自立支援医療について調べていると、「デメリット」という言葉が必ず一緒に出てきます。医療費が安くなるのはわかったけれど、そのかわりに何か失うものがあるのではないか、という不安から検索されているのだと思います。
先にお伝えしておくと、この制度には実際に不便になる部分がはっきりあります。それを「デメリットはありません」と言ってしまうのは嘘になります。一方で、ネット上で心配されていることの中には、法令や厚生労働省の通知を読んでも根拠が見当たらないものも混ざっています。
そこでこの記事では、その2つを分けます。制度の設計としてそうなっていることは、そうなっていると書きます。確認できなかったことは、確認できなかったと書きます。この記事は自立支援医療を使うことをすすめる記事でも、やめておいたほうがいいという記事でもありません。
制度そのものの説明と、所得区分ごとの自己負担上限額の詳しい表は自立支援医療制度で通院費を1割にする手順にまとめてあります。この記事は、その先にある「使うと何が起きるか」だけを扱います。
心配されていることを、先に仕分けします
実際に検索されている不安を並べると、次の7つに集まります。まず結論を一覧で書いておきます。
| 心配されていること | 確認できた範囲での答え |
|---|---|
| 決まった病院と薬局でしか使えないのではないか | そのとおりです。法律にそう書かれています |
| 毎年、更新しないといけないのではないか | そのとおりです。有効期間は1年以内と省令で定められています |
| 申請と更新に診断書代がかかるのではないか | そのとおりです。診断書の作成料は公的医療保険の対象外です |
| 精神科以外の治療には使えないのではないか | そのとおりです。同じ病院でも別の診療科で受けた医療は範囲外です |
| 勤務先に知られるのではないか | 知らせる仕組みは制度にありません。申請書に勤務先を書く欄もありません |
| 保険証や医療費通知に出てしまうのではないか | 精神科にかかっていること自体は、この制度を使うかどうかと関係なく医療保険を通ります |
| 生命保険や住宅ローンに響くのではないか | 公的な資料では確認できませんでした |
上の4つは、不利益というよりもこの制度がそういう作りになっている、という事実です。下の3つは、噂として流通しているものです。順番に見ていきます。
いちばん実害があるのは「使える場所が決まっている」ことです
自立支援医療のデメリットを1つだけ挙げるなら、ここです。この制度は「あなたが精神科にかかったら全部1割になる券」ではありません。
受給者証に書かれた医療機関と薬局でしか使えません
障害者総合支援法は、市町村等が支給認定をしたときに、都道府県知事が指定した医療機関(指定自立支援医療機関)の中から、その人が自立支援医療を受ける医療機関を定めると書いています。そして、自立支援医療費が支給されるのは、そうやって定められた医療機関から医療を受けたときだ、とも書いています。つまり、使える場所が限られていることは、運用の都合ではなく法律の本体に書かれた仕組みです。
定められた医療機関の名称・所在地・連絡先は受給者証に記載されます。これも施行規則で決まっている記載事項です。
指定を受ける対象は、病院や診療所だけではありません。薬局と訪問看護ステーションも別に登録します。病院だけを登録して薬局を登録し忘れると、診察代は1割になるのに薬代は3割のまま、ということが起きます。
登録できる数の運用は自治体によって幅があります。大阪市は、特別な理由がなければ通院先の病院・診療所は1か所に限られ、薬局は2か所まで登録できると案内しています。横浜市は、病院1か所・薬局2か所・訪問看護ステーション1か所と書いたうえで、病院の登録は原則1か所だが、医療に重複がなくやむを得ない事情がある場合は2か所登録の申請ができる(審査があります)としています。これはこの2つの市の例であって、全国どこでも同じというわけではありません。
急に体調を崩して別の病院にかかったときは、対象になりません
ここがいちばん現実的に困る場面だと思います。夜中に具合が悪くなって近くの病院にかかった、出張先で薬が切れた、いつもの薬局が閉まっていた。こうしたときの費用は、自立支援医療の対象になりません。受給者証に書かれていない医療機関だからです。
