「ADHD 向いてる仕事」で検索すると、職業を10個くらい並べた記事がずらりと出てきます。読んだあとで、前より不安になった方が多いのではないかと思います。書いてある職業に心当たりがなかったり、逆に「これが向いているらしいのに、実際にはうまくいかなかった」と感じたりするからです。

先に、この記事の立場を書いておきます。診断名から向いている職業を導く公的な根拠は、探しても見つかりませんでした。 だからこの記事では職業のリストを作りません。書けるのは、制度の上でどう位置づけられているかということと、働く場面の条件をどうやって確かめ、どうやって整えるかという手順です。

症状や特性の説明もしません。そこは医師と支援機関の領分です。この記事は、法律と告示と、公的機関が公開している様式だけで組み立てます。

診断を受けている方も、疑っているだけの方も、診断はないけれど仕事が続かなくて調べている方も、途中まではやることが同じです。順番に見ていきます。

「どんな仕事が向いているか」に、公的な仕組みはどう答えているか

まず、この検索そのものに公的な機関がどう応じているかを見てください。

厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークが出している障害のある求職者のみなさまへ 仕事をしたいと思ったら、まずハローワークへお越しください。というリーフレットには、ハローワークが受けている相談の例が4つ挙げられています。そのうちの一つが、そのまま「どのような仕事が向いているかわからない。」です。

では、その相談に何を返すと書かれているか。職業の一覧ではありません。次の2行です。

  • 障害の状況やこれまでの経験などをお聞きしながら、アドバイスします。
  • 職業能力や仕事の適性などを把握するため、必要に応じて専門機関(地域障害者職業センター)による職業評価(無料)をご案内します。

つまり、「向いている仕事」は記事で決まるものではなく、実際に確かめて分かるものだという前提で、制度の側が作られています。この記事もその立場をとります。以下は、確かめるまでの道のりと、確かめたことを職場に伝えるための道具の話です。

法律は、発達障害をどう定義しているか

制度の話をするために、条文だけ先に確認します。医学的な説明は足しません。

発達障害者支援法第2条第1項は、この法律でいう「発達障害」を次のように定めています。

自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

注意欠陥多動性障害、つまりADHDは、この条文に名前が出てきます。

もう一つ、見落とされやすい定め方が同条第2項にあります。この法律の「発達障害者」は、「発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」と書かれています。診断があることだけでは条文の要件が閉じておらず、社会的障壁とあわせて制限を受けている、というところまでが定義に入っています。

その「社会的障壁」も第3項で定義されていて、「発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」とされています。

ここを引いたのは、法律の作りとして困りごとの原因を本人の中だけに置いていないことを確認しておきたいからです。仕事が続かない理由を全部自分の中に探しに行くと、答えが出ません。

診断名では、制度は動きません

「診断がついたら何かが始まる」と思って調べている方が多いのですが、実際にはそうなりません。何が診断で動いて、何が動かないのかを分けておきます。

働くことに関わる法律は障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)になります。この法律には「障害者」と「対象障害者」という似た言葉が2つあり、条件が違います。

「障害者」の定義に、手帳は出てきません

第2条第1号は、この法律の「障害者」を次のように定めています。

身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。

条文のかっこ書きに「発達障害を含む」と明記されています。そして、この定義に手帳を持っていることという条件はありません。

差別の禁止(第34条・第35条)と合理的配慮の提供義務(第36条の2・第36条の3)は、この第2条第1号の「障害者」に対する定めです。厚生労働省の「障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第三版】」は、この点を正面から聞かれて次のように答えています。

雇用の分野における障害者に対する差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者は障害者雇用促進法第2条第1号に規定する障害者であり、障害者手帳の有無・週所定労働時間等による限定はしていません。

同じQ&Aには確認方法も書かれています。手帳や受給者証がない方については、発達障害などの場合、本人の了解を得た上で、障害名または疾患名を記載した医師の診断書または意見書により確認するとされています。さらに、事業主の判断で合理的配慮を提供する場合には、必ずしも手帳や診断書等による確認を行わなくても構わない、とも書かれています。

