「就労移行支援 ひどい」と検索する方は、たいてい、もう通い始めています。見学のときに聞いた話と実際が違う。毎日同じ作業をして帰るだけで、就職の話が出てこない。職員に相談しても流される。それでも、自分の受け取り方の問題かもしれないと思うと、誰にどう言えばいいのかが決められない。そういう状態だと思います。
就労移行支援は、障害者総合支援法にもとづく指定を受けて運営される事業です。事業者が何をしなければならないかは省令で細かく決まっていて、その決まりに反していれば行政の指導や監査の対象になります。感じ方とは別に、条文という共通の物差しがあるということです。
この記事は、通っている場所を辞めるように勧めるものではありません。決まりを並べるので、いま起きていることを当てはめて上から見ていってください。当てはまらない項目が見つかったときに、どこへ、どういう順で話せるのかも書きます。条文は2026年8月時点のものを確認しています。
なお、制度そのものの説明(対象になる人、費用、利用の流れ)は就労移行支援とは何か。使える人、期間、費用、その後に、期間が原則2年であることや通っている間に賃金も工賃も原則として出ないことといった制度の設計から来る不満は就労移行支援は「やめとけ」「意味ない」と言われる理由を確かめるにまとめてあります。就労継続支援B型に通っている方はB型事業所が「おかしい」と感じたときの、確かめ方と相談先のほうが近いと思います。事業者に課される義務は、サービスの種類ごとに違います。
事業者が守ることは、省令に書かれています
具体的な決まりを置いているのは、指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)です。以下、基準省令と呼びます。第11章の第174条から第184条までが就労移行支援の章で、運営に関する部分は第184条が他のサービスの条文をまとめて準用する形になっています。条番号が飛ぶので追いにくいのですが、中身はこのあと整理します。
なお、障害者総合支援法第42条にも事業者の責務があり、本人の意向・適性・障害の特性その他の事情に応じて常に障害者等の立場に立って効果的に行うよう努めること、質の評価を行って質の向上に努めること、人格を尊重し法令を遵守して忠実に職務を遂行することが定められています。
就労移行支援にだけ置かれている5つの義務
就労継続支援A型やB型の章にはなく、就労移行支援の章にだけ置かれている条文が5つあります。ここが、この記事でいちばん確かめてほしい部分です。
| 条文 | 事業者に義務づけられていること |
|---|---|
| 第179条の2 | 利用者が自ら通常の事業所に通勤することができるよう、通勤のための訓練を実施しなければならない |
| 第180条 | 個別支援計画にもとづいて実習できるよう、実習の受入先を確保しなければならない。確保に当たっては、公共職業安定所、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校等と連携し、利用者の意向と適性を踏まえて行うよう努める |
| 第181条 | 公共職業安定所での求職の登録その他の求職活動を支援しなければならない。関係機関と連携して、利用者の意向と適性に応じた求人の開拓に努める |
| 第182条 | 職場への定着を促進するため、関係機関と連携して、利用者が就職した日から6月以上、職業生活における相談等の支援を継続しなければならない。本人が希望する場合は、就労定着支援事業者との連絡調整を行わなければならない |
| 第183条 | 毎年、前年度に就職した利用者の数その他の就職に関する状況を都道府県に報告しなければならない |
どれも文末が「しなければならない」です。実習先を用意すること、ハローワークでの求職登録を支援すること、就職後の支援を6か月以上続けること。これらは事業所が善意でやっていることではなく、指定を受けている以上守るべき基準です。通い始めて数か月たっても、実習の話も求職活動の話も一度も出てこないのであれば、それは相性の問題ではなく、この条文に当たるかどうかの問題です。
人員の基準は第175条にあります。職業指導員と生活支援員の総数が常勤換算方法で利用者の数を6で除した数以上(就労継続支援B型は10で除した数以上です)、就労支援員が利用者の数を15で除した数以上、サービス管理責任者は利用者の数が60以下なら1以上とされています。就労支援員という職種が別に必要とされているところが、ほかのサービスとの違いです。就労支援員が誰なのかを言えない状態であれば、そこは聞いてよい部分です。ただしこの人数は常勤換算方法で数え、利用者の数は前年度の平均値を使うので、ある日たまたま職員が少なかったことがそのまま基準違反になるわけではありません。
