傷病手当金の申請でいちばん分かりにくいのは、書類の中身よりも段取りのほうだと思います。用紙をどこで手に入れるのか、誰に先に頼むのか、いつ出せばいいのか、一度で終わるのか何回も出すのか。この順番が見えていないと、書き始めることすらできません。

ここでは申請の段取りと時期だけを、はじめから終わりまで並べます。各欄に何をどう書くかは、傷病手当金支給申請書の書き方と記入例のほうにまとめてあるので、実際にペンを持つ段階になったらそちらを開いてください。

申請の流れを、先に全部並べます

体調が悪いときに何度も読み返すのはつらいので、最初に全体を出しておきます。

順番 すること 時期の目安
1 申請書を手に入れる 休みに入ったころ
2 申請する期間を決めて、自分が書くページを埋める 期間の終わりが見えたころ
3 医師に意見書のページを書いてもらう 申請期間が過ぎてから
4 会社に証明のページを書いてもらう 申請期間が過ぎてから
5 郵送、または電子申請で出す ページがそろってから
6 審査を待ち、支給決定通知書を受け取る 提出のあと

そして次の期間について、また1と2から繰り返します。傷病手当金は、休んでいるあいだ何回かに分けて申請していく給付です。一度出したら終わりではありません。ここが最初につまずきやすいところなので、頭の隅に置いておいてください。

1. 申請書を手に入れる

協会けんぽに加入している場合

勤め先の健康保険が協会けんぽ(全国健康保険協会)であれば、申請書は協会けんぽのサイトからダウンロードできます。健康保険傷病手当金支給申請書のページには次の3つが並んでいます。

  • 手書き用(PDF)
  • 手書き用記入例(PDF)
  • 入力用(ZIP)

手書き用は印刷してペンで書くもの、入力用はパソコンで入力してから印刷できるものです。手が震えて字が書きにくい時期であれば、入力用のほうが負担は少なくなります。記入例も一緒に置かれているので、印刷するときは合わせて出しておくと後で楽です。

2026年8月時点で配られているのは2026年6月版の様式です。古い様式を手元に持っていた場合でも、新しくダウンロードし直したほうが確実です。

会社の総務が用紙を持っていることもあります。プリンターがない、ダウンロードの操作がつらいというときは、「傷病手当金の申請書をもらえますか」と会社に頼んでしまって構いません。用紙を渡すのは会社の負担にならない範囲のことです。

健康保険組合に加入している場合

健康保険組合に加入している場合は、協会けんぽの様式は使えません。組合ごとに独自の様式があり、組合のサイトからダウンロードするか、会社の総務を通して取り寄せます。提出先も協会けんぽの支部ではなく、その組合になります。

自分がどちらに加入しているかは、保険証やマイナポータルの資格情報で確認できます。「全国健康保険協会」と書かれていれば協会けんぽ、「◯◯健康保険組合」と書かれていれば組合です。この記事で挙げる細かい決まりは協会けんぽのものなので、組合の場合は組合の案内を優先してください。聞かれる内容や進め方の骨格は、おおむね同じです。

2. 誰に何を頼むのかを知っておく

申請書は自分ひとりで完成させるものではありません。自分、会社、医師の3者で分担して書きます。協会けんぽの案内でも「申請書は被保険者、事業主、主治医が各項目を記入し、必要書類を添えてご提出ください」と説明されています。

これは協会けんぽの都合ではなく、法令で決まっていることです。健康保険法施行規則の第84条第2項は、傷病手当金の申請書に添付しなければならない書類として、次の2つを挙げています。

  • 発病または負傷の年月日、原因、主症状、経過の概要と、働けなかった期間に関する医師または歯科医師の意見書
  • 働けなかった期間、受けた報酬の額と期間などに関する事業主の証明書

協会けんぽの申請書では、この意見書と証明書が用紙のページとして組み込まれています。だから「頼まなくても何とかなりませんか」という抜け道はありません。逆に言えば、頼むことは制度が最初から想定している手順であって、無理なお願いをしているわけではないということです。