「対象障害者」のほうには、手帳が要ります

一方、企業が法定雇用率を計算するときに数える人は「対象障害者」といって、別の定義です。第37条第2項は、精神障害者について「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第四十五条第二項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けているものに限る」とかっこ書きで限定しています。

等級の条件はありませんが、手帳がなければ雇用率には数えられません。障害者雇用枠の求人の多くが手帳の所持を条件にしているのは、この計算のためです。

条文の言葉が細かいので、表にします。

手帳がない場合 手帳がある場合
促進法第2条第1号の「障害者」 当たり得ます(職業生活に相当の制限を受けている等の要件を満たす場合) 当たります
募集・採用の均等な機会(第34条) 対象です 対象です
待遇の差別の禁止(第35条) 対象です 対象です
合理的配慮の提供義務(第36条の2・第36条の3) 対象です 対象です
企業の雇用率に数えられる「対象障害者」(第37条第2項) 対象外です 対象です
障害者雇用枠の求人への応募 手帳を条件にしている求人が中心です 応募できます

診断がついただけでは、何も自動的には始まりません。 発達障害も精神障害者保健福祉手帳の対象には含まれます。手帳用の診断書の様式(精神障害者保健福祉手帳制度実施要領の別紙様式2)には、現在の病状・状態像の欄に「広汎性発達障害関連症状」という項目が置かれています。手帳を取るかどうかは別に考える話で、判断の材料は障害者手帳のメリットとデメリットにまとめてあります。

一方で、診断も手帳もない段階から使える窓口があります。そこから書きます。

手帳がなくても行ける窓口があります

さきほどのハローワークのリーフレットには、支援の対象がはっきり書かれています。

障害があるため(身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害、難病など)長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な方が支援の対象です。手帳の有無は問いません。

促進法第2条第1号の言い回しがそのまま使われていて、最後に「手帳の有無は問いません」と一行が足されています。ハローワークで障害のある方の相談を担当しているのは、専門援助部門(専門援助コーナー)と呼ばれる窓口です。

同じリーフレットには、正直に書いておいたほうがいい注意も添えられています。相談の内容によっては、主治医の診断書、意見書(ハローワークの書式)の提出をお願いする場合があるということです。診断がまったくない状態でどこまでの支援につながるかは、相談の中身によります。まず電話で「診断はまだないのですが、相談だけできますか」と聞いてみるのが早いです。

この記事は「まず受診しましょう」とは言いません。 受診するかどうかは体調と生活の事情で決まることで、記事が急かす話ではないからです。ただ、上のように、場面によっては医師の書類が要ることがあります。そこは事実として知っておいてください。

自分の困りごとを、伝えられる形にする

ここからがこの記事の中心です。配慮を求めるにしても、仕事を選ぶにしても、最初に必要になるのは「自分の困りごとを言葉にしたもの」です。面接で急に「配慮してほしいことはありますか」と聞かれて答えられなかった、という話はよく聞きます。準備しておける道具が、公的に用意されています。

ナビゲーションブックという道具

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の障害者職業総合センター職業センターが、発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用(支援マニュアルNo.13、平成28年3月)という手引きを公開しています。本文と資料集がPDFで無料で読めます。

手引きの第1章は、ナビゲーションブックをこう説明しています。

ナビゲーションブックは、受講者自身がプログラムでの体験等をもとに、自らの特徴やセールスポイント、障害特性、職業上の課題、事業所に配慮を依頼すること等を取りまとめて、自らの特徴等を事業主や支援機関に説明する際に活用するツールです。

資料集の側には、もう少しかみくだいた説明があります。「自分のことを理解したい」「自分のことを他者に伝えられるようになりたい」と考えた時に活用できるツールの1つです、という言い方です。

