休みに入ってしばらく経つと、休む前には考えていなかったことが次々に浮かんできます。収入が思ったより減った、職場から連絡が来るたびに胃が重くなる、このまま戻れる気がしない。そういうものが積み重なって、「休職しなければよかった」という一文にまとまってしまうことがあります。
先にお伝えしたいことがあります。この一文は、ひとつの気持ちのように見えて、中身は複数の別々の不安が束になったものです。束のままだと、どこから手をつけていいのか分かりません。ほどいて並べると、そのうちのいくつかには、公的な資料で確認できる答えが用意されています。
この記事では、後悔の中身を5つに分けます。お金のこと、職場への負い目、戻れるかどうか、この先の仕事、そして休むという判断そのもの。それぞれについて、厚生労働省の資料や法律の条文で確認できたことだけを書きます。確認できなかったことは、確認できなかったと書きます。
気持ちを立て直す方法をお伝えする記事ではありません。抱えているものの輪郭を、少しだけはっきりさせるための記事です。
後悔の中身は、国の資料にも名前がついています
分け方を思いつきで決めたわけではありません。厚生労働省と労働者健康安全機構が出している心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きには、病気休業期間中の対応について書かれた項目があり、そこにこう書かれています。
精神的な孤独、復職できるかという不安、今後のキャリア等で本人が不安に感じていることに関して、十分な情報を提供することが重要である。
さらに、同じ項目にはこう続きます。
特に、本人が安心して療養できるようにするためには、休業中の経済的・将来的な不安を軽減するための配慮を行うことが重要である。
つまり、孤独、復職できるかという不安、キャリアの不安、経済的な不安という4つは、あなたが特別に弱いから浮かんでくるものではなく、国の資料が休業中に起きるものとしてあらかじめ想定しているものです。この手引きは会社や産業保健スタッフに向けて書かれた文書ですが、そこに挙がっている不安の一覧は、休んでいる本人が今まさに感じているものと重なります。
この記事では、ここに「休むという判断そのものへの疑い」を加えた5つで整理します。順番に見ていきます。
1つめ。収入が減ったことへの後悔
いちばん具体的で、いちばん重くのしかかるのがお金です。ここは制度の側にはっきりした答えがあります。
給与が止まっても、健康保険からの支給が控えています
健康保険法第99条は、被保険者が療養のため労務に服することができないときに、労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から傷病手当金を支給すると定めています。額は同条第2項で、支給を始める日以前の直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の、さらに3分の2にあたる金額とされています。同条第4項では、支給期間は同一の疾病等について支給を始めた日から通算して1年6か月とされています。
手続きが済んでいない場合、支給までに時間がかかることがあります。すでに申請している方も、支給日のずれで「減った」と感じている可能性があります。条件を確かめたい方は傷病手当金の条件は4つを読んでください。
傷病手当金には所得税がかかりません
見落とされやすいのがここです。健康保険法第62条は「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」と定めています。国税庁のタックスアンサーNo.1400も、傷病手当金について「非課税所得であり、所得税は課されません」と明記しています。
これは手取りの比較に効いてきます。働いていたときの給与からは所得税と社会保険料が引かれていました。傷病手当金はおよそ3分の2の額ですが、そこから所得税は引かれません。額面どうしを並べて落ち込むより、手取りどうしを並べたほうが実態に近くなります。
有給休暇が残っているなら、それは消えていません
給与が支払われた日については傷病手当金が支給されないという関係があるので、有給休暇を使った期間と傷病手当金の期間は重なりません。裏を返すと、まだ使っていない有給休暇があるなら、その分は失われずに残っています。復職後の通院日に使うこともできます。この関係の詳しいところは休職中に給与は出るのかに整理しました。
出ていくお金は止まりません
健康保険料と厚生年金保険料の本人負担は、休職中も発生します。住民税は前年の所得にもとづいて課されるので、収入が下がった年にも前年分の請求が届きます。「思ったより減った」と感じる原因が、収入の側ではなく支出の側にあることは珍しくありません。入るお金と出るお金を並べた全体像は休職中に受け取れるお金と、出ていくお金の全体像にまとめています。
なお、先に引用した手引きは、事業者が本人に対して傷病手当金制度その他の公的支援制度についての手続きに関する情報を提供することが望まれる、とまで書いています。お金のことを会社に聞くのは、筋の違う相談ではありません。
2つめ。職場に迷惑をかけたという後悔
ここについては、「迷惑ではありません」と言い切ることはしません。実際に誰かが仕事を引き受けているのは事実だからです。書けるのは、休職が制度として想定された事態であるということです。
休職は、会社が先に決めて用意している制度です
厚生労働省が公開しているモデル就業規則(令和7年12月版)には、第9条に休職の規定があります。解説にはこう書かれています。
休職とは、業務外での疾病等主に労働者側の個人的事情により相当長期間にわたり就労を期待し得ない場合に、労働者としての身分を保有したまま一定期間就労義務を免除する特別な扱いをいいます。
