「生活保護 してはいけないこと」で検索すると、禁止事項がずらりと並んだページがいくつも出てきます。読んでいるうちに、自分がすでに何かをやってしまっているのではないか、次の支給が止まるのではないかと不安になってきた方もいると思います。
先に、この記事の立場をはっきりさせておきます。並んでいる項目のなかには、法律にも通知にも根拠が見つからないものが混ざっています。本当に義務とされていることは数が限られていて、条文に書いてあります。それ以外の多くは、禁止ではなく、届け出て相談する対象です。
ここでは、生活保護法の条文と、厚生労働省が都道府県知事などにあてて出している実施要領(実際の運用の基準になっている通知です)で確認できることだけを使って、3つに分けて整理します。法令上の義務として明確なもの、届け出れば問題にならないもの、そして根拠を確認できなかったものです。
なお、受給できる条件そのものについては生活保護を受けられる条件に、金額の決まり方は生活保護でいくら受け取れるのかに、車や持ち家などの制限については生活保護のデメリットと、受給中に求められることにまとめてあります。
まず、厚生労働省自身が挙げている「守らなければならないこと」
厚生労働省の「生活保護制度に関するQ&A」には、「生活保護の受給中、守らなければならないことはありますか」という質問が載っています。答えとして挙げられているのは、次の内容です。
| 区分 | 厚生労働省が挙げている内容 |
|---|---|
| 義務 | 利用し得る資産、能力その他あらゆるものを生活のために活用しなければなりません |
| 義務 | 能力に応じて勤労に励み、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに、支出の節約を図り、その他生活の維持・向上に努めなければなりません |
| 義務 | 福祉事務所から、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示を受けたときは、これに従わなければなりません |
| 権利 | 生活保護の要件を満たす限り、誰でも無差別平等に受けることができます |
| 権利 | 正当な理由がなければ、既に決定された保護を不利益に変更されることはありません |
| 権利 | 保護費については、租税その他の公課を課せられることがありません |
| 権利 | 既に給付を受けた保護費又は保護費を受ける権利を差し押さえられることがありません |
国が公式に出している「守らなければならないこと」は、この分量です。禁止事項が何十項目も並んでいるわけではありません。しかも、義務と同じ数だけ権利が並べて書かれています。
生活保護法も同じ構造になっています。第10章の見出しは「被保護者の権利及び義務」で、そこに第56条から第63条までが並んでいます。前半が権利、後半が義務です。
法令にはっきり書かれている義務
条文にあたって整理すると、次のようになります。
| 何を | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 届け出る | 生活保護法第61条 | 収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、または居住地もしくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに届け出る |
| 指導・指示に従う | 同第62条第1項 | 第27条による指導または指示を受けたときは、これに従う |
| 生活の維持向上に努める | 同第60条 | 能力に応じて勤労に励み、健康の保持及び増進に努め、収入・支出を適切に把握し、支出の節約を図る |
| 不実の申請等をしない | 同第78条・第85条 | 不実の申請その他不正な手段により保護を受けた場合の費用徴収と罰則 |
順に見ていきます。
変わったことがあったら届け出る(第61条)
第61条は次のように定めています。
被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。
この記事で扱う話のほとんどは、結局ここに戻ってきます。働き始めた、収入が増えた、引っ越した、家族が増えた減った、まとまったお金が入った。そういう変化があったときに、黙っていないでください、というのがこの条文です。
裏を返すと、条文は「働くな」とも「引っ越すな」とも書いていません。変化そのものを禁じているのではなく、変化を伝えないことを問題にしています。ここを取り違えると、行動そのものを我慢することになってしまいます。
収入についての申告は、この第61条にもとづく届出義務として位置づけられています。保護課長通知には、申告の時期と回数の目安が書かれています。福祉事務所において就労可能と判断される人は、就労に伴う収入の有無にかかわらず原則として毎月です。就労困難と判断される人は、少なくとも12か月ごとです。常用雇用されているなど月ごとの収入の増減が少ない場合は、3か月ごとの提出でも差し支えないとされています。資産についての申告は、少なくとも12か月ごととされています。
これとは別に、保護の決定実施に必要がある場合はその都度申告を行わせること、ともされています。定例の申告を出したから終わり、ではなく、途中で変化があればその時点で伝えるという建て付けです。