計画の見直しは「3か月に1回以上」です
個別支援計画については、B型や生活介護と条文が違います。ここは知っておくと効きます。
計画の作成と見直しを定めているのは基準省令第58条で、この条文は多くのサービスに準用されています。流れは、利用者に面接してアセスメントを行い、意向や支援の方針、課題、目標とその達成時期などを記載した原案を作り、本人と担当者等を招集した会議で意見を求め、原案の内容を本人または家族に説明して文書により本人の同意を得て、作成した計画を本人と指定特定相談支援事業者等に交付するというものです。作成後はモニタリングを行い、特段の事情のない限り定期的に本人に面接し、定期的に結果を記録することとされています。
そのうえで見直しの間隔ですが、第58条第9項の本文は「少なくとも六月に一回以上」です。ところが第184条は、この条文を就労移行支援に準用するとき「六月」を「三月」と読み替えると定めています。つまり就労移行支援の個別支援計画(就労移行支援計画)は、少なくとも3か月に1回以上見直されるものです。半年以上、計画の話も面接もないままになっているなら、B型なら基準の範囲内でも、就労移行支援では間隔が空きすぎているということになります。手元に控えがないと感じたら、「就労移行支援計画の控えをください」と頼むところから始められます。渡し忘れだったというだけのこともあります。
感じていることが、どの決まりに当たるか
ここからは、よく聞かれる場面を条文に当てはめていきます。左が気になっていること、中央が基準省令の定め、右が条文です。条文の番号に「準用」と付いているものは、第184条が他の章の条文を借りてきているという意味です。
訓練の中身と、計画のこと
| 気になっていること | 基準ではこう決まっています | 条文 |
|---|---|---|
| 毎日同じ作業をして帰るだけになっている | 個別支援計画にもとづき、心身の状況等に応じて支援を適切に行うとともに、提供が漫然かつ画一的なものとならないよう配慮しなければならない | 第57条第1項(準用) |
| 説明が雑で、何をしているのかわからない | 従業者は提供に当たって懇切丁寧を旨とし、支援上必要な事項について理解しやすいように説明を行わなければならない | 第57条第3項(準用) |
| 事業所が良くなっていく気配がない | 提供するサービスの質の評価を行い、常にその改善を図らなければならない | 第57条第4項(準用) |
| 計画をもらった記憶がない、半年以上見直しがない | 原案を説明して文書により同意を得て交付する。少なくとも3か月に1回以上見直す | 第58条(準用・読み替え) |
| 希望を聞かれないまま計画が作られた | アセスメントは利用者に面接して行い、面接の趣旨を十分に説明して理解を得なければならない | 第58条第4項(準用) |
| 相談したいのに、聞いてくれる人がいない | 常に心身の状況、置かれている環境等の的確な把握に努め、相談に適切に応じるとともに、必要な助言その他の援助を行わなければならない | 第60条(準用) |
| 外部の講座を自費で受けるよう言われた | 利用者の負担により、当該事業所の従業者以外の者による訓練を受けさせてはならない。訓練には常時一人以上の従業者を従事させる | 第160条(準用) |
| 作業の量や時間がきつい | 作業時間、作業量等がその者に過重な負担とならないように配慮しなければならない。安全のために必要かつ適切な措置を講じる | 第84条(準用) |
第160条は自立訓練(機能訓練)の章にある「訓練」の条文で、第184条がそのまま就労移行支援に準用しています。訓練にかかる費用を利用者に負わせて外部の講座に行かせることは、条文が正面から禁じているという点は、あまり知られていないところです。
お金のこと
| 気になっていること | 基準ではこう決まっています | 条文 |
|---|---|---|
| 説明のない費用を集められている | 金銭の支払を求められるのは、使途が直接利用者の便益を向上させるものに限る。使途・額・理由を書面によって明らかにし、説明して同意を得なければならない | 第20条(準用) |