法律には、緊急の場合その他やむを得ない事由があるときは受給者証を提示しなくてもよい、という但し書きがあります。ただしこれは提示のしかたについての例外であって、受給者証に書かれていない医療機関でも使えるという意味ではありません。自治体の案内も、受給者証に記載されていない病院や薬局では適用にならないと書いています。
もうひとつ見落とされやすい点を、横浜市がはっきり書いています。受給者証に記載された薬局であっても、受給者証に記載されていない病院や診療所からの処方せんで調剤を受けた場合は、その薬局での支払いに自立支援医療は適用されません。薬局さえ登録してあれば大丈夫、ではないということです。
では、うっかり登録外にかかってしまったらどうなるのか。ここは自治体によって扱いが分かれます。横浜市は、登録している薬局で薬の用意ができなかった場合であっても、その日のうちに変更申請をしなければ制度の適用にならないと案内しています。裏を返すと、その日のうちにオンラインまたは区の窓口で変更申請をすれば適用されるということです。大阪市は、受給者証の提示漏れや期限切れなど本人の過失による場合は償還払いの対象外とし、そもそも償還払いは原則として行っていないと書いています。
自治体によってここまで違うので、この記事では「あとから払い戻せます」とも「絶対に無理です」とも書けません。確実なのは、気づいたその日のうちに自治体の窓口に電話して聞くことです。翌日以降になると選択肢が減ります。
転院や薬局の変更は、受診する前に手続きが要ります
通院先を変えたいとき、薬局を変えたいときは、変更の申請が必要になります。法律と施行規則に、指定自立支援医療機関について変更の必要があるときは変更の申請ができる、と定められています。
大事なのはタイミングです。東京都は、医療機関等の変更は申請受理日から変更後の内容が適用になると案内しています。大阪市も医療機関の変更・追加は窓口受付日からの適用だとしています。横浜市は変更申請の受理日(または申請者が指定するそれ以降の日)からで、日付のさかのぼりはできないと明記しています。埼玉県は「受診される前に市町村担当窓口で必ず手続きを行ってください」と書いています。
新しい病院に先にかかってしまうと、手続きが済むまでのその分は1割になりません。転院を考え始めた段階で窓口に相談しておけば、この空白はつくらずに済みます。なお、投薬治療を受ける医療機関を追加する場合には診断書が必要になると案内している自治体もあります(兵庫県の例)。
引っ越すと、都道府県が変わるかどうかで扱いが変わります
同じ都道府県の中で引っ越す場合は、住所変更の届出で済みます。東京都も、都内での住所変更は「記載事項変更届」で受給者証に変更事項を記載して返してもらう扱いだと案内しています。
別の都道府県や政令指定都市に移る場合は、話が変わります。厚生労働省の実施要綱には、他の都道府県に居住地を移したときは受給者証を返還させること、と書かれています。法律にも、支給認定を行った市町村等以外の区域内に居住地を有するに至ったときは支給認定を取り消すことができる、という規定があります。
引っ越した先での手続きがどうなるかは自治体によって違います。千葉県は、他の都道府県や政令指定都市から転入した場合の手続きは基本的に新規の取り扱いになると書いています。ただし診断書については、有効期限のある他自治体の受給者証の写しと、申請時の診断書の写しで申請できる場合があるとも案内しています。兵庫県も、県外や神戸市からの転入について、前の自治体で提出した診断書の写しと受給者証の写しを添える方法を示しています。
診断書をもう1通取り直すことになるのか、写しで済むのかは、転入先の自治体に確認してください。引っ越しの予定が立った時点で、転入先の窓口に電話しておくのが確実です。
1年ごとの更新と、診断書の費用
2つめは手間と費用の話です。ここは「不便」ではなく、実際にお金と時間が出ていく部分なので、正直に書きます。
有効期間は1年以内です
施行規則は、支給認定の有効期間を1年以内で、その人の状態からみて医療を受けることが必要な期間とする、と定めています。厚生労働省の実施要綱では、新規の申請の場合、市町村が申請を受理した日を始期として、そこから1年以内の日で月の末日にあたる日を終期とする、と書かれています。東京都も、新規・再開の場合は申請受理日から1年間(1年後の前月末まで)だと案内しています。
引き続き使うには、毎年の更新(継続申請、再認定と呼ぶ自治体もあります)が必要になります。1回申請すればずっと使える制度ではありません。
ここで、案内でよく見る「原則1年」という言い方に補足を入れておきます。法令が定めているのは「1年以内」であって、1年より短く区切られることがあります。実際に、次のような場面が確認できます。