指導・指示に従う(第62条)。ただし限度があります
第62条第1項は、第27条にもとづいて必要な指導または指示を受けたときは、これに従わなければならないと定めています。同条第3項は、この義務に違反したときは保護の変更、停止または廃止をすることができるとしています。
ここだけを読むと、言われたことには何でも従わなければならないように見えます。ですが、指示を出す側の条文である第27条には、次の2つの項が付いています。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。 3 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。
指導・指示は「必要の最少限度」に限る、と法律そのものに書いてあります。生活のすべてを管理してよいという規定ではありません。
社会局長通知には、どういう場合に第27条の指導指示を行うかが列挙されています。傷病の回復などにより就労が可能になったとき、収入や資産の申告を行わないとき、第61条の届出義務を怠って保護の決定実施が困難になっているとき、主治医の意見にもとづき入院や退院が必要と認められるときなどです。生活のこまごまとした場面ではなく、保護の決定と実施に直接かかわる場面が並んでいます。
同じ局長通知には、進め方についても定めがあります。第27条による指導指示は、口頭により直接本人に対して行うことを原則とし、それで目的を達せられなかったときなどに文書による指導指示を行う、とされています。いきなり処分に進む順番にはなっていません。
能力に応じて働き、支出の節約に努める(第60条)
第60条は、被保護者は常に能力に応じて勤労に励み、自ら健康の保持及び増進に努め、収入・支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない、と定めています。
努力義務の形で書かれた条文です。ここで押さえておきたいのは、「勤労に励む」が義務の側に書かれていることです。働くことは禁止どころか、求められている側の行為です。この点は後でもう一度扱います。
不実の申請その他不正な手段によらない(第78条・第85条)
第78条第1項は、不実の申請その他不正な手段により保護を受け、または他人をして受けさせた者があるときは、その費用の額の全部または一部をその者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができると定めています。
第85条第1項は、同じ行為について、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処すると定めています。ただし刑法に正条があるときは刑法によるとされています。
条文にある言葉は「不実の申請その他不正な手段」です。うっかり申告が遅れたこと全部がここに入るわけではありません。どこで線を引くのかは、あとで節をあらためて書きます。
「してはいけない」と思われているが、実は届け出るものです
ここがこの記事の中心です。禁止事項として語られていることの多くは、制度の中にきちんと扱いが定められていて、届け出て相談する対象になっています。
働くこと
「生活保護を受けたら働いてはいけない」「働いたら打ち切られる」という話をよく見かけます。条文はまったく逆のことを書いています。第60条は能力に応じて勤労に励むよう努めることを義務としていますし、厚生労働省のQ&Aも、就労収入がある人でも収入と資産が最低生活費に満たない場合には受給できると説明しています。
では、働いて得た収入はどう扱われるのか。厚生事務次官通知は、勤労収入を得ている人について、勤労に伴う必要経費として別表の基礎控除額表の額を認定することとしています。これに加えて、勤労収入を得るための必要経費として、社会保険料、所得税、労働組合費、通勤費等の実費の額を認定するとされています。
さらに2つの控除があります。新規に就労したため特別の経費を必要とする人については月額12,900円を、20歳未満の人については月額11,900円を、その人の収入から控除するとされています。
つまり、働いて得た収入がそのまま全額差し引かれる仕組みではありません。ただし控除の額が大きいわけでもないので、働けば生活が一気に楽になるという意味でもありません。そこは正直に書いておきます。
保護から抜けるときの制度もあります。生活保護法第55条の4は、被保護者の自立の助長を図るため、厚生労働省令で定める安定した職業に就いたことなどにより保護を必要としなくなったと認められた人に対して、就労自立給付金を支給すると定めています。
働くこと自体は禁止ではありません。やらなければならないのは、働き始めたことと収入額を申告することです。
保護費のやりくりで貯めたお金
「生活保護中は1円も貯金してはいけない」という説明も広く出回っています。保護課長通知には、これと違うことが書かれています。
被保護者に預貯金等がある場合は、まず、それが保護開始時に保有していたものではないこと、収入の未申告など不正な手段により蓄えられたものではないことを確認する。それが既に支給された保護費のやりくりによって生じたものと判断されるときは、使用目的を聴取し、その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合については、活用すべき資産には当たらないものとして保有を容認して差し支えない。通知はそう書いています。