| 実費として何を払うことになるのか | 利用者負担額のほかに受けられるのは、食事の提供に要する費用、日用品費、日常生活においても通常必要となる費用で負担させることが適当と認められるもの。あらかじめ内容と費用を説明して同意を得る。支払を受けたら領収証を交付する | 第159条(準用) |
| 作業をしているのに何も出ない | 生産活動に従事している者に、生産活動に係る事業の収入から必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければならない | 第85条(準用) |
工賃については、就労移行支援にも規定があります。ただし就労継続支援B型のような月額3,000円という下限の定めはなく、そもそも生産活動を行っていない事業所もあります。金額の水準そのものは就労移行支援は「やめとけ」「意味ない」と言われる理由を確かめるで扱っています。
自分の情報と、外での作業のこと
| 気になっていること | 基準ではこう決まっています | 条文 |
|---|---|---|
| 応募先の企業に、話していないことまで伝わっていた | 他の事業者等に対して利用者またはその家族に関する情報を提供する際は、あらかじめ文書により本人または家族の同意を得ておかなければならない。従業者と管理者は正当な理由がなく業務上知り得た秘密を漏らしてはならない | 第36条(準用) |
| 就職したのに、市区町村には伝わっていないようだ | 利用者が就職した場合には、支給決定権者である市町村に適時に報告することを徹底させるよう、国が都道府県等に求めている | 留意事項通知 |
| 企業に出向いて、その会社の社員から直接指示されて働いている | 施設外就労では、請け負った作業についての利用者に対する必要な指導等は、就労先の企業ではなく事業所が行うこと、利用者と就労先企業の従業員が共同で処理していないことが要件とされている | 留意事項通知 |
| 在宅で利用しているが、ほとんど連絡が来ない | 在宅利用では、1日2回は連絡、助言または進捗状況の確認等が行われ、日報が作成されていること、評価等を1週間につき1回は行うこと、原則として月の利用日数のうち1日は訪問または通所により評価を行うことが要件とされている | 留意事項通知・在宅支援の事務連絡 |
| 就職率などの宣伝と、実際が違う | 事業者について広告をする場合においては、その内容を虚偽または誇大なものとしてはならない | 第37条第2項(準用) |
ここで挙げた「留意事項通知」は、厚生労働省の就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について(令和7年3月31日改正)です。施設外就労と在宅利用の要件は、報酬を算定するための条件として書かれているものなので、満たされていなければ報酬請求の側の問題にもなります。
在宅利用については、厚生労働省が令和8年4月13日付けで就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における在宅支援の要件遵守の徹底についてという事務連絡を出しました。要件に照らして不適切と思われる事業運営が散見されているとしたうえで、在宅利用は本人が希望すれば認められるものではなく支援の効果が認められるかどうかを市町村があらかじめ判断すること、原則として対面での支援を行うことが求められること、緊急事態が発生した際には職員が速やかに利用者のもとへ駆けつけられる体制が必要であることが、あらためて示されています。
決まりの問題ではないこともあります
ここは正直に書きます。違和感のすべてが基準違反というわけではありません。訓練の内容が自分に合わない、やりたい仕事と方向が違う、扱っている職種の幅が狭い。これは基準の問題ではなく、その事業所がどういう訓練を組んでいるかと自分の希望が合っていないという話で、合う場所に移るという解き方になります。職員や他の利用者との相性も、基準の話ではありません。就職がまだ決まらないことも、期間が2年で区切られていることも、通っている間に収入がないことも、条文としてはそういう設計になっているというだけです。
一方で、著しい暴言や著しく拒絶的な対応、不当な差別的言動、長時間の放置は、後で述べる虐待の定義に含まれます。相性の問題として自分の中で片づける前に、定義に当てはまるかどうかだけは一度見てください。
いま通っている事業所の数字も、いま見られます
事業所を選ぶ前に確かめられる数字は、通い始めたあとも同じように見られます。しかも通っている人のほうが、その数字が実感と合っているかどうかを判断できます。
