障害年金という制度があると知ったとき、多くの方が最初に思うのは「もっと早く知っていれば」ということです。何年も体調が悪いまま過ごして、仕事を辞めて、貯金が減って、それからようやく制度にたどり着く。そこで「あのころの分は、あとから受け取れないのだろうか」と考えるのは、当然のことだと思います。

答えを先に書きます。受け取れる場合があります。ただし、条件と上限があります。そして、その条件を満たせるかどうかは、今からの努力ではどうにもならない部分(当時の診療記録が残っているか)に左右されます。

この記事では、その「受け取れる場合」と「受け取れない場合」の分かれ目を、日本年金機構の資料と法律の条文だけを使って整理します。士業の集客記事でよく見かける「遡及請求で数百万円」という書き方はしません。金額は等級と月数で決まるもので、先に額を見込んでも意味がないからです。

なお、精神疾患での障害年金そのものの条件や金額、等級の考え方については、精神疾患での障害年金。もらえる条件と、申請の現実にまとめています。この記事は「いつからの分を受け取れるか」だけに絞ります。

まず、自分がどの請求に当たるのかを分けます

日本年金機構の案内には、障害年金の請求のしかたが2つ書かれています。「障害認定日による請求」と「事後重症による請求」です。

実務や解説では、このうち障害認定日による請求を、時期によって「本来請求」と「遡及請求」に呼び分けます。ここを勘違いしている方が多いので、はっきり書いておきます。遡及請求という名前の別の制度があるわけではありません。障害認定日による請求を、障害認定日からずいぶん時間がたってから出すときに、そう呼んでいるだけです。

3つの呼び方を並べると、こうなります。

呼び方 どんなとき いつからの分を受け取れるか 必要な診断書
本来請求(障害認定日による請求) 障害認定日に等級に当たる状態で、そのころに請求する 障害認定日の翌月分から 障害認定日から3か月以内の現症のもの 1通
遡及請求(障害認定日による請求のうち、認定日から1年以上たってから出すもの) 障害認定日に等級に当たる状態だったが、請求がずっとあとになった 障害認定日の翌月分から。ただし時効により直近5年分まで 上の1通に加えて、請求日前3か月以内の現症のもの 1通
事後重症による請求 障害認定日には等級に当たらなかったが、その後に悪化して当たる状態になった 請求日の翌月分から 請求日前3か月以内の現症のもの 1通

分かれ目はひとつだけです。障害認定日の時点で、等級に当たる状態だったかどうか。ここだけが違います。

障害認定日とは、いつのことか

障害認定日は、初診日から起算して1年6か月を経過した日です。その期間内に傷病が治った場合(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った日を含みます)は、その日が障害認定日になります。国民年金法30条1項と厚生年金保険法47条1項に、この定義がそのまま書かれています。

20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある方で、障害認定日のあとに20歳になる場合は、20歳に達した日が判断の時点になります。

つまり、初診日が5年前なら障害認定日は3年半前ということです。「3年半前の自分は、どういう状態だったか」を考えるところから始まります。

事後重症は「あとから悪くなった人」のためのしくみです

事後重症による請求は、国民年金法30条の2、厚生年金保険法47条の2に定められています。条文は、障害認定日に等級に当たる状態になかった人が、その日のあと65歳に達する日の前日までの間にその傷病により等級に当たる状態になったときは、その期間内に請求することができる、という書き方をしています。

ここで大事なのは、事後重症は「請求が遅れた人」の受け皿ではなく、あくまで「認定日には該当しなかったが、その後に悪化した人」のしくみだということです。認定日のころにすでに重い状態だった方は、本来なら障害認定日による請求のほうに当たります。ただ実際には、認定日当時の状態を証明できないために事後重症で請求するしかない、という形になることがあります。次の章がその話です。

遡及請求では、診断書が2通いります

ここが実務上いちばん詰まるところです。

日本年金機構の「障害基礎年金を受けられるとき」「障害厚生年金を受けられるとき」には、添付する医師の診断書について、こう書かれています。

  • 障害認定日より3か月以内の現症のもの
  • 障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、直近の診断書(年金請求日前3か月以内の現症のもの)も併せて必要

障害厚生年金の請求手続きのご案内」にも同じ趣旨が書かれています。障害認定日による請求では認定日時点の症状がわかる診断書が必要で、請求する日が障害認定日より1年以上過ぎているときは、請求手続き以前3か月以内の症状がわかる診断書も併せて必要になる、という説明です。