同じ通知には、必要に応じて生活の維持向上の観点から計画的な支出について助言指導を行うこと、という記述も並んでいます。使い道を聞かれる前提の仕組みです。だからこそ、何のために貯めているのかを先に伝えておくほうが話が早くなります。
なお、申請の時点で持っている預貯金の扱いは別の話になります。そちらは生活保護のデメリットと、受給中に求められることで扱っています。
引っ越し
第61条は、居住地に異動があったときは届け出なければならないと定めています。転居を禁じる条文ではありません。ただし、事後報告で済ませられるものでもありません。
さらに、住宅扶助には地域ごとの上限額があり、転居のときの敷金等が住宅扶助として認められる場合は保護課長通知に類型が列挙されています。実施機関の指導にもとづいて現在よりも低額な住居に転居する場合、退職等により社宅等から転居する場合、家主が相当の理由をもって立退きを要求した場合、現在の居住地が就労の場所から遠距離にあって通勤が著しく困難であり、その近くに転居することが世帯の自立助長に特に効果的に役立つと認められる場合などです。
先に自分で決めて契約してしまうと、敷金等の扱いで困ることになります。順番として、先に相談してください。
進学
高校を出たあとの進学についても、扱いが定められています。
社会局長通知は、次のいずれかに該当する場合は世帯分離して差し支えないとしています。保護開始時にすでに大学で就学している人がその課程を修了するまでの間で、その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合。そして、大学等における修学の支援に関する法律にもとづく学資支給および授業料等減免、日本学生支援機構法による貸与金または給付金などを受けて大学で就学する場合です。夜間大学等については、稼働能力を十分に活用していると認められることなどの要件を満たせば、就学しながら保護を受けることができるとされています。
進学のための費用を保護費のやりくりで貯めることについても規定があります。保護課長通知は、就労に資する資格を取得することが可能な専修学校、各種学校または大学に就学すること、その預貯金等の使用目的が進学に必要な経費に充てるものであることなど一定の要件を満たす場合には、保有を容認して差し支えないとしています。この場合、原則としてやりくりを行う前に保護の実施機関の承認を得ておくこととされています。
給付金もあります。生活保護法第55条の5は、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある被保護者などのうち、厚生労働省令で定める教育訓練施設に確実に入学すると見込まれる人や、安定した職業に確実に就くと見込まれる人に対して、進学・就職準備給付金を支給すると定めています。
進学は禁止されていません。ただし手続きが複数あるので、早めに担当のケースワーカーに相談してください。
一時的に海外へ行くこと
これも通知に明記があります。保護課長通知の質疑応答には、被保護者が海外に渡航した場合の扱いについての問いがあり、次のように答えられています。
一時的かつ短期に海外へ渡航した場合であって引き続き国内に居住の場所を有している場合は、海外へ渡航したことのみをもって生活保護を停廃止することはできない。ただし、渡航費用を支出できるだけの金銭を有していたことになるので、その費用は収入認定の対象になる。単なる遊興を目的とした海外旅行等に充てられた場合には、その交通費および宿泊費に充てられる額について収入認定を行う。
そのうえで、親族の冠婚葬祭・危篤の場合および墓参、修学旅行、公的機関が主催する国際的な大会への参加、高等学校等で就学しながら保護を受けることができるとされた人の海外留学については、おおむね2週間以内であれば、渡航に要する費用の全額を収入認定しないものとして差し支えないとされています。
車や持ち家
こちらは一律の禁止ではないものの、認められるかどうかの判断に幅がある領域です。通勤や通院のための自動車の保有について保護課長通知に細かい類型が定められていること、居住している家屋については保有を認めることとされていることを含めて、生活保護のデメリットと、受給中に求められることにまとめてあります。
法令に根拠を見つけられなかったもの
ここは正直に書きます。ネット上で「生活保護でしてはいけないこと」として挙げられている項目のうち、次のものについては、生活保護法にも厚生労働省の実施要領にも、それを禁止する定めを確認できませんでした。
| よく挙げられている項目 | 確認できた範囲 |
|---|---|
| パチンコ・競馬などのギャンブル | 名指しで禁止する定めは確認できませんでした。第60条に支出の節約を図る努力義務があり、生活の維持に支障が出ている場合は第27条の指導・指示の対象になりえます |
| お酒・たばこ | 禁止する定めは確認できませんでした |
| 携帯電話・スマートフォンの保有 | 禁止する定めは確認できませんでした |
| ペットを飼うこと | 禁止する定めは確認できませんでした |
| クレジットカードの保有・利用 | 公的な一次情報を確認できませんでした。カードを作れるかどうかは各カード会社の審査基準によります |
