すでに何日も、あるいは何週間も休んだあとで、診断書という書類が要ることを知る。この順番になる方はとても多いです。動けない時期に手続きの情報まで集めるのは無理がありますし、休み始めるときに「診断書をもらっておいたほうがいい」と教えてくれる人が、いつもそばにいるわけでもありません。

ここで扱うのは、すでに過ぎた期間について、あとからさかのぼって医師に証明してもらえるのかという一点です。答えは、法律で決まっていて動かせない部分と、医師の判断に委ねられる部分に分かれます。この2つを混ぜないで見ていくと、自分の場合に何ができるのかが見えてきます。

「あとから書いてもらう」には2つの意味があります

同じ言葉で聞かれても、中身が2通りあります。

ひとつは、書類の作成そのものを後日にお願いするという意味です。これはごく普通のことで、診断書はその場で受け取れないほうがむしろ多いくらいです。次の診察のときに渡される場合もありますし、郵送になる場合もあります。ここでつまずくことはあまりありません。

もうひとつは、すでに休んだ期間について、過去にさかのぼって証明してもらうという意味です。「先月の10日から休んでいるので、そこからの分を書いてほしい」という頼み方になります。この記事で扱うのは、こちらです。

この2つが混ざったまま相談すると、医師の答えと自分の聞きたいことがずれてしまいます。頼むときは「◯月◯日から仕事を休んでいて、その期間について書いていただきたいのですが」と、日付を先に言ってしまうほうが早く話が進みます。

医師が「診ていない期間は書けません」と言う理由

過去の期間を頼んだときに、断られたり、一部しか書けないと言われたりすることがあります。これは医師が冷たいからでも、こちらの頼み方が悪かったからでもありません。法律にはっきり書かれていることが理由です。

医師法(昭和23年法律第201号)の第20条は、次のように定めています。

医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

短い条文ですが、この記事の話はほとんどここに集約されます。診察していない相手に診断書を出してはならないと、医師の側に禁止として書かれています。しかも第33条の3で、この規定に違反した場合は50万円以下の罰金と定められています。医師にとっては、頼まれても応じられない性質の依頼だということです。

「診察」という言葉が何を指すのかについては、厚生労働省の通知の中で説明があります。問診、視診、触診、聴診といった手段は問わないけれども、現代医学から見て、その病気に対して一応の診断を下せる程度のものを指す、という趣旨の説明です。つまり、電話で少し話した、メールでやり取りをした、というだけでは足りないという整理になっています。

一方で、診察した医師には応じる義務があります

同じ医師法の第19条第2項には、逆向きの決まりが置かれています。

診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。

診察をした医師は、正当な理由がなければ診断書の交付を断ってはいけないという規定です。第20条と並べると、線がはっきりします。診察していない相手には出せない。けれども診察した相手からの求めは、正当な理由がなければ断れない。

ですから「診断書をお願いしたい」と伝えること自体は、遠慮するようなことではありません。通院している医療機関であれば、依頼すること自体は本来受け止められるはずのものです。断られるかもしれないと思って言い出せずにいる方は、ここだけ覚えておいてください。

さかのぼれる範囲は、そこから先は医師の判断です

ここが、多くの解説であいまいになるところです。順番に分けます。

条文が禁じているのは、診察をしないまま書類を出すことです。すでに診察を受けている患者について、その診察で聞き取った経過や現在の状態をもとに、医師が過去の期間の状態を医学的に判断することまで、条文が一律に禁じているわけではありません。

実際、傷病手当金の申請書にも「発病または負傷の年月日」を書く欄と「初診日」を書く欄が別々にあります。発病した日が初診日より前になるのは珍しくありませんから、初診より前の出来事について医師が記入する前提の欄が、様式そのものに用意されているということです。

とはいえ、「労務不能と認めた期間」の始まりをどこに置くかは、また別の話になります。ここは医師によって考え方が分かれるところで、診察していない期間については書かないという方針の医師もいますし、初診時の状態と本人から聞き取った経過から判断して、ある程度さかのぼって書く医師もいます。

ですから、絶対に書いてもらえないとも、必ず書いてもらえるとも言えません。ここは実際に診察した医師でなければ判断できない部分です。ネット上には「さかのぼりは不可能」と書かれたものも「交渉すれば書いてもらえる」と書かれたものもありますが、どちらも言い切りすぎだと思います。

医師の側から見ると、診断書は自分の氏名と医療機関名を書いて出す文書です。書いた内容について、あとから根拠を説明できる立場になります。だから慎重になるのであって、こちらを疑っているわけではありません。この事情が分かっていると、断られたときに「信じてもらえなかった」と受け取らずに済みます。書ける範囲を一緒に確かめる作業だと思って聞いてみてください。

わかっているのは次のことです。今日受診すれば、その日から先の期間については確実に土台ができます。過去の分がどこまで認められるかは診察してみないと分かりませんが、これから先の分を確保するために今日できることは、はっきりしています。

