生活保護を受けながら障害年金を請求したら、保護は打ち切られるのではないか。逆に、障害年金が決まってから生活保護を申請しても、断られるのではないか。どちらを先に動けばいいのか分からないまま、時間だけが過ぎていくことがあります。
先に結論を書きます。両方を受け取ること自体はできます。障害年金を受けていることは、生活保護の対象外になる理由ではありません。ただし、二つを合わせた手取りが単純に増えるわけでもありません。ここを取り違えたまま話が進むと、あとで「思っていたのと違う」ということになります。
この記事では、なぜ足し算にならないのか、それでも障害年金を請求する意味はどこにあるのか、そしてさかのぼってまとまった年金が振り込まれたときに何が起きるのかを、生活保護法の条文と厚生労働省の実施要領で確認できた範囲だけ書きます。
金額の試算は載せません。最低生活費は住んでいる地域の級地と世帯の年齢構成で変わりますし、障害者加算の額も級地や在宅か入院かで変わります。ここで例を出すと、かえって誤解のもとになります。
なぜ足し算にならないのか
生活保護は「足りない分を補う」制度です
生活保護法第8条第1項は、保護について「厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」と定めています。
つまり、先に最低生活費という金額が世帯ごとに決まっていて、そこから収入を差し引いた差額が保護費になります。厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」にも、支給される保護費のイメージとして、最低生活費という枠のなかに「年金、児童扶養手当等の収入」と「支給される保護費」が並んでいる図が載っています。年金の部分が大きくなれば、保護費の部分が小さくなります。枠の高さそのものは変わりません。
これが、足し算にならない理由です。
障害年金は収入として計算されます
生活保護法第4条は「保護の補足性」という見出しがついていて、第1項で、保護は「その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定めています。続く第2項では、扶養義務者の扶養と他の法律に定める扶助は「すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」とされています。
生活保護の運用では、この考え方を「他法他施策の活用」と呼びます。厚生労働省の局長通知には、特に活用を図るべきものとして具体的な法律が列挙されていて、そのなかに国民年金法と厚生年金保険法が入っています。障害年金は、まさにここに当たります。
そのうえで、実際にいくらを収入として計算するかは実施要領で決まっています。次官通知は「恩給、年金、失業保険金その他の公の給付」についてその実際の受給額を認定すると定めていて、局長通知は、1年以内の期間ごとに支給される年金は受給月から次の受給月の前月までの各月に分割して収入認定すると定めています。障害年金は2か月ごとに振り込まれますので、通常は2か月分を2つの月に割り振って計算されます。
大事なのは順番の話であって、障害年金を受けていることが生活保護の対象外になる理由にはならないという点です。年金額が最低生活費に届かなければ、差額が対象になりえます。生活保護そのものの条件は生活保護を受けられる条件に、金額の決まり方は生活保護でいくら受け取れるのかにまとめています。
それでも障害年金を請求する意味はあります
手取りが変わらないなら請求しなくてもいいのではないか、と思うかもしれません。ですが、意味は残ります。
保護から抜けられる可能性があります
障害年金の額が最低生活費を上回れば、生活保護を必要としない状態になります。生活保護法第26条は「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない」と定めています。
停止と廃止の使い分けは、厚生労働省の課長通知に基準が示されています。臨時的な収入の増加などで一時的に必要なくなり、おおむね6か月以内にまた必要になると見込まれるときは停止、定期収入の恒常的な増加によって以後は再開の必要がないと認められるときは廃止、という整理です。障害年金のように毎回続いて振り込まれるものは、額しだいで後者に近づきます。
保護が終わっても、障害年金は続きます
これが実際にはいちばん大きいところだと思います。生活保護は必要がなくなれば止まりますが、障害年金は障害の状態が続くかぎり支払われます。手元に残る額が同じであっても、その先も自分の名義で続いていく収入があるかどうかは、生活の見通しの立て方を変えます。
国民年金法第25条は、給付として支給を受けた金銭に租税その他の公課を課すことはできないと定めていて、老齢基礎年金と付加年金を除く給付が対象です。障害基礎年金は所得税や住民税の対象になりません。同法第24条は、給付を受ける権利を譲り渡したり担保に供したり差し押さえたりできないとも定めています。
なお、障害基礎年金の1級・2級を受けている間は、国民年金保険料が法定免除になります(国民年金法第89条第1項第1号)。生活保護の生活扶助を受けている間も同じく法定免除です(同項第2号)。どちらの状態でも、保険料の未納が積み上がることはありません。
障害者加算の対象になりえます
生活保護には各種の加算があり、そのひとつが障害者加算です。加算がつくと最低生活費そのものが上がりますので、ここは数少ない「合計が変わる」場面です。次の章でまとめます。
障害者加算との関係
対象になるのは1級・2級に当たる状態です
障害者加算の対象は、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の別表第1第2章に定められています。二段階になっていて、次のとおりです。
| 区分 | 対象になる障害の状態 |
|---|---|
| ア(上の段) | 身体障害者障害程度等級表の1級もしくは2級、または国民年金法施行令別表に定める1級に当たる障害のある方 |