| 恋人と同居すること | 同居そのものを禁止する定めは確認できませんでした。ただし同一の住居に居住し生計を一にする人は原則として同一世帯員として認定されるため、世帯の構成の異動として第61条の届出の対象になります |
| 保護費の使い道を細かく指定される | 用途を細かく指定する定めは確認できませんでした。厚生事務次官通知は、経常的最低生活費の範囲内で通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものだとしています |
書いていないことを「禁止されています」と説明することはできませんし、逆に「まったく自由です」と書くこともできません。第60条の努力義務と第27条の指導・指示という枠組みがある以上、生活が立ちゆかなくなっている状態は、話し合いの対象にはなりえます。
ただ、「法令で一律に禁止されていること」と「望ましくないとされていること」は、性質がまったく違います。前者は破れば処分の理由になりますが、後者はまず助言や指導という形で出てきます。ここを混ぜて「やったら即打ち切り」と書いている説明は、条文と通知の内容とは違います。
返還(第63条)と徴収(第78条)は別のものです
申告の漏れが見つかったときにどうなるのか。ここは不安が集中するところなので、丁寧に書きます。2つの条文があり、性質が違います。
| 第63条 費用返還義務 | 第78条 費用徴収 | |
|---|---|---|
| どんな場合か | 急迫の場合等において、資力があるにもかかわらず保護を受けたとき | 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、または他人をして受けさせた者があるとき |
| 何が求められるか | 受けた保護金品に相当する金額の範囲内で、保護の実施機関の定める額を返還する | 費用の額の全部または一部を徴収する |
| 上乗せ | ありません | 徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を上乗せして徴収できます |
| 罰則との関係 | ありません | 第85条に3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の定めがあります |
第63条は、不正を前提にした条文ではありません。厚生労働省の保護課長通知「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」は、第63条の性格を次のように説明しています。
本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で、既に支給した保護金品との調整を図るために返還を求めるものである。被保護者の作為または不作為により保護の実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではない。
そのうえで同じ通知は、被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、届出または申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるときや、保護の実施機関および被保護者が予想しなかったような収入があったことが事後になって判明したとき等は、第63条の適用が妥当であるとしています。
では第78条はどういう場合か。同じ通知は、第78条を適用する際の基準として次の4つを挙げています。
- 保護の実施機関が被保護者に対し、届出または申告について口頭または文書による指示をしたにもかかわらず、被保護者がこれに応じなかったとき
- 届出または申告に当たり明らかに作為を加えたとき
- 届出または申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関またはその職員が届出または申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、または虚偽の説明を行ったようなとき
- 課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき
4つとも、「言われたのに応じなかった」か「隠した・偽った」という形をしています。通知はさらに、第78条の適用に当たって最も留意すべき点は、被保護者等に不当または不正に受給しようとする意思があったことについての立証の可否である、とも書いています。
同じ通知は福祉事務所の側にも宿題を出しています。届出が必要な資産および収入の種類を具体的に列挙した届出義務についての通知や「保護のしおり」等を、保護開始時および継続ケースについては少なくとも年1回以上、世帯主および世帯員等に配布等の方法で説明しておくよう徹底することとされています。説明を受けた記憶がないという場合は、その資料をもらえないか窓口で聞いてみてください。
返還金や徴収金の払い方
第77条の2は、第63条により定められた額の全部または一部を、都道府県または市町村の長が徴収することができると定めています。第78条による徴収金と同じく、国税徴収の例により徴収することができるとされています。
