やっとの思いで受診したのに、診断書は出ませんでした、と言われて帰ってきた。その日の帰り道のことを思うと、ここを読むのもしんどいだろうと思います。会社にはもう「診断書を持ってきます」と言ってしまった、来週には出さないといけない、そういう状況の方もいるはずです。
先に言っておきたいことがあります。書いてもらえなかったのは、あなたの伝え方が足りなかったからではありません。そして、医師が手を抜いたからでもありません。診断書には、医師が書ける範囲を決めている法律上の枠組みがあって、その枠に引っかかっているだけ、ということがよくあります。
ここでは、その枠組みを確認したうえで、次の診察までにできること、診断書を待つあいだの休み方、会社側の窓口や別の医療機関という選択肢まで、順に整理していきます。
医師は「診察で分かった範囲」しか書けません
医師法には、診断書について2つの条文があります。読み比べると、事情が見えてきます。
ひとつは医師法第19条第2項です。診察をした医師は、診断書の交付を求められたときに、正当の事由がなければ拒んではならないと書かれています。診察した医師には、診断書を書く義務があります。断ってよいのは正当の事由があるときだけで、条文はその中身までは定めていません。
もうひとつが医師法第20条です。医師は、自ら診察しないで診断書を交付してはならないと定められています。条文が直接禁じているのは、診察をしないまま診断書を出すことです。そのうえで診断書は、医師が自分の名前で根拠を説明できる書類ですから、実務としては診察で把握できた範囲を超えて書くことができません。条文の禁止と、書ける中身の限界は、別のところから来ています。
この2つを並べると、医師が置かれている位置が分かります。求められれば書かなければならない。けれども、診察で把握できた範囲を超えて書くことはできない。「今は書けません」という言葉は、多くの場合、書きたくないという意味ではなく、書ける材料がまだそろっていないという意味です。
ここを取り違えると、つらさが増えます。訴えを疑われた、大げさだと思われた、と受け取ってしまうからです。実際には、あなたの苦しさの程度を評価した結果ではなく、診察という限られた時間で確認できたことの量の問題であることが多いのです。
医師が「まだ書けない」と考えるときに起きていること
診察室の中で何が起きているのかは、外からは見えません。よくある事情を並べておきます。自分の状況に近いものがあれば、次にすることが決めやすくなります。
初診で、経過を見る時間がまだない
初診は、その日の状態を切り取ることしかできません。適応障害という診断は、症状そのものだけでなく、いつからどんな場面で起きているのか、時間とともにどう変わってきたのかという経過とあわせて判断されるとされています。初回の診察でそこまで確認しきれないことは、めずらしくありません。
「もう少し様子を見ましょう」と言われるのは、放置されているのではなく、経過を見る時間を取っている状態です。
受診の回数が少なく、状態の幅が分からない
体調には波があります。そもそも診察室まで来られた日は、比較的動けた日であることもあります。一番つらい時間帯は明け方だったり、月曜の朝だったりします。その波が伝わっていないと、医師の手元には調子の良いほうの断片しか残りません。
職場で何が起きているのかが、まだつながっていない
適応障害は、ある状況と症状の結びつきが判断の軸になります。ところが診察では、症状の話が中心になりがちです。眠れない、食欲がない、という話はできても、それがどの場面で強くなるのかまでは話が及ばないことがあります。
医師の側は職場を見ることができません。そこで起きていることは、あなたが言葉にしない限り、カルテには残りません。
何のための診断書なのかが共有されていない
診断書と一口に言っても、用途によって書く内容が変わります。会社に休職を申し出るための書類、勤務の配慮を求めるための書類、自立支援医療の申請に使う書類は、それぞれ求められる記載が違います。用途が伝わっていないと、医師は何を書けばよいのか判断しかねます。
「診断書をください」とだけ伝えた場合、この情報が抜け落ちていることがあります。
病名を書くことの影響を、医師が慎重に考えている
診断書は会社に渡る書類です。書いた病名がその後どう扱われるかを、医師が慎重に見積もっていることもあります。今の段階で確定的な病名を書くことが、あなたにとって良い方向に働くとは限らない、という判断です。