この道具は、後で出てくる厚生労働省の合理的配慮指針事例集にも脚注で登場します。本人の特性や必要な配慮事項などを記載した資料として「ナビゲーションブック」があります、という紹介のされ方です。行政の文書どうしでつながっている道具だということです。

何を書く欄があるのか

先に断っておくと、この道具に決まった様式はありません。手引きの基本的な考え方の3つ目が、そのまま「固定化された枠にとらわれるものではない」です。記入様式を限定すると、柔軟に形を変えて更新することがしづらくなる、というのがその理由です。

そのうえで、最初の一歩として書式例が示されています。資料集の【資料8】「プレナビゲーションブック(実習用 自己紹介書)」がそれで、次の欄があります。

欄 中身
実習の目標 その実習で何を確かめたいのか
セールスポイント 作業面/対人面/思考・行動の特徴の3つに分けて書きます
苦手なこと 同じく、作業面/対人面/思考・行動の特徴の3つに分けます
体調面 体力や体調のこと
配慮をお願いしたいこと 会社にしてほしいことを具体的に

記入例(【資料9】)を見ると、苦手なことの欄に「口頭だけの指示では理解できないので、手順書を作成する、メモを取る等の対策を行っています」、配慮をお願いしたいことの欄に「仕事がミスなくできたかを確認するための時間がいただけると安心です」といった書き方が載っています。苦手なことと、それに対して自分でやっている工夫を、セットで書く形になっているのがこの様式の特徴です。

もう一つ、手引きの支援のポイントに書かれていることを引いておきます。自分で思いつかない空欄があってもかまいません。無理に項目を埋める必要はありません。 セールスポイントが挙げられない場合は、実習の目標のほうに「体験実習でセールスポイントを見つける」ことを挙げ、実習の結果や会社・支援者からの助言をもとに書き足していく、という進め方が示されています。

誰と作って、いつ使うのか

作るのは本人です。手引きの基本的な考え方の1つ目が「受講者自身が主体的に作成する」で、支援者の役割は「本人の気づきを促す、気づきを深める」ように支援することだと書かれています。書いてもらうものではありません。

このマニュアルは、職業センターが実施している13週間のプログラムの中で、週に1回から2回の個別相談を使いながら作る流れを想定しています。作成の手順は6つのステップに分かれていて、「考える」「ふりかえる」に続けて、「作ってみる」と「使ってみる」を2回繰り返す組み立てです。3番目のステップで作るのが、さきほどの実習用自己紹介書にあたります。

作って、使って、書き直す

  1. 1自分のことをふりかえって書き出すできること、苦手なこと、自分でやっている工夫、体調のこと
  2. 2枠に沿って一度作ってみる書式例の欄は「実習の目標」「セールスポイント」「苦手なこと」「体調面」「配慮をお願いしたいこと」
  3. 3使ってみて、書き直す職場実習や模擬面接で使い、気づいたことやもらった助言を足す
支援マニュアルNo.13が示す6つのステップを、作る側から見て3つにまとめたものです。空欄があっても構わない、というのが手引きの立場です。

使う場面は一つではありません。手引きの図では、支援者との共有用として作ったものを、面接用(人事向け)、採用時(現場担当者向け)、雇用後(配置転換や担当者交代の際に)と、そのつど更新していく流れが示されています。採用された時点で完成、ゴールというものではありませんと本文にも書かれています。できること、対処の工夫の仕方、会社に配慮を依頼したいことは、職場環境や担当する仕事の内容によっても変わるからです。

面接に添えるときの助言も、資料集の模擬面接ツールにあります。面接時はA4用紙1〜2枚程度に収めたほうが、読む側にとっては分かりやすいこと、履歴書と一緒に渡すときに一言触れられるようにしておくことの2つです。3枚以上あると面接に添えるには量が多すぎる、とはっきり書かれています。