| イ(下の段) | 身体障害者障害程度等級表の3級、または国民年金法施行令別表に定める2級に当たる障害のある方(アに当たる方を除く) |
どちらも、症状が固定している方か、症状は固定していなくても、障害の原因となった傷病について初めて医師または歯科医師の診療を受けた後1年6か月を経過した方に限られます。障害年金でいう障害認定日の考え方と同じ区切りです。
国民年金法施行令別表は、障害基礎年金の1級と2級の状態を定めた表です。ここには3級がありません。ですので、精神の障害で障害厚生年金の3級だけを受けている場合、この基準では障害者加算の対象になりません。障害年金の等級と受け取れる範囲については精神疾患での障害年金にまとめています。
加算額は級地と、在宅か入院・入所かによって変わります。この記事では額を書きませんので、実際の額は福祉事務所で確認してください。
何で判定するのか
局長通知は、障害の程度の判定について「原則として身体障害者手帳、国民年金証書、特別児童扶養手当受給証明書又は福祉手当認定通知書により行うこと」と定めています。障害年金がすでに決まっている方は、年金証書がそのまま判定の材料になります。
これらを持っていない方については、保護の実施機関が指定する医師の診断書、その他障害の程度が確認できる書類にもとづいて判定することとされています。
精神障害者保健福祉手帳で判定してもらう場合
手帳でも判定できますが、条件がついています。厚生労働省の「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領」の第4は、生活保護との関係について次のように書いています。
生活保護法の障害者加算の認定に係る障害の程度の判定については、従来の障害年金証書の写し又は医師の診断書による判定に加えて、手帳の交付又は更新の年月日が当該障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けてから1年6月を経過している者については、手帳による判定もできることとなる(ただし、手帳の障害等級が1級又は2級である者に限る。)。
条件は二つです。手帳の等級が1級または2級であること、そして手帳の交付年月日または更新年月日が、初診日から1年6か月を経過していること。手帳を取った時期が初診日から1年6か月に届いていなければ、その手帳では判定できません。
同じ内容は厚生労働省の課長通知にも書かれていて、こちらには判定のしかたまで示されています。手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令別表に定める1級の障害、手帳の2級に該当する障害は同別表の2級の障害として、それぞれ認定するとされています。初診日の確認は、都道府県の精神保健福祉主管部局が保管している、手帳を発行したときの医師の診断書によって行われます。
つまり手帳3級では、この経路でも障害者加算の対象になりません。手帳の等級と障害年金の等級は別々に判定されるものですが、生活保護の障害者加算の場面では、どちらの書類から入っても1級か2級かというところだけが問われるという整理になります。
加算は自動ではつきません
障害年金が決まっても、加算が自動的に始まるわけではありません。判定に使える書類を福祉事務所に出す必要があります。局長通知には、加算の認定を変更すべき事由が生じたときは、その事由が生じた翌月から最低生活費の認定変更を行うことも定められています。年金証書や手帳が手元に届いたら、そのまま置いておかず、担当のケースワーカーに見せてください。
福祉事務所から障害年金の申請をすすめられる理由
障害年金を請求するように言われて、追い立てられているように感じる方がいます。ですが、これは制度の順番から出てくる話です。
生活保護法第4条第1項は、利用し得るあらゆるものを活用することを保護の要件としています。次官通知の「他法他施策の活用」の項も、他の法律や制度による保障、援助等を受けることができる者、または受けることができると推定される者については、極力その利用に努めさせることと定めています。
障害者加算については、さらに具体的な通知があります。昭和40年5月14日社保第284号は、加算の対象とすべき障害者の認定は、必ずしも年金や手当の裁定を待って行うべきものではないとしたうえで、次のように定めています。
現に関連年金等の裁定等を受けていない障害者から加算についての申告があったときは、関連年金等の受給に必要な手続をとるよう指示するとともに、三により加算の適否について保護の実施機関としての認定を行うこと。
加算の申告をすると、年金の手続きも案内される仕組みになっている、ということです。担当者が個人の判断ですすめているわけではありません。
一方で、生活保護法第27条は、指導または指示は「被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない」と定め、さらに「被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない」とも定めています。体調のせいで書類が書けない、初診日を思い出す作業がつらいといった事情があるときは、黙って止まってしまうより、その事情をそのまま伝えて相談したほうが話が進みます。障害年金の請求は診断書の準備も含めて重い手続きですので、何回かに分けて進めることになるのが普通です。
さかのぼって障害年金が支給されたとき
ここがこの記事でいちばん実害に直結するところです。先に結論を書きます。年金の決定通知が届いたら、お金を使う前に福祉事務所へ届け出てください。
なぜ返還を求められるのか
障害年金は、障害認定日にさかのぼって認められると、過去の分がまとめて振り込まれることがあります。金額が大きくなることもあります。
生活保護法第63条は「費用返還義務」という見出しで、次のように定めています。