この場合も、書きたくないという話ではありません。あなたの側の事情や希望が伝われば、判断が変わることがあります。
5つ並べましたが、どれも情報の量とタイミングの話であって、あなたのつらさが本物かどうかを判定した結果ではありません。「証明してもらえなかった」と受け取ると、次の受診がとても遠くなります。そうではなく、まだ渡していないものがある、という位置に置き直しておいてください。
次の診察までにできること
ここから先は、伝わっていない情報を渡すという話です。決まった言い方をすれば書いてもらえる、という種類の話ではありません。医師が判断するための材料が増えれば、判断できる範囲が広がる、というだけのことです。逆に言えば、材料が足りていない状態でいくら言葉を尽くしても、書ける範囲は広がりません。
記録を持っていく
いちばん効くのは、日々の記録です。診察の場で思い出そうとすると、つらい記憶ほど言葉になりません。書いたものがあれば、渡すだけで済みます。
| 記録すること | 書き方の例 |
|---|---|
| 睡眠 | 何時に布団に入り、何時に眠れて、何回目が覚めたか |
| 食事 | 食べられた回数、量が減っているか |
| 出勤の状況 | 出勤できた日、遅刻した日、休んだ日 |
| 症状が強くなる場面 | 日曜の夜、上司からの連絡、会議の前など |
| 身体に出ていること | 動悸、頭痛、吐き気、涙が出る、手が震える |
| できなくなったこと | 洗濯、入浴、返信、外出 |
手書きのメモでも、スマートフォンのメモ帳でも構いません。毎日きれいに書く必要はなく、書けた日だけで足ります。2週間分あれば、その日の状態ではなく期間としての状態が伝わります。
記録が効くのは、精神論ではなく、先ほどの条文の話につながっています。医師が書けるのは診察で把握したことに限られます。診察室で語られなかったことは、存在しなかったのと同じ扱いになってしまいます。記録は、その取りこぼしを減らすための道具です。うまく話せない日でも、紙を渡せば情報は届きます。
診察の時間が短い医療機関では、A4の紙1枚にまとめて持っていくやり方もあります。上半分に困っていることを3つ、下半分に2週間の睡眠と出勤の状況を並べておけば、口で説明しなくても目を通してもらえます。「これを見ていただけますか」と差し出すだけで済むので、話すことに体力を使わずにすみます。
職場で起きていることを、場面で話す
「仕事がつらいです」という言い方は、受け取る側にとって幅が広すぎます。同じことでも、場面で話すと具体的になります。
- 「4月に異動してから、朝になると吐き気が出るようになりました」
- 「上司から名前を呼ばれると、そのあと1時間くらい手が震えます」
- 「先月から残業が月80時間を超えていて、帰宅が終電です」
- 「同じ部署の人が2人辞めて、その分の業務が回ってきています」
いつから、どの場面で、何が起きているのか。この3つがそろっていると、医師の側で状況と症状を結びつけることができます。
何に使うのかを言葉にする
診断書を何のために使うのかを、最初に伝えてください。
- 「会社に休職を申し出たいので、療養が必要だと書いていただける書類が要ります」
- 「今すぐ休むのは難しいので、残業を減らしてもらうための書類がほしいです」
- 「会社の書式があるので、こちらに記入をお願いできますか」
会社から様式を渡されている場合は、その紙を持っていってください。何を書けばよいかが紙に書いてあるので、話が早く済みます。休職を申し出る場面での伝え方は、休職を上司や人事にどう伝えるかにまとめています。
断られたときに、その場で聞いておくこと
もう一度断られる可能性もあります。そのときに聞いておくと、次が決まります。
- 「どのくらい経過を見れば、判断ができそうでしょうか」
- 「次はいつ受診すればよいですか」
- 「今の段階で書ける範囲のものはありますか」
3つめは、意外と道が開くことがあります。休職を要する旨は書けなくても、通院していることや治療中であることの証明であれば出せる、という場合があるからです。会社に「通院を始めていて、診断書は次の受診後に出る見込みです」と伝えられるだけでも、状況が動くことがあります。
会社に「診断書が間に合わない」と伝えるとき
提出の期限が迫っている場合、いちばん重いのは会社への連絡だと思います。ここは、正直に段取りだけを伝えるのがいちばん通ります。診断書が出なかった理由を説明する必要はありません。