なお、名前の似た道具として、厚生労働省が別に「就労パスポート」という様式を用意しています。こちらは別の記事で扱います。

何を頼めるのか。公的な文書に書かれている配慮の例

自分の困りごとを言葉にしたら、次は「では何を頼めるのか」です。ここも自分で考え出す必要はありません。厚生労働省の告示に、例が列挙されています。

根拠になるのは合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)です。この告示の末尾に別表が付いていて、障害の区分ごと、募集・採用時と採用後の場面ごとに、措置の例が並べられています。別表の柱書には、これらが「多くの事業主が対応できると考えられる措置の例」だと書かれています。

別表の「発達障害」の欄

区分ごとに中身が違います。「発達障害」の欄に書かれているのは、次のとおりです。文言は告示のままです。

募集及び採用時

  • 面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること。
  • 面接・採用試験について、文字によるやりとりや試験時間の延長等を行うこと。

採用後

  • 業務指導や相談に関し、担当者を定めること。
  • 業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと。
  • 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。
  • 感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行うこと。
  • 本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。

以上が全部です。募集・採用時に2つ、採用後に5つで、これ以上でもこれ以下でもありません。

ここで一つ、間違いやすいところを書いておきます。 別表の「精神障害」の欄と「発達障害」の欄は、中身が同じではありません。並べると違いがはっきりします。

措置の例 発達障害の欄 精神障害の欄
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること あります あります
面接・採用試験について、文字によるやりとりや試験時間の延長等 あります ありません
業務指導や相談に関し、担当者を定めること あります あります
指示を一つずつ出す、マニュアルを作成する等 あります(「業務指示やスケジュールを明確にし」「図等を活用した」) あります(「業務の優先順位や目標を明確にし」「分かりやすく示した」)
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること あります あります
感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等 あります ありません
できるだけ静かな場所で休憩できるようにすること ありません あります
本人の状況を見ながら業務量等を調整すること ありません あります
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に説明すること あります あります

ネット上の記事で、別表の中身が区分をまたいで混ぜられていることがあります。ここは原本を見てください。

そして、別表そのものに但し書きが付いています。合理的配慮は個々の障害者の障害の状態や職場の状況に応じて提供されるもので、多様性があり、かつ、個別性が高い。ここに記載されている事例はあくまでも例示であり、あらゆる事業主が必ずしも実施するものではなく、また、ここに記載されている事例以外であっても合理的配慮に該当するものがある、と書かれています。別表に無いから頼めない、という読み方はできません。

事例集のほうには、実際の取組みが載っています

別表は7項目しかないので、これだけでは具体的に何を言えばいいのか分かりません。そこで別に、厚生労働省が合理的配慮指針事例集【第六版】を出しています。全国の都道府県労働局・ハローワーク、JEED等を通じて、事業主が実際に取り組んでいる事例を集めたものです。

指針の別表と事例集は別の文書です。 事例集は指針の別表の項目に沿って整理されていて、各事例には収集先の企業の規模・業種・職種が添えられています。発達障害の項は69ページから81ページにあります。以下は、そこに載っている取組みの一部です。「こういう特性があるからこの配慮」という書き方はしません。公的な文書に、こういう例が挙げられているという出し方をします。

面接・採用試験について

  • 面接において、本人が言葉に詰まった場合に平易な表現の質問に変えたり、紙媒体での質問にする等の配慮を行った
  • 言葉だけでのやりとりではなく、図や文字を用いた面接を行った
  • 制限時間を設けずに筆記試験、適性検査を実施した
  • 通常は必須である筆記試験、適性検査を免除した
  • 集団での面接を行わないこととした
  • 会社でのルールや、今後の採用までの流れについて、書面で説明を行った

面接に同席する人

別表の「就労支援機関の職員等」が具体的に誰なのかも、事例集に一覧があります。ハローワークの職員、障害者職業センターの職員、障害者就業・生活支援センターの職員、発達障害者支援センターの職員、地方自治体の障害者支援機関の職員、本人の家族、ジョブコーチなどです。役割の例としては、本人の障害特性・配慮事項を説明する、同席することで本人の不安感を取り除く、面接における本人の受け答えを補助する、と書かれています。