注目したいのは、この規定が休職の入口だけを定めているのではないという点です。同じモデル就業規則には、第43条第3項に休職期間中の賃金の扱いが置かれ、第52条第3号には休職期間が満了して休職事由が消滅しないときの扱いが置かれています。入口から出口まで、あらかじめ条文の形で用意されているということです。
会社は、誰かが休むことがあるという前提でこの規則を作っています。あなたの休職が想定外の事態として扱われるようには、そもそも設計されていません。
会社には、メンタルヘルス対策の枠組みが用意されています
もうひとつ、法律の側の話があります。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、その冒頭で、労働安全衛生法第70条の2第1項の規定にもとづき、同法第69条第1項の措置の適切かつ有効な実施を図るための指針として定めるものである、と自らの位置づけを説明しています。
この指針は、事業者が取り組むべきこととして「職場復帰における支援」の項を設け、次のように書いています。
メンタルヘルス不調により休業した労働者が円滑に職場復帰し、就業を継続できるようにするため、事業者は、その労働者に対する支援として、次に掲げる事項を適切に行うものとする。
続けて、衛生委員会等で調査審議し産業医等の助言を受けながら職場復帰支援プログラムを策定すること、その実施に関する体制や規程を整備して労働者に周知することなどが挙げられています。管理監督者に対する教育研修の項目にも「心の健康問題により休業した者の職場復帰への支援の方法」が入っています。
休んだ人にどう対応するかは、管理職があらかじめ学んでおく内容として指針に列挙されています。個人の善意に委ねられた話ではありません。
指針はさらに、労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して適切に対応できる体制を整備するものとする、とも定めています。相談の窓口を用意することまでが、事業者の取り組みとして書かれているということです。
休業を始めるときの説明も、会社の側の役目とされています
職場復帰支援の手引きの第1ステップには、管理監督者等が行うこととして、休業を開始する労働者に対して療養に専念できるよう安心させると同時に、休業中の事務手続きや職場復帰支援の手順についての説明を行う、と書かれています。
もしその説明を受けた記憶がないなら、それは受け損ねたのかもしれませんし、会社の運用がそこまで整っていないのかもしれません。どちらにしても、あとから聞き直して差し支えありません。手引きに書かれている以上、聞かれる側にとっても想定内の質問です。
数字で見ても、まれな出来事ではありません
厚生労働省の令和7年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況によると、過去1年間(令和6年11月1日から令和7年10月31日まで)にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%でした。前年の調査では12.8%です。
事業所の規模別に見ると、印象がかなり変わります。
| 事業所の規模 | 該当する労働者がいた事業所の割合 |
|---|---|
| 1,000人以上 | 92.9% |
| 500〜999人 | 89.7% |
| 300〜499人 | 82.4% |
| 100〜299人 | 54.6% |
| 10〜29人 | 6.8% |
同じ調査では、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合が63.0%、労働者50人以上の事業所に限ると93.7%となっています。規模の大きい会社ほど、対応した経験も体制もあると考えられます。
3つめ。もう戻れないのではないかという不安
戻れるかどうかを、この記事で判定することはできません。ただ、判断がどういう手順で行われるのかは公開されています。見えない基準で決められるわけではない、という点だけでも先に押さえておくと違います。
復職の判断には、国が示した5段階の手順があります
先に引用した職場復帰支援の手引きは、支援の流れを5つのステップとして示しています。病気休業の開始と休業中のケア、主治医による職場復帰可能の判断、職場復帰の可否の判断と職場復帰支援プランの作成、最終的な職場復帰の決定、そして職場復帰後のフォローアップです。
第3ステップで行う情報の収集と評価では、いちばん最初に「労働者の職場復帰に対する意思の確認」が置かれています。本人の意思と就業意欲を確認するところから始まる組み立てです。評価される項目には、適切な睡眠覚醒リズムの有無、注意力・集中力の程度、安全な通勤の可否といったものが並びます。そのあとには「今後の就業に関する労働者の考え」として、希望する復帰先や希望する就業上の配慮の内容と期間を聞く項目も置かれています。
5番目のフォローアップも見ておく値打ちがあります。復職後に確認する事項として、疾患の再燃・再発や新しい問題の発生の有無、勤務状況および業務遂行能力の評価、職場復帰支援プランの実施状況の確認、治療状況の確認、プランの評価と見直しが挙げられています。復職は「戻れたら終わり」の一回きりの判定ではなく、戻したあとに調整を続けるものとして手順が組まれています。一度で完璧に戻らなければならない、という前提ではありません。
手順の詳しい中身と、不安の種類ごとの対処は復職が怖いときにまとめました。
戻る先は、原則として元の職務です