件名:診断書の提出時期について
○○部長
お疲れさまです。△△です。
先日お伝えしていた診断書の件ですが、通院を始めたところで、医師と経過を見たうえで判断することになりました。次の受診が○月○日ですので、その後にあらためてご提出いたします。
提出時期についてご相談させていただけますと助かります。
「医師と相談のうえで」という一言があると、あなたの都合で遅れているのではないことが伝わります。期限を動かせないと言われたときは、産業医や人事に相談したいと申し出て構いません。
体調が限界に近く、提出を待つあいだも出勤が難しいときは、次の休み方を先に押さえてください。
診断書がなくても、休むことはできます
診断書が出るまでのあいだに使えるもの
診断書を待つあいだ、出勤を続けるしかないと思い込んでしまう方が多いのですが、そうではありません。
労働基準法第39条第5項は、使用者は年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならないと定めています。ただし書きで、事業の正常な運営を妨げる場合には他の時季に与えることができるとされていますが、条文に「理由」を条件とする定めはありません。体調のためだと説明しなくても、有給休暇の申請そのものは通常どおりできます。病名を言う必要もありません。
有給休暇は、雇い入れの日から6か月間続けて勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10労働日が与えられるところから始まり、勤続年数に応じて増えていきます。パートタイムなどで所定労働日数が少ない方にも、日数に応じて与えられます。何日残っているかは、給与明細や勤怠システムで確認できることが多いはずです。
会社の側から「有給を全部使ってから休職に入るように」と言われることもありますが、厚生労働省のこころの耳に掲載された社会保険労務士のQ&A「休職手続き前に会社側が有給休暇取得を促すことができるか」では、有給休暇をいつ取得するかは原則として労働者が決めることであり、会社が一方的に指定して使い切らせることはできない、という説明がされています。会社が流れを提案することはできても、最終的に決めるのはあなたです。復職後のために何日か残しておきたい、という希望を伝えて構いません。
有給休暇のほかに、会社独自の病気休暇や特別休暇が用意されていることもあります。こちらは法律ではなく就業規則で決まっているので、社内の規程を確認するか、人事に「病気で休むときに使える制度はありますか」と聞くのがはやいです。
なお、健康保険の傷病手当金については、待期の3日間に有給休暇を充てても支給に影響しないという整理が同じQ&Aで示されています。傷病手当金そのものの条件は、傷病手当金がもらえないケースにまとめてあります。
会社の側にも、相談できる相手がいます
診断書が出るまで会社には何も言えない、と考える必要はありません。会社の中には、あなたの健康について意見を言う立場の人がいます。
労働安全衛生法第13条は、一定規模以上の事業場に産業医を選任し、労働者の健康管理などを行わせなければならないと定めています。同条第5項では、産業医は労働者の健康を確保するため必要があると認めるときに会社へ勧告することができ、会社はその勧告を尊重しなければならないとされています。産業医は、会社に対して意見を言う役割を持っています。
診断書がまだ出ていない段階でも、産業医への健康相談はできます。長時間労働が続いている方は、労働安全衛生法第66条の8に基づく面接指導の対象になることがありますし、ストレスチェックで高ストレスと判定された方は、第66条の10第3項により、申し出れば医師による面接指導を受けられます。同じ条文には、申し出をしたことを理由に不利益な取扱いをしてはならないと明記されています。
産業医の選任義務があるのは、労働安全衛生法施行令第5条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。それより小さい職場には産業医がいないことになりますが、その場合は地域産業保健センターが使えます。厚生労働省のこころの耳と労働者健康安全機構の案内によると、労働者数50人未満の小規模事業場の事業者と労働者を対象に、健康相談窓口や医師による面接指導の相談などを原則として無料で提供しています。会社を通さず、働いている本人が相談できる窓口です。利用には事前の申し込みが必要とされています。
