休職に入って給与が止まったのに、会社から社会保険料の請求が来た。あるいは、復職したあとの給与から思っていたより大きな額が引かれていた。この記事にたどり着く方の多くが、そのどちらかを経験しています。

先にお伝えします。休職中も健康保険と厚生年金保険の被保険者であり続けるので、保険料は発生し続けます。免除にはなりません。産前産後休業や育児休業には保険料を徴収しないという条文がありますが、病気やケガによる休職には、それにあたる条文がありません。制度の作りとして、そうなっています。

そして、もうひとつ知っておいてほしいことがあります。休職して給与がゼロになっても、保険料の計算のもとになる標準報酬月額は原則として下がりません。収入がなくなったのだから保険料も下がるはずだ、という感覚とここが食い違います。金額の見当が狂うのは、たいていこの点が原因です。

この記事では、なぜ免除にならないのかを条文で示したうえで、なぜ「請求される」という形になるのか、いくらぐらいになるのか、払うのが難しいときにどこへ相談できるのかを順に整理します。最後に、払っているからこそ受け取れているものについても書きました。

なぜ休職中も保険料が発生し続けるのか

理由は単純で、休んでいても被保険者のままだからです。順に見ていきます。

保険料は「各月について」発生します

健康保険法第156条は、被保険者に関する保険料額を「各月につき」算定すると定めています。厚生年金保険法第81条第2項も、保険料は「被保険者期間の計算の基礎となる各月につき、徴収するものとする」と定めています。

つまり、その月に働いたかどうか、給与が出たかどうかではなく、その月に被保険者であったかどうかで保険料が発生します。休職は会社に籍を置いたまま働く義務を免除してもらう扱いなので、労働契約は続いています。被保険者の資格も続きます。だから保険料も続きます。

健康保険法第161条は、被保険者と会社がそれぞれ保険料額の2分の1を負担すると定めています。厚生年金保険法第82条も「それぞれ保険料の半額を負担する」と定めています。これがいわゆる労使折半です。休職中も、この半分は本人の負担のままです。

免除の条文が置かれているのは産前産後休業と育児休業です

「休むと保険料が免除される」という話を聞いたことがあるかもしれません。それは事実ですが、対象が限られています。並べてみると、はっきりします。

休みの種類 保険料の扱い 根拠
産前産後休業 徴収しない(免除) 健康保険法第159条の3、厚生年金保険法第81条の2の2
育児休業等 徴収しない(免除) 健康保険法第159条、厚生年金保険法第81条の2
病気やケガによる休職 免除の定めなし 対応する条文がありません

健康保険法第159条の3は、産前産後休業をしている被保険者について、会社が申し出たときは「当該被保険者に関する保険料を徴収しない」と定めています。育児休業等についても第159条に同じ組み立ての条文があります。厚生年金保険法にも、それぞれ対になる条文が置かれています。

私傷病による休職について、同じような条文はありません。健康保険法には保険料を徴収しない場合を定めた第158条もありますが、これは少年院などに収容された場合の特例で、休職とは関係がありません。つまり、法律は休職を免除の対象として想定していないということです。

この対比を知っておくと、産休・育休の話と自分の状況を混同せずに済みます。人事から「免除にはなりません」と言われたときも、意地悪をされているわけではなく、そういう法律の作りなのだと受け取れます。

なぜ「請求される」という形になるのか

免除にならないのはわかったとして、なぜ会社から請求書や振込依頼が来るのでしょうか。ここにも条文の裏づけがあります。

天引きは「報酬を支払う場合」の仕組みです

健康保険法第167条第1項は、こう定めています。

事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(略)を報酬から控除することができる。

厚生年金保険法第84条も、ほとんど同じ文言です。大事なのは「報酬を支払う場合においては」という部分です。給与を払う場面でなら差し引いてよい、という書き方になっています。

休職して給与がゼロになると、差し引く元がなくなります。天引きという方法が使えなくなるだけで、保険料そのものが消えるわけではありません。ここが、多くの方がつまずくところです。今まで見えていなかった負担が、給与が止まった瞬間に目に見える形で現れる、と言い換えてもよいかもしれません。

納める義務は会社にあります

健康保険法第161条第2項は、事業主は「その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う」と定めています。厚生年金保険法第82条第2項も同じです。

つまり、本人負担分も含めて、国や健康保険に納めるのは会社です。会社は納める義務があるので、いったん全額を納めたうえで、本人負担分をどう回収するかという問題になります。本人が会社に払うのは、国に納めているのではなく、会社が立て替えた分を会社に返しているという構図です。