- 手帳の写しで申請したときに、手帳の期限に合わせて短くなる場合。東京都は、手帳の写しで自立支援医療を申請する方について、手帳の有効期間が1年未満である場合は「認定期間短縮にかかわる承諾書」の提出が必要になると案内しています。
- 経過的な特例の期限で切られる場合。市町村民税所得割額が23万5千円以上の「世帯」の方が「重度かつ継続」に当たるときに制度の対象になるのは、厚生労働省の自立支援医療の患者負担の基本的な枠組みによれば令和9年3月31日までの経過的特例措置です。横浜市は、この区分の方については受給者証に記載の有効期間にかかわらず最長でも令和9年3月31日までになると案内していますし、群馬県は「経過的特例が延長されない場合は有効期限は令和9年3月31日とする」という趣旨のゴム印を押して受給者証を交付すると書いています。
つまり、受け取った受給者証の有効期間が「1年後」だと思い込まないほうが安全です。手元に届いたら、有効期間の欄に書かれている日付そのものを確認してください。
更新は3か月前から。切れると新規扱いになります
更新の申請は、有効期間が終了する日のおおむね3か月前からできます。これは実施要綱に書かれていて、東京都・埼玉県・大阪市・横浜市の案内もすべて「3か月前から」で揃っています。
問題は、忘れたときです。有効期間が切れてしまうと、そのあとの申請は新規の申請として扱われます。大阪市は、期限を過ぎてから申請した場合は新規申請扱いになるため、区の窓口の受付日が有効期間の始まりになり、受給者番号が変わる場合があると書いています。東京都は、有効期間を過ぎてからの申請は「再開申請」となり、診断書の提出が必要になると案内しています。横浜市も、有効期間を過ぎると再申請するまでのあいだは自立支援医療が受けられず、さかのぼりはできないとしています。
実害としては、次の2つが起きます。
- 本来なら省略できる年でも、診断書を用意することになります。作成料も自己負担です。
- 切れているあいだの医療費は1割になりません。さかのぼって適用されないので、その期間は原則どおりの窓口負担になります。
ここで注意しておきたいのは、更新の案内が自動で届くとは限らないことです。横浜市は、更新申請に関して事前に市から個別のお知らせをすることはないので、受給者証の有効期間を自分で確認するようにと明記しています。受給者証に更新申請を始められる年月が印字されている自治体もあります。受け取ったその日に、3か月前の日付をカレンダーへ入れてしまうのがいちばん確実です。
診断書は原則2年に1回。それでも費用は自己負担です
更新のたびに毎回診断書が要るわけではありません。施行規則は、継続の申請をする場合で、病状の変化と治療方針の変更がなく、直近の申請で診断書を添付しているときは、これを添付することを要しない、と定めています。厚生労働省の実施要綱にも同じ扱いが書かれています。埼玉県は「原則2年に1度」、大阪市も「更新時の診断書の提出は2年に1回」と案内しています。
今年が診断書の要る年かどうかは、受給者証で確認できます。施行規則は、精神通院医療に限って申請書への診断書の添付の有無を受給者証の記載事項としているからです。
そのうえで、費用の話です。診断書の作成料は公的医療保険の対象外なので、全額を自分で払うことになります。横浜市も、医療保険が適用にならない治療・投薬・診断書料などの費用は自立支援医療の対象外だと明記しています。つまり、自立支援医療を使うために書いてもらう診断書の代金も、自立支援医療では安くなりません。
金額は医療機関ごとに決められていて、全国共通の価格はありません。確かめられるのは、通っている医療機関に直接聞いた金額だけです。診断書をお願いするときに「文書料はいくらになりますか」と受付でたずねてください。診断書の費用については診断書の費用はいくらかかるのかでも扱っています。
なお、手帳の申請も考えているなら、同時に出せるかどうかを窓口で確認する価値があります。東京都は、精神障害者保健福祉手帳と同時に申請する場合は手帳用の診断書1枚で申請できると案内しています。埼玉県も同じ扱いを示しています。診断書の作成料が1通分で済むかどうかは、家計にとって小さくない差です。
精神科の通院以外には使えません
3つめは、対象になる医療の範囲です。ここを誤解していると、期待していたほど負担が下がらなかった、ということが起きます。