業務の指示について

  • 「午前中はこの仕事を行ってください」「終わらなくても、午後はこの仕事をしてください」と時間を区切って指示する
  • 「きれいになったら次のものを洗う」ではなく「10回洗ったら次のものを洗う」等、客観的に作業方法を指示する
  • 「あれ」や「それ」など、曖昧な指示ではなく、具体的な指示をするようにしている
  • 毎日、仕事の内容を書いた紙を本人に渡す。メモできるスペースを残しておく
  • 急な作業変更は極力行わない。行う場合には、本人の作業が一区切りつくまで待つ
  • 全ての工程を写真にとり、本人が自身の言葉で工程内容を書き込めるマニュアルを作成している

時間と休憩について

  • 通勤ラッシュが苦手等のため、始業時間を遅くした
  • 積極的な休憩の取得、時間をずらしての休憩、休憩時間の延長を認めている
  • 一人で休めるスペースを設けた
  • 通院日をあらかじめ勤務シフトから外している
  • 通院や急な体調不良に利用できる特別休暇をつくった
  • まずは短時間勤務から始め、段階的に労働時間を延ばすこととした

音や光について

  • 静かなところで作業をしてもらう、耳栓を付与する、ヘッドフォンの着用を認める、机の電話を外す
  • 蛍光灯を一本少なくする、サングラスの着用を認める
  • 本人の机の前後左右に衝立を用意した

周りへの説明について

  • 雇用管理や作業指示を行う担当者、同じ部屋で勤務する者、同じ更衣室を利用する者など、本人との関わる度合いに応じて、説明する内容に軽重をつけた
  • 責任者や本人と深く関わる社員には詳しい内容を、その他の社員には大まかな配慮事項を伝えた
  • 本人の特性や必要な配慮事項などを記載した資料を社員と共有した

この最後の項目に付いている脚注が、さきほどのナビゲーションブックの紹介です。自分で作る道具と、会社に頼む配慮とが、ここでつながります。

配慮をどうやって決めていくのかという手続き(募集・採用時は本人から申し出る、採用後は事業主のほうから確認する、内容は話し合いで決める、過重な負担かどうかは6つの要素を勘案して個別に判断する)は、障害者雇用とはのほうに条文と指針から整理してあります。そちらを見てください。ここで押さえておきたいのは、頼めることの中身は自分でゼロから考えなくてよいということです。

仕事を選ぶ前に、条件を確かめる経路

「向いている仕事」を先に決めてから動くのではなく、確かめてから決めることになります。そのための場所が3つあります。いずれも診断名で入口が決まる仕組みにはなっていません。

地域障害者職業センターの職業評価と職業準備支援

地域障害者職業センターは、JEEDが全国47都道府県に設置している施設です。障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービスを行うところで、機構のわかりやすい版の案内には「利用料は無料です」と明記されています。

さきほどのハローワークのリーフレットが「どのような仕事が向いているかわからない」への対応として案内していたのが、ここの職業評価です。職業能力や仕事の適性などを把握するためのもので、無料と書かれています。

その先に職業準備支援があります。機構の説明では、就職または職場適応に必要な職業上の課題の把握とその改善を図るための支援、職業に関する知識の習得のための支援、社会生活技能等の向上を図るための支援を行うとされていて、一人ひとりの状況に応じてメニューを組み合わせた個別カリキュラムを作ります。メニューの1つ目の説明にはこう書かれています。様々な作業や講座を通して、基本的な労働習慣を身につけたり、自分に合った働き方を見つけます。

「自分に合った働き方」は、記事ではなくここで見つけるものだ、というのが制度の側の答えです。終了後はハローワークによる職業紹介、ジョブコーチによる支援等につなげていく、とも書かれています。