払い方は会社ごとに違うので、先に決めておくと楽です

法律は回収の方法までは決めていません。ですから、払い方は会社によって違います。実際には次のような形があります。

払い方 特徴
毎月、指定口座に振り込む 毎月の負担は一定です。振込手数料と、振込を忘れないための手当てが要ります
傷病手当金が入金されてから払う 手元のお金が尽きにくい形です。入金月と請求月がずれる点に注意が必要です
会社が立て替えて、復職後の給与から精算する 休職中の出費はありませんが、復職後しばらく手取りが減ります。長く休むほど累積します
賞与や退職金から差し引く 会社の規定によります

どれが良いということはありません。ただ、休職に入る前か入った直後に、金額と払い方と期日を確認しておくことは、どの方法を選ぶにしても効きます。半年たってから合計で数十万円を求められる、という状況を避けられます。

聞き方は難しく考えなくて大丈夫です。「休職中の社会保険料は、いくらを、いつまでに、どうやって払えばよいですか」の一文で足ります。メールで聞いておくと文面が残るので、あとで確認し直せます。給与そのものが出るかどうかは会社の就業規則で決まるので、あわせて休職中に給与は出るのかも確かめておくと、一度で済みます。

いくらになるのか

計算の形はそれほど複雑ではありません。標準報酬月額に保険料率をかけて、その半分です。ただし、率が複数あるところと、標準報酬月額が下がらないところで、感覚とずれます。

休職しても標準報酬月額は下がりません

ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。

標準報酬月額を年度の途中で変える手続きを随時改定と呼びます。日本年金機構の随時改定(月額変更届)は、随時改定の要件として、固定的賃金に変動があったこと、変動月以後の3か月の平均から算出した標準報酬月額に2等級以上の差が生じたこと、その3か月の支払基礎日数が17日以上であることの3つを挙げています。そして、そのうち固定的賃金の変動の説明にこう書かれています。

なお、休職による休職給を受けた場合は、固定的賃金の変動がある場合には該当しないため、随時改定の対象とはなりません。

休職で給与が下がったことは、随時改定の理由にならないとはっきり書かれています。厚生年金保険法第23条の条文も、随時改定の対象になるのは3か月とも報酬支払の基礎となった日数が17日以上ある場合だと定めているので、給与が出ていない月はそもそも計算に乗りません。

では毎年7月の定時決定で下がるかというと、これも下がりません。日本年金機構の保険者決定のページには、病気欠勤等によって4月・5月・6月に報酬をまったく受けない場合は「従前の標準報酬月額にて決定します」と書かれています。低額の休職給を受けた場合も、3か月とも該当するときは従前の標準報酬月額で決定するとされています。

まとめると、休職中の保険料は、休職前の給与水準をもとにした額のまま続くということです。収入はゼロなのに保険料は元のまま、という状態になります。理不尽に感じるかもしれませんが、この仕組みは傷病手当金の額を守ることにもつながっています。傷病手当金の額も標準報酬月額から計算されるからです。

令和8年度の保険料率

率は3種類あります。協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入している場合の令和8年度の率は、次のとおりです。

保険料 令和8年度の率 決まり方
健康保険料 おおむね9パーセント台後半から10パーセント台前半 都道府県ごとに違います(東京は9.85パーセント、埼玉は9.67パーセント)。令和8年3月分(4月納付分)から改定
子ども・子育て支援金 0.23パーセント 全国一律。令和8年4月分(5月納付分)から加算
介護保険料 1.62パーセント 全国一律。40歳から64歳までの方に加算
厚生年金保険料 18.3パーセント 全国一律。法律で固定されています

厚生年金保険料率は、厚生年金保険法第81条第4項の表で「平成二十九年九月以後の月分」について千分の百八十三と定められています。法律に書かれた率なので、毎年変わることはありません。

健康保険料率のほうは違います。協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに定められていて、毎年改定されます令和8年度の協会けんぽの保険料率は、全都道府県で引き下げか据え置きになりました。いくつか挙げると、次のような開きがあります。

都道府県 令和8年度の健康保険料率
新潟県(最も低い) 9.21パーセント
埼玉県 9.67パーセント
東京都 9.85パーセント
大阪府 10.13パーセント
佐賀県(最も高い) 10.55パーセント

標準報酬月額が30万円なら、いちばん低い新潟県で本人負担が月13,815円、いちばん高い佐賀県で月15,825円です。同じ給与でも、月に2,010円の差が出ます。健康保険組合に加入している場合は、率も労使の負担割合も組合の規約で決まるので、この表とは別になります。保険証や資格情報のお知らせに「〇〇健康保険組合」と書かれている方は、組合のホームページで確認してください。