保護費から差し引く形での納入についても規定があります。第78条の2は、被保護者が保護金品の交付を受ける前に、その一部を徴収金の納入に充てる旨を申し出た場合において、保護の実施機関が生活の維持に支障がないと認めたときに、保護金品を交付する際に徴収できると定めています。本人の申出と、生活の維持に支障がないという判断の両方が要件になっています。
なお第80条は、保護の変更、廃止または停止に伴って前渡した保護金品を返還させるべき場合において、これを消費または喪失した被保護者にやむを得ない事由があると認めるときは、返還させないことができると定めています。
保護の停止・廃止が行われるのはどういうときか
「打ち切り」という言葉でひとまとめに語られていますが、条文の上では入口がいくつかに分かれています。
保護を必要としなくなったとき(第26条)
第26条は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに保護の停止または廃止を決定し、書面をもって通知しなければならないと定めています。これは処分ではなく、状態が変わったことによる終了です。
停止と廃止の使い分けについては、保護課長通知に基準があります。臨時的な収入の増加などにより一時的に保護を必要としなくなった場合で、おおむね6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想されるときは停止です。定期収入の恒常的な増加などにより、以後特別な事由が生じないかぎり保護を再開する必要がないと認められるときは廃止とされています。
義務違反があったとき(第62条第3項)
第62条第3項は、指導・指示に従う義務に違反したときは保護の変更、停止または廃止をすることができると定めています。ただし、そこに至るまでには段階があります。
社会局長通知は、口頭による指導指示で目的を達せられなかったときなどに文書による指導指示を行い、文書による指導指示に従わなかったときに、必要に応じて第62条により所定の手続を経たうえで保護の変更、停止または廃止を行うこととしています。
保護課長通知は、さらに細かい基準を示しています。書面による指導指示に従わない場合でも、なお効果が期待されるときは、処分に先立って再度書面による指導指示を行うこと。指導指示の内容が比較的軽微な場合は保護の変更にとどめること。それが適当でない場合は保護を停止することとし、指導指示に従ったときや、指導指示を必要とした事由がなくなったときは停止を解除すること。停止後も引き続き従わない場合に、さらに書面による指導指示を行い、それでも従わない場合に廃止すること。
いきなり廃止になる作りにはなっていません。ただし通知は、直ちに廃止する場合として3つの例外も挙げています。最近1年以内に当該指導指示違反のほかに文書による指導指示への違反、立入調査拒否もしくは検診命令違反があったとき。第78条により費用徴収の対象となるべき事実について以後改めるよう指導指示したにもかかわらず従わなかったとき。保護の停止によっては指導指示に従わせることが著しく困難であると認められるときです。
報告や検診の求めに応じないとき(第28条第5項)
第28条第5項は、要保護者が報告をせず、もしくは虚偽の報告をし、もしくは立入調査を拒み、妨げ、もしくは忌避し、または医師もしくは歯科医師の検診を受けるべき旨の命令に従わないときは、保護の開始もしくは変更の申請を却下し、または保護の変更、停止もしくは廃止をすることができると定めています。
こちらにも段階があります。保護課長通知は、まず申請の却下や費用の不計上で対応し、それによりがたい場合に保護を停止すること、検診を受けたときなどには停止を解除すること、停止後に再度検診命令を行ってもなお従わないときに廃止することとしています。
なお、第28条第4項には「第一項の規定による立入調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」という定めがあります。
処分をするときは弁明の機会があります
第62条第4項は、保護の変更、停止または廃止の処分をする場合には、当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならないと定めています。そして、あらかじめ、当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時および場所を通知しなければならないとされています。
同条第5項は、この処分について行政手続法第3章の規定は適用しないとしていますが、括弧書きで第12条および第14条は除かれています。つまり、処分基準に関する第12条と、不利益処分の理由の提示を定めた第14条は適用されます。行政手続法第14条第3項は、不利益処分を書面でするときは理由も書面により示さなければならないと定めています。
言われるがままに決まる仕組みではありません。理由を書面で示してもらえますし、その前に言い分を述べる機会があります。
「辞退届」について
これは知っておいてほしい部分です。保護課長通知の質疑応答には、被保護者から「保護を辞退する」旨の書面が提出された場合の扱いについての問いがあります。答えの部分を要約します。