なお、各ページの欄に何をどう書くかは、この記事では扱いません。ページごとの担当と記入内容は申請書の書き方と記入例に分けてあります。

3. いつ出すのか

ここがいちばん多い勘違いだと思います。

申請書は、申請したい期間が過ぎてからでないと出せません記入の手引きには、申請期間の欄についてこう書かれています。

「この申請書は、申請期間が経過する前に提出することはできません。(申請期間が経過した後にご提出ください。)」

つまり、休みに入った当日や、まだ休んでいる途中の段階で先に出しておくことはできない仕組みです。会社が書く証明のページにも「証明は、申請期間経過後の日付をご記入ください」という注意が入っています。医師が書くのも「労務不能と認めた期間」なので、やはり過ぎた期間についての記入になります。

理由を考えると納得しやすくなります。傷病手当金は、働けなかった日について1日単位で支給されるものです。その日に本当に働けなかったのか、その日に給与が出ていたのかは、あとから振り返らないと確定しません。だから証明も申請も、期間が終わったあとの作業になります。

初回だけ、期間の始まりに決まりがあります

初めて申請するときは、申請期間の始まりを自分の都合で決められません。記入の手引きには「初めて申請される場合は待期完成(3日間連続して休んだ日)の初日から申請してください」と書かれています。

支給が始まるのは連続3日休んだあとの4日目からですが、申請書に書く期間は、その3日間の初日から書き始めるということです。ここは初回だけの決まりなので、2回目以降は前回の続きから書くことになります。

4. 何回に分けて申請するか

長く休むことになった場合、申請書は何枚も出すことになります。区切り方には目安があります。

給与の締切日ごとが勧められています

協会けんぽのよくあるご質問には、こう書かれています。

「傷病手当金の申請は、給与の支払い有無について事業主の証明が必要になりますので、1か月単位で給与の締切日ごとに申請されることをお勧めします。」

会社が証明するのは、その期間に出勤した日と、支払った報酬の日付と金額です。給与計算の区切りとずれた期間で頼まれると、会社は締めていない月の途中を手作業で拾うことになります。給与の締切日で区切ると、会社が書きやすくなり、結果として自分の手元に戻ってくるのも早くなります

自分の会社の給与締切日が分からない場合は、給与明細に書かれていることが多いですし、総務に聞けばすぐ教えてもらえます。最初の1回だけ確認しておけば、あとは同じ区切りで繰り返すだけになります。

1枚に書けるのは暦で3か月以内

もうひとつ、上限があります。記入の手引きには「申請期間は暦で3ヶ月以内としてください。(3ヶ月を超える場合は申請用紙を分けてご申請ください。)」と書かれています。

まとめて半年分を1枚で出すことはできないということです。もっとも、締切日ごとに1か月単位で出していれば、この上限に当たることはありません。

分けたほうがよい、そのほかの場合

期間の長さ以外にも、申請書を分けるように案内されている場面があります。

場面 どうするか
1枚の証明欄に賃金の支給状況を書ききれない 申請書を分けて申請します
主治医が変わるなどで、意見書のページが複数に分かれる 申請書を分けて申請します
途中で転院した それぞれの病院で意見をもらいます

転院したときに「前の病院の分はどうすればいいのか」と迷う方は多いのですが、手引きには「病院を転院した場合は、それぞれの病院で療養担当者(医師等)の意見を受けてください」と書かれています。まとめて今の主治医に書いてもらうことはできません。

実際にはこういうペースになります

言葉だけだと想像しにくいので、給与の締切日が月末の会社を例にして、動きだけを並べてみます。

時期 動き
6月上旬 休みに入る。申請書を印刷しておく
6月下旬 6月分として申請する期間を決めて、自分が書くページを埋めておく
7月に入ってから 診察のときに申請書を渡して、意見書のページを依頼する
意見書を受け取ったあと 会社に渡して、証明のページを依頼する
ページがそろったら 郵送または電子申請で提出する
7月中 7月分について、また同じことを繰り返す

つまり、6月分の申請をするのは7月に入ってからということになります。ひと月遅れで進んでいく感覚をつかんでおくと、「まだ振り込まれない」と不安になる時期を減らせます。