障害者総合支援法第76条の3により、指定障害福祉サービス事業者はサービスの内容や運営状況に関する情報を都道府県知事に報告しなければならず、都道府県知事はその内容を公表しなければならないとされています。これが障害福祉サービス等情報公表制度です。同じ条文の第4項から第6項では、報告をしなかったり虚偽の報告をしたりして命令にも従わない場合に、指定の取消しや効力の停止ができるとまで定められています。事業者が出すかどうかを選べる情報ではありません。
公表された情報は、独立行政法人福祉医療機構(WAM NET)の障害福祉サービス事業所検索から誰でも見られます。会員登録は要りません。何を報告するかは障害福祉サービス等情報公表システム 記入要領「16 就労移行支援」で決まっていて、通っている立場から見ると次の項目が効きます。
| 見る項目 | 通っている人にとって、どう効くか |
|---|---|
| 苦情に対応する窓口の名称・電話番号・対応している時間・定休日 | 事業所の苦情窓口の連絡先が、そのまま公表されています。事業所内の掲示が見当たらなくても、ここで確認できます |
| 一般就労への移行者数(移行率) | 昨年度・一昨年度・一昨昨年度の3年度分が並びます。自分が通っている年の実感と比べられます |
| 一般就労先での定着者数(定着率) | 就職後6か月・1年・2年・3年の4期間それぞれの人数と率 |
| 一般就労までの平均利用期間 | 何か月で就職しているか。2年の期限に対する余裕の目安になります |
| 一般就労への移行後の定期的な支援の有無 | 第182条の6か月以上の支援と突き合わせられます |
| 前年度の採用者数・退職者数、平均勤続年数 | 職員の入れ替わりの多さ。担当がよく代わると感じている実感の裏付けになります |
| 職種別の従業者数・常勤換算人数 | 就労支援員が何人いるか。基準は常勤換算で利用者の数を15で除した数以上です |
| 虐待防止研修・意思決定支援に関する研修の実施状況、第三者による評価の実施状況 | 研修と外からの目を「あり」と報告しているかどうか |
とくに使いやすいのは、いちばん上の苦情窓口です。事業所の中で聞きにくいことでも、公表されている電話番号と対応時間を先に知っておけば、こちらのタイミングでかけられます。
もう一つ、記入要領には注記があります。事業所が自由に書ける「障害福祉サービス等の提供内容に関する特色等」の欄について、記入内容は指定基準に規定する虚偽または誇大広告の禁止を踏まえることと明記されています。公表制度の中の文章も、基準省令第37条第2項の対象だということです。
数字の読み方(移行率と定着率をセットで見ること、3年度分の推移で見ること、空欄は実績ゼロという意味ではないこと)は、就労移行支援は「やめとけ」「意味ない」と言われる理由を確かめるで詳しく扱っています。
どこに言えるか。窓口ごとにできることが違います
「相談しましょう」だけでは動けないと思うので、それぞれの窓口が制度上どういう立場で、何ができるのかを分けて書きます。近い順に並べますが、順番に決まりはありません。事情によっては、最初から外の窓口に行ってもかまいません。
| 窓口 | どういう立場か | できること |
|---|---|---|
| 事業所の苦情受付窓口・サービス管理責任者 | 事業所の内部。基準省令で窓口の設置が義務づけられている | 直接の話し合い。受け付けた苦情の内容等は記録される |
| 相談支援専門員(指定特定相談支援事業者) | サービス等利用計画を作った人。通っている事業所とは別の事業者 | 状況の整理、事業所との連絡調整、サービス等利用計画の見直し、申請の勧奨 |
| 市区町村の障害福祉担当課 | 支給決定をしている窓口 | 苦情に関する調査。基準違反に当たると認めるときは都道府県知事へ通知(法第49条第6項)。法第48条により報告徴収・立入検査もできる |
| 指定権者(都道府県・指定都市・中核市) | 指定と運営指導・監査を行う立場 | 運営指導、監査、是正の勧告、公表、命令、指定の取消し |
| 運営適正化委員会(都道府県社会福祉協議会) | 社会福祉法第83条にもとづき都道府県社会福祉協議会に置かれる第三者機関。名称は法律で定められていて全国共通 | 相談、助言、事情の調査。双方の同意を得たうえでのあっせん(第85条)。不当な行為が行われているおそれがあると認めるときは都道府県知事へ通知(第86条) |
| 市町村障害者虐待防止センター・都道府県障害者権利擁護センター | 障害者虐待防止法にもとづく窓口 | 通報・届出の受理、相談、相談機関の紹介 |