モデル就業規則第9条第2項は、休職期間中に休職事由が消滅したときは原則として元の職務に復帰させると定めています。ただし、元の職務に復帰させることが困難または不適当な場合には他の職務に就かせることがある、と続きます。
「休職したら居場所がなくなる」という言い方をよく見かけますが、少なくともモデル就業規則の立て方は、元に戻すことを原則としています。自分の会社の規則がどう書かれているかは、読めば確かめられます。
期間の定めがどこに書いてあるかを確かめてください
もうひとつ、日付の話があります。モデル就業規則第9条第1項は休職の期間を定める形になっており、同条第3項は、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は休職期間の満了をもって退職とする、としています。第52条第3号も同じ扱いを退職事由として挙げています。
期間の長さは会社ごとに違います。就業規則の休職の条を見れば書いてあります。就業規則については、労働基準法第106条が、常時各作業場の見やすい場所へ掲示すること、備え付けること、書面を交付することその他の方法によって労働者に周知させなければならないと定めています。読めるようにしておくことは会社の義務です。人事や総務に「休職の規定を確認したいのですが」と伝えれば足ります。期間と満了の扱いは休職期間はどのくらい取れるのかに整理しました。
4つめ。この先のキャリアが終わったという不安
ここはこの記事では深く扱いません。同じサイトに正面から扱った記事があるので、そちらに送ります。
先に一点だけ書いておきます。休職のあとに続く道は復職だけではありません。復職の前に助走をつけるリワーク支援、離職後だけでなく一定の要件を満たせば休職中でも使える就労移行支援、障害者雇用という働き方など、復職以外の道筋も制度として用意されています。どれを選ぶかを今日決める必要はまったくありません。
昇進や賃金への影響、転職のときの扱い、退職という形になった場合に残る制度まで含めて、「休職したら終わり」は本当かで事実だけを並べて整理してあります。この不安が今いちばん重いなら、この記事より先にそちらを読んでください。
5つめ。休まなければ乗り切れたのではないかという後悔
いちばん答えの出しにくいところです。ここは、書けないことを先にはっきりさせます。
判定できる基準は見つけられませんでした
あなたの休職が早すぎたのか、遅すぎたのか、あるいは避けられたのかを後から判定できる公的な基準は、探した範囲では見つかりませんでした。体調の見立てに関わることでもあるので、このサイトで断定することはしません。ここは分からないと書いておきます。
確認できたのは、指針の枠組みの立て方までです
そのうえで、確認できたことがひとつあります。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、事業者が心の健康づくり計画を実施するにあたって、次の3つが円滑に行われるようにする必要があると書いています。
ストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う「三次予防」
読み取れるのは、職場復帰への支援は、予防が失敗した先の例外的な対応としてではなく、一次予防・二次予防と並ぶ「三次予防」として枠組みの中に置かれているということです。指針は別のところで、予防策を実施したにもかかわらず万一メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合には、その早期発見と適切な対応を図る必要がある、とも書いています。
これは事業者に向けた記述であって、個人の判断の良し悪しを評価するものではありません。それでも、早い段階で対応することを前提に組み立てられた枠組みがある、という事実は確認できます。少なくとも国の資料は、休業と復帰を、あってはならないこととしては扱っていません。
「もし休まなかったら」は、比べられません
もうひとつ、性質の話を添えておきます。休まなかった場合にどうなっていたかは、誰にも観測できません。比べる相手が存在しないものと、今の状態を比べ続けると、答えの出ない問いをずっと回し続けることになります。
起きなかった出来事と今を比べるのではなく、今の状態から先に何ができるかに目を移すほうが、確かめられることが増えます。
今日は、5つのうちどれが重いかを選ぶだけで十分です
ここまでで、後悔の中身を5つに分けました。お金のこと、職場への負い目、戻れるかどうか、この先の仕事、休むという判断そのもの。
今日していただきたいのは、この5つのうち今いちばん重いものを1つ選ぶことだけです。書き出す必要もありません。頭の中で「今日はお金のことが重い」と決まれば、それで十分です。
選べたなら、それはもう「休職しなければよかった」という漠然とした一文ではなくなっています。輪郭のある、名前のついた不安に変わっています。名前がついたものは、あとから調べることも、誰かに相談することもできます。
そして、5つのうち4つには、この記事で見てきたとおり、制度の側に確かめられる答えがありました。金額の根拠は法律の条文にあり、休職の扱いは就業規則に書かれていて、復職の手順は公開された手引きにあります。残るひとつは答えが出ませんが、答えが出ない問いだと分かっただけでも、抱え方は変わります。
続きは、体調が上向いた日にで構いません。今日はここまでで大丈夫です。
わたしたちは就労支援の現場で、休職を選んだこと自体を悔いている方に会うことがあります。話をうかがっていくと、後悔と呼んでいたものの中身が、お金の不安だったり、戻れるかどうかの不安だったりと、別々のものに分かれていくことがよくあります。ひとつずつ確かめられる形にするだけで、抱えている重さは変わります。