実際に計算してみます

協会けんぽの東京支部、標準報酬月額30万円、令和8年4月分以降という条件で計算します。数字は全国健康保険協会の保険料額表と一致することを確かめました。

保険料 全額 本人負担(半分)
健康保険料(9.85パーセント) 29,550円 14,775円
子ども・子育て支援金(0.23パーセント) 690円 345円
厚生年金保険料(18.3パーセント) 54,900円 27,450円
合計(40歳未満の場合) 85,140円 42,570円

40歳から64歳までの方は、これに介護保険料が加わります。健康保険料と介護保険料を合わせた全額が34,410円、本人負担は17,205円になるので、合計の本人負担は45,000円です。

住んでいる都道府県と標準報酬月額が違えば額も変わりますが、おおよそ月4万円から5万円という水準感は持っておいてよいと思います。給与明細の控除欄に載っていた健康保険料と厚生年金保険料の額を見れば、自分の場合の金額はすぐにわかります。休職前の直近の給与明細を1枚だけ手元に置いておくと、あとの計算が楽になります。

傷病手当金との関係で、手取りを見ておく

傷病手当金から社会保険料を引くと、いくら残るか

傷病手当金(30日の月)200,010円
社会保険料の本人負担42,570円
手元に残る額約157,000円
協会けんぽ東京支部・標準報酬月額30万円・40歳未満の場合です。40歳から64歳までの方は本人負担が45,000円になり、残るのは約155,000円です。ここからさらに住民税が出ていきます。

休職中の収入の中心になるのは健康保険の傷病手当金です。ここで注意したいことが2つあります。

傷病手当金は非課税ですが、保険料の支払いはなくなりません

国税庁のタックスアンサー給与所得(傷病手当金・育児休業手当金を受け取った場合)は、病気療養中に健康保険から支給を受けた傷病手当金について、「非課税所得であり、所得税は課されません」と明記しています。所得税がかからないという点では、給与よりも手元に残りやすいお金です。

ただし、非課税であることと、社会保険料を払わなくてよいことは別です。傷病手当金からは何も差し引かれずに振り込まれますが、保険料は保険料で、別に出ていきます。ですから、手取りの見通しはこう立ててください。

傷病手当金 −(社会保険料の本人負担 + 住民税)= 手元に残る額

先ほどの東京支部・標準報酬月額30万円の例で見てみます。この方の傷病手当金は、健康保険法第99条第2項の計算式で1日あたり6,667円になります。30日の月なら200,010円です。ここから社会保険料の本人負担42,570円を引くと、残るのは約157,000円です。40歳から64歳までの方なら約155,000円です。さらに住民税が加わります。

住民税は前年の所得に対して課される仕組みなので、収入が下がった年も前年に働いていたころの所得にもとづく請求が来ます。休職1年目の負担がいちばん重く感じられるのはこのためです。

傷病手当金の額の出し方は傷病手当金の計算方法にまとめました。この記事では額の計算には立ち入りません。

振込のタイミングと請求のタイミングはずれます

もうひとつが時間のずれです。傷病手当金は、休んだ期間が過ぎてから申請する仕組みなので、休み始めてすぐには入金されません。最初の入金までにひと月以上かかることも珍しくありません。

一方で、保険料の請求は毎月やって来ます。出ていくほうが先に始まり、入ってくるほうが後から追いかけるという形になりがちです。ここで手元の現金が足りなくなることがあります。

避け方は2つあります。ひとつは、休職に入る前に会社と払い方を決めておいて、傷病手当金の入金後に払う形にできないか相談すること。もうひとつは、最初の2、3か月分の保険料を手元に確保してから休職に入ることです。どちらも難しければ、そのことを会社に伝えたうえで相談してください。入金の遅れの理由と流れは傷病手当金に決まった支給日はありませんで説明しています。

払うのが難しいと感じたとき

無理をして生活費を削るより先に、できることがあります。

まずは会社に相談してください

保険料を回収する方法は法律で決まっていないので、会社の裁量が働く余地があります。分割にできないか、復職後の給与からの精算に変えられないか、期日を後ろにずらせないか。どれも聞いてみる価値があります。

会社としても、連絡が取れないまま未払いが積み上がるのは避けたい状況です。先に事情を伝えたほうが、選べる方法は多く残ります。体調が悪くて電話が難しければ、短いメールで構いません。「傷病手当金の入金が遅れていて、今月の保険料の支払いが難しい状況です。分割などのご相談は可能でしょうか」という程度で伝わります。