厚生労働省は、対象になるのを「精神障害や、当該精神障害に起因して生じた病態に対して、精神通院医療を担当する医師による病院又は診療所に入院しないで行われる医療」だとしています。対象外になるものとして、次の3つが挙げられています。
| 対象にならないもの | 補足 |
|---|---|
| 入院医療の費用 | 通院のための制度です。大阪市も入院治療費には公費負担制度はないと書いています |
| 公的医療保険が対象にならない治療・投薬などの費用 | 例として病院や診療所以外でのカウンセリングが挙げられています。診断書の作成料もここに入ります |
| 精神障害と関係のない疾患の医療費 | 風邪、けが、歯科の治療などは別扱いになります |
同じ病院でも、別の診療科で受けた医療は範囲外です
見落とされやすいのがここです。厚生労働省の実施要綱には、複数の診療科を持つ医療機関では、精神通院医療を担当する診療科以外において行った医療は範囲外だとはっきり書かれています。総合病院の精神科に通っている方が、同じ日に同じ建物の内科にかかっても、内科の分は1割になりません。あわせて、結核性疾患は別の法律にもとづいて医療が行われるので範囲外だとも書かれています。
どこまでが「精神障害に起因して生じた病態」に含まれるのかは、症例ごとの医学的な判断になります。東京都は、一般的に感染症(特に慢性のもの)、新生物、アレルギー(薬物副作用によるものを除く)、筋骨格系の疾患については、精神障害に起因するものとは考え難いと言える、と案内しています。線引きに迷うときは、主治医に「この治療は自立支援医療の範囲に入りますか」と聞くのが確実です。
受給者証が届くまでの期間の扱い
申請してすぐに窓口負担が下がるわけではありません。ここも実際には不便が出る部分です。
かかる期間は自治体によって違いますが、東京都は審査などのために申請から結果を受け取るまで2か月程度かかると案内していて、横浜市も認定されて受給者証が手元に届くまで約2か月程度と書いています。これはこの2つの自治体の例です。東京都は、精神障害者保健福祉手帳と同時に申請する場合や、申請内容を医療機関に確認する必要がある場合には、さらに時間がかかることがあるとも書いています。
制度の上では、認定されたときの有効期間は市町村が申請を受理した日から始まります。ですから、受給者証が届く前の受診も本来は対象の期間に入ります。埼玉県も、申請を受け付けた日を始期とする受給者証が発行されると説明しています。裏を返すと、申請より前の医療費はさかのぼって対象になりません。
ただし、その2か月のあいだ窓口でいくら払うことになるかは、自治体と医療機関の運用によります。ここは全国一律ではありません。
- 埼玉県と東京都は、受給者証の交付を受けるまでの医療費については申請書の控え等を持って各医療機関に相談してくださいと案内しています。控えを見せればその場で1割にしてもらえることもあれば、いったん3割を払って後で精算する扱いになることもあります。
- 横浜市は、申請してから受給者証が届くまでの期間に3割負担になった場合は後日払い戻しできる場合があるとしています。ただし受給者証が届いてからの提示忘れなどでは払い戻しできない、とも明記しています。
- 大阪市は、そもそも償還払いを原則として行っていないと書いています。
申請の日に窓口で「控えはもらえますか」「届くまでのあいだ、病院ではどうすればいいですか」と2つ聞いておくと、そのあと迷わずに済みます。
上限額を決める「世帯」は、住民票ではありません
ここは、思っていたより上限額が高くなって驚く人が多い部分です。デメリットというより、仕組みを知らないと予想が外れる、という種類の話です。
自立支援医療の自己負担上限額は「世帯」の所得で決まります。この「世帯」は、住民票の世帯ではありません。厚生労働省の実施要綱は、受診する方と同じ医療保険に加入する世帯員をもって生計を一にする「世帯」として取り扱うとしていて、さらに家族の実際の居住形態や税制面での取扱いにかかわらず、医療保険の加入関係が異なる場合には別の「世帯」として取り扱うと書いています。大阪市も埼玉県も横浜市も、住民票の世帯とは異なるという同じ説明をしています。
誰の所得を見るかは、加入している医療保険の種類によって変わります。施行規則に定めがあります。
| 加入している医療保険 | 誰の市町村民税所得割額を見るか |
|---|---|
| 会社の健康保険などに、ご自身が被保険者として加入している | ご自身の分だけです。同居している親や兄弟の所得は関係ありません |