事業所の中の窓口について、基準省令第39条第1項は、苦情に迅速かつ適切に対応するために苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならないと定め、第2項で受け付けた苦情の内容等を記録しなければならないとしています。社会福祉法第82条にも、社会福祉事業の経営者は常に利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならないという規定があります。同じ第39条の第3項から第7項は、市町村や都道府県知事が苦情に関して行う調査に協力して指導や助言に従って改善を行うこと、運営適正化委員会が行う調査またはあっせんにできる限り協力することも定めています。外から調査が入ったときに応じる義務まで、同じ条文の中に書かれているということです。
相談支援専門員
事業所の外でいちばん近いのが、サービス等利用計画を作った相談支援事業所の担当者です。通っている就労移行支援事業所とは別の事業者で、利用者と事業所の間に立つ立場にあります。障害者総合支援法第5条第24項は「継続サービス利用支援」を、主務省令で定める期間ごとに利用状況を検証し、その結果と心身の状況等を勘案してサービス等利用計画の見直しを行うものと定め、計画を変更して関係者との連絡調整を行うか、新たな支給決定や変更の決定が必要と認められる場合に申請の勧奨を行うこととしています。定期的に状況を確認して、必要なら計画を作り直す役割が制度上あるということです。担当者がわからないときは、受給者証や契約時の書類に相談支援事業所の名前が書かれています。
市区町村の障害福祉担当課
支給決定をしている窓口です。障害福祉サービス受給者証を出したところ、と考えるとわかりやすいと思います。課の名称は自治体ごとに違うので、電話で「障害福祉サービスの支給決定をしている窓口につないでください」と伝えるのが確実です。
ここに話す意味は二つあります。一つは、支給決定と受給者証の手続き(事業所を変えるときの手続きを含みます)がここでできることです。もう一つは、障害者総合支援法第49条第6項が、市町村は指定基準に従っていない場合などに該当すると認めるときは、その旨を事業所の所在地の都道府県知事に通知しなければならないと定めていることです。指定権者に直接電話をかけなくても、市区町村に伝えたことが行政の側でつながる経路が、法律に書かれています。
指定権者(都道府県・指定都市・中核市)
指定を行い、運営指導と監査を行う立場です。是正の勧告、公表、命令、指定の取消しといった手段を持っているのはここです。どこが指定権者かは事業所の所在地によって変わります。原則は都道府県ですが、指定都市・中核市などでは大都市等の特例によりその市が処理します。わからないときは市区町村の障害福祉担当課で聞けます。
もう一つ、知っておいたほうがよいことがあります。厚生労働省は令和8年6月8日付けで指定障害福祉サービス事業者等の指導監査について(障発0608第1号)を出し、新しい指導指針と監査指針を定めました。その指定障害福祉サービス事業者等指導指針では、運営指導の実施頻度について、就労継続支援A型・就労継続支援B型・共同生活援助を行う事業所は3年に1回以上とする一方、その他のサービスについては3年に1回までは求めず、原則として指定の有効期間内に少なくとも1回以上とされています。就労移行支援は後者です。指定の有効期間は障害者総合支援法第41条により6年ですから、定期的な運営指導だけを待っていると、間隔がかなり空くことがあります。
だからこそ、通っている人からの相談が効きます。同じ通知の指定障害福祉サービス事業者等監査指針は、監査の対象を選ぶときの「要確認情報」として、通報・苦情・相談等に基づく情報と市町村、相談支援事業等へ寄せられる苦情を挙げています。指導指針の側にも、通報等により不適切な運営が疑われる場合などは優先的に運営指導を実施すると書かれています。相談が制度の入口として想定されている、ということです。
話しに行くときに持っていくもの
どの窓口でも、話が具体的なほど早く進みます。すべてが揃っていなくてもかまいません。
- 就労移行支援計画(個別支援計画)の控え。日付が入っているので、見直しの間隔がそのまま確認できます
- 契約のときに受け取った重要事項説明書と契約書
- 障害福祉サービス受給者証。支給決定の有効期間と支給量、契約している事業所が記載されています
- いつ、誰が、何をした(あるいはしなかった)かのメモ。日付だけでも構いません