就職したあとについては、職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援があります。障害者職業カウンセラーが策定した支援計画に基づいて、ジョブコーチが職場に出向いて直接支援を行う仕組みです。本人だけでなく事業主や職場の従業員に対しても助言を行い、必要に応じて職務の再設計や職場環境の改善を提案すると書かれています。支援期間は標準的には2か月から4か月で、1か月から8か月の範囲で個別に設定されます。永続的に行うものではなく、適切な支援方法を職場の上司や同僚に伝えて、事業所の側で支援が続く状態を作ることが目的だと明記されています。

就労移行支援

もう少し時間をかけて準備したい場合は、就労移行支援という障害福祉サービスがあります。就職に向けた訓練とアセスメントを、通いながら進める仕組みです。対象や利用期間、費用は就労移行支援とはにまとめています。

障害者トライアル雇用

3つ目が、雇う側と雇われる側が実際に一緒に働いてみる仕組みです。厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークの「障害者トライアル雇用」のご案内は、この制度を次のように説明しています。

「障害者トライアル雇用」とは、約3〜6か月間の試行雇用を通じて、企業との間で相互理解を深め、お互いの不安を解消することで、障害のある方の継続雇用をめざす制度です。

リーフレットには、期間中に何がわかるかが本人の側と企業の側に分けて書かれています。本人の側は、仕事への理解が深まること、仕事の適性を見極められること、一緒に働く人と職場環境を知ることができることです。企業の側は、接し方がわかること、あなたに適した業務がわかること、どんな配慮や設備が必要か知ることができることです。「適した業務がわかる」のは働いてみたあとだという構えで作られています。応募はハローワークで「障害者トライアル雇用求人」に対して行い、選考にあたっては書類選考ではなく必ず面接を受けることができる、とも書かれています。

対象になるのは、障害があり、次のいずれかに当てはまる方です。

  1. 紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望していること
  2. 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返していること
  3. 紹介日の前日時点で離職期間が6か月を超えていること
  4. 重度身体障害、重度知的障害、精神障害のうちいずれかのある方

2番目と3番目は、仕事が続かなかった経験そのものが要件になっています。リーフレットの注記には、障害者手帳を所持していない場合でも、障害がある方であれば対象に含まれることがあります、当てはまるかどうかはハローワークの窓口で尋ねてほしい、と書かれています。厚生労働省の助成金のページでも、対象労働者は「障害者雇用促進法に規定する障害者」のうち上の要件のいずれかに該当する者とされています。

期間は原則3か月ですが、精神障害のある方は原則6か月、最大12か月まで設けることができます。また、週20時間以上の勤務が難しい場合には、週10時間から20時間で始めて、体調や職場への慣れに合わせて徐々に調整し、最大12か月かけて20時間以上を目指す障害者短時間トライアル雇用という枠もあります。リーフレットでは、この枠の説明が「精神障害や発達障害のある方で」という書き出しになっています。

なお、職業の側の条件を数値で調べたい場合は、厚生労働省が「job tag(職業情報提供サイト)」というサイトを公開しています。使い方は別の記事で扱います。

実際に働いている人の数字

最後に、「向いてる仕事10選」の代わりに読める数字を置いておきます。厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」の報告書には、発達障害者について独立した章があります。令和5年6月1日現在の調査で、常用労働者5人以上の民営事業所が対象です。雇用されている発達障害者は推計で9万1千人、うち事業所が手帳で確認している人が81.7%でした。

項目 令和5年度の値
1か月の平均賃金 13万円(超過勤務手当を除く所定内給与額は12万8千円)
週30時間以上の人の平均賃金 15万5千円
週20時間以上30時間未満の人の平均賃金 10万7千円
週所定労働時間が30時間以上の割合 60.7%
正社員(無期契約)の割合 35.3%
平均勤続年数 5年1か月