| 会社の健康保険などに、家族の被扶養者として加入している | 被保険者である、その家族の分です。離れて暮らしていても対象になります |
| 国民健康保険、後期高齢者医療制度 | 同じ保険に加入していて、同じ世帯に属している方全員の分を合算します |
これを知らずに「一人暮らしだから自分の収入だけで見てもらえるはず」と思っていると、親の健康保険の被扶養者になっている場合には、親の課税状況で判定されることになります。反対に、実家で親と同居していても、自分が勤め先の健康保険に被保険者として加入しているなら、親の所得は見ません。
扶養から外れているときの特例があります
同じ世帯に課税されている家族がいる場合でも、逃げ道が用意されています。厚生労働省の実施要綱には「世帯」の範囲の特例が定められていて、受診する方と同じ「世帯」に属する親・兄弟・子どもなどが、税制と医療保険のいずれにおいてもその方を扶養しないこととしたときは、申請にもとづいて、受診する方とその配偶者を別の「世帯」とみなす取扱いを選べるとされています。施行令にも同じ趣旨の規定があります。
ただし条件があります。実施要綱は、この特例を認めるのは申請者とその配偶者が市町村民税非課税であり、かつ同じ世帯の他の世帯員が課税である場合に限るとしています。誰にでも使えるものではありません。あわせて、扶養控除の対象になっていないかどうかを確認するために、同じ世帯の方の税情報がわかる書面と被保険者証の写しの提出を求めるとされています。
自分が当てはまりそうだと思ったら、窓口で「扶養から外れているので世帯の範囲の特例を使えますか」と聞いてみてください。制度の側から案内してくれるとは限りません。
所得が確認できないと、いちばん重い扱いになります
もうひとつ、知らないと損をする点です。実施要綱は、申請の際の提出資料や聞き取りから所得が一切確認できない場合は、原則として「一定所得以上」として取り扱うとしています。「一定所得以上」は、経過的な特例に当たらなければ自立支援医療の対象外です。医療保険に加入していない状態で、正当な理由なく加入手続きをしない場合も同じ扱いになると書かれています。
非課税だから税の申告をしていない、という方は、まず申告して非課税証明書を取ることを求められます。精神通院医療については、当分の間の例外として、非課税を示す資料がなくても申し述べがあれば市町村の意見を付けて都道府県が非課税とみなすことができる、という扱いも定められています。書類がそろわないからと申請自体をあきらめる前に、窓口で事情を話してみてください。
よくある誤解を、確認できた範囲で分けます
ここからは噂の側です。公的な資料で言えることと、言えないことを分けます。
勤務先に知られるのか
いちばん多く検索されている不安です。結論から言うと、自立支援医療を使っていることが勤務先に自動的に伝わる仕組みは、制度の中に見当たりません。
申請の窓口はお住まいの市区町村です。申請書に何を書くかは施行規則で決められていて、そこに挙げられているのは、氏名・居住地・生年月日・個人番号・連絡先、希望する自立支援医療の種類、加入している医療保険の記号番号と保険者名称、同じ「世帯」の方の氏名と個人番号、手帳を持っている場合はその番号、希望する医療機関、所得の状況に関する事項、「重度かつ継続」に当たるかどうか、といった項目です。勤務先を書く欄はありません。会社が記入したり証明したりする書類も要りません。傷病手当金のように会社の証明が必要な手続きとは、ここが違います。
受給者証の記載事項も施行規則で決まっていて、そこに挙げられているのは氏名・居住地・生年月日、交付年月日と受給者番号、医療の種類、医療機関の名称、負担上限月額、有効期間、診断書の添付の有無などです。診断名は記載事項として挙げられていません。
正直に書いておくと、法律には調査に関する規定があります。障害者総合支援法は、市町村等が必要があると認めるときは、資産または収入の状況について官公署に資料の提供を求めたり、銀行や障害者の雇用主その他の関係人に報告を求めたりできる、と定めています。条文に雇用主という言葉が出てくるのは事実なので、隠さずに書きます。
ただし、これは資産または収入の状況についての規定です。自立支援医療を使っていることを勤務先に通知するための規定ではありませんし、通知を義務づけたものでもありません。厚生労働省の実施要綱を読むと、所得区分の認定は「市町村民税の課税状況等を示す公的機関発行の適宜の資料」に基づいて行うこととされていて、事務の手順として雇用主への照会は出てきません。実際に雇用主に照会が行われる場面があるのかどうかは、公的な資料からは確認できませんでした。
