月の改正で何が変わったか
現在の認定基準は令和5年9月1日に定められたもので、それまでの平成23年12月26日付け基発1226第1号は廃止されました。厚生労働省のリーフレットは、改正のポイントを3つに整理しています。
1. 業務による心理的負荷評価表を見直しました
具体的出来事の追加と、類似性の高い具体的出来事の統合が行われました。追加されたのは「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)と「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」の2つです。統合されたのは「転勤・配置転換等があった」でした。
あわせて、心理的負荷の強度が「弱」「中」「強」となる具体例が拡充されました。パワーハラスメントの6類型すべての具体例と、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことが明記され、一部の強度しか具体例が示されていなかった出来事について、他の強度の具体例も書かれるようになっています。
2. 発病後の悪化について、労災認定できる範囲を広げました
改正前は、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がなければ、業務と悪化との間の因果関係を認めていませんでした。改正後は、特別な出来事がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したと医学的に判断されるときには、悪化した部分について業務起因性を認めるという扱いに変わりました。
すでに発病して治療を受けている状態で、その後に職場でつらいことがあった、という方にとっては大きな変更です。ただし判断にあたっては、業務による強い心理的負荷、悪化前の精神障害の状況、業務以外の心理的負荷、悪化の態様やこれに至る経緯などが十分に検討されます。
3. 医学意見の収集方法を効率化しました
主治医の意見のほかに専門医の医学的意見を必須とする範囲などが見直されました。リーフレットは、この見直しによって労災決定までの期間を短縮できる事案が増加しますと説明しています。認定基準の本文(第六)は、主治医の意見で判断する場合、専門医に意見を求めて判断する場合、さらに高度な医学的検討が必要と判断した事案について地方労災医員協議会精神障害専門部会の合議による意見を求める場合、という段階を定めています。
なお、リーフレットは「精神障害の認定のための要件はこれまでと変更ありません」と明記しています。3つの要件そのものは、平成23年の基準から変わっていません。
複数の会社で働いている場合
認定基準には第9として「複数業務要因災害」の章が置かれています。労働者災害補償保険法第7条第1項第2号は、複数事業労働者の「二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡」に関する保険給付を定めていて、この仕組みに対応した部分です。
考え方はこうです。ひとつの勤務先での心理的負荷だけを評価しても認定できない場合に、すべての勤務先の業務による心理的負荷を総合的に評価して判断します。それぞれの勤務先での出来事をそれぞれ別表1に当てはめて評価したうえで、全体を評価する形です。労働時間と労働日数は通算されます。その際、それぞれの職場の支援など心理的負荷の緩和要因や、複数の会社で働くことによる個別の状況も十分に勘案されます。
ただし認定基準は、異なる事業における出来事が関連して生じることはまれであることから、原則として「関連なく生じている場合」の評価方法によることになる、とも書いています。
数字で見ると、どのくらい認められているのか
厚生労働省は毎年「過労死等の労災補償状況」を公表しています。令和7年度分は令和8年7月15日に公表されました。業務災害に係る精神障害に関する事案の数字は次のとおりです。
| 項目 | 令和7年度 |
|---|---|
| 請求件数 | 4,958件(前年度比1,178件の増加。うち女性2,597件) |
| 決定件数 | 3,839件 |
| 支給決定件数 | 1,082件(前年度比26件の増加。うち女性530件) |
| 認定率(決定件数に占める支給決定件数の割合) | 28.2%(女性は26.6%) |
出来事別に支給決定件数を見ると、多い順に「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」222件、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」がそれぞれ127件、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」113件となっています。令和5年の改正で追加されたカスタマーハラスメントの項目が、上位に入っている形です。
もうひとつ、時間外労働時間別(1か月平均)の支給決定件数を見ると、区分としていちばん多いのは「その他」の699件です。これは労働時間を調査するまでもなく認定した事案などが入るところで、時間数では区分されていません。時間数で区分された事案の中でいちばん多いのは「20時間未満」の57件で、次いで「40時間以上~60時間未満」が55件でした。残業が多くなければ労災にならない、という理解が正しくないことが、この数字にも表れています。
複数業務要因災害に係る精神障害の支給決定件数は4件で、前年度比2件の増加でした。件数としては少ないのですが、仕組みとしては動いています。
数字の見え方はいろいろですが、請求そのものが年々増えていることは事実です。1年で1,000件を超える支給決定が出ている制度だ、というくらいに受け取っておいてよいと思います。
判断するのは自分ではありません
ここまで読んで、当てはまりそうな気もするし、当てはまらない気もする、という感じになった方が多いのではないかと思います。それでいいのだと思います。
認定基準は、本人が自分の状況を採点するための表ではありません。労働基準監督署が、関係者から聴き取り、資料を集め、医師の意見を得たうえで判断するための物差しです。表に自分そっくりの例が載っていないことは、当てはまらないという意味ではありませんし、原文自身が「具体例はあくまでも例示」だと断っています。
今日できることがあるとすれば、起きたことの時期を、思い出せる範囲でメモしておくことくらいです。いつごろ何があって、そのあと会社がどうしたか。日付が正確でなくても、月の前半か後半かくらいの粒度で構いません。評価期間が「発病前おおむね6か月」で区切られているので、時期の情報がいちばん効きます。
制度の入口は労働基準監督署です。名前を伝えずに、一般的な質問として電話で聞くこともできます。判断がつかないまま自分で結論を出さずに、聞いてみるところからで大丈夫です。
実際に請求するとき何が起きるのかは適応障害で労災を申請するとき、実際に何が起きるかにまとめました。請求書の出し方、会社が証明を拒んだ場合、受け取れる額の話はそちらにあります。
会社の健康保険から出る給付の条件を確かめたい方は傷病手当金の条件は4つを、休んでいるあいだのお金全体を見渡したい方は休職中に受け取れるお金と、出ていくお金の全体像を読んでください。労災とは別の制度なので、あわせて確認しておくと見通しが立ちます。
わたしたちは就労支援の現場で、基準を読んだうえで自分は当てはまらないと結論を出してしまった方に会うことがあります。表に自分と同じ例が載っていないことは、当てはまらないという意味ではありません。判断する側に材料をそろえて渡すところまでが、こちらにできることです。