住民税のほうも、市区町村の納税の窓口に相談できます。病気で一時に納めることができないときの猶予の仕組みがあるので、納期限が来る前に相談するほうが、話が進めやすくなります。

退職を考える場合は、決める前に確認を

保険料の負担を理由に退職を考える方もいます。退職すると会社の健康保険を抜けることになり、その先は任意継続、国民健康保険、家族の被扶養者のいずれかを選ぶことになります。ここで気をつけたいのは、任意継続を選んだ場合、健康保険法第161条のただし書きにより保険料を全額自己負担することになるという点です。労使折半がなくなるので、負担が単純に軽くなるとは限りません。3つの選び方と、任意継続の20日という期限については退職後の健康保険の選び方にまとめました。

厚生年金保険からも抜けることになり、国民年金への切り替えが必要になります。そして、退職の仕方によっては傷病手当金の受け取り方も変わります。

どれを選ぶかは、収入や家族構成や住んでいる自治体によって答えが変わります。この記事では入口を示すだけにとどめますが、退職日を決める前に確認する時間をとってください。退職してから調べ始めると、選べたはずの選択肢が閉じていることがあります。退職と傷病手当金の関係は傷病手当金は退職後も受け取れますに、休職中のお金の全体像は休職中に受け取れるお金と出ていくお金の全体像にまとめました。

払い損ではありません

ここまで出ていくお金の話ばかりでしたので、受け取っている側についても書いておきます。保険料を払い続けているからこそ成り立っているものが、いくつもあります。

傷病手当金は被保険者だから出ています

健康保険法第99条は、「被保険者が療養のため労務に服することができないとき」に傷病手当金を支給すると定めています。主語は被保険者です。保険料を払って被保険者であり続けているから、傷病手当金が支給されています。

しかも、額の計算に使われるのは休職前の標準報酬月額です。標準報酬月額が下がらないという先ほどの話は、負担の面では重く働きますが、給付の面では有利に働いています。

健康保険証はそのまま使えます

被保険者であり続けるので、医療機関の窓口での自己負担は3割のままです。高額療養費の仕組みも使えます。休職中は通院が続くことが多いので、ここが変わらないことの意味は小さくありません。扶養に入っている家族の保険も続きます。

通院費の負担をさらに軽くする制度として自立支援医療があります。手続きは自立支援医療制度で精神科の通院費を1割にする手順にまとめました。

厚生年金の加入期間が途切れません

厚生年金保険の被保険者であり続けるので、加入期間が途切れません。将来の老齢厚生年金の額は、加入期間と、その期間の標準報酬月額や標準賞与額の平均をもとに計算されます。休職中も標準報酬月額が休職前の水準のまま記録されるということは、その期間が将来の年金額の計算にも休職前の水準で算入されるということです。

また、厚生年金保険の被保険者であることは、万一のときの障害厚生年金や遺族厚生年金の前提にもなっています。国民年金だけの加入と比べて、備えの範囲が広い状態が保たれています。

負担が重いことは事実です。それでも、払っている保険料は、いま受け取っている傷病手当金と、続いている医療の保障と、将来の年金につながっています。捨てているお金ではありません。

今日は給与明細を1枚だけ見てください

読み終えて、確認することが多いと感じたかもしれません。今日やることは1つで足ります。

休職前の直近の給与明細を1枚だけ開いて、控除欄の健康保険料と厚生年金保険料の額を見てください。介護保険料の欄があればそれも足します。その合計が、休職中に毎月かかり続ける額のおおよその目安です。率の改定で多少は動きますが、輪郭はそれでつかめます。

金額がわかったら、次にやることは会社に一言聞くことです。「いくらを、いつまでに、どうやって払えばよいですか」。この一文だけで、数か月後の不意打ちはかなり防げます。

わからないまま請求だけが来る状態は、体調が悪いときには特につらいものです。逆に言えば、月にいくら出ていくのかがわかっているだけで、同じ金額でも受け止め方はずいぶん変わります。数字は変えられませんが、見通しは今日から持てます。まずは明細を1枚、それだけで十分です。

わたしたちは就労支援の現場で、休職中のお金の相談を受けることがあります。保険料の請求が来てはじめて、給与が止まっても出ていくものは止まらないと気づいた、という話をよく聞きます。負担になっているのは金額そのものよりも、いつ、どうやって払うのかを会社と決めないまま休みに入ってしまったことのほうです。その一点だけ先に確かめておくと、数か月後の見え方が変わります。