傷病手当金の「労務不能と認めた期間」はこう扱われます

傷病手当金の場合、医師が書くのは診断書ではなく、申請書の4ページ目にある療養担当者記入用の欄です。ここの見出しは、次のように書かれています。

様式に書かれている説明
労務不能と認めた期間 勤務先での従前の労務に服することができない期間をいいます
傷病名 労務不能と認めた傷病をご記入ください
初診日 療養の給付の開始年月日
診療日の有無 労務不能と認めた期間に診療した日がありましたか(はい/いいえ)

注目してほしいのは、いちばん下の欄です。「労務不能と認めた期間に診療した日がありましたか」という質問が、様式にあらかじめ用意されています。「いいえ」という選択肢が存在するということは、診療日がない期間が申請書に書かれること自体は、様式が想定していないわけではないという意味になります。

ただし、そこから先は保険者の審査です。全国健康保険協会のよくあるご質問(傷病手当金)では、労務不能について次のように説明されています。

労務不能とは、被保険者が今まで従事している業務ができない状態のことで、労務不能であるか否かは、医師の意見及び被保険者の業務内容やその他の諸条件を考慮して判断します。

つまり、最終的に労務不能かどうかを判定するのは医師ではなく、健康保険の側です。医師が書いた期間がそのまま全部認められるとは限りませんし、逆に診療日がない期間が含まれていたら即座に不支給、と決まっているわけでもありません。医師の意見はあくまで判断材料のひとつという位置づけになっています。

もうひとつ、覚えておくと安心できることがあります。協会けんぽは、入院していなくても支給の対象になると明記しています。

健康保険給付として受ける療養に限らず、自費で診療を受けた場合でも、仕事に就くことができないことについての証明があるときは支給対象となります。また、自宅療養の期間についても支給対象となります。

家で寝ていた期間だから対象外、ということではありません。必要なのは、その期間について仕事に就けなかったという証明があることです。

申請期間の始まりは、受診した日ではありません

待期の3日と、支給が始まる日

1日目待期
2日目待期
3日目待期
4日目ここから
5日目支給
待期(支給なし)支給される日
数え始めるのは休み始めた日で、初めて病院に行った日ではありません。待期には有給休暇も土日・祝日などの公休日も含まれ、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。

さかのぼりを気にしている方が取り違えやすいのが、ここです。申請書の2ページ目に書く申請期間について、支給申請書の記入の手引きには次のように書かれています。

傷病のため労務に服することができなかった期間をご記入ください。初めて申請される場合は待期完成※(3日間連続して休んだ日)の初日から申請してください。

書くのは休み始めた日を起点にした期間であって、初めて病院に行った日ではありません。傷病手当金は、連続して3日休んだあとの4日目から支給が始まる仕組みで、この最初の3日間を待期といいます。協会けんぽは、待期には有給休暇も土日・祝日などの公休日も含まれ、給与の支払いがあったかどうかは関係ないと説明しています。

つまり、休み始めた日と受診した日が離れている場合、その差の部分をどう扱うかが実際の論点になります。受診した日を勝手に起点にして申請期間を縮めてしまう必要はありませんし、逆に医師が証明できない期間まで自分で書き込んでも、そこは審査で見られる部分です。まずは休み始めた日を医師に伝えて、どこから書けるかを確かめるのが順番になります。

申請はもともと「期間が過ぎてから」の手続きです

さかのぼることに引け目を感じている方がいるかもしれませんが、傷病手当金は制度の側が後払いを前提にしています。記入の手引きには、次のように書かれています。

この申請書は、申請期間が経過する前に提出することはできません。(申請期間が経過した後にご提出ください。)

会社が書く3ページ目も、その期間に出勤した日と支払った報酬を証明するものなので、期間が終わらないと書けません。医師が書く4ページ目も同じで、過ぎた期間について「働けない状態だった」と証明する欄です。この申請書は、はじめから「あとから書いてもらう」書類として作られています

あわせて2つの決まりがあります。ひとつは、1回の申請書に書ける期間は暦で3か月以内だということです。3か月を超える場合は、申請書を分けて出します。もうひとつは、協会けんぽが勧めている申請の間隔です。

傷病手当金の申請は、給与の支払い有無について事業主の証明が必要になりますので、1か月単位で給与の締切日ごとに申請されることをお勧めします。

長く休んでいて何か月分もたまっている場合は、ひとまず直近の1か月分から出してみるという進め方ができます。全部そろえてから出そうとすると、そこで止まってしまいがちです。

期限についても触れておきます。健康保険法第193条は、次のように定めています。

保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する。

傷病手当金は日ごとに権利が生じる給付なので、時効も労務不能だった日ごとに進んでいきます。ですから、そのままにしておくと古い日の分から順に受け取れなくなります。今日じゅうに全部を片づける必要はまったくありませんが、体調が落ち着いた日に少しずつでも進めておくと、あとで悔しい思いをせずに済みます。