なぜ2通なのかというと、判断する対象が2つあるからです。認定日の時点で等級に当たっていたかと、今も等級に当たっているかは、別々に見られます。片方だけでは、いつからいつまでの分を出すのかが決まりません。

詰まるのは、当時のカルテです

診断書は医師が書くものですが、医師は記憶ではなく当時の診療録(カルテ)にもとづいて書きます。何年も前の状態について、記録なしで書けるものではありません。

診療録の保存義務は、医師法24条2項で5年間と定められています。病院や診療所に勤務する医師の診療については、その病院・診療所の管理者が5年間保存する、という書き方です。逆に言えば、法律上は5年を過ぎれば廃棄しても構いません。

ここが、遡及請求のいちばん現実的な壁です。障害認定日が10年前なら、当時のカルテが残っていない可能性は十分にあります。当時の病院が廃院していれば、そもそも問い合わせ先がありません。

正直に書きます。認定日当時の診療記録がない場合、認定日の診断書は作成できません。初診日の証明については、証明が取れないときの申立書のしくみが別に用意されていますが、認定日の診断書に代わる書類が用意されているわけではありません。

ただ、あきらめる前に確認してほしいことが2つあります。

ひとつは、実際に残っているかどうかは問い合わせないと分からないということです。5年で必ず廃棄しているわけではなく、それより長く保存している医療機関もあります。電子カルテになってからは、なおさら残っていることがあります。今の主治医に「昔かかっていた病院に記録があれば診断書を書いてもらえるか」と相談するより先に、当時の病院に「◯年ごろのカルテは残っていますか」と電話で聞くほうが早いです。

もうひとつは、認定日の診断書が取れなくても、請求そのものは止まらないということです。現在の状態の診断書1通で、事後重症による請求はできます。遡及分をあきらめることと、障害年金をあきらめることは別です。

診断書を頼む前に、年金事務所に行ってください

日本年金機構は、診断書のページにこう書いています。障害年金の要件や使用する診断書の種類、診断書に記入する症状の日付を確認する必要があるため、診断書を作成する前に必ず年金事務所等に相談してください、と。

遡及請求ではこれが特に効きます。現症日(診断書に書く「いつ時点の状態か」)を間違えると、書いてもらった診断書が使えません。診断書は医療機関で費用がかかりますし、書き上がるまで何週間かかかることもあります。日付を確認せずに2通同時に依頼して、片方が無駄になるのは避けたいところです。

時効は5年です

さかのぼって認められた場合でも、受け取れる分には上限があります。

日本年金機構は、障害基礎年金・障害厚生年金それぞれの請求時期の説明で、こう書いています。「請求書は障害認定日以降、いつでも提出できますが、遡及して受けられる年金は、時効により、5年分が限度です」。「障害年金ガイド 令和8年度版」にも、障害認定日から1年以上経過している場合でも2通の診断書を用意すれば請求できるとしたうえで、「ただし、5年以上前の年金については、時効により受け取ることができません」と書かれています。

根拠は国民年金法102条1項厚生年金保険法92条1項です。どちらも見出しは「時効」で、次のような構成になっています。

  • 年金給付(保険給付)を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から5年を経過したときに時効で消滅する
  • その権利にもとづいて支払期月ごとに支払われる年金の支給を受ける権利は、支払期月の翌月の初日から5年を経過したときに時効で消滅する

年金には、権利が2階建てになっている、という考え方があります。日本年金機構の「年金の時効」のページでは、これを基本権(年金を受ける権利そのもの)と支分権(各月分の支払いを受ける権利)と呼んで説明しています。

基本権は、権利が発生してから5年で時効消滅すると書かれています。ただし同じページには、やむを得ない事情により時効完成前に請求できなかった場合は、その理由を書面で申し立てることで基本権を時効消滅させない取扱いを行っている、とも書かれています。だから、障害認定日から何年たっていても、障害認定日による請求そのものは受け付けられます。

一方で支分権は、支払期月ごとに5年で消えていきます。だから実際に振り込まれるのは直近5年分までにとどまります。障害認定日が10年前でも、認定日の翌月から10年分が出るわけではありません。

数百万円という書き方をしない理由

「遡及請求で数百万円がまとめて入る」という見出しをよく見かけますが、この記事ではその書き方をしません。

理由は単純で、あらかじめ決まった額があるわけではないからです。受け取れる額は、認められた等級と、年金の種類(障害基礎年金か障害厚生年金か)と、認められた月数の掛け算で決まります。障害基礎年金2級は令和8年度で年額847,300円ですから、5年分がまるごと認められれば計算上は数百万円になります。3級の障害厚生年金だけであれば、額はずっと小さくなります。