医師と会社のどちらに先に渡すかは決まりがありません。医師のほうが日数がかかりやすいので、先に依頼しておくと全体が早く回ることが多いです。

5. 医師と会社に頼むときの段取り

頼む順番

  1. 1自分のページで申請期間を決める会社も医師も、期間が決まっていないと書けません
  2. 2医師に意見書のページを頼むその場で書き上がるとは限らないので、先に依頼しておくと全体が早く回ります
  3. 3会社に証明のページを頼む渡す相手は総務や人事の担当者が一般的です
医師と会社のどちらに先に渡すかに決まりはありません。どちらへの依頼も、申請期間が過ぎてからになります。

順番については、迷ったら先に自分のページで申請期間を決めると考えてください。会社が書くのは「申請期間のうち出勤した日」ですし、医師が書くのも「労務不能と認めた期間」です。どちらも、期間が決まっていないと書けません。

医師への依頼

診察のときに申請書を持っていくのがいちばん確実です。「傷病手当金の申請書を持ってきたので、意見書のページをお願いしたい」と伝えれば通じます。

気をつけておくとよいのは、次の2つです。

  • その場で書き上がるとは限りません。次の診察で受け取る形になることもあるので、いつ受け取れるかを聞いておくと予定が立てやすくなります
  • 文書料がかかります。金額は医療機関によって違い、申請のたびに発生します。窓口で先に聞いておくと、毎月の見通しに入れられます

意見書には、医師が診断年月日と氏名を書くことになっています(健康保険法施行規則第84条第3項)。ここは医師の側の話なので、自分で用意することはありません。

会社への依頼

会社に渡すときは、申請期間を伝えます。渡す相手は総務や人事の担当者が一般的ですが、会社によっては上司を経由する運用になっていることもあります。

期間が過ぎてから頼むものなので、たとえば月末締めの会社であれば、翌月に入ってから渡すことになります。会社側も給与計算が終わってからのほうが書きやすいので、締切日の直後に急かす必要はありません。

退職したあとの期間についての申請では、会社に頼む必要がありません。手引きには「資格喪失日以降の期間に関する申請については、空欄でご提出ください」と書かれています。退職後も継続して受け取っている方は、ここで会社と連絡を取らなくてよくなります。連絡を取ること自体がつらい状態であれば、この点は覚えておくと気が楽になると思います。

6. 提出する

郵送で出す

紙の申請書は、加入している協会けんぽの都道府県支部に郵送します。手引きにも「申請書のご記入後は、協会けんぽ都道府県支部に郵便でご提出ください」と書かれています。

自分がどの支部に加入しているかは、「資格情報のお知らせ」やマイナポータルで確認できます。支部ごとの住所は協会けんぽのサイトに一覧があります。会社を通して提出する運用になっている職場もあるので、そこは担当者に確認してください。

健康保険組合の場合は、組合が提出先です。会社経由が原則になっている組合もあります。

電子申請で出す

協会けんぽには電子申請サービスがあり、傷病手当金の申請も対象になっています。紙より確実に進む場面が多いので、操作に抵抗がなければこちらを検討する価値があります。協会けんぽ自身も、電子申請のよくあるご質問で次のような利点を挙げています。

  • 「印刷や郵送などにかかっていた手間や費用が削減できます」
  • 「制度内容やよくある質問、入力方法の説明等を見ながら申請できます」
  • 「申請前の入力チェック等により記載漏れや記載誤りを防ぐことができます」
  • 「申請後の処理状況を確認することができます」

使うために必要なものは、マイナンバーカードと、スマートフォンで認証する場合はマイナポータルアプリです。カードを受け取ったときに設定した4桁のパスワードも使います。マイナ保険証の設定をしていなくても利用できると案内されています。

会社と医師に書いてもらったページは、写真かPDFにしてアップロードします。アップロードすれば、原本を別に郵送する必要はありません。形式はJPEG、PNG、PDFで、容量はJPEGとPNGが100KBから20MBまで、PDFは15MBまでとされています。用紙の四隅にあるマークがすべて映るように撮ってください。

このサービスは加入者本人が使うものです。事業主が代わりに申請するための仕組みではありませんし、社会保険労務士を除く代理人も使えません。日雇特例被保険者とその被扶養者も対象外です。