産業医との面談で何を聞かれるのか、話した内容がどこまで会社に伝わるのかについては、休職を上司や人事にどう伝えるかで扱っています。
別の医療機関にかかるという選択肢
転院やセカンドオピニオンを考える方もいると思います。選択肢としてはあります。ただ、期待していたほど早くない場合があることは、先に知っておいてください。
新しく受診した医師も、診察して把握した範囲でしか書けないという点は同じです。つまり、初診からやり直すぶん、かえって時間がかかることがあります。今の医療機関に何度か通った実績があるなら、そこで経過を伝えるほうが近道になる場面は多いはずです。
そのうえで、転院を考えてよい状況もあります。
- 診察のたびに責められているように感じて、通うこと自体が負担になっている
- 症状の話をする時間がほとんど取れず、経過を伝える機会がない
- 通院の距離や時間が体調に合っていない
- 主治医から専門的な医療機関を勧められている
こうしたときは、我慢して通い続ける必要はありません。相性は治療の一部です。
転院する場合は、今の医療機関に紹介状(診療情報提供書)を書いてもらえるか聞いてみてください。これまでの経過が引き継がれるので、新しい医師が判断できる材料が最初からある状態になります。頼みにくく感じるかもしれませんが、医療機関の間ではふつうに行われているやり取りです。
なお、通院の記録は、あとで傷病手当金や障害年金の手続きをするときに意味を持つことがあります。すぐに必要になる話ではありませんが、受診した医療機関名と日付だけは、手元に控えておくと安心です。
それでも動けないときに、外の窓口があります
次の受診まで日があって、会社にも言えず、身動きが取れないと感じることがあります。そのときに使える窓口を挙げておきます。どれも、診断書がなくても利用できます。
働く人の「こころの耳電話相談」は、厚生労働省が案内しているフリーダイヤルの相談窓口です。番号は0120-565-455で、平日は17時から22時まで、土曜と日曜は10時から16時まで受け付けています(祝日、振替休日、年末年始を除きます)。働いている方とその家族が対象で、無料です。
精神保健福祉センターは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第6条により、都道府県が設置している機関です。各都道府県と政令指定都市に1か所ずつ置かれています(東京都は3か所です)。こころの健康や精神科医療についての相談ができ、電話または予約のうえでの面接という形になります。近くの保健所でも、こころの健康に関する相談や受診についての相談を受け付けています。
これらの窓口は診断書を出すところではありませんが、今の状況を整理したり、受診の続け方を一緒に考えたりすることはできます。誰にも話していない状態が一番こたえるので、声に出す先があるだけでも違います。
電話をかけるほどの気力がない日もあると思います。そういう日は、次の受診日をカレンダーに書き込むだけで十分です。予約が先に埋まっていて日が空いてしまうときは、キャンセルが出たら早められるか受付に聞いておくと、待つ時間の見通しが立ちます。
今日できることは、記録を1行書くことだけで足ります
診断書が出なかった日は、進んでいないように感じるものです。会社への説明を考えると気が重くなりますし、また断られたらどうしよう、と思うと次の予約を入れるのもおっくうになります。
けれども、実際には止まっていません。受診したという事実が残り、カルテに初回の記録がつきました。次の診察で経過を伝えれば、医師の手元にある材料は確実に増えます。診断書が出るかどうかは、そのあとの話です。
今日できることを1つだけ挙げるなら、今夜の睡眠を1行書き残すことです。何時に横になって、眠れたかどうか。それだけで、次の診察に持っていけるものがひとつ増えます。会社への説明も、休みの取り方も、そこから順に片づけていけば間に合います。
わたしたちは就労支援の現場で、一度断られたことをきっかけに通院そのものが途切れてしまった方を見かけます。書いてもらえなかったことは、状態が軽いと判断されたという意味とは限りません。次の診察で伝わる情報が増えれば、判断が変わることもあります。いちばん避けたいのは、ここで受診をやめてしまうことです。