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
さかのぼって支給された年金は、制度の考え方の上では「その時期にすでにあったお金」として扱われます。厚生労働省の課長通知は、第63条について次のように説明しています。
法第63条は、本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために、当該被保護者に返還を求めるものであり
同じ通知の前段には、資力があることを確認した際は資力の発生時期にさかのぼって第63条にもとづく費用返還を求めることとしているとも書かれています。悪いことをしたから返すのではなく、あとから重なった分を精算する、という位置づけです。
使ってしまってからでは戻せません
問題は順番です。まとまった額が振り込まれたあとで返還を求められると、すでに支払いに回してしまっていて手元に残っていない、ということが起こります。返還の義務そのものは消えませんので、そこから生活を切り詰めて返していくことになります。
返還額は「保護の実施機関の定める額」です。原則は、その資力を限度として支給済みの保護費の全額とされていますが、全額を返還額とすることで世帯の自立が著しく阻害されると認められる場合には、一定の額を控除して決めることがあるとされています。控除が認められるかどうかを決めるのは福祉事務所です。自分で判断して先に使ってしまうと、その検討自体ができなくなります。
届け出が遅れると、扱いが変わることがあります
生活保護法第61条は「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない」と定めています。
厚生労働省の課長通知は、第63条と第78条(不正な手段による受給への費用徴収)の使い分けについても書いています。不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、届出や申告をすみやかに行わなかったことにやむを得ない理由が認められるときや、実施機関も本人も予想しなかったような収入があったことが事後に判明したときは第63条の適用が妥当である、とされています。一方で、届出や申告について指示されたのに応じなかったとき、届出に明らかに作為を加えたときなどは、第78条の対象になります。第78条による徴収では、費用のほかに、その額に40%を乗じて得た額以下の金額もあわせて徴収されることがあります。
まとめると、やるべきことは一つだけです。年金の決定通知(年金証書)が届いた時点で福祉事務所に伝え、入ってきたお金には手をつけずに、返還額が決まるのを待つ。振込を待つ必要はありませんし、金額が確定していなくても構いません。決定通知が届いた、という事実を伝えるところからで十分です。
どちらを先に申請すればいいのか
ここは一律に決められるものではありませんので、断定は避けます。そのうえで、判断の材料になることを書きます。
いま手元のお金で今月を越せないのなら、生活保護の相談が先になります。障害年金は、初診日の証明、診断書の作成、病歴・就労状況等申立書の準備と、請求までにやることが多く、そこから審査の期間も必要です。今日から生活費が出てくる制度ではありません。生活保護のほうは、生活保護法第24条第5項で、申請のあった日から14日以内に通知することとされています(調査に日時を要する特別な理由があるときは最長30日)。
生活保護を先に受けたとしても、障害年金の請求ができなくなるわけではありません。むしろ運用は逆で、前の章のとおり、年金の手続きをとるよう案内される仕組みになっています。生活保護を受けている間に障害年金が決まれば、そこから収入認定に切り替わり、額しだいで保護の停止や廃止に進みます。
逆に、しばらくは手元のお金で持ちこたえられそうで、障害の状態が重いと医師から言われているのなら、障害年金の請求を先に進める形もあります。年金額が最低生活費を上回れば、そもそも生活保護を経由しないで済むこともあります。
どちらにしても、二つを並行して進めること自体に問題はありません。生活保護の申請の前の相談では、他の社会保障制度の活用についても一緒に検討することになっています。
それでも判断がつかないときは
ここまで読んでも、自分の場合にいくらになるのかは分からないと思います。最低生活費は級地と世帯構成で変わり、障害年金の額は加入していた制度と等級で変わり、障害者加算がつくかどうかは判定を経ないと決まりません。一般論だけで結論が出ない作りになっています。
聞く先ははっきりしています。
- 生活保護のことは、お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当です。福祉事務所を設置していない町村にお住まいの方は、町村役場でも手続きができます。すでに受給中なら、担当のケースワーカーに聞くのがいちばん早いです。
- 障害年金のことは、年金事務所か街角の年金相談センターです。初診日が国民年金加入中や20歳前の場合は、お住まいの市区町村の窓口でも障害基礎年金の請求ができます。
- 障害者加算がつくかどうかは、福祉事務所が判定します。年金証書、精神障害者保健福祉手帳を持っている場合はその手帳を持って相談してください。
相談に行く前の準備は、年金の決定通知や年金証書、手帳を一か所にまとめておくくらいで足ります。金額の計算はこちらでやる必要はありません。
そして、繰り返しになりますが、さかのぼった年金が振り込まれることになったときは、使う前に伝えてください。この一点だけ覚えて帰ってもらえれば、この記事の役目は果たせています。
わたしたちは就労支援の現場で、生活保護と障害年金の両方に関わる方に会います。手取りが増えないと知って、障害年金の請求をやめようとする方がいますが、それはもったいないと思います。保護から離れるときに残るのは年金のほうですし、加算につながることもあります。さかのぼって入ったお金の扱いだけは間違えると後で困るので、そこは受け取る前に福祉事務所へ伝えてください。