なお、退職して資格を失ったあとの継続給付についても、当時の資格を選んで電子申請できることになっています。

7. 余計な書類は付けないでください

意外に知られていないのですが、親切のつもりで付けた書類が、かえって手間を増やすことがあります

手引きの事業主記入用のページには「申請時の事務効率化のため、出勤簿や賃金台帳の写し等の書類は、添付しないでください」という注意があります。様式のページにも「賃金台帳や出勤簿の写し等、不要な書類の添付はしないようご注意ください」と書かれています。

会社の担当者が念のためにと付けてくれることもあるので、渡すときに「添付は不要と書かれていました」と一言添えておくと行き違いが減ります。

一方で、状況によって必要になる添付書類はあります。支給開始日以前の12か月以内に勤め先が変わった場合の「健康保険加入状況等申告書」などです。どんなときに何が要るかは申請書の書き方と記入例の後半に表でまとめてあります。

8. 出したあとに何が起きるか

出したあとは、協会けんぽ側で審査が行われます。

協会けんぽの支部が出している案内によると、申請書が到着して受け付けられてから2週間前後で決定となります。決定のあと、圧着ハガキで支給決定通知書が送られてきます。この通知書に、支給が決定した期間や金額が書かれています。

注意しておきたいのは、不備があった場合です。同じ案内には「不備等で申請書がお返しとなった場合、再受付してから更に上図の期間かかりますのでご注意ください」と書かれています。差し戻されると、直して送り返したところからまた同じだけかかります。急いでいるときほど、出す前に一度見直すか、電子申請のチェック機能を使うほうが結果的に早く終わります。

いつ振り込まれるのか、初回はどのくらい待つのかについては傷病手当金はいつ振り込まれるかに分けてあります。生活費の見通しを立てたい方はそちらを見てください。

9. 2回目以降の申請で変わること

一度出してしまえば、次からはずいぶん楽になります。何が変わるのかを整理しておきます。

項目 初回 2回目以降
申請期間の始まり 待期完成(連続3日休んだ日)の初日から 前回の申請期間の続きから
医師の意見書 必要 毎回必要
会社の証明 必要 毎回必要(退職後の期間は空欄)
用紙 新しくダウンロードまたは受け取り 毎回新しい用紙を使います

変わらない部分のほうが多いのが実際のところです。医師の意見書と会社の証明は、毎回その期間について書いてもらいます。前回のものを流用することはできません。文書料も毎回かかるので、月々の支出として見込んでおいてください。

楽になるのは、手順が読めるようになることです。給与の締切日で区切ると決めてしまえば、次に何をいつやるかが毎月同じになります。診察の予定と締切日の位置関係が分かれば、「今月は何日ごろに医師に渡す」という段取りが自然に決まります。

長く休むことになりそうな方は、締切日の翌日あたりにスマートフォンの繰り返し予定を入れておくのもひとつの方法です。体調によって日付の感覚があいまいになる時期があるので、思い出す仕掛けを外に置いておくと安心できます。

10. 今日できることだけで大丈夫です

ここまで読んで、やることが多いと感じたかもしれません。ただ、今日全部やる必要はまったくありません。

今日できるのは、たとえばこのくらいです。

  • 保険証を見て、協会けんぽなのか健康保険組合なのかを確かめる
  • 申請書をダウンロードして、印刷だけしておく
  • 給与明細を見て、給与の締切日を確認する
  • 次の診察がいつかを確認する

このうちひとつでも済めば、今日はもう十分です。申請書は期間が過ぎてからでないと出せない書類なので、急いで完成させても提出が早まるわけではありません。焦る材料がひとつ減ったと考えてください。

判断がつかないところは、加入している健康保険の窓口に直接聞くのがいちばん早くて確実です。協会けんぽであれば都道府県支部、健康保険組合であれば組合の担当窓口です。会社を通さずに自分で聞いて構いませんし、手続きの相談をすること自体が本人の権利です。通院先に医療相談室や医療ソーシャルワーカーがいれば、そこで段取りを一緒に確認してもらうこともできます。

わたしたちは就労支援の現場で、申請の段取りでつまずく方を見ていると、書類が難しいというより順番が分からないことで止まっている場合が多いです。自分の欄を書く、会社に頼む、医師に頼む。この3つは同時に進めるものではなく、順番があります。順番さえ分かれば、体調のよい日に1つずつ進められます。