一方で、これは手続き上そうなります、という点も書いておきます。ご自身が家族の健康保険の被扶養者になっている場合、被保険者である家族の課税状況がわかる書類が必要になります。家族に一切知られずに手続きを進めるのは、この点で難しくなります。家族に伝えるかどうか、どこまで話すかはご自身のペースで決めていいことですが、必要書類の関係で説明が要る場面が出てくることは、先に知っておくと心の準備ができると思います。
保険証や医療費通知にはどう出るのか
これも整理しておきます。自立支援医療は、医療保険を先に適用したうえで、その自己負担部分を公費が持つ仕組みです。厚生労働省の実施要綱にも、自立支援医療費の支給は医療保険の自己負担部分を対象とすることになる、と書かれています。東京都も、公費負担は各種医療保険等を先に適用したうえでの費用だと案内しています。
ここから言えることが1つあります。精神科にかかったという記録が医療保険を通ること自体は、自立支援医療を使うかどうかとは関係なく起きています。健康保険を使って受診している以上、そうなります。自立支援医療を使い始めたから新たに受診の事実が伝わるようになる、という関係ではありません。
医療費通知については、国税庁が定義を示しています。医療費通知とは医療保険者が発行する書類で、被保険者等の氏名、療養を受けた年月、療養を受けた者、療養を受けた病院・診療所・薬局等の名称、被保険者等が支払った医療費の額、保険者等の名称が記載されているものだとされています。医療機関の名称が載るのは、この定義のとおりです。そしてこれは、自立支援医療の有無にかかわらず、保険を使って受診していれば載ります。被扶養者の分は被保険者宛にまとめて届くことがあるので、家族に見える可能性はあります。
なお、医療費控除は年末調整では受けられず、所轄税務署に確定申告書を提出して行う手続きだと国税庁が案内しています。医療費控除を使うために勤務先へ書類を出す必要はありません。
もうひとつ、新しい動きも書いておきます。埼玉県は、令和8年2月9日から、マイナンバーカードを自立支援医療受給者証として利用できる仕組みを始めています。県の案内には、医療機関に情報が提供されるのは、マイナ保険証の登録をしていて、受付でカードリーダーにかざして、端末画面で「医療機関へ医療費助成情報を提供する」に同意した場合のみで、受給者の同意なく医療機関に情報が提供されることはないと書かれています。これは埼玉県の例で、対応している医療機関もまだ限られています。
生命保険や住宅ローンの審査に影響するのか
これは正直に書きます。確認できませんでした。
生命保険に加入できるかどうか、住宅ローンやそれに付く団体信用生命保険の審査がどうなるかは、それぞれの会社が定める引受や審査の基準によります。全国共通の公的な基準を探しましたが、見つけられませんでした。したがってこの記事では、「自立支援医療を使うと保険に入れなくなる」とも「まったく影響しません」とも言えません。検討している会社に、契約の前に直接確認する方法がいちばん確実です。
確認できないことを、確定的に否定するのも肯定するのも、この記事ではしません。障害者手帳と保険についての整理は障害者手帳のデメリットは本当にあるのかでも扱っていますので、あわせて読んでみてください。
手帳を取らないと使えないのか
使えます。精神障害者保健福祉手帳を持っていることは、自立支援医療の要件ではありません。
施行規則が申請書の記載事項として挙げているのは「身体障害者手帳又は精神障害者保健福祉手帳を所持している当該申請に係る障害者等にあっては、その番号」です。持っている人は番号を書く、という書き方であって、持っていることが前提にはなっていません。
手帳の写しで申請できると案内している自治体があるのは事実ですが、それは診断書を省ける方法のひとつとして用意されているものです。東京都は、診断書に基づいて交付された手帳を持っている方は診断書によらず手帳の写しで申請できるとしたうえで、その場合は次回の継続申請では診断書の提出が必要になるとも書いています。大阪市も、手帳の有効期限が申請時点で1年以上残っていれば手帳の写しで申請できるとしています。
逆の誤解もあります。手帳を持っていれば自動的に医療費が1割になるわけではありません。この2つは別の制度で、別の申請です。
一度使い始めると、やめられなくなるのか