辞退届が有効となるためには、それが本人の任意かつ真摯な意思にもとづくものであることが必要である。保護の実施機関が辞退届の提出を強要してはならないことは言うまでもなく、本人が「保護を辞退する義務がある」と誤信して提出した辞退届や、本人の真意によらない辞退届は効力を有せず、これにもとづき保護を廃止することはできない。
さらに、辞退届が任意かつ真摯な意思にもとづいて提出された場合であっても、廃止の決定を行うにあたっては、本人から自立の目途を聴取するなど、廃止によって直ちに急迫した状況に陥ることのないよう留意すること、廃止に際しては国民健康保険への加入など必要となる手続についても助言指導し、必要に応じて自立相談支援機関につなぐこととされています。
納得できないときの道
指導や指示、あるいは保護の変更・停止・廃止といった決定に納得できないときは、審査請求という手続きがあります。
まず前提として、生活保護法第56条は「被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を、不利益に変更されることがない」と定めています。第57条は保護金品を標準として租税その他の公課を課せられることがないこと、第58条は既に給与を受けた保護金品またはこれを受ける権利を差し押さえられることがないことを定めています。
審査請求の宛先は、処分をした機関によって変わります。生活保護の決定および実施に関する事務は、生活保護法第84条の5により第一号法定受託事務とされています。地方自治法第255条の2は、法定受託事務に係る市町村長の処分についての審査請求は都道府県知事に対してするものとすると定めています。市や区の福祉事務所の処分については、都道府県知事に対して審査請求を行います。市町村長が事務を委任した場合の処分についても、生活保護法第64条が都道府県知事に対して行うものと定めています。
期限があります。行政不服審査法第18条第1項は、審査請求は処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月を経過したときはすることができないと定めています。同条第2項は、処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときもできないとしています。どちらにも「正当な理由があるときは、この限りでない」というただし書きが付いていますが、まずは3か月と覚えて、決定の通知を受け取ったら早めに動いてください。
裁決までの期間にも定めがあります。生活保護法第65条は、審査請求がされた日から、行政不服審査法第43条第1項の規定による諮問をする場合は70日、それ以外の場合は50日以内に裁決をしなければならないとしています。この期間内に裁決がないときは、審査請求人は棄却されたものとみなすことができるとも定められています。
都道府県知事の裁決に不服がある場合は、生活保護法第66条により、厚生労働大臣に対して再審査請求をすることができます。また第69条は、処分の取消しの訴えは審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができないと定めています。訴訟を考える場合でも、先に審査請求を通す順番になります。
なお、保護の開始の申請をしてから30日以内に決定の通知がないときは、第24条第7項により、申請が却下されたものとみなして審査請求に進むことができます。
迷ったらケースワーカーに聞くのがいちばん安全です
ここまで見てきたことを、行動の順番として並べ直します。
第一に、変化があったら伝えることです。働き始めた、収入が変わった、引っ越したい、進学を考えている、まとまったお金が入った。第61条が求めているのはこれで、この記事に出てきた話のほとんどはここで解決します。
第二に、迷った時点で聞くことです。第78条の適用基準として挙げられていた4つを、もう一度思い出してください。指示されたのに応じなかった、作為を加えた、説明を求められたのに応じず虚偽の説明をした、収入申告書が虚偽だった。どれも「聞かなかったこと」や「隠したこと」を問題にしていて、「聞いたこと」を問題にしているものは1つもありません。先に相談することは、制度の上でリスクにならない行動です。
第三に、届出義務の説明資料を手元に置くことです。厚生労働省の通知は、届出が必要な資産および収入の種類を具体的に列挙した資料を、少なくとも年1回以上配布するよう福祉事務所に求めています。何を届け出るべきかを毎回思い出さなくて済むように、紙でもらっておいてください。
そして、判断が分かれる部分については、この記事でも断定していません。車の保有、貯金の使い道、転居先の家賃、進学の要件。どれも通知に判断の枠組みが定められていて、あてはめを行うのは福祉事務所です。一般論だけでは結論が出ない設計になっています。
不安なまま検索を続けると、根拠のない禁止事項がどんどん増えていきます。条文に書いてあることは限られていて、その大半は「伝えてください」という内容です。そこを起点に、自分の場合はどうなるのかをお住まいの地域の福祉事務所で確かめてください。
わたしたちは就労支援の現場で、生活保護を使いながら働きはじめる方に会います。働いたら怒られるのではないか、と心配される方がときどきいますが、そうではありません。困るのは、働いたことを伝えそびれてあとから精算になる場合です。迷ったら先にケースワーカーに言っておく、という順番さえ守っていれば、たいていのことは問題になりません。