基準省令第75条は、個別支援計画、サービス提供の記録、身体拘束等の記録、苦情の内容等の記録、事故の記録を整備し、提供した日から5年間保存することを事業者に義務づけています。記録が残っている前提で話ができる、ということでもあります。
事業所は変えられます
辞めることをすすめる話でも、引き止める話でもありません。移れるという事実と、その手続きだけを書きます。
別の就労移行支援に移るときの3つ
- 1市区町村の障害福祉担当課か、相談支援専門員に伝えるいまの事業所に先に言う必要はありません。サービス等利用計画の見直しはここから始まります
- 2移り先を見学して、契約する並行して見学し、比べてから決めても差し支えありません
- 3受給者証の事業者記入欄と、契約内容報告書契約の終了と新しい契約は、事業者が受給者証に記入し、市町村に報告します
手続きは、支給決定ではなく契約のほうを動かします
就労移行支援を利用しているということは、市区町村から支給決定を受けて障害福祉サービス受給者証が交付されている状態です。基準省令第14条(準用)は、事業者が提供を求められた場合に、その人の提示する受給者証によって支給決定の有無、有効期間、支給量等を確かめるものとしています。受給者証は特定の事業所に結びついたものではありません。
厚生労働省の介護給付費等に係る支給決定事務等について(事務処理要領・令和8年7月版)には、契約の終了と新しい契約の扱いが具体的に書かれています。事業者は、契約を終了したときに受給者証の事業者記入欄にサービス提供終了日と終了月中の既提供量を記入し、契約内容報告書により市町村に遅滞なく報告します。別の事業者が新たに契約するときは、受給者証で前の事業者の既提供量を確認したうえで、事業者記入欄に自分の名称と契約支給量、契約日を記入します。基準省令第10条(準用)にも、契約をしたときは受給者証記載事項その他の必要な事項を市町村に遅滞なく報告しなければならないと定められています。
事業所の側にも決まりがあります。基準省令第12条(準用)は、市町村や相談支援事業を行う者が行う連絡調整にできる限り協力しなければならないとしています。第11条(準用)は正当な理由がない提供の拒否を禁じ、第17条第2項(準用)は提供の終了に際して、利用者や家族に対して適切な援助を行うとともに関係機関との連携に努めることを求めています。理由を説明する義務はありませんし、辞めると伝えたことで締め出される前提で動く必要もありません。
2年の期間は、どうなるか
ここがいちばん気になるところだと思います。結論から書くと、事業所を変えても2年がリセットされるとは考えないほうが安全です。
標準利用期間の2年を定めているのは障害者総合支援法施行規則第6条の8で、これは就労移行支援というサービスそのものの期間です。事務処理要領はこれを標準利用期間と呼び、支給決定の有効期間は最長1年として、標準利用期間の範囲内で1年ごとに更新するという運用を定めています。期間は市区町村が行う支給決定の側に付いていて、事業所との契約に付いているものではありません。事業所ごとに2年ずつ使えるという仕組みではない、ということです。
事務処理要領で「標準利用期間を通算しない」とはっきり書かれている場面は、一般就労のあとに労働時間を延ばすために引き続き同じ事業所を利用する場合(労働時間延長支援型)の一つだけです。事業所を変えたときに通算するかどうかについては、明文の定めを確認できませんでした。期間が支給決定に付いていることからすると通算されると読むのが自然ですが、断定はしません。受給者証に記載されている支給決定の有効期間を持って、市区町村の障害福祉担当課で「標準利用期間はあとどれくらい残っていますか」と確認してください。ここは全国一律に言い切れる部分ではありません。
あわせて、標準利用期間を超えてさらに必要な場合には市町村審査会の個別審査を経て最大1年間の更新ができる(原則1回)こと、留意事項通知に就労移行支援は複数回の利用が可能であると書かれていることも知っておいてください。同じ通知には、2年を超えて更新する場合に自治体によっては個別の状況を勘案しない一律の取扱いが見られると指摘し、市町村は個々の状況を勘案して判断するよう求める記載もあります。一度で終わりの制度ではありません。
移り先を見に行くときに何を聞けばよいかは、B型向けにまとめたものがB型事業所の見学で聞くべき質問リストにあります。この記事で挙げた項目のうち、個別支援計画の見直しの間隔、実習の受入先、就職後の支援、費用のあたりは、見学の場でもそのまま聞ける内容です。
暴言や放置に思い当たるときは
ここは短く、正確に書きます。