そして何より、そこまで通るかどうかがいちばん不確かです。認定日当時の診断書がそろうか、その診断書の内容が認定日時点で等級に当たると判断されるか、という2つの関門があります。額を先に見込んでしまうと、通らなかったときの落差が大きくなります。金額の期待ではなく、手続きとして成立するかどうかから順に確かめていくほうが、結果として消耗しません。

事後重症は、請求した月の翌月分からしか出ません

ここが「急いだほうがいい」と言われることの中身です。

事後重症による請求について、日本年金機構は「請求日の翌月から障害年金を受給できます」「請求した日の翌月分から受け取りとなるため、請求が遅くなると年金の受給開始時期が遅くなります」と書いています。

「障害年金ガイド」の例示は、もっとはっきりしています。請求日が令和7年10月25日の場合は令和7年11月分からの受け取りになり、請求日が令和7年11月中となった場合は令和7年12月分からの受け取りになる、という書き方です。

法律のしくみとしてはこうなっています。国民年金法30条の2第1項が「その期間内に障害基礎年金の支給を請求することができる」と定め、同条3項が「第一項の請求があつたときは(中略)その請求をした者に障害基礎年金を支給する」と定めています。つまり支給すべき事由が生じるのは請求のときです。そして国民年金法18条1項が、年金給付の支給は「これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め」ると定めています。この2つが組み合わさって、請求月の翌月分からになります。厚生年金保険は、47条の2と36条1項が同じ構造です。

つまり、月をまたいだ分は、あとから取り戻せません。書類がそろわないまま月末を過ぎると、その1か月分は制度上戻ってこないということです。「もう少し体調が落ち着いてから」「書類を全部完璧にしてから」と考えているうちに、静かに1か月ずつ減っていきます。

65歳の誕生日の前々日という期限

事後重症による請求には、はっきりした期限があります。請求書は65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があります

条文では、国民年金法30条の2第1項が「同日後六十五歳に達する日の前日までの間において」と書いています。法律上「65歳に達する日」は誕生日の前日を指すので、その前日、つまり誕生日の前々日が最後の日になります。厚生年金保険法47条の2第1項も同じ書き方です。

障害認定日による請求のほうには、この期限はありません。日本年金機構も「請求書は障害認定日以降、いつでも提出できます」と案内しています。ここは2つの請求で扱いがはっきり違うところです。

遡及が認められなくても、事後重症として決まることがあります

ここは知らないと損をする部分なので、少していねいに書きます。

年金請求書には「障害給付の請求事由」を選ぶ欄があり、次の3つから選びます。

  1. 障害認定日による請求
  2. 事後重症による請求
  3. 初めて障害等級の1級または2級に該当したことによる請求

そして、1を選んだ場合には、あわせて「事後重症請求に関する確認事項」のどちらかを選ぶことになっています。「障害厚生年金の請求手続きのご案内」に載っている請求書3ページの見本には、次の2つの選択肢がそのまま印刷されています。

  • 「障害認定日による請求」で受給権が発生しない場合は、「事後重症による請求」として障害給付を請求する
  • 「障害認定日による請求」で受給権が発生しない場合は、「事後重症による請求」による請求は行わない

つまり前者を選んでおけば、認定日の分が認められなかったときに、そのまま事後重症として審査されます。改めて一から請求し直す必要がありません。

これを選んでいないと、認定日請求が認められなかった時点で不支給になり、そこから事後重症の請求をやり直すことになります。やり直しているあいだにも月は進みますし、事後重症は請求日の翌月分からしか出ませんから、その遅れはそのまま受け取り開始の遅れになります。

だから遡及請求は、やり方によっては「認められなくても失うものが少ない」形にできます。ただし、この欄をどう記入するかで結果が変わる以上、自己判断で書き込まず、年金事務所の窓口で自分の場合はどう記入すべきかを確認してください。

なお3つ目の「初めて障害等級の1級または2級に該当したことによる請求」は、すでに別の傷病で障害の状態にある方が、あとから起きた傷病とあわせて初めて1級・2級に当たる状態になった場合のしくみです(国民年金法30条の3、厚生年金保険法47条の3)。この場合の支給は、条文で「請求があつた月の翌月から」と明記されています。