やめられます。有効期間は1年以内で、更新しなければその満了とともに終わります。途中でやめたいときは、受給者証の返還届を出す扱いになります(兵庫県には返還届の様式が用意されています)。厚生労働省の実施要綱にも、有効期間が満了したときや自立支援医療を行う理由がなくなったときは受給者証を返還させることと書かれています。
やめたことによって何かの記録が残る、次に申請しにくくなる、といった不利益を定めた規定は見当たりませんでした。使ってみて、通院先が変わる予定が多くて合わないと思ったら、更新しないという選び方もできます。
使わなかった場合と、並べて考えます
最後に、判断材料としてデメリットの裏側も書いておきます。
この記事で挙げた不便は、整理すると3つです。使える医療機関と薬局が決まること、1年ごとに更新の手続きが要ること、申請と原則2年に1度の更新に診断書の費用がかかることです。加えて、精神科の通院以外には使えません。
使わなければ、この3つは起きません。そのかわり、精神科の通院にかかる窓口負担は原則どおりの割合のままです。厚生労働省は、この制度によって一般の方の自己負担が3割から1割に軽くなると説明していて、ひと月の医療費が7,000円で医療保険による自己負担が2,100円だった場合に、自己負担を700円に軽減する、という例を挙げています。さらに、その1割が重くなりすぎないように、所得に応じた1か月あたりの上限額も設けられています。
つまり判断は、手続きの手間と診断書の費用を、毎月の窓口負担の差と比べてどう見るかということになります。比べるときに考えるとよいのは、次の3点です。
- 月に何回くらい通院していて、薬代を含めて窓口でいくら払っているか
- これから何年くらい通うことになりそうか
- 転院や引っ越しの予定が近いうちにあるか
通院が月1回で薬代も少なく、しかも数か月で通院を終えられそうなら、診断書代のほうが上回ることもありえます。反対に、通院が続きそうで薬も出ているなら、差は毎月積み上がっていきます。所得区分ごとの上限額を含めた金額の詳しい話は自立支援医療制度で通院費を1割にする手順に整理してありますので、そちらで確かめてください。
なお、自治体によっては、この制度に上乗せする独自の医療費助成を設けているところがあります。東京都は、社会保険・後期高齢者医療制度・国民健康保険組合に加入していて区市町村民税が非課税の「世帯」の方について、自立支援医療にかかる自己負担額分を助成する制度を実施しています。大阪市も、市の国民健康保険に加入している方向けの付加金があると案内しています。あるかどうかは地域によって違いますので、申請のときに「ほかに使える助成はありますか」と一言たずねてみてください。
それでも判断がつかないときは
制度の説明を読んでも、自分の場合にいくらになるのか、どの書類が要るのかは、なかなか見通しが立たないものだと思います。この制度は所得区分の判定と自治体ごとの運用が絡むので、一般論だけでは結論が出ません。確実なのは、次の2か所に聞くことです。
お住まいの市区町村の担当窓口。障害福祉課や保健福祉課という名前のことが多いところです。「世帯」の範囲の判定、必要な書類、受給者証が届くまでの目安、届くまでのあいだ窓口でどうすればいいか、扶養から外れている場合の特例が使えるか、独自の上乗せ助成があるかどうかは、ここで確認できます。名前を伝えずに一般的な質問として電話で聞くこともできます。
通っている医療機関。指定自立支援医療機関かどうか、診断書を書いてもらえるか、文書料はいくらか、今受けている治療が自立支援医療の範囲に入るか。これらは通院先でしかわかりません。次の診察のときに聞けば足ります。医療相談室や精神保健福祉士がいれば、書類の相談に乗ってもらえることもあります。都道府県や指定都市の精神保健福祉センターも、制度についての相談を受け付けています。
デメリットを心配して調べているうちは、まだ何も始めなくて構いません。今日できることは、次の診察のときに「自立支援医療は使えますか」「文書料はいくらですか」と2つたずねることだけです。そこまで聞いてから決めても、遅くはありません。
わたしたちは就労支援の現場で、自立支援医療を使っている方にも、迷っている方にも会います。使いはじめてから不便だと言われるのは、たいてい登録した医療機関や薬局のことです。制度そのものへの後悔を聞くことはあまりありません。引っ越しや転院の予定があるなら、申請の前にその予定を窓口で伝えておくと、あとの手間が減ります。