就労移行支援の職員は、障害者虐待防止法上の「障害者福祉施設従事者等」に当たります。同法第2条第4項が、障害福祉サービス事業等に係る業務に従事する者をそう定義しているためです。就労継続支援A型のように雇用契約を結ぶサービスでは「使用者による障害者虐待」の枠組みも関わってきますが、就労移行支援は雇用契約を結ばないので、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の枠組みで扱われます。
何が虐待に当たるかは同法第2条第7項に5つ列挙されています。身体に外傷が生じ、もしくは生じるおそれのある暴行を加えることまたは正当な理由なく身体を拘束すること。わいせつな行為をすることまたはさせること。著しい暴言、著しく拒絶的な対応または不当な差別的言動その他の著しい心理的外傷を与える言動。著しい減食や長時間の放置、他の利用者による同様の行為の放置その他の職務上の義務を著しく怠ること。財産を不当に処分することその他不当に財産上の利益を得ること。
通報の仕組みは同法第16条にあります。第1項は、障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならないと定めています。「思われる」段階での通報が義務であり、確証を集めることまでは求められていません。第2項では本人が市町村に届け出ることができるとされ、第3項では守秘義務の規定は通報(虚偽であるものおよび過失によるものを除く)を妨げると解釈してはならないとされ、第4項では職員が通報をしたことを理由として解雇その他不利益な取扱いを受けないと定められています。
通報の受け先は市町村です。同法第32条第1項は、市町村は障害者の福祉に関する事務を所掌する部局または市町村が設置する施設において、その部局または施設が市町村障害者虐待防止センターとしての機能を果たすようにすると定めています。条文がこの書き方をしているとおり、独立した名前の建物や窓口があるとは限りません。市区町村のウェブサイトか電話で「障害者虐待防止センターの機能はどこが担っていますか」と聞くのが確実です。都道府県には第36条により都道府県障害者権利擁護センターが置かれ、相談に応じることや相談を行う機関を紹介することが業務に含まれています。
基準省令にも対応する規定があります。第40条の2(準用)は虐待の防止のための委員会の定期的な開催、研修の定期的な実施、担当者の配置を義務づけています。第35条の2(準用)は、生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き身体的拘束その他行動を制限する行為を行ってはならないとし、やむを得ず行う場合には態様と時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならないとしています。
最後に
いま感じていることが決まりの問題なのかどうかは、この記事の表を上から見ていけば、ある程度は自分で判断がつくと思います。就労移行支援計画の控えが手元にあるか。最後に見直しの面接をしたのはいつか。実習と求職活動の話が出ているか。費用を求められたとき、使途と額と理由が書面で示されたか。この4つだけでも、かなりのことがわかります。
当てはまらない項目が見つかったとしても、いきなり大きな話にする必要はありません。事業所に聞いてみて済むこともありますし、相談支援専門員に間に入ってもらう段階で整理がつくこともあります。反対に、暴言や放置に思い当たることがあるなら、そこは我慢の問題として自分の中に置いておくものではありません。障害者虐待防止法は、受けたと思われる障害者を発見した者に通報を義務づけています。確証がなくてもよいという書き方になっているのは、確証を集める役割を本人や周囲に負わせないためです。
判断がつかないまま通い続けるのが、いちばんつらい状態だと思います。まずは、条文に照らして何が確認できて何が確認できなかったのかを、日付と一緒にメモに書き出すところからで十分です。それを持って相談すれば、話は具体的に進みます。そして、事業所を変えるという道は最後まで残っています。
わたしたち自身が就労継続支援B型を運営していて、就労移行支援とは同じ制度の中で仕事をしている立場なので、この話については中立ではありません。そのうえで書くと、事業所ごとの差は実際にあります。同じ省令の下でも、支援の中身は事業所の姿勢でずいぶん変わります。だからこそ、感じている違和感を条文と照らして言葉にできると、我慢するか変えるかの判断があなたの側に戻ってきます。