遡及請求を検討する価値があるのは、どういう場合か

制度の説明はここまでで、あとは自分がどちらに近いかという話になります。断定はできませんが、判断の材料は3つに整理できます。

ひとつ目は、障害認定日のころに、実際に通院していたかです。初診日から1年6か月後のあたりに受診記録がなければ、その時点の診断書は作れません。通院が途切れていた時期と障害認定日が重なっている方は、ここでほぼ決まってしまいます。

ふたつ目は、そのころの記録が今も残っているかです。前に書いたとおり、診療録の保存義務は5年です。障害認定日が5年以内であれば残っている可能性は高く、10年以上前であれば運次第になります。当時の医療機関に問い合わせるところから始めてください。電話1本で分かることです。

みっつ目は、そのころの生活が、今の等級の説明に近い状態だったかです。入院していた、休職していた、家のことがほとんどできず家族がやっていた、といった時期であれば、認定日の診断書に書ける内容があります。逆に、そのころは通常どおり働けていたという場合、認定日の時点で等級に当たると判断されるのは難しくなります。この場合はむしろ事後重症のほうが実態に合っています。

3つとも当てはまるなら、年金事務所で遡及の可能性を相談する価値があります。ひとつでも欠けるなら、遡及にこだわらず、まず事後重症で請求を出してしまうほうがよい場合が多いです。

いちばん避けたいのは、遡及できるかどうかで迷って、請求そのものを止めてしまうことです。遡及分は5年という枠の中で増えたり減ったりしますが、事後重症の分は迷っているあいだ毎月消えていきます。迷う時間そのものが目減りにつながる制度になっている、ということです。

さかのぼった分が振り込まれたときに、気をつけること

遡及が認められて、まとまった額が一度に振り込まれることがあります。そのときに考えておくべきことが3つあります。

傷病手当金を受けていた期間があるときは、調整が入ります。同一の傷病で障害厚生年金があとからさかのぼって決まった場合、すでに受け取った傷病手当金が調整されて、返金が必要になることがあります。「障害年金ガイド」にもこの説明があります。振り込まれた額をそのまま使ってしまうと、あとで困ることになります。傷病手当金そのものの条件については傷病手当金がもらえないケースにまとめています。

生活保護を受けている、または受けていた期間があるときも同じです。生活保護法63条は、資力があるにもかかわらず保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した自治体に対し、受けた保護金品に相当する金額の範囲内で、保護の実施機関の定める額を返還しなければならないと定めています。さかのぼって年金が決まった場合、その期間の保護費との関係を福祉事務所に届け出て、扱いを確認する必要があります。隠しても、年金の決定は自治体側に伝わります。生活保護を受けられる条件もあわせて見てください。

税金はかかりません。国民年金法25条は、給付として支給を受けた金銭を標準として租税その他の公課を課することができないと定めていて、例外とされているのは老齢基礎年金と付加年金です。厚生年金保険法41条2項も同じ構造で、例外は老齢厚生年金だけです。障害基礎年金も障害厚生年金も非課税なので、さかのぼり分に所得税がかかることを心配する必要はありません。

相談先と、今日できること

自分がどの請求に当たるのかは、初診日と障害認定日が確定しないと決まりません。そして初診日は、記録を見ないと確定しないことがほとんどです。

  • 年金事務所街角の年金相談センター(障害厚生年金の請求先でもあります)
  • 初診日が国民年金加入中や20歳前の場合は、お住まいの市区町村の窓口でも障害基礎年金の請求ができます
  • 一般的な問い合わせはねんきんダイヤル 0570-05-1165(050から始まる電話からは 03-6700-1165)

年金事務所は予約相談ができます。窓口に行く前に、初診日にあたりそうな時期と、そこから1年6か月後がいつごろになるかをメモしておくと、話が早く進みます。

今日できることを1つだけ挙げるなら、初診日から1年6か月後のころ、どこの病院に通っていたかを思い出すことです。それが分かれば、次にやることは「その病院に電話して、当時のカルテが残っているか聞く」だけになります。全部を一度に進める必要はありません。制度を知るのが遅かったことを悔やむより、今日その1件を確かめるほうが、確実に前に進みます。

わたしたちは就労支援の現場で、制度を知るのが遅かったことを悔やんでいる方に会うことがあります。ただ、さかのぼれるかどうかは当時の記録が残っているかで決まる部分が大きく、悔やんでも動かせないところです。できるのは、今の時点でどちらの請求ができるのかを年金事務所で確かめることだけだと思います。さかのぼりの可能性を調べているあいだに、今からの分の請求が遅れてしまうほうがもったいないので、順番には気をつけてください。