職業別の割合は、サービスの職業が27.1%で最も多く、次いで事務的職業が22.7%、運搬・清掃・包装等の職業が12.5%でした。

ここは読み方に注意してください。 これは現に雇われている人がどの職業にいるかという分布であって、向き不向きを示すものではありません。求人がどこに多いかが強く影響します。実際、産業別に見ると卸売業・小売業が40.5%と突出しています。

同じ調査の企業側の回答を並べると、その事情が見えてきます。発達障害者の雇用上の課題があると答えた事業所は65.3%で、課題として最も多かったのは「会社内に適当な仕事があるか」(76.9%)でした。障害者を雇用していない事業所に理由を聞くと、発達障害者について最も多かったのは「当該障害者に適した業務がないから」(77.3%)です。詰まっているのは本人の適性の側だけではなく、仕事をどう切り出すかというところで、企業の側も止まっています。

配慮の実施状況も出ています。発達障害者について「配慮している」と答えた事業所は38.0%で、内容として最も多かったのは「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮」(61.2%)、次いで「短時間勤務等勤務時間の配慮」(50.9%)でした。参考までに、精神障害者について「配慮している」と答えた事業所は63.3%です。配慮が当たり前に行われているとは言えない数字です。 申し出ること、そして申し出る内容を用意しておくことの意味は、この差にあります。

この記事のまとめ

「ADHDに向いてる仕事」を診断名から導く公的な根拠は見つかりませんでした。代わりに確認できたのは、次の4つです。

制度は診断名では動きません。障害者雇用促進法第2条第1号の「障害者」に手帳の要件はなく、差別の禁止と合理的配慮の対象はこの範囲です。手帳が要るのは、企業の雇用率に数えられる「対象障害者」のほうです。診断がなくても、ハローワークの専門援助部門は「手帳の有無は問いません」と明記された窓口です。ただし相談の内容によっては医師の書類を求められることがあります。

自分の困りごとを言葉にする道具として、障害者職業総合センターがナビゲーションブックの手引きと書式例を公開しています。書く欄は、実習の目標、セールスポイント、苦手なこと、体調面、配慮をお願いしたいことの5つです。空欄があってもかまわず、使ってみて書き直していくものです。

頼めることの例は、合理的配慮指針の別表の「発達障害」の欄に7つ挙げられていて、その具体化として事例集第六版の69ページから81ページに実際の企業の取組みが並んでいます。別表は例示にすぎず、そこに無い措置も合理的配慮に当たり得ます。

そして、向き不向きは記事ではなく実際に確かめて分かります。地域障害者職業センターの職業評価と職業準備支援も、就労移行支援も、障害者トライアル雇用も、どれも「まず試して、それから決める」という順番で作られています。

それでも迷うときは

いま調べている段階でできることをひとつだけ挙げるなら、ナビゲーションブックの書式例をダウンロードして、埋められるところだけ埋めてみることだと思います。ナビゲーションブックの作り方(支援マニュアルNo.13 資料集)がそれにあたります。無料ですし、誰かに提出するものでもありません。空欄だらけになっても、手引きがそれでいいと書いています。

書けなかった欄が、そのまま次に相談することになります。セールスポイントが浮かばないなら、それを職業評価や実習で確かめに行けばよいことになります。配慮してほしいことが思いつかないなら、事例集の発達障害の項に並んでいる中から、自分に近いものを選んでみる方法があります。

相談先は無料です。ハローワークの専門援助部門も、地域障害者職業センターも、名前を出さずに一般的な質問として電話で聞くことができます。手帳を取るかどうか、診断を受けるかどうかを先に決めてからでなくて大丈夫です。

わたしたちは就労支援の現場で、向いている仕事を探し続けて疲れてしまった方に会います。診断名から答えを出そうとしている間は苦しそうで、困る場面をひとつずつ言葉にできるようになった頃から、表情が変わっていくように見えます。得意なことが見つからないという相談も多いのですが、先に輪郭がはっきりしてくるのはたいてい苦手のほうです。順番はそれで構いません。