休み始めてから受診が遅れていた場合

ここまで読んで、もっと早く病院に行っていればよかったと感じた方がいるかもしれません。ただ、これは順番として仕方のないことだと思います。

そもそも動けなくなっている時期は、予約の電話をかけることも、行く病院を選ぶことも、かなり難しい作業です。精神科や心療内科は初診の予約が数週間先になることも珍しくありませんし、休み始めたときには「数日で戻れるはず」と思っていた方も多いはずです。手続きのために体調を崩したわけではないのですから、遅れたこと自体を責める必要はありません。

そのうえで、今日からできることを並べます。

1. まず受診の予約を取る

いちばん効きます。受診した日から先は、確実に証明の対象になり得る期間になります。逆に、受診を先延ばしにしている間は、証明のない期間が増えていきます。過去の分の交渉を考えるより、今日の予約のほうが先です。

すぐに予約が取れない場合でも、電話をかけた日を控えておいてください。初診が遅れた事情として、診察のときに伝えられます。

2. 休み始めた日をはっきりさせておく

医師にも会社にも、必ず聞かれます。手元にある材料から確定させておくと、話が早くなります。

  • 勤怠の記録や、欠勤の連絡を入れたメール、チャットの履歴
  • 会社に連絡した日のスマートフォンの発信履歴
  • 家族や友人に「今日は行けなかった」と送ったメッセージ

記憶だけで答えようとすると、体調が悪いときほど日付があいまいになります。1つでも記録が見つかると、そこを起点に思い出しやすくなります。

3. 診察で伝えることを、短くまとめておく

医師が過去の期間について判断するときの材料は、本人の話です。うまく話す必要はなく、次のようなことがひととおり伝われば十分です。

伝えること
いつから、どう変わったか 6月の下旬から眠れなくなり、朝起きられない日が増えました
いつから仕事に行けなくなったか 7月10日から出勤できていません
その間どう過ごしていたか ほとんど家で寝ていて、買い物にも出られない日がありました
なぜ受診が遅れたか 予約の電話をかける気力がなく、初診の予約が取れたのが今日でした
何のために書類が要るか 会社に休職を申し出るためと、傷病手当金の申請のためです

話すのがつらければ、メモにして渡しても構いません。診察室で言葉が出てこないことは、この時期には本当によくあります。

転院しているときの扱い

途中で病院を変えた場合は、期間ごとに証明を分けることになります。記入の手引きには、次のように書かれています。

病院を転院した場合は、それぞれの病院で療養担当者(医師等)の意見を受けてください。

さらに、主治医が変わって4ページ目が複数に分かれる場合は、申請書を分けて申請するよう案内されています。前の病院に通っていた期間の証明は、前の病院に依頼することになります。すでに通わなくなった病院に連絡するのは気が重い作業ですが、その期間について診察していたのは、その医療機関だけです。

会社に出す診断書は、また少し事情が違います

傷病手当金の話と、会社に出す診断書の話は、分けて考えたほうがすっきりします。

会社が診断書を求めるのは、多くの場合これから休むことについてです。休職の扱いにするかどうかは会社の就業規則で決まるもので、すでに欠勤していた期間をあとから休職に振り替えられるかどうかも、その規則しだいになります。医師の証明とは別に、会社側の判断が入る部分です。

ですから、過去分について医師が書ける範囲が限られていても、そこで会社との話が終わるわけではありません。「◯月◯日から体調を崩して休んでおり、受診が今日になりました」と事実として伝えることはできますし、そのうえでどう扱うかは会社に確認する話になります。

今日の順番

読んでいるうちに、決めることが多く感じられたかもしれません。実際にやることは3つだけです。

  1. 通院先があるなら次の診察を予約する。まだどこにもかかっていないなら、今日か明日に予約の連絡をする
  2. 休み始めた日を、記録から確定させておく
  3. 診察のときに聞くことを1行だけ用意する。「◯月◯日から仕事を休んでいます。この期間について証明を書いていただくことはできますか」

3つ目の聞き方には理由があります。「さかのぼって書いてもらえますか」と聞くと話が抽象的になりますが、日付を出して聞けば、医師はどこまで書けるかを具体的に答えられます。書ける範囲がその場で分かれば、次にどう動くかも決まります。

書けないと言われた期間があっても、そこで全部が止まるわけではありません。書いてもらえた期間だけで申請することはできますし、判断するのは最終的に健康保険の側です。判断がつかないところは、加入している健康保険の窓口に直接聞くのがいちばん確実です。手続きについて本人が問い合わせることは当然できますし、会社を通す必要もありません。

通院先に医療相談室や医療ソーシャルワーカーがいる場合は、書類の相談ができます。過去の期間の扱いは、こうした窓口が日常的に扱っている相談のひとつです。ひとりで正解を探すより、一度誰かに現状を話してしまうほうが、結果的に早く片づくことが多いです。

わたしたちは就労支援の現場で、受診が遅れてしまった方の相談を受けることがあります。動けない時期に受診まで手が回らないのは、よくあることです。過ぎた分をどこまで書けるかは医師の判断になりますが、これから先の分は、今日受診すれば今日から積み上がっていきます。取り返せない部分より、今日から数えられる部分のほうを